いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

いちから分かる癌転移の治療方法ガイド » 癌患者に家族ができること

癌患者に家族ができること

癌患者さんの家族は「第二の患者」ともいわれます。本人の闘病に大きな影響を受けるのがその理由です。そして家族は本人の良き理解者として、サポーターとして、ともに癌と闘っていかなければなりません。

ここでは癌患者さんの一番そばで向き合う家族の心構えについてお伝えします。

目次

大切な人を支えるために

癌患者を支える側も健康を守る

癌の診断と告知、治療のための入院、自宅療養、仕事復帰など、患者さんの闘病生活の節目ごとに家族の生活も一変します。大切な人のためとはいえ、きっと大きなストレスが家族にも降りかかってくることでしょう。加えて癌の治療は多くの場合、5年、10年と長期間にわたります。それは並大抵のことではありません。

何より癌患者さんのご家族に伝えたいのは、本人だけではなくあなた自身の健康を大切にしていただきたいということです。家族が心身ともに健康で過ごすことが、闘病生活を送る癌患者さんを支えるためにもっとも必要な条件なのです。

リラックスすることと感情表現を大切にする

短時間でも構わないので、自分の時間を持つことを考えてみてください。誰かとおしゃべりしたり、ちょっと昼寝をしたり、少しの気分転換になるようなことを。できれば毎日が望ましいでしょう。何か趣味があれば、それを続けることもおすすめです。

また、自分の感情は抑え過ぎないようにしましょう。長い闘病生活を支えていくうえで、感情を抑えたままだと心が折れてしまうかもしれません。泣いても良いのです。時には怒ることだって必要でしょう。癌患者さんのわがままにすべて全力で向き合う必要はありません。理不尽だと思えば「ノー」ということも、あなたの自由なのです。

情報を集め、できることを考える

大切な人が癌になったとき、自分にできることは何もないと無力感にとらわれることがありますが、そんなことはありません。できることはたくさんあります。

1つは癌の情報を集めることです。大切な人がどんなタイプの癌になったのか、どんな治療法があるのか、経済面でのサポート制度はあるのか、不安要素を少なくするためにも積極的に情報を集めて、何ができるのか考えてみましょう。

ただし、医療関係者でもない限り、質の良い情報ばかり集められるとは限りません。不確定な情報が多すぎると患者さんを振り回すことになってしまいます。調べた内容はまず主治医や医療スタッフにしっかり確認することが重要です。

決めるのは患者自身、家族はそれを支える

ご家族であれば「自分が患者本人のことを一番理解している、だからこうするべきだ」と思いこむことがしばしばあります。基本的なことになりますが、実際に治療を受けるのも、その結果を受け止めるのも患者さん本人です。治療に関することの最終的な意思決定権は患者さんにあるということを理解してください。家族が良かれと思っても、患者さんが同意するとは限りません。

家族の役割は患者さんの意思決定を支えることです。それには、治療に関する情報を集めてそれを上手に伝え、患者さんの不安や懸念を軽減できるようなサポートが望ましいでしょう。

患者さんに寄り添う

癌患者さんは診断、告知から治療開始、治療後に至るまで心が大きく揺れ、さまざまな動揺を繰り返し経験することになります。どんなことが想定されるのか、家族は理解と覚悟をしておきたいところです。

患者さん本人も家族も治療経過に一喜一憂することになるかもしれませんが、その時々の体調や感情で受け止め方も変わります。もし患者さんの言動や考え方が変わったとしても、心の変化を理解して優しく寄り添ってあげてください。

参考までに、癌の治療中に起こりやすい心の揺れをまとめてみます。

手術による喪失体験

進行の程度や全身の状態にもよりますが、癌の治療の第一選択肢は手術が多くなります。その場合、手術する部位によっては生活のために必要な機能を失うことになります。声帯や直腸、膀胱などがそれにあたります。女性が子宮や卵巣を摘出した場合、または男性が前立腺を摘出した場合などは、性に絡んだ喪失感にとらわれることになるでしょう。

手術による喪失体験によって未来への希望が見い出せなくなると、死の恐怖を感じたりうつ状態に陥ったりする可能性があります。そのような場合、家族は軽率に励ますことはせずに話を聞くことに徹してください。患者さん自身が語ることによって苦しみを整理し、闘病生活と向き合えるようになります。その気持ちを家族が受け止めることで患者さんの安心感にもつながるでしょう。

抗がん剤治療による精神症状

抗がん剤治療も精神的ダメージが大きいものです。もともと抗がん剤は副作用のイメージが広く浸透しているので、患者さんは治療前から不安に襲われることになります。もちろん倦怠感や吐き気、脱毛など実際の副作用も精神症状の引き金になるでしょう。たとえば抗がん剤でひどい嘔吐を経験すると、その後は治療を想像するだけで吐き気や嘔吐を起こしてしまうことがあるのです。

また、とくに女性の場合は脱毛やスキントラブルによる外見の変化に強いショックを受けます。対人恐怖に陥ったり、うつ状態になってしまったりするケースも少なくありません。

治療に支障をきたすほどの精神症状であれば、心療内科医や精神腫瘍医など心の専門家のサポートを受けるべきです。そのような症状が出ていないか、家族も注意深く見守ってあげましょう。

闘病生活を支えるための優先順位

患者さんの闘病生活を支えるためには、まずやるべきことの優先順位を考えましょう。それは家族も無理をせず、誰かに支えてもらうことが必要だからです。子どもの面倒や家事、買い物、ペットの世話などを細かく挙げていくと、家族でなければできないこと、他人に頼むことができることなどがはっきりしてきます。

そういうことを患者さんが嫌がったとしても、家族にも時間や体力に限界があります。共倒れを避けるためにもそこは割り切って考えましょう。

「支える人」を支える存在になる

もしあなたが癌患者さんをメインで支える人でなければ、できることはあまりないように思えるかもしれません。しかし、患者さんを支えている人をサポートすることで、結果として患者さんを支えることにつながります。

ちょっとした買い物を代わりに行くなど、できることはたくさんあります。小さなことでも患者さんを支えている人を応援することになり、メインで家族を支えている人にとっては「がんばりを認めてもらえた」という励ましにもなるでしょう。

専門家のサポートを受ける

癌患者さんの闘病生活を支える中で、まったく悩みがないなどということはまずあり得ません。治療のことだけではなく、患者さんとの関係や経済的な問題が発生した場合は、決して自分だけで抱え込まずに医療スタッフなどに相談してください。専門家のサポートは心強いものです。

また、家族の健康状態が思わしくないようであれば必ず医療機関を受診しましょう。眠れない、疲れが取れないという症状が続くのなら、精神的なダメージが蓄積している可能性があります。放っておかずに心療内科などメンタル面での専門的な治療を受けてみましょう。

お金に関する相談は早めに済ませておく

患者さんの闘病生活と経済的な問題は、一般的に切り離して考えることができません。それは治療費だけではなく、通院のための交通費やお見舞いの返礼なども含まれます。本人が生計を支える立場であったなら、収入が途絶える可能性もあるでしょう。

金銭面で後になって患者さんや家族同士で揉めることがないように、たとえば親の闘病生活を支えるのであれば兄弟・姉妹できちんと話し合っておきましょう。その際には、専門家に相談して社会的な支援が受けられるかどうかも確認しておくべきです。

本人にかけてあげたい言葉

家族やパートナーが癌の宣告を受けたら、または転移や再発を医師から告げられたら、どんな言葉をかけるべきでしょうか。どうにかして励ましてあげたい、でもかける言葉が見つからない、そんな風に悩むかもしれません。

本人にとって家族やパートナーの存在は心強いものですが、それでも将来を思うと心は揺れ、気持ちを落ち着かせることはなかなかできません。大切な人との衝突や誤解が生じることもあるでしょう。それでも、根気よくまっすぐ本人と向き合わなければなりません。

癌患者本人との向き合い方やかけるべき言葉など、コミュニケーション面についてお伝えしていきます。

本人に癌を告知するとき

今でこそ本人に癌を告知するのが当たり前になりつつありますが、そうなったのはそれほど前のことではありません。告知するようになった理由は「患者の知る権利」が広まったことが背景にあり、現在では進行した癌であっても多くの人が告知を受けるようになっています。自分の病気なのだから自分自身で受け止めたいという、本人の希望が尊重されているということなのでしょう。

この流れは家族やパートナーにとっても大きなことです。本人をサポートする立場である家族はどうやって本人に癌を告知し、それを共有していくか、ここで考えていきましょう。

セカンドオピニオンを活用する

セカンドオピニオンを直訳すると「第二の意見」。自分に合った、より効果的な治療を目指してセカンドオピニオンを希望する人は増えています。その背景には癌の治療の進歩と、患者さん自身がインターネットなどで多くの情報を得られる時代になったことがあるでしょう。

しかし、セカンドオピニオンは主治医を変えるため、転院するためという誤解は依然として残っています。おそらくは、別の医師の意見を聞くということが主治医への不信感の裏返しだという感覚があるのでしょう。それは本来のセカンドオピニオンのあり方ではありません。

ここではセカンドオピニオンの本来の意味や上手な活用法についてお話していきます。

介護休暇・介護休業を利用する

大切な人が癌になってしまったら、その闘病生活を支えるのは家族の存在です。そこでは、自分の仕事を続けながら本人の生活を支えていく、つまり仕事と介護の両立がひとつのポイント。そこで介護休暇や介護休業の制度が役立ってきます。仕事を辞めると決断する前に、少しだけ立ち止まって考えてみるべきです。

介護休暇や介護休業の制度ができてしばらく経ちますが、まだ広く浸透しているとはいえません。改めてそれを見直してみましょう。ここでは制度の説明のほか、仕事と介護の両立に悩んでいるご家族に覚えておいていただきたいことなどをお伝えしていきます。

家族として療養生活をサポートするには

癌患者さんの療養生活をサポートするのは家族の大きな役割です。近年の癌治療の進歩は目覚ましく、従来のような長期にわたる入院治療は少なくなり、通院治療の割合が増えてきました。とくに抗がん剤治療や放射線治療は通院でも十分に対応できるようになっています。本人にとっては自宅で生活しながら治療できるので、不安やストレスも軽減できます。

そんな本人の療養生活をサポートするために、家族としてやるべきことは何でしょうか。ここではサポーターとして心得ておくことや専門家の力を借りる方法、そのほか知っておいてもらいたいことをお伝えしていきます。

癌患者のお見舞いをするとき

ちょっとした病気であれば、それほど身構えずにお見舞いすることができるかもしれません。でも病気が癌だとしたら、お見舞いの対応の仕方を考える必要があります。それは近しい家族であっても同じこと。病気が病気だけに、本人は不安定になっているかもしれません。気を遣いすぎてはいけない、言葉選びを間違えたくない、そう悩むかもしれません。

お見舞いとは病気や怪我で療養している人を慰め、そして励ますことです。健康なときなら気にならないようなことも、精神的に不安定なときには気に障ることもあります。癌患者さんであればなおさらでしょう。

ここでは癌患者さんをお見舞いするときに覚えておきたいことをまとめています。

本人が認知症のとき

来たる2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるといわれており、これはもはや第二の国民病といっても過言ではありません。そして現在は国民の2人に1人が癌になる時代。癌と認知症を同時に患うのは、高齢化社会を迎えた日本では避けることができない問題です。

認知症が進行して本人に判断能力がないと考えられる場合、治療に対する同意は家族に委ねられます。闘病生活にもさまざまな支障が出てくるでしょう。とはいえ、本人の意思をまったく無視することもできません。ここでは認知症の癌患者を家族がどのようにサポートしていくべきかをお伝えしていきます。

癌患者のせん妄をサポートするには

せん妄とはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。脳や身体の不調や治療の副作用として起こる意識障害や精神症状がせん妄で、癌の治療中にも多く発生します。時間や場所がわからなくなったり、おかしなことを口走ったりと、ともすれば認知症と間違えられるような状態に陥ります。

家族やパートナーにとっては、本人が突然そうなるのはショックなことです。姿を見るのもつらいでしょう。ですが、せん妄の症状を理解して対応を心得ていれば、きっと冷静に向き合えるはずです。

ここではせん妄の患者さんを家族がどのようにサポートしていくべきか、せん妄のメカニズムと併せてお伝えしていきます。

癌患者の心をケアするには

がんを疑う症状から検査を経て確定診断、告知を受け、さまざまな治療の開始、そして再発や転移の発覚など、長い療養生活におけるいくつもの節目で、その都度患者さんは心身に強いストレスを受けています。もちろん治療のことだけではなく、仕事や家庭などの社会的背景も複雑に絡み合って、誰にも相談できないまま心に大きな負担を抱え込んでしまうことも珍しくありません。

がんという病気と直面している以上、不安や落ち込みといった感情に陥るのは自然なことです。しかし、日常生活に支障をきたすようであれば、患者さんに寄り添い闘病生活を支えていく家族として対策を考える必要があるでしょう。

ここでは患者さんや家族の心の問題、そしてそのケアの方法についてお伝えしていきます。

癌患者の負担を減らす家事分担

家庭内で家事を担っていた人ががんになってしまった場合は、当然ですが治療開始前と同じように家事をこなすことは困難です。なるべく早く家族で家事を分担し、患者さんの負担を減らしていく必要があります。実際、家族のがんをきっかけにして家事の分担を進める家庭も少なくはありません。

家族構成その他の状況によって、負担になる家事はさまざまです。ここでは、家事の妨げになる患者さんの症状や、その対策のヒントについて、家族に覚えておいてほしいことをまとめています。

親が癌になったとき

親が癌になったら、家族も冷静ではいられないのが当然です。でも一番冷静でいられないのは患者本人。落ち着いて、家族としてできることをしましょう。具体的には、病気の情報を集めること、今後の生活について考えることが肝になります。

情報収集は主治医の話をよく聞き、本人や家族の希望があればきちんと伝えること、それが基本です。新しい情報を集めるのも大切ですが、信頼に足るものかどうかは慎重に見極めなければなりません。

今後の生活については、仕事や家庭で親が果たしていた役割がどうだったかに応じて考えるべきことが変わってくるでしょう。

家族が癌になったときにしてはいけないこと

ここでは、家族が癌になったときにしてはいけないことについてお伝えします。

告知から2週間は重大な決断をしない

癌の告知など大きな不幸を事実として伝えられた場合、人間の心理的な反応は「否認や怒り」「取引」「抑うつ状態」「受容」というように時間的な変化を示すことが知られています。もちろん個人差はあるので、誰もがこうしたプロセスをたどるわけではありませんが、ひとつの典型例とは考えられるでしょう。

癌の告知を受けた場合、受容、つまり癌であることを受け入れられるようになるまでには、少なくとも2週間はかかるといわれています。つまり、どんなに強靭な精神力の持ち主であっても、気持ちが落ち着くまでに2週間程度の時間が必要だということです。

告知から2週間は、人生の重大な決断を下すことは絶対に避けるべきです。早まって退職を決めてしまったり、科学的根拠に乏しい民間療法に走ってしまったり、そのようなことのないように家族も注意しながらサポートしていきましょう。

癌と知ったときに心の変化がある

それでは、冒頭にお伝えした心理的な反応について、もう少し詳しく説明しましょう。

否認や怒りの感情

癌の告知を受けると、多くの人は「そんなわけがない」と事実を否認します。本人の心の準備ができていない場合は否認の感情がはっきりと表れますが、心の準備ができていたとしても部分的な否認が見られます。

否認しきれなくなると、次に「なぜ自分なのか」という怒りの感情に変わり、医療スタッフや家族など、あらゆる方向に怒りが向けられます。それは、心の防衛機制ともいえる状態であり、怒りを表すことで落ち着いていくという過程を理解しなければなりません。

家族はありのままの自分をさらけ出している本人の怒りを受け止め、その声に耳を傾けましょう。そうすることで本人は少しずつ落ち着き、怒りは静まっていくはずです。

取引の感情

癌という事実を否認しても怒りを表してみても、そこから逃れることができないとわかると、次は取引の感情に移行していきます。たとえば「生活を改めて摂生するので、癌が治ってほしい」といった感情です。

また、避けられない結果を先延ばしにするという交渉のような気持ちも生まれます。多くの場合、それは延命の願いです。たとえば「せめて子どもの結婚式までは生きていたい」といったような感情です。

抑うつ状態

厳しい現実を避けられないことがはっきりしてくると、どんなに気持ちを強く保っても楽観的な態度ではいられなくなり、やがて大きな喪失感に変わっていきます。それは、これから愛するものすべてを失っていくことへの抑うつ、つまり「準備的な抑うつ」ともいえます。

このタイミングでの励ましは、自分が死ぬことについて考えるのを止めるようなものであり、やってはいけないことだと考える心理学者もいます。確かに言葉は不要で、黙ってそばにいるだけで十分なこともあるでしょう。

家族は、本人が癌であることを受け入れるために、こうした抑うつの段階も必要だということを理解してあげなければなりません。

癌であることを受け入れる

ここまでの段階を経て、これから迎える現実を嘆き、怒り、悲しんできた本人は、最終的には癌であることを受け入れるようになります。これを「受容の心理」といいます。たとえば「癌になるのは運命だったのだろう。治療は主治医を信頼して任せ、自分の人生を大切に歩んでいこう」という感情がこれにあたります。

注意が必要なのは、この受容は決して「幸福な段階」ではないということです。現実を受け入れた本人の受容がどのような状態なのかを理解したうえで、本人の望む形でサポートすることが大切です。

NGワードを避ける

もし癌になったのが知人や友人であれば慎重に言葉を選ぶところを、家族だからといって遠慮のない言い方になってしまうというのはよくあることです。言ったほうに悪気がないとしても、実際に本人を傷つけるような「NGワード」は避けなければなりません。

たとえば、根拠のない「大丈夫」や、決まり文句のような「かわいそう」は、かえって本人を落ち込ませたり苛立たせたりすることがあります。「運命だから受け入れるしかない」「癌の家系なら仕方ない」といった言葉も、本人に対する配慮と想像力に欠けた言葉だといえるでしょう。

また、癌は生活習慣病だという言われ方も広まっているようです。生活習慣病とはその名のとおり、自身の生活習慣が原因で起こる病気のことです。したがって、癌患者さんがそういわれると、これまでの自分の生活=生き方が悪いのだと否定されたような気持になってしまいます。

癌の発症リスクを高める生活習慣は確かに存在します。代表的なのはタバコですが、その人の癌の原因が何であるかは別の話なのです。そもそも癌は、何かに気をつけることで確実に予防できる病気ではありません。再発や転移の可能性も同じです。不用意な言葉で、本人に自己コントロールができていなかったと悔やませるような思いをさせてはいけません。

治療の手立てがなくなってしまったときのこと

治療の甲斐なく癌が進行してしまい、これ以上は治療の手立てがないという状況に陥ることも残念ながらあります。考えたくはありませんが、患者さんがしたいことや会いたい人、財産の管理などについて、希望を聞くことができるうちに話し合っておくべきです。

もちろん、患者さんが話したくなかったり、現実を受け入れることができなかったりすることもあるでしょう。タイミングを見計らって対応しなければなりません。

最期の時間をともに過ごす

患者さんが最期の時間を過ごす場所として自宅、病院、ホスピスなどが挙げられますが、やはり病院で亡くなる人が多いものです。しかし、近年では最期まで自分らしい生活を送ることができる場所である自宅、つまり在宅医療を希望する患者さんや家族が増えています。

最期の大切な時間を自宅で過ごすとなると、家族の介護力に大きく左右されると思われるかもしれません。ただ、訪問診療や訪問看護など医療スタッフのサポートを受けることが可能ですので、もしもその時がきてしまったら、できる限り患者さんの希望を叶えてあげてください。

自分の死について語られたら

患者さんは自分がこの世を去ったあと、家族がどうなるか考えると不安でたまらなくなります。一家の生計を担っていた人であればなおさらです。残された家族が生活していけるように、財産の整理を考えたいという思いもあるでしょう。会っておきたい人もいると思います。葬儀のことやお墓のことが気になるかもしれません。意識がなくなっても延命をするのか、最期の医療行為についても希望があるかもしれません。

このように、患者さんが自分の死について語り始めたら、話をそらさずにしっかり向き合いましょう。何を望むのかを話し合い受け入れること、それが死への不安や恐怖を打ち払い、患者さんが最期を迎えるために必要な準備となります。

家族も心のケアを

もちろん自分の死を受け入れることができずに、最期までその話題に触れることのない患者さんもいます。このような場合は優しく見守ることが大切です。しかし、療養生活に支障をきたすようであれば精神腫瘍医などに心のケアを施してもらう必要があります。

また、この時期になると家族も死を予感することで心を痛めることになるでしょう。その苦しみが日常生活に影響するようであれば、家族も無理をせず心の専門家のサポートを受けるようにしましょう。

主治医との付き合い方

癌治療は癌患者や家族、主治医などが一丸となって向き合っていくものであり、だからこそ同じチームの一員として治療を主導する主治医との付き合い方が重要となります。

患者や家族にとって主治医は癌治療の専門家であると同時に、患者の体質や状態に関するスペシャリストです。ここでは、信頼できる主治医を見つけて上手に付き合っていくために、どのようなポイントへ気を付けるべきか解説していますので、ぜひ参考にしてください。