たとえ癌になったとしても自分らしく生活したい、それはすべての癌患者さんの願いでしょう。旅行をしたいというのもその1つかもしれません。
闘病中の旅行は不安だという人も多いでしょう。しかし、体調が良いのであれば気分転換のためにも行きたいところ。主治医が許可するのであれば、事前準備を丁寧に行ない、旅行に出かけてみてはいかがでしょうか。
公益財団法人日本交通公社「旅行のストレス低減効果に関する研究」によると、旅行がもたらすストレス低減効果は健康増進につながるもので、医学的意義が非常に大きいということです。また、一般社団法人日本旅行業協会「旅の健康学的効果」によると、旅行によってストレスが和らぎ、精神的健康感も高まるとされています。
気分転換だけではなく、一番の旅行の目的は思い出づくりかもしれません。癌患者さん本人にとっても家族にとっても、幸せな思い出になるはずです。
旅行の計画から始まって実際の旅路を通じて、その楽しみが何物にも代えがたい闘病のエネルギーになることでしょう。
ひと口に旅行といっても、そのスタイルは日帰りのドライブから海外旅行までさまざまです。旅行の楽しみは計画の時点から始まりますが、やはり気にしなければならないのは体調です。旅行を心から楽しむためにも無理をしてはいけません。
闘病中の旅行に関しては、まず主治医に相談することから始めます。自分や家族、パートナーの希望や主治医の考え方、そして現在の体調と相談して無理のない行き先や日程を決めましょう。
大切なことは、体調の面でも気持ちの面でも余裕のある旅行計画にすることです。心配なことは出発前に主治医に相談しておくべきです。旅行中に注意しなければいけないことや、急に体調を崩した場合の対処方法などを聞いておけば安心度が違います。
絶対に忘れてはいけないのは薬と健康保険証を持っていくことです。また、重たい荷物を持って疲れることのないようにしましょう。
温度変化に対応できるような衣類の準備も大切です。とくに暑い時期などは冷房による温度差で体調を崩してしまうかもしれません。小さなことでも旅行中に身体をいたわるための準備は万全にしておいたほうが無難です。
病状が安定していて体調が良く、主治医が許可すれば医学的な管理が必要な人でも旅行することは可能です。旅行会社の中には医療スタッフが同行するサービスを行なっているところもあります。訪問看護事業所でも保険外サービスで旅行への同行を実施している場合があります。
ただし、この場合は同行する医療スタッフの経費が発生するので旅行費用は大きくなると考えなければなりません。
医療スタッフの同行など専門的なサポートを希望する場合は、まず旅行会社に問い合わせてみるのが確実です。前述の一般社団法人日本旅行業協会のホームページには、バリアフリー旅行問い合わせ先一覧が掲載されているので便利です。
中には国内旅行だけではなく海外旅行の手配を行なっている旅行会社もあります。患者さん自身の事情や希望を伝えて相談に乗ってもらうのもよいでしょう。
海外旅行中に旅先の国で医療機関を受診して癌の治療を受けた場合、それは既往症の取り扱いになるので通常の海外旅行保険の補償対象にはなりません。しかし、公的な医療保健に加入している人であれば、先方でいったん全額を支払った上で帰国後に払い戻しを受けることができます。これが海外療養費制度です。
ただし、対象となるのは日本で保険診療の対象になっている治療のみで、全額が払い戻しになるわけではありません。申請に関しては最寄りの公的機関担当窓口にお問い合わせください。
大手旅行会社「楽天トラベル」は、癌になっても安心して旅を楽しめる社会を実現することを目的とした「“旅行から、がん克服”プロジェクト」を立ち上げました。そのプロジェクトにおいて実施されたアンケートによると、癌患者さんの約半数が旅行をあきらめたり、行き先を制限されたりしているそうです。
その理由の1つは、やはり体調面の心配でした。癌の症状などによって旅行をするほど体力に自信がないということです。
そしてもう1つの理由が、旅行に対する漠然とした不安でした。安心材料がないままに旅行に出かけることはできないのでしょう。
それでは、どのような条件がそろえば不安要素が解消され、旅行に出かけようと思えるのでしょうか。先ほどのアンケートでは、癌患者さんの旅行ニーズを調査した結果も公表されています。これを見ると、癌患者さんが旅行の計画を立てるにあたって気をつけておくべきポイントがよくわかります。
これは癌患者さんではなくても気になるポイントです。健康な人でもトイレが近いと落ち着いて旅行を楽しめなくなってしまいますよね。
車椅子の場合をはじめとして、薬の副作用で下痢がある場合や尿道カテーテルを入れている場合、人工肛門のケアが必要な場合など、多くの癌患者さんには安心して使えるトイレが必要です。
多目的(多機能)トイレがあるかどうかなどをあらかじめ確認しておけば、癌患者さんにとって旅先でも安心感が違います。
宿泊をともなう旅行の場合、癌患者さんにとって他のお客さんと一緒にお風呂に入るのは気が引けます。とくに乳癌の手術を受けた患者さんなどは、1人で入れる入浴時間帯を希望するケースが多いようです。同様に家族風呂や部屋風呂のニーズも高くなっています。
多くの癌患者さんは身体的な変化、つまり外見上の変化を経験していますので、周囲の目を気にせずに入浴できる環境を整えることが大きなポイントになるでしょう。
お風呂の問題と同じくらい、癌患者さんにとって気になるのがタバコの問題。宿泊先は全館禁煙、少なくとも禁煙フロアがあることを望むのは当然だといえるでしょう。タバコの煙は明らかな癌のリスクであり、そのようなところに宿泊するのは苦痛です。
タバコの煙に悩まされることのない環境を整えることが、癌患者さんの旅行の安心感につながります。
体力の低下を避けなければならない癌患者さんにとって、食事の内容は重要なポイントです。楽天トラベルの調査によると、有機野菜や無農薬野菜を材料にしたオーガニック食や、栄養バランスに配慮した食事を希望する人が多かったようです。
癌にかかって食事の好みが変わったり、治療の副作用で食事に制限があったり避けるべき食材があったりする人も多いでしょう。そのようなニーズに応えてくれる飲食店や宿泊先を選ぶことができれば、旅行における食の楽しみも得られるはずです。
癌患者さんが旅行の計画を立てるにあたって、多くの共通する悩みが情報不足でした。闘病中でも行ける旅行の情報がない、ほかの癌患者さんはどうしているのか、そういったことをなかなか調べることができなかったのです。
先ほど挙げた楽天トラベルでは、癌患者さん向けの旅行特集ページが開設しています。そこでは闘病中の癌患者さんが旅行に出かけたきっかけや、旅行中のエピソードなどを見ることができます。癌患者さんの実際の経験に基づくさまざまなコラムにも、旅行の計画を立てる上での重要なポイントを見つけることができるでしょう。
闘病中の旅行を検討している癌患者さんには、このような情報も活かしてみることをおすすめします。