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【癌と免疫の関係】樹状細胞

樹状細胞とは?

樹状細胞は、その名のとおり木の枝のような突起(樹状突起)を周囲に伸ばしており、外界につながる鼻腔や肺、皮膚、そして胃や腸管などに存在しています。主な働きは、異物を自身の中に取り込み、異物の特徴をほかの免疫細胞に伝達することです。その異物の特徴を「抗原」といいます。

詳しく説明すると、抗原を取り込んだ樹状細胞がリンパ器官へ移動することでT細胞やB細胞といった免疫細胞に情報が伝わり、それらを活性化させるのです。活性化された免疫細胞は異物への攻撃を開始するので、樹状細胞はいわば免疫細胞の「司令塔」ともいえるでしょう。

なぜ樹状細胞が癌に効果的なの?

わたしたち人間の体内では、毎日5,000個もの癌細胞が新たに発生していると考えられています。通常は免疫細胞がこれらの癌細胞を退治しているので、病気としての癌の発生が抑えられているわけです。

しかし、癌細胞は自身が癌細胞であることを隠し、免疫細胞の攻撃から逃れる場合があるのです。そうなると癌細胞はどんどん増殖し、わたしたちがよく知る癌として発症するに至ります。

そうならないように、癌細胞の特徴をターゲットにして癌細胞を攻撃する必要があります。これを特異的免疫といいますが、樹状細胞の働きも同じシステムです。

樹状細胞による癌細胞攻撃のシステム

特異的免疫、樹状細胞による癌細胞攻撃のシステムについて説明します。

まず、樹状細胞が癌細胞の死骸などを異物と見なして取り込み(貪食:どんしょく)、癌細胞の目印となる抗原を手に入れます。そうして司令塔となった樹状細胞は、免疫細胞に癌細胞の抗原を伝え、癌細胞を攻撃するように指示するのです。

癌細胞は、免疫細胞の攻撃から逃れるために抗原を隠すことがあります。それをサポートするのが免疫細胞の1つ、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)です。

進む樹状細胞に関する研究

樹状細胞はロックフェラー大学のラルフ・スタインマン教授によって働きが解明され、その研究に対して2011年にはノーベル医学生理学賞が贈られています。現在は世界中で樹状細胞を用いた免疫療法の研究開発が進められています。

この樹状細胞の研究によって生み出された癌の治療法が「樹状細胞ワクチン療法」です。

樹状細胞ワクチンとは

癌細胞に対する樹状細胞の働きと効果についてはお伝えしたとおりです。しかし、通常の状態では樹状細胞の数はそれほど多くはなく、免疫細胞に癌細胞の抗原を確実に伝えられるかどうかはわからないのです。そこで登場したのが、樹状細胞ワクチン。

ワクチンと聞くと、一般的にはインフルエンザのワクチンや、お子さんの三種混合ワクチンのような予防接種を想像するかもしれません。しかし、癌ワクチンはすでに癌を発症してしまった患者さんに使用されます。

樹状細胞ワクチンは、患者さんから採取した細胞を元に培養し、活性化させた樹状細胞に癌細胞の抗原を与えることで、免疫細胞に癌細胞を確実に攻撃させるというメカニズムです。

この樹状細胞ワクチンにはいくつかのタイプがあります。

自己癌組織樹状細胞ワクチン

患者さん本人の癌組織を使用して抗原をつくります。手術などで取り出した本人の組織を使用するため、その患者さんだけのオーダーメイド治療といってもよいでしょう。

人工抗原樹状細胞ワクチン

ほとんどすべてのがんの抗原となるWT1ペプチドなどのタンパク質を人工抗原とすることで、癌組織を採取できなくても樹状細胞ワクチンを受けられます。ただし、白血球の型(HLA)が適合しなければなりません。

局所樹状細胞ワクチン

体外で培養した樹状細胞を癌組織に直接注入する方法です。あらかじめ抗原を使用しなくても、樹状細胞が癌細胞を取り込むことで抗原を手に入れることができます。直接注射するので、目視や内視鏡で確認できる癌に限られます。

樹状細胞ワクチンの今

新しい癌治療法として大きな期待を集め、実際に治療を受けることができる医療機関も増えてきている樹状細胞ワクチンですが、現在のところ標準治療としては承認されていません。それはなぜでしょうか。

効果が期待できる段階で使用されていない?

樹状細胞ワクチンは、癌が比較的初期の段階で患者さんの免疫力がそれほど低下していない場合や、癌を手術で取り除いたり放射線治療で縮小させたりした場合に併用することで高い効果が期待されます。

しかし、実際は再発や転移などで通常の治療の効果が望めなくなった癌患者さんに提示される選択肢の1つとして、この樹状細胞ワクチンが行なわれるケースがほとんどです。

効果が評価されにくい?

樹状細胞ワクチンは人間に本来備わっている樹状細胞の力を利用した治療なので、抗癌剤のような副作用は少ないと考えられます。そして、QOL(Quality of Life:生活の質)を維持しつつ延命が期待できます。その一方で、標準治療の評価基準となる癌を縮小させる効果という部分では評価が難しいという側面があります。

また、ワクチン投与後に免疫細胞が活性化され、実際の効果が現れるまでには時間がかかります。標準治療として承認されるには臨床試験で効果を証明しなければなりませんが、その点がネックになりそうです。

癌の免疫抑制がワクチンの効果を損なう?

近年明らかになってきた、癌細胞による免疫抑制作用も大きな課題です。

免疫には自分の身体を攻撃しないようにする抑制機能、いわばブレーキがありますが、癌はその機能を利用して、免疫細胞の本来の働きにブレーキをかけて身を守ります。つまり、樹状細胞ワクチンによって免疫細胞を活性化させようとしても、癌細胞の免疫抑制作用が効果を損ねてしまうことが考えられるのです。

今後に向けて

樹状細胞ワクチンは治療のメカニズムとしては確立されていても、いくつもの問題によって標準治療として承認されるには時間がかかりそうです。

しかし、従来の標準治療や免疫療法との併用が試みられるなど、積極的な研究開発は今も進んでいます。クリアしなければならないハードルはありますが、樹状細胞の特性を活かした癌治療が身近なものになる日が近いことを期待したいものです。