癌の転移が起こる仕組み

癌の転移はなぜ起こる?そのメカニズムとは

癌の治療を難しくする要素の中でも、大きな障害となるのが「転移」。これは、がん細胞が体内のほかの部位に移動して腫瘍を形成することを指します。

はじめに発生した癌腫瘍の治療に比べ、転移した癌の治療はより難しいとされています。この転移した癌と闘うために、最新の治療法の開発・研究が日夜進められているわけです。

転移癌の治療について知るために、まずは癌の転移がどのようなメカニズムで生まれるのか知っておきましょう。

癌転移のメカニズム

そもそも、癌細胞とひとくちに言っても、癌腫瘍に含まれる細胞は一様ではありません。運動能力が高いものや、まわりの組織(とりわけ細胞外マトリックス)を破壊する能力を持ったものなどがあります。

これらの特異な細胞をもった細胞が、周囲へと流れ出していくことを「浸潤」と呼びます。リンパ節や血管内へ浸潤した細胞は、血液細胞とともに塊となり、肺や肝臓、脳、せき髄へと移動します。

癌初期段階から、実は血液内に癌細胞は流れ出しています。しかし、これがほかの部位に定着するためには、ふたたび血管を内側から破って臓器内に侵入し、定着して、細胞が増殖するための血管をつくりださなければなりません。

人間のからだには免疫機構があるので、多くのがん細胞は新しい血管が生み出される前に殺されてしまいます。しかし、侵入と血管新生に成功した癌細胞があれば、そこから増殖がはじまり、転移巣を形成するのです。

癌が転移する4つのパターン

癌が原発巣から転移するタイミングや転移のしやすさは、原発巣がどこなのかによっても大きく異なります。そもそも、癌の転移には「血行性転移」「リンパ行性転移」「播種性転移」「浸潤」の4つのパターンがあります。

血行性転移やリンパ行性転移は、先程ご紹介した、血液やリンパ液に乗って全身へと癌細胞が移動する転移です。

血行性転移の場合は、癌細胞が静脈に乗って転移することが多く、血液の流れの向きと原発巣の位置によって転移しやすい部位が異なります。リンパ液や血液に乗って、他の臓器にたどり着いた癌細胞が、たどり着いた先で増殖するのが「血行性転移」「リンパ行性転移」です。

一方、「播種性転移」とは、癌ができた臓器から癌細胞を含む組織が剥がれ落ちて、近くにある腹腔や胸腔などに散らばり、その場所で増殖を始める転移です。「浸潤」とは、その名の通り、癌細胞が染み渡るように近接する臓器に広がるタイプの転移です。

これらの転移のメカニズムはとても複雑で、様々なフェーズに分割されています。また、現段階では転移を引き起こす遺伝子異常も一つではなく複数の要素が関与していると考えられています。

例えば、癌細胞が原発巣から離れて、他の部位に移動する際に「離脱」という現象を引き起こす分子にはE-カドヘリンと呼ばれるタンパク質が関係しています。E-カドヘリンが正常に機能していれば、転移は起こりにくいものの、何らかの機能異常を生じて、癌細胞が原発巣から他の部位に転移していってしまうのです。

癌の転移は,リンパ行性でも血行性でも,癌細胞が基底膜あるいは細胞外基質を通過する ことが必須である.この過程は,癌細胞の原発巣からの離脱と細胞外基質への浸潤から成り立っていると考えられる5)。今回の検討で,細胞間接着分子であるE-カドヘリンの機能異常は,癌細胞間の接着特性の喪失だけではなく,細胞外基質への浸潤能の増強にも繋がっていることが示された。 すなわち,原発巣から離れた癌細胞は,マトリックスメタロプロテイナーゼ,マトリックセリンプロテイナーゼ,あるいはカテプシンD等の細胞外基質分解酵素の産生を増加させる ことで浸潤性を獲得していると考えられた。

出典:(PDF)「癌の浸潤, 転移のメカニズムと早期診断の可能性」頭頸部腫瘍, 1996 [PDF]

癌細胞が転移するタイミング

癌細胞の転移が起こるには、まず細胞の増殖が必要となります。

癌細胞の最初のすみかは「原発巣」と呼ばれます。原発巣に癌細胞が定着し、酸素や栄養を運ぶ血管をつくりだすことで、増殖をはじめます。

体内には、癌細胞が原発巣から離脱するのを防ぐ仕組み(細胞外マトリックス)があります。しかし、癌細胞自身が細胞外マトリックスとの接着・分解・移動を繰り替えすうちに隙間ができ、がん細胞は原発巣を離脱します。癌細胞の転移はここから始まるとも言えます。

原発巣を出た癌細胞は、血管やリンパ管を通じてほかの臓器へと流れていきます。その多くは免疫機構によって死滅させられるのですが、免疫をくぐり抜けてほかの部位に細胞がたどり着くと、新たな部位でまた癌細胞の増殖がはじまります。

このように、癌細胞が転移を起こすタイミングは原発巣から癌細胞が離れたタイミングで始まるといえます。転移を早期に発見し、治療を始めることは、癌治療の予後にも大きく影響します。

例えば、癌細胞が原発巣から離れて何らかの方法で他の部位に転移するには、細胞間接着分子E-カドヘリンと呼ばれる分子の機能異常が一つの原因となっていることがわかっています。E-カドヘリンが機能異常を起こすと、癌組織が転移しやすいことに着目した研究では、癌組織におけるE-カドヘリンの発現と、その後の予後や転移の状況は次のように報告されています。

癌組織でE-カドヘリンの発現を調べた結果,減弱例では87.8%が2年以内に死亡していた。E-カドヘリンの発現減弱例で予後不良であった。しかしながら,Eカドヘリンの発現の異常が認められなかった症例でも,予後不良例が存在していた。この点に関しては,細胞内に存在するE-カドヘリン調節分子であるカテニンおよびカテニンの制御に関係しているAPC遺伝子産物の異常が報告されており,今後の検討課題と考えている。

出典:(PDF)「癌の浸潤, 転移のメカニズムと早期診断の可能性」頭頸部腫瘍, 1996 [PDF]

このように、癌細胞の転移のタイミングではE-カドヘリンに発言異常が見られる傾向があることがわかっています。ただし、転移の原因はそれだけではない可能性も大いにありますから、今後の研究が進むことが期待されるところです。

転移の予防はまだ研究段階

こういった癌転移のメカニズムが分かりつつある中、癌の転移を防ぐ医療技術の開発が急がれています。

癌細胞がほかの部位に定着することを防ぐには、血管新生を阻害できればいいと考えられてきました。そのため、血管新生を抑制する方法が研究されてきましたが、これも効果は限定的です。

現在では、さらに転移を抑制する新しい治療法の研究が続けられています。癌の転移に大きな役割を果たすとされる「がん肝細胞」などが最新のトピックスとして注目されているようです。

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