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「いつか」のために備える妊孕性温存

がんと向き合う患者と家族が知っておきたい「妊孕性温存」についてまとめています。

妊孕性温存とは

「妊孕性(にんようせい)」とは、分かりやすい言葉で言うと「子どもを授かる力」「妊娠する能力」のことです。

人間が妊娠するためには卵子と精子が必要で、卵巣や子宮、精巣といった臓器が重要な役割を果たしています。これらの臓器にがんができた場合だけでなく、妊娠にまったく関係のないような部位のがん治療を行った場合でも、生殖機能に影響して妊娠する能力が弱まったり失われたりすることがあるのです。

「妊孕性温存」とはこのように、がんなどの病気の治療によって将来、妊娠する可能性がなくなってしまわないように「生殖能力を温存しよう」という考え方のことを言います。

妊孕性温存が注目されるようになった理由

1990年代と比べて治療の成績がよくなった

がんの治療成績がよくなったことにより、がんを克服した人が増えて、がん治療後の生活の質の向上にも関心が高まっているというのが1つ目の理由です。

国立がん研究センターの発表によると、1993~1996年までの間にがんと診断された人の5年相対生存率が53.2%だったのに対し、2006~2008年には62.1%にアップ。10数年の間に約9ポイントも改善していることになります。

妊孕性が失われることが知られていなかった

これまでのがん患者の中には、がん治療により妊孕性を失ってしまうことを知らないケースが多々ありました。

がん治療の内容によっては、卵巣や精巣などの性腺機能不全が起きたり、手術で子宮や卵巣、精巣など生殖臓器を失くしたりてしまうことがあるため、治療後に妊娠、出産することができないケースがあります。こうした治療の影響を担当のドクターが患者にきちんと伝えていなかったというケースも考えられるうえ、患者が未成年の場合、保護者がそうした生殖に関わる情報にしっかりと耳を傾けていなかった、といったケースもあるのかも知れません。

このように事情はいろいろとありますが、妊娠する力を治療で失うことを知らないままというがん患者が現実にいるのは事実です。苦しい治療が終わり、がんに打ち勝ったところでやっと未来に目を向けられるようになり、妊娠や出産を計画していたところ、その時になって初めて自分が妊娠する力を失ってしまったことを知り、愕然としてしまうというようなケースもあるのです。

不妊治療技術の向上

がん治療にともなう妊孕性温存につながるのが、不妊治療技術の発達です。近年では、がんの治療を始める前に妊孕性に関してきちんとがん患者に情報を提供しようという動きが強くなっており、温存できる生殖医療の技術があるのであれば、その力を患者の生活の質の向上のために役立てようという取り組みが始まりました。

妊孕性を失う理由

男性の場合

性機能障害

1つ目として、射精障害や勃起障害といった「性機能障害」が考えられます。精巣腫瘍や腹膜の外側部分にあたる後腹膜悪性腫瘍の外科的治療を行う際に「後腹膜リンパ節郭清」という治療を行うと、射精や勃起をつかさどる神経に影響が出ることが。また、膀胱がんや前立腺肉腫、直腸がん、陰茎がんの治療で膀胱や前立腺、陰茎などを手術で全摘した場合に臓器を失うことによって、性機能障害が生じる可能性があります。

精子形成障害

2つ目に考えられるのが、精子の機能(精子がつくられなくなったり、数が少なくなったりする)が悪くなってしまったため受精しても子どもができないといった「精子形成障害」。これは抗がん剤や放射線治療が原因で生じることがあるのが特徴です。

海外で行われた調査結果で次のようなものがあります。25歳以前にがんと診断された男性が結婚する割合は、がんを経験していない人とほとんど変わりませんでした。ところが、結婚後に父親になる割合は、がん非経験者の7割程度にとどまるという結果が。また、体外受精や顕微授精法など、体内での受精が難しいカップルに体外で受精させる生殖補助医療「ART治療」で子どもを授かった割合を比較したところ、がん経験者のほうががん非経験者より3倍以上も多かったのです。

女性の場合

化学療法などの影響を受けやすい

例えば乳がんの治療には、手術や放射線治療、化学療法や内分泌療法といった薬物療法があります。さらに、乳がんに対する化学療法は作用の違う複数の抗がん剤を用いる多剤併用療法が一般的です。卵巣などの性腺組織は、化学療法の影響を非常に受けやすい臓器。そのダメージは、年齢、治療前の卵巣予備能、抗がん剤の種類や投与量によって違います。

乳がんの化学療法でよく用いられることで知られる「シクロホスファミド」は、とくに卵巣に与えるダメージが大きいと考えられており、化学療法によって無月経や卵巣機能低下を引き起こすことがあります。

妊孕性温存の具体的な方法

男性の場合

精子凍結保存

思春期を過ぎた患者であれば、妊孕性が失われる前に精子を凍結保存しておくことで、がん治療後に子どもを授かる可能性があります。

凍結する精子の採取方法は大きく分けて2つ。1つ目は、射精によって採取する方法です。もしも性機能障害がある場合には、電気刺激を利用した射精で精子を採取するというやり方もあります。

2つ目は、精液を自分で出すことができない場合や採取した精液の中に精子がいない場合に、手術で精巣内から直接、精子を探す「TESE(精巣精子採取術)」という手段です。精巣で精子形成はできているが射精できないといった場合、陰嚢の皮膚を1cm程度切開して精巣組織を採取し、そこから精子を取り出します。

また、精子を形成する機能が低下している場合でも、精巣内の一部で精子がつくられていることがあるため、手術用顕微鏡を使って、このような場所を探して精子を見つけ出す「MD-TESE」という手術が行われるケースも。この術式は、がん治療前に精子凍結していなくて、治療後に精子形成機能が低下している場合に行われることがあります。

女性の場合

卵子凍結

卵子凍結とは、卵子を採取して凍結保存するものです。がん治療後に妊娠・出産ができるようになった時点で解凍して体外受精を行い、受精卵を患者に移植します。

アメリカの臨床腫瘍学会によると、すでに世界各地で1,000人を超える出産例があり、治療として確立されている方法だと言えます。

受精卵凍結

受精卵凍結は、体外受精や顕微授精で受精・発育した受精卵を凍結保存しておく方法です。がん治療後に妊娠・出産が可能になった時点で解凍して患者に移植。一般的な不妊治療と同じだと考えればイメージしやすいかも知れません。

卵巣組織凍結

卵巣組織凍結は、腹腔鏡で卵巣組織を採取して凍結保存しておいて、がん治療が終わった後、患者の状態が妊娠・出産が可能になった時点で卵巣組織を患者自身に再び移植する方法です。治療としてはまだ研究段階のものとなりますが、2015年時点での報告では、全世界で60例の出産例がありました。

がんの治療が最優先だということを頭に入れておく

将来の子どものことを考えるのもとても大切なことですが、何よりもまずがん患者自身の治療について考えましょう。とくに白血病ではがん告知後すぐに治療が始まり、妊孕性温存の処置が取れないことも少なくありません。妊孕性温存を考えることも大切ですが、患者自身の治療がうまくいかなければ元も子もないでしょう。

そのうえで、次に大切なのが生まれてくる子どもの福祉です。子どもをつくることを優先した結果、十分な治療が行えず患者が亡くなることになってしまうと、たとえ生まれたとしても、子どものためにもならない可能性があります。どちらも患者とその家族で話し合って決めてください。

この2点を十分、考えた治療選択をしていただければ、がん治療を担当するドクターも患者に寄り添い、どこまでも付き合ってくれるでしょう。妊孕性温存を望む場合、まずは主治医に相談するようにしましょう。

   
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