癌治療の内容や癌の症状によって、貧血症状が癌患者に現れる場合があります。このページでは、癌治療に関連して発生する貧血症状について、対処法や注意点をまとめて解説していますので、参考としてご活用ください。
癌の標準治療では放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)、また外科治療(手術)といった治療法が選択されます。これらの治療内容や癌の種類・発生部位によって治療中や治療後に貧血症状が現れる場合があります。
ここでは一般に現れる貧血の症状や原因などに関してまとめました。
貧血の症状としては軽度なものから重度なものまで様々です。軽い運動や日常の作業でも疲れやすくなったり、日常的に倦怠感や疲労感が続いたりといった症状。立ちくらみや頭痛、失神、さらに深刻な状態まで様々なケースが考えられます。
また、貧血によって適切な生体機能が維持されなくなると、免疫系が正常に働かず病気のリスクが上昇。女性であれば生理不順や不妊といった症状につながったりと種々の問題が派生します。
その他にも、動悸や息切れ、めまいなどが続くことで精神的なストレスが強まり、メンタルヘルスが悪化する恐れもあります。
癌の症状として貧血が生じるだけでなく、癌治療の副作用や治療後の体質変化などによって貧血が生じてしまうケースは珍しくありません。そのため、治療中の癌患者や治療後の人に貧血症状が認められた場合、まず原因を特定・分析した上で適切な対処法を選択することが必要です。
癌の標準治療として放射線治療や抗がん剤を使った化学療法は一般的です。それらの影響によって血液をつくる細胞や臓器に不具合が生じた場合、造血機能が低下して貧血症状として表れることがあります。
このような貧血に関しては、癌治療を終了することで改善・回復することが期待されるものの、癌治療を継続中は貧血が続いてしまう恐れも。注意しなければなりません。
軽度の貧血であれば薬剤などで対処できる場合もありますが、重度の貧血症状が認められれば治療続行そのものがリスクに。速やかな検査と対処が必要です。
ビタミンB12はビタミンB群の中でも造血機能に関与する栄養であり、体内でビタミンB12が欠乏すると造血障害が発生して血液の生産が不十分になり、結果的に貧血症状として現れます。
また、ビタミンB12欠乏症は貧血だけでなく、神経障害や筋力低下、認知機能の低下といった様々なリスクへつながる点でも重要です。
そして、ビタミンB12を吸収する上で、胃粘膜から分泌される内因子と呼ばれる物質が必要になることも無視できません。
つまり、胃癌の治療によって手術で胃を切除・摘出した場合、切除した量や範囲によっては胃粘膜の分泌が不十分になり、ビタミンB12欠乏症が引き起こされることがあります。特に胃の全摘手術後はビタミンB12欠乏症のリスクが非常に高まるため、継続的に治療を行っていかなければなりません。
ビタミンB12欠乏症と同様に、胃を切除することで胃酸が減少して消化機能が弱まり、鉄分の吸収率が減少することも重要です。
鉄分は赤血球を構成するヘモグロビンの製造に必要な成分であり、健康な人体であれば肝臓や脾臓、骨髄などにも貯蔵されています。しかし、胃を切除して新たな鉄分の吸収が困難になると、術後数年で体内の鉄分が枯渇して鉄欠乏性貧血が生じます。
胃切除による慢性的な鉄欠乏性貧血が生じた場合も、ビタミンB12欠乏症と同じく継続的な治療が必要です。
癌治療による副作用だけでなく、体内に発生した癌や潰瘍から出血し、血液が足りなくなって貧血症状が現れる場合もあります。
胃癌や大腸癌など消化器系の癌から出血した場合、血便や鮮血交じりの便として表れるため、おかしいと思ったら速やかに医師へ相談しましょう。
貧血症状といっても原因は様々であり、原則としてどのような理由やシステムで貧血が発生しているのか突き止めることが不可欠です。そして原因に応じて対処法や治療法が選択されるという流れです。
胃切除によるビタミンB12欠乏症や鉄欠乏性貧血の場合、食事によって患者本人の消化機能で必要な栄養を吸収できません。そのため、ビタミンB12や血清鉄などを薬剤として投与したり服用したりすることが必要になります。
また、一時的な貧血症状や癌治療の副作用による貧血については、鉄剤の投与や治療計画の見直しが検討されるでしょう。
その他の貧血に関しても、原因に応じた対処法が考えられます。
貧血が深刻化して患者の生命に危険が及ぶと判断された場合、輸血によって直接的に血を増量させることもあります。
前提として、癌の治療中や治療後に貧血と思われる症状が現れた場合、速やかに医師へ相談して検査を受けなければなりません。また、癌治療や癌の症状によって貧血が引き起こされている場合、日常生活でも様々な点に注意して過ごす必要があります。
まず、日頃の生活リズムやライフスタイルについて視覚化し、日常の運動量や移動する範囲、行っている作業の内容や作業量といったものを改めて自覚してください。その上で、貧血の症状や程度に合わせて主治医にも相談しながらライフスタイルのプランニングを行います。
例えば日常的に自動車を運転していた人であれば、運転中の意識障害のリスクを回避するため公共交通機関やタクシーを利用したり、階段の上り下りや重たいものの持ち運びを避けて肉体的負荷の少ない動作を意識したりといったことも大切です。
貧血によるリスクの1つに、意識障害と転倒時の頭部損傷などが挙げられます。貧血が起きるとめまいやふらつきが起こったり、悪化すれば失神したりといった症状が現れます。そしてそのような時は速やかにその場で姿勢を低くして、もし意識を失ったとしても転倒で頭が地面にぶつかるというリスクを避けることが重要です。
また、階段や駅のホームなどを歩いている場合、階下への落下や線路への転落を防ぐためにも大切です。
なお、そのままじっとしていて少し気分が落ち着いたとしても、根本的に血液量が減少している場合は再度の意識障害などの発生するリスクがあるため、無理せず周囲の人へ協力を求めたり救急車を呼んだりするようにしてください。
自分の貧血症状や原因について適切に理解することも重要です。
例えば胃切除による胃切除後貧血であれば、投薬治療や薬剤投与で改善・維持できる可能性があります。また放射線治療や化学療法による副作用であれば、治療後しばらくは意識的に警戒するといったこともできるでしょう。
加えて、想定外の症状や体調悪化を自覚した場合、速やかに主治医へ変化を伝えて治療計画や癌の状態を再チェックすることも可能です。
胃の全摘手術でなくとも、胃の切除によって消化機能が低下し、ビタミンB12や鉄分を吸収しにくい体質になっている場合、食事のメニューやタイミングを意識することで状態を安定させられることもあります。
ビタミンB12は動物由来の水溶性ビタミンであり、ビタミンB12が多く含まれている食事や食材を意識的にメニューへ取り入れるといったことは大切です。また、鉄分についても同様でしょう。
加えて、消化吸収能力が低下している胃腸では一度に大量の食事をしても十分に栄養を吸収できない可能性があるため、少しずつこまめに食事して常に栄養状態を安定させられるよう考えることも効果的です。
貧血が起きたり、血液量が低下したりすると、血液によって脳や全身の細胞へ酸素を運搬する能力も低下するため、疲れやすくなったり疲労が取れにくくなったりします。
そのため、体を動かす作業を行う場合も、定期的な休息や休憩を挟んで無理のない範囲で取り組むことが必要です。また十分な睡眠をとり、安静時間を確保することも欠かせません。
無理な運動や作業は厳禁ですが、あまりにも体を動かさないでいると筋力が低下して別の病気のリスクが増大します。また血液の循環には心臓だけでなく下半身の筋肉がポンプとして働いていることも重要です。
体調が許す範囲で歩いたり運動したり、マッサージをしてもらったりといったことも心がけてください。
癌治療や治療後の貧血は、肉体的な問題であり、個人の意思や精神論だけで解決できるものではありません。そのため、周囲へ正しく説明して理解を得て、必要な時にはサポートや助力を求めることも大切です。
癌や癌治療と貧血は常にセットで考えられる症状の1つであり、もしも体に違和感を抱いたり、日常生活で不安を感じたりした場合は速やかに家族や主治医、その他の医療スタッフなどへ相談することが必要です。
特に貧血の状態によっては癌治療のプランを見直さなければならないこともあり、無理して状態を悪化させるのでなく、きちんと情報共有することも治療の一環だと覚えておきましょう。