肝臓内への転移は、そのほとんどが肝臓癌によるものです。このページでは肝臓内へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。
肝臓内転移とは、肝臓から同じ肝臓内に転移が起きることで発生する癌転移のことです。肝臓癌の再発の8割が肝臓内転移に起因していると言われています。肝臓内には多くの血管が通っているため、血流に乗った癌細胞が移動しやすいのです。特に肝臓の主血管である「門脈」に癌ができた場合、肝臓全体に癌が転移する原因となるでしょう。
また、肝臓癌の中でも小さいものは画像検査で見つけにくく、治療で取り逃しやすいのです。残ってしまった癌細胞が時間をおいてまた増殖を始め、転移を引き起こしてしまいます。
肝臓内に転移しやすい肝臓癌は、初期段階ではほとんど自覚症状が現れません。進行してから初めて病気に気づくことも多いようです。肝臓内転移が進行した時の代表的な症状は、肝機能の衰え。だるさを感じるだけでなく、脱力感を覚えることもあります。
肝機能が低下した時に見られる最も特徴的といえる症状が、眼球や肌が黄色く変色する黄疸という症状です。目に見えて体重が減少したり、お酒に強い人が急にお酒に弱くなったりという自覚症状が出ます。
他にも、腹水が溜まってお腹が張ったり、手足がむくんだりなどの症状、尿の色が黄褐色になるという症状もあり、このような目に見える変化があってからようやく肝臓に異常が起きているのに気づく方も多いようです。
肝臓内転移の場合は「切除手術」と「ラジオ波焼灼」が主な治療法として挙げられます。切除手術は、腹部に5~12ミリの手術穴を数ヶ所開けて、そこに内視鏡と器具を入れて患部を切除する腹腔鏡手術を行う場合がほとんどです。ラジオ波焼灼療法は、腫瘍に電極針を挿し、高周波のラジオ電流で癌細胞を焼却して死滅させる方法。腫瘍の数が少なく、大きさが基準以下だと効果的です。
癌が初期段階で見つかれば、腫瘍に直接エタノールを注入して癌細胞を死滅させる「経皮的エタノール局注療法」という治療法も行えます。
これらの治療法が適応しない時は、癌に栄養を運んでいる動脈をふさぐ「肝動脈塞栓術」や、動脈に抗がん剤を直接注入する「動注療法」などが用いられるでしょう。
腫瘍の数が多い場合は「肝動脈化学塞栓(そくせん)療法」が有効です。動脈に抗がん剤を注入した後、血管を人工的に塞いで癌細胞を壊死させることができます。
癌は周辺の臓器やリンパ節、遠隔臓器に転移することが多いのですが、肝臓癌のほとんどが肝臓内に転移します。癌細胞が肝臓の血管を通して移動し、複数の癌が発生するのです。
肝臓癌は初期症状を自覚しにくいのが特徴。進行した時に尿の色が黄褐色になるという症状が現れて初めて気づく人も。早期発見をして早めに対処するためにも、定期的に検査を受けるようにしましょう。
がんにかからないようにするためにはどのようにすればいいのか、検査について知りたいと思っている方もいることでしょう。がんを予防するためには、節酒や禁煙、バランスのとれた食事、適正体重の維持、検診を受けるなど、日頃から予防行動を取ることが重要です。
肝細胞がんは、現在日本で推奨されているがん検診はないとされており、心配なことがある方は、早めに医療機関を受診する必要があります。アルコール摂取や喫煙、肥満、糖尿病なども危険因子とされています。また、このような因子は、脳血管疾患や心疾患のリスクを高めるため、生活習慣に課題のある方は、早めに改善する必要があります。
ここでは、予防やスクリーニングに関する情報を解説しますので、チェックしてみましょう。
国立がん研究センターなどの研究グループは、日本人を対象にさまざまな研究を行っています。その結果、日本人のがんの予防においては、禁煙・節酒・食生活・身体活動・適正体重の維持という改善可能な生活習慣に、感染をプラスした6つの要因に着目して、「日本人のためのがん予防法(5+1)」を定めたとされています。
禁煙・節酒・食生活・身体活動・適正体重の維持といった5つの健康習慣を実践することによって、がんリスクは半減したというデータもあることから、取り組めそうなものから始めていくことが大切です。
日本人を対象とした研究が行われた結果、タバコは頭頚部がんや肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、肝細胞がん、大腸がん、子宮頸がん、膀胱がんなど、さまざまながんに関連していることがわかりました。タバコを吸っている人は吸わない人と比較して、何らかのがんに罹患するリスクが1.5倍高まるとされています。また、他人のタバコの煙によってもリスクは高まるため、なるべく避けることが大切です。
日本人男性を対象とした研究が行われた結果、1日の平均アルコール量が純エタノール量換算で23g未満の方と比較して、46g以上の場合で40%、69g以上で60%ほど、がんに罹患するリスクが高まるリスクが高まることが判明しました。とりわけ、飲酒は肝細胞癌や食道がん、大腸がんとの強い関係があるとされています。
飲酒する場合、以下のいずれかの量にとどめるようにしましょう。
今まで行われた研究から、「野菜や果物を食べない」「塩分や塩辛食品の取りすぎ」「熱すぎる食べ物や飲み物を摂る」ことは、がんの原因になると言われています。日頃より、塩分を控える・野菜と果物を意識して摂る・熱い食べ物や飲み物は少し冷ましてから摂るといったポイントを守ることもがん予防においては重要です。
仕事や運動で身体をよく動かす人ほど、がん全体の発症リスクが低いというデータもあります。身体活動量が高い人の場合、がんだけではなく、心疾患のリスクも低くなるため、普段の生活の中で活動量を増やすことが大切です。
今まで行われた研究から、肥満度の指標であるBMI値※が、男性21.0~26.9、女性21.0~24.9で、がんによる死亡リスクが低いことが示されています。また、男女ともがんを含むすべての死亡リスクは、太りすぎはもちろん、瘦せすぎでも高くなることがわかっています。
BMI(Body Mass Index):体格を表す指標です。値が高くなるほど、肥満度が高いとされています。BMI値は、(体重kg)/(身長m)2で算出可能なため、今の自分はどのくらいなのか計算しておくことが大切です。
日本人の場合、がんにかかる原因の1つに感染も挙げられます。感染したら必ずがんにかかるわけではないため、感染状況に応じた対策を講じると、がん予防につながると言われているのです。B型・C型肝炎ウィルスは、肝細胞がんの原因になります。地域の保健所や医療機関で検査を受け、感染している場合は、専門医の診察を受けましょう。
参照元:がん情報サービス
スクリーニングとは、症状が出現する前にがんを発見しようとする試みのことで、がんの早期発見につながる場合もあります。がんはもちろん異常組織も、早期発見できれば治療が容易になるケースもあるのです。
主治医からスクリーニング検査を勧められたとしても、必ずしもがんを疑っているわけではないといわれています。スクリーニング検査は、がんの症状が出現する前に実施されるのが特徴です。スクリーニング検査を行った結果が異常の場合、がんの存在を確かめるために、さらなる検査を行うことになるのです。
肝がんに対するスクリーニング検査は、標準的なものや決められているものはありませんが、以下の検査法がその候補として現在研究が進められています。ここでは、スクリーニングについて詳しくご紹介します。
超音波検査は、超音波(高エネルギーの波)を肝臓に反射させ、それによって生じたエコーを用いる検査のことです。このエコーをもとに、ソノグラムと呼ばれる肝臓の画像が描き出されます。
肝臓をさまざまな角度から撮影し、精細な連続画像を作る検査のことです。この画像は、X線装置に接続されているコンピュータで作成されます。肝臓をよりはっきりと映し出すために、造影剤を静脈内に注射するほか、患者に造影剤を服用してもらうケースもあります。
腫瘍によって生成され、血液や体液、組織の中から検出されることがある物質で、バイオマーカーとも呼ばれています。特定の腫瘍マーカーの値が高値を示す場合は、特定の種類のがんが体内に見られることを意味するケースがあります。肝臓がんを検出する腫瘍マーカーは、AFP(α-フェトプロテイン)が広く用いられているのが特徴です。しかし、α‐フェトプロテイン値は、妊娠や肝炎、他の種類のがんによっても上昇するケースがあります。
スクリーニング検査に関する判断は、困難なケースがあります。すべてのスクリーニング検査が役に立つというわけではなく、そのほとんどは検査に伴い、害が生じるリスクがあるとされています。スクリーニング検査を受けたい方は、主治医とよく話し合い、不明な点を確認しておきましょう。
実際に肝がんが存在していても、スクリーニング検査を行って正常と出るケースもあります。偽陰性の検査結果が出た場合、何か症状が見られたとしても、医師の診察を受けるのが遅くなってしまうことがあります。
実際に、体内にがんが見られないのにもかかわらず、スクリーニング検査の結果が異常と判定されるケースもあります。偽陽性の検査結果が出ると、不安な気持ちが強まる場合もあります。またその後、確定診断のための検査や手技(肝生検など)が実施されるため、そういった検査や手技によるリスクも生じます。
スクリーニング検査の結果、異常と判定された場合には、肝がんの診断のために肝生検が実施されます。肝生検においては、まれと言われていますが、以下のような重篤な合併初が起こる可能性があります。
CARTは、まず腹部に針を刺して溜まっている腹水を抜いていきます。CART専用の貯留バッグに貯めた腹水から、がん細胞や細菌、血球成分を取り除いて、アルブミンなどの有用成分を濃縮する操作を行います。そして、アルブミンなどの有用成分が濃縮された腹水を点滴で戻していきます。
CARTでアルブミンなどの有用成分を補充すると、栄養状態が改善し、QOLの向上につながります。また、腹部の圧迫が軽減し、苦痛の緩和にもつながります。
末期の状態にあっても、腹水の管理ができると、QOLを改善していけると言われています。CARTを行うと、発熱や悪寒、血圧上昇、頭痛、嘔気、戦慄といった副作用が見られることがあります。頻度は不明ですが、溶血や血圧低下、顔色不良、嘔吐、血圧低下、ショック症状を呈するケースもあるため、心配なことがある方は主治医へ確認しておきましょう。
肝臓内への転移が見られた方や、治療を受けている方の体験談が知りたいと思っている方もいるのではないでしょうか。ここでは、肝転移のある方や手術を受けた方の体験談をご紹介します。
緩和ケアに移行後は、薬の副作用の心配がない。もちろん、癌による体調不良は進行中だが、痛み止め等でなんとか対応できている。対面での仕事も1時間程度であれば、こなすことができそうだ。
緩和ケアというと終末の印象をもたれる方が多いが、私は体が衰弱する前に移行してよかったと思う。副作用がないことに加えて、自分の力で癌と共生する覚悟が生まれたからだ。
退院前に担当医から手術の状況について説明を受けました。 この時初めて手術の際の写真を見せていただきました。 肝臓の所々に変質している所があったことからがんの転移の可能性もあり当初の予定よりも切除量が多くなたたこと 切除した肝臓の検査で変質している所は単なる炎症でがんの転移は認められなかったこと がんは肝臓内で胆管が左右に分かれている直後の右側で他への転移は認められなかったとのことでした。 入院期間が長引いたのも肝臓の切除量がもともとぎりぎりと考えていた量よりも多かったためでしょう。
引用元:回復経過03
看護師の友人は病名を聞いたとき泣いてくれたそう。そして遠い道のりを飛んできてくれました。がんが小さくなったと伝えると、心から喜んでくれました。 病院の緩和ケアの看護師さん、薬剤師さんたちも親身になっていつも声をかけてくれ、ありがたく感謝の気持でいっぱいです。
引用元:胆管・胆のうがんの体験談 胆管・胆のうがん 54歳 女性 パート・アルバイト|がんになっても
私は術後あれこれ調べ、セカンドオピニオンも父に内緒で聞きに行きました。聞くと手術の方法もいろいろあり、そもそも病院選び、先生選びも予後を大きく変えるのだと思いました。 身近でがんになった方がいらしたら、よくよく調べて悔いのない治療を選んでください。
引用元:胆管・胆のうがんの体験談 胆管・胆のうがん 42歳 女性|がんになっても
当初はひとつの病院・先生にこだわり「この先生に全てお任せしたい」と言い切って聞かなかった母が徐々にセカンドオピニオンなどにも耳を傾けてくれるようになり今の病院を紹介していただき治療中です。
なんでも多角的に考えなければ…と思い知らされました。腫瘍マーカーの値が転院時は高かったのですが今の先生にお願いしてからいくらか落ち着いています。
引用元:胆管・胆のうがんの体験談 胆管・胆のうがん 38歳 女性|がんになっても
担当外科医、看護師さんを信じることで気持が楽になり不安が消えたことを覚えています。
引用元:胆管・胆のうがんの体験談 胆管・胆のうがん 45歳 男性 会社員|がんになっても
家族や友人に病状を伝えた際にはお互い涙し、感情的になった事もありました。そのようなこともあり、勤務先へは比較的スムーズに話が出来ました。深刻になり過ぎないようにできるだけ明るい感じで伝えました。ただ、夜遅くなり過ぎたり、体調が悪い時があるかもしれないなど、ちょっとだけ思いやりを下さいとも話しました。見た目にはわからないので、もしかしたら周りの人は自分が病気である事を忘れている人もいるかもしれませんね
3月ぐらいの抗がん剤やる前に会社に1回行きました。人事の人に話をして、こういう病気で、治療もこんなふうにかかって、退院がいつぐらいで復帰がこれくらいなんですよと。なんか使える制度が何かとか、みたいな話をして。じゃこれ使えるよとか、高額療養費の申請しといたほうがいいよとか、みたいな話をもらったっていう感じですね。人事の人が多様性ある方で、病気の人も過去に会社に在籍していたみたいで「そういうこと解るよ、だから一緒に闘っていこうね」みたいな感じのスタンスの方だったんで、すごい話が早かったですね。
4年前のある日、高熱が出て開業医に行ったら「大きい病院に行って下さい」と言われて行ったら、検査で「がんです」と言われた。結局そこの病院で「手術できない」と言われて大学病院で手術した。それから、4年経った。現在3ヶ月ごとの検査で今のところ再発していない。
毎回高齢の両親が気にかけ、励まされ、皆様に感謝するように。子供達には、色々我慢し頑張る姿を見せられ励みに。
告知されたとき幼稚園に通っていた娘は、小学3年生になりました。家にあるがんについての本や週1回の通院、おなかにある手術痕から、パパが病気で、その病気ががんであることは理解しています。
引用元:父として、夫として、一人の人間として、がんになって本当にやりたいと思えることに出会えた|あやライフ
抗がん剤で治療中はたいして食べていないのにもかかわらず、高脂血症で総コレステロールと中性脂肪が高くなりました。味覚障害も出て、ゆで卵しか食べられなくなり、また、水の味がダメになって水やお茶が飲めず、原液のリンゴ酢やコーヒーで水分を摂っていました。この時、体重が一気に落ち、診断前と比べて4.8%ほど減りました(42kg から40kg)。管理栄養士さんからは、「卵はコレステロールが多く含まれていて気になるかもしれませんが、食べられるものを食べて。飲めるものを飲んで」と言われて、とにかく頑張って飲食しました。
病院の栄養士さんから「抗がん剤の副作用である味覚障害には個人差がありますが、一般的にはうま味や塩味が感じにくくなり、甘味を強く感じることが多いようです」と言われたので、普段から食べ慣れたものをベースに色々試したところ、私の場合は塩味や辛味がきつく感じるようで、好物の鮭フレークは苦手になっていました。しかし、なぜか梅干しの塩味は酸っぱく感じて食欲がわいたので不思議だなあと思います。そうやって試行錯誤しましたが、食事量はやはり減ります。幸いなことに味覚障害が強いのは抗がん剤投与後3日間くらいとわかるようになったので、この間は我慢して食べるようにしています。なぜなら食べることは生きる原点で、食べると身体が動いて体力がつき、次の治療につながることを実感しているからです。
治療は、標準治療を基本に担当医と相談しながら決めます。本人の年齢や希望、身体の状態、生活環境などを総合的に検討したうえで決定するのが特徴です。肝細胞がんにかかった方の多くは、がんと慢性肝疾患といった病気をかかえています。そのため、まずは肝予備能をChild-Pugh分類を用いて評価し、治療法を選択します。
肝予備能とは「肝臓の機能(肝機能)がどの程度まで保たれているか」を判断する指標であり、肝臓内転移の癌治療の方針や内容を検討するために必ず確認しなければならないポイントです。
肝予備能は基本的に「肝障害度」と「Child-Pugh分類」という2種類の基準にもとづいて複合的に評価されることも重要です。
肝障害度は、肝癌診療ガイドラインの第3版まで肝予備能を評価する指標として採用されていた分類法であり、肝機能の状態に合わせて「A・B・C」の3段階評価で示されます。また、肝障害度は現在でも肝臓切除術を実施する際などに活用されています。
肝障害度の分類法としては「ICG(インドシアニングリーン)」という色素が用いられており、さらに腹水の有無や血清ビリルビン値、血清アルブミン値といった血中成分の数値などによって総合的に評価されることが特徴です。
なお、障害の程度はAが最も低く、Cが最も大きいという段階で示されます。
例えば肝障害度の評価内容としては、以下のような基準が用いられます。
Child-Pugh分類は、肝癌診療ガイドライン第4版から肝予備能の評価法として採用された指標です。Child-Pugh分類では肝障害度の評価のように色素は使用されず、腹水の量や肝性脳症の程度、血清ビリルビン値といった血中成分の数値など複数の項目にもとづいてそれぞれ「1~3点」で採点し、得られた合計点に応じて「A・B・C」の3段階で評価されます。なお、肝障害度と同様にAからCにかけて障害の程度は重大となります。
Child-Pugh分類の評価点(合計点)は以下の通りです。
その他、分類Aの軽度の肝硬変は「代償性肝硬変」、分類Cに当たる重度の肝硬変は「非代償性肝硬変」とも呼ばれます。
肝臓癌の進行度は「ステージ(病期)」として分類されており、ここでは肝臓内への転移癌についても肝臓癌(肝細胞癌)のステージ分類にもとづいて解説します。
なお肝臓癌のステージ分類に関して、現在は国内における「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」にもとづいた指標と、国際的な指標として「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」の2種類が採用されている点に注意してください。
これらのステージ分類は、それぞれ肝臓癌や肝臓内癌の進行度などを表す指標として用いられますが、分類法によって各ステージの表す内容が異なるため、どちらの分類による評価なのか最初にきちんと区別しておくことが大切です。
日本国内において使用されている肝臓癌のステージ分類であり、肝臓における腫瘍の数やサイズ、また範囲や転移の有無などによって分類されます。
具体的には腫瘍の状態に応じた「T1~T4」の4段階と、リンパ節や他の臓器への転移にもとづいた「I~Ⅳ期」に大きく分類されることが特徴です。
T分類は以下のように区別されます。
また、「I~Ⅳ期」のステージは以下のようになります。
「TNM悪性腫瘍の分類」として国際的に使用されているステージ分類であり、主な判断基準として「領域リンパ節への転移の有無もしくは遠隔転移の有無」と、腫瘍のサイズや組織型などが複合的に利用されています。
ステージは「ⅠA期・ⅠB期・Ⅱ期・ⅢA期・ⅢB期・ⅣA期・ⅣB期」の7段階で構成されており、原則として領域リンパ節への転移がある場合は全てⅣA期、遠隔転移まで認められる場合は全てⅣB期になることがポイントです。
その他の分類についてはおよそ以下のようになります。
肝細胞癌の治療法をどのように選択するかは、肝予備能(Child-Pugh分類)の状態や患者の意向、他臓器への転移の有無など様々な要素を総合的に考慮して決定されることが重要です。
なお、実際の臨床現場における治療選択のアルゴリズムとして、日本癌治療学会がん診療ガイドラインでは「肝予備能・肝外転移・脈管侵襲・腫瘍数・腫瘍径」の5つの因子による判断基準を設定しています。
具体的には以下のような区分によって治療法の選択が行われています。
治療アルゴリズム | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
肝予備能 | Child-Pugh分類A・B | Child-Pugh分類C | |||||
肝外転移 | なし | あり | ミラノ基準内 または 5-5-500基準内 |
移植不能 | |||
脈管侵襲 | なし | あり | - | ||||
腫瘍の個数 | 1~3 | 4以上 | - | ||||
腫瘍サイズ(径) | 3cm以内 | 3cm超 | - | ||||
治療法 | 切除/焼灼 | 切除/塞栓 | 塞栓 動注・薬物療法 |
切除 薬物療法 |
薬物療法 | 移植 | 緩和ケア |
※参照元:日本癌治療学会がん診療ガイドライン|診療アルゴリズム
肝予備能など複数の因子からアルゴリズムにもとづいて選択される肝臓内癌の治療法としては、主として手術(外科治療)や焼灼、塞栓、さらに薬物療法といったものが検討されます。またその他にも免疫療法や放射線治療、緩和ケアといった治療が候補になることもあるでしょう。
肝臓内癌における外科治療としては、大きく分けて肝臓の切除と、肝臓移植の2パターンが考えられます。なお肝切除はChild-Pugh分類がAもしくはBの場合に選択され、肝移植はChild-Pugh分類Cの場合に候補となる点もポイントです。
肝切除は肝臓内にある癌組織を含めた一定の範囲を切除して、癌細胞を物理的に除去する外科治療となります。一般的に、肝障害度やChild-Pugh分類によって肝機能の状態が良いとされるほど切除後に残せる肝臓の量や範囲は多くなり、術後の状態も良く保ちやすいことが重要です。
通常、肝切除が適用となるのはChild-Pugh分類でAもしくはB、さらに肝臓の外への転移がなく、腫瘍の数が1~3個の範囲内とされています。一方、癌のサイズについては制限が特に定められておらず、例えば10cm超の大きな腫瘍であっても切除によって対応できる可能性はあるでしょう。
肝臓を切除する方法としては開腹手術だけでなく、腹部に小さな穴を開けて腹腔鏡を挿入する腹腔鏡下手術も検討されますが、広範囲を切除する場合は開腹手術が優位になります。
Child-Pugh分類でCに該当する場合、患者の肝臓を全て切除した後、臓器提供者(ドナー)からの肝臓提供を受けて移植手術(肝移植)が選択されることもあるでしょう。なお日本国内ではドナーとして存命の近親者が選ばれる「生体肝移植」が主流となっており、一部のケースにおいて脳死後の第三者ドナーから肝臓を提供してもらう「脳死肝移植」も実施されています。
ただし肝移植が選択される条件として、「ミラノ基準」として脈管への広がりや肝臓以外への転移、肝臓の大きさや個数など複数の項目について具体的な指標が設定されており、それらの条件を満たさない場合は肝移植が不可能として緩和ケアなどが選択されるという流れです。
肝切除や肝移植といった手術を実施する場合、様々な合併症のリスクが存在することも無視できません。
肝臓癌や肝臓内癌における手術の合併症としては、例えば肝臓を切除した後の出血や、胆汁が漏出する「胆汁漏」、さらに肝機能が正常に働かない肝不全といったケースが想定されます。なお、胆汁漏が発生した場合はドレーンを使用して体内の胆汁を体外へ排出することにより対処しますが、症状が改善しない場合は再手術となることもあるでしょう。
また出血が止まらない場合は輸血や再手術による止血を行わなければならず、さらに肝不全が生じた場合は早急に対策を講じなければならないこともポイントです。
穿刺局所療法とは文字通り、特定のポイントへ治療用の針を刺して局所的な治療を行うものであり、肝切除のような手術よりも患者の肉体的負担を軽減できることが強みです。
穿刺局所療法が適用となるのはChild-Pugh分類AもしくはB、そして癌の数が3個以下で、最大サイズが3cm以下という場合になります。また、肝臓内癌の治療として行われる穿刺局所療法は、主として「ラジオ波焼灼療法(RFA)」が推奨されており、その他に「経皮的エタノール注入(PEI)」や「経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)」といった方法が状況に応じて選択されます。
ラジオ波焼灼療法(RFA)はあらかじめ癌の存在する部位を特定した上で、患者の腹部へ特殊な医療用針を刺して肝臓まで到達させ、さらに針へ電気を流して先端部分に熱を発生させ、その熱でターゲットとなる癌を局所的に焼灼する治療法です。
肝切除のように肝臓を切り取る必要がなく、また開腹の必要もないため患者への肉体的負担を軽減しやすいことが利点です。なお、ラジオ波焼灼療法では針を刺す部分へ局所麻酔を行い、さらに癌を焼く際の痛みを緩和するため鎮痛剤や麻酔も併用します。
焼灼にかかる時間は通常10~30分程度となります。
経皮的エタノール注入(PEI)とは、超音波によって患者の体内を可視化しながら腹部へ細い針を刺して肝臓にある腫瘍まで到達させた後、針の中にエタノール(アルコール)を注入して癌細胞へ流し込み、癌細胞を壊死させるという治療法です。
経皮的エタノール注入は肝細胞癌に対する治療として優れた効果を備えているものの、転移性肝癌や肝内胆管癌といった癌に対する治療としては不十分とされており、全ての肝臓癌へ採用されない点に注意してください。また経皮的エタノール注入は一度の治療によって対処できる範囲が限られており、複数の腫瘍が存在する場合は数日をかけて繰り返し治療が行われることもあります。
経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)は、経皮的エタノール注入と同様に、超音波によって患者の体内にある腫瘍の位置をチェックしつつ、電極針を患者の腹部へ刺して肝臓にある癌細胞へと到達させた後、針に電気を流して電磁波(マイクロ波)を発生させて癌細胞を熱凝固させるという治療法です。
経皮的マイクロ波凝固療法はラジオ波焼灼療法と経皮的エタノール注入を合わせたような治療法となっており、60秒間の通電によって発生するマイクロ波は細胞内の水分子を激しく振動させ、15×20mmの範囲にある腫瘍細胞を凝固することができます。
肝細胞癌や転移性肝癌の治療法として保険適用になっており、肝臓内への転移癌の治療として候補になる可能性もあるでしょう。
穿刺局所療法における合併症としては腹痛や発熱、手術部位からの出血、また腸管障害や肝機能障害といった症状が考えられます。また、腹部へ直接に針を刺すことで痛みを感じたり、通電による火傷が生じたりすることもあります。
塞栓療法はChild-Pugh分類AもしくはBのうち、腫瘍の数が4個以上であったり癌のサイズが大きかったりするなど、手術や穿刺局所療法が不適用となる場合に選択される治療法です。
塞栓療法では基本的に、X線で患者の体内をモニタリングしつつ、足の付け根(鼠径部)や手首、肘などの動脈からカテーテルを挿入して肝動脈へ薬剤を流し込み、肝臓内の癌細胞へ栄養を運ぶ血液の流れを遮断します。
代表的な塞栓療法としては「肝動脈化学塞栓療法(TACE)」や「肝動脈塞栓療法(TAE)」といったものが挙げられます。
患者の鼠径部などの動脈からカテーテルを挿入し、肝動脈までカテーテルの先端を到達させた後、血管を詰まらせる塞栓物質や、さらに任意の抗がん剤などの薬剤を注入する治療法です。
肝動脈塞栓療法(TAE)では塞栓物質のみが使用され、肝動脈化学塞栓療法(TACE)では塞栓物質に加えて細胞障害性抗がん薬などが併用されます。
肝臓の血管内へ注入された塞栓物質の影響によって血流が阻害され、癌細胞へ酸素や栄養が運ばれなくなり、結果として癌細胞が死滅するという仕組みです。
なお、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を2回行った後に治療効果の検証が行われ、治療効果が不十分であると診断されたり、肝臓内に新しい腫瘍が発生したりしている場合、また癌の遠隔転移が生じた場合などは別の治療法が提案されることもあります。
塞栓療法ではカテーテルによって動脈を傷つけるといった合併症リスクの他にも、治療後の発熱や嘔吐感、腹痛、胸痛、肝機能障害、食欲不振などの副作用を伴う場合があります。
実際に塞栓療法でどの程度の副作用が生じるかは個人差がある上、治療する範囲や肝機能の状態などにも左右されるため、あらかじめ主治医と相談してどのような副作用のリスクがあり、それぞれにおいてどう対応していくべきかきちんと理解しておくことが大切です。
なお、塞栓療法の治療後は数時間から半日程度の安静期間が設けられます。
Child-Pugh分類Aの場合において、肝臓外への転移が認められたり、脈管への浸潤があったり、もしくは腫瘍の数が4個以上になる時は薬物療法が治療法の候補として検討されます。
肝細胞癌治療における全身薬物療法としては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤による治療が標準治療として設定されており、さらに集学的治療として上述したような塞栓療法における細胞障害性抗がん薬の使用といった選択肢が採用されることもあるでしょう。
一次治療としての薬物療法では、免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用療法が行われますが、自己免疫性疾患などの理由によって免疫チェックポイント阻害剤を使用できない患者に対しては分子標的薬のみが用いられます。また、一次治療による効果が認められない場合や副作用が激しい場合、別の分子標的薬を二次治療として選択することも考えられます。
薬物療法における副作用は主として使用される治療薬によって異なっており、自分が使用する免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬にどのような副作用のリスクが存在しているのか、あらかじめ主治医としっかり話し合って確認しておくことが欠かせません。また、薬物療法を始めてから何かしらの違和感や異常を自覚した場合、速やかに主治医や看護師へ相談して副作用の程度や症状をチェックすることも必要です。
なお、薬物療法は入院治療だけでなく外来での通院治療で進められることもあり、もしも医療機関の外での生活や副作用について不安感がある場合は、必ずその気持ちも含めて主治医などへ相談することが肝要です。
免疫療法は患者が生来備えている免疫の働きを使って癌を攻撃する治療法であり、2023年6月時点で肝細胞癌の治療に対して医学的に効果が認められている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療法だけとなっています。
免疫療法は世界中で様々な研究機関が研究を行っており、今後さらに様々な肝細胞癌へ有効性を持つ免疫療法が発見される可能性はありますが、少なくとも日本国内において明確に肝細胞癌の治療へ有用であると認められている免疫療法は限定的であることも覚えておいてください。
なお、免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療は上述した薬物療法における治療法であり、肝細胞癌に対する免疫療法は必然的に薬物療法として扱われることもあります。
肝細胞癌の免疫療法における副作用としては、まず医学的根拠にもとづいて治療効果が認められている免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療法における副作用と同じものが考えられます。
その他の免疫療法に関しては、先端治療など一部の医療機関において試験的に実施されているものもありますが、それぞれの副作用についてはケースバイケースとなるため、具立木に治療を検討する際は必ず事前に詳細を主治医へ確認し、そもそも治療の適用性なども十分に確認した上で考えるようにしてください。
放射線治療は、高エネルギーの放射線を患者の体外から照射し、体内にある腫瘍細胞を攻撃して癌を治療する治療法です。放射線治療には従来の放射線照射だけでなく、高精度放射線照射装置を活用した高精度放射線治療なども開発されていますが、肝細胞癌の治療法として明確に標準治療となっている放射線治療はありません。
ただし、外科的アプローチが困難な場合や脈管内へ癌が広がっている場合など、一部の条件下で補助的にX線を使った放射線治療が採用されることはあります。
その他、重粒子線や陽子線といった放射線を使って治療する場合もありますが、そもそも治療を実施するためには専用の医療設備が必要となるため、それらの治療を希望する際には主治医へ相談してしっかりと話し合うことが必要です。
なお、癌による痛みの緩和や脳への転移癌に対する治療として、放射線治療が推奨されることもあります。
放射線治療は強力なエネルギーを持った放射線を癌細胞へ照射し、細胞を破壊することで癌の治療を目指すという仕組みが基本になります。一方、放射線治療では患者の体外から放射線を照射するため、どうしても体内にある癌細胞だけでなく健常な細胞や組織にも放射線が当たってしまうことが課題です。
現在は放射線による被曝ダメージを軽減するため、高精度放射線治療といった治療法も確立されていますが、いずれの場合も副作用のリスクをゼロにすることは困難であり、放射線治療によってどのような副作用のリスクがあるかは事前に主治医へ確認しておきましょう。
緩和ケアや支持療法は癌に起因する肉体的な負担や精神的な負担を軽減・緩和して、前向きに治療へのぞめる体制を整えたり、残された命の期間を大切に過ごしたりと、QOL向上に向けた取り組みが主目的となります。そのため緩和ケアは必ずしも終末期のみに実施するものではない点に注意してください。
肝細胞癌や肝臓内への転移癌では、癌による影響で痛みの他にも黄疸や腹水、倦怠感、むくみなど様々な諸症状が生じることが珍しくありません。
緩和ケアの充実には医師と患者のコミュニケーションが不可欠なため、不安や苦しみは積極的に医療者と共有するようにしてください。
この章では、比較的新しい臨床試験や治療法について解説していきます。予後が極めて不良である中期進行肝がんに治癒をもたらす可能性のある治療法や、切除不能な肝細胞がんを患っている患者の生存期間の延長効果が示されたものなどを解説しています。肝臓がん新しい治療法を探している方は、チェックしてください。
近畿大学医学部の内科学教室主任教授である工藤 正俊を中心とする研究チームは、国内6施設と香港1施設と共同研究を行い、切除不能な中期進行肝がん患者を治癒に導く治療法の開発を行いました。
研究チームは、アテゾリズマブとベバシズマブという2種類の薬剤を用いた研究を実施。その結果、7施設の中期進行肝がん110症例中、免疫療法後の切除、ラジオ波または免疫療法と選択的TACEを併用して38例(35%)が根治。このうち薬物治療を終えても再発していない患者は25例(23%)という結果が出ています。
本研究成果は、予後が極めて不良である中期進行肝がんに治癒をもたらす可能性のある治療法であり、今後、中期進行肝がん患者に対して標準治療法になることが期待されています。
参照元:近畿大学
アストラゼネカは、第Ⅲ相HIMALAYA試験の新しい結果を発表しました。この試験では、アストラゼネカのイミフィンジ®(一般名:デュルバルマブ)とイジュド®(一般名:トレメリムマブ)の併用療法について記されています。全身療法による治療歴がなく、局所療法が適応ではない切除不能な肝細胞がんに罹患している患者の治療薬として、4年経過時点で持続的で臨床的に意義のある全生存期間の延長効果が証明されたのです。
今回のHIMALAYA試験の結果は、スペイン・バルセロナで開催された2023年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)世界消化器がん会議で発表されています。新たに発表された4年間の追跡データから、イミフィンジにイジュドのプライミング単回投与を追加したSTRIDE(Single Tremelimumab Regular Interval Durvalumab)レジメンが、ソラフェニブと比較して死亡リスクを22%低減させたことがわかっています。
参照元:アストラゼネカ
2024年2月28日、理化学研究所と岐阜大学、東京慈恵会医科大学によって構成される研究チームが、癌遺伝子の1つである「MYCN」由来の血中タンパク質をバイオマーカーとして、肝臓癌再発予防薬として期待される「非環式レチノイド(一般名:ペレチノイン)」の治療応答性を予測できることを発表しました。
同研究では、まず血中MYCNの定量化が成功されており、肝癌の長期予後を予測するバイオマーカーとして同定されています。加えて、血中MYCN量が非環式レチノイドの応答性に関与していることを発見し、結果的に血中MYCN量を測定することで非環式レチノイドによる再発予防効果も予測できることが報告されました。これにより今後は治療前に肝癌の予後を予測できるようになる「コンパニオン診断」の可能性が示唆されています。
※参照元:理化学研究所|肝内胆管がんの治療選択肢――新たに保険適用となった粒子線治療の特徴
肝内胆管がんの治療には、手術・薬物療法・放射線治療があります。2022年4月から、手術困難な肝内胆管がんに対する粒子線治療が保険適用となりました。粒子線治療は、肝内胆管がんにおける局所的な根治を目指せる治療のことです。
遠隔転移のないステージ1~3の状態で手術困難な場合、上記ステージに対しては局所的に強い治療を行うことが可能とされています。
その中でも、肝臓への副作用を軽減しやすい粒子線治療が重要な選択肢の1つです。
※参照元:メディカルノート|肝がん予防のための患者層別化マーカーを発見
慶應義塾大学病院では、消化器内科や放射線科が緊密な連携をはかり、さまざまな専門家から構成されるクラスターをつくり、肝臓がんの治療にあたります。とりわけ、消化器内科では、局所療法・分子標的薬を用いた化学療法を行う役割を持つのが特徴です。
近年、肝臓がん局所療法の比較的新しい機器としてマイクロ波アブレーション(microwave ablation:MWA)が登場、海外で採用されることになりました。
国内でも新世代MWA機器として、Emprint ablation systemが2017年7月に保険適用となりました。また、肝細胞がんの化学療法として、複合免疫療法であるアテゾリズマブとベバシズマブの併用、デュルバルマブとトレメリムマブの併用など、化学療法が使用可能と言われています。
治療の選択肢が広がり、肝臓がんの治療成績の向上も期待されています。
※参照元:KOMPAS|肝臓がんの最新治療~次世代マイクロ波アブレーション、新規分子標的薬~―消化器内科―
胆道がんのエビデンスは確立されていない中、術前の化学療法において、ゲムシタビンとシスプラチン、S-1を合わせたGCS療法を3回実施後に手術する場合と、すぐに手術をした場合で比べたJCOG 1920と呼ばれる試験が始まり、今後のデータの集積・解析が待ち望まれています。
よい治療結果が出れば、今後GCS療法後における、胆道がんの切除が標準治療になっていくと考えられています。
術後補助化学療法では、術後に半年間、S-1を4コース実施した場合の治療成績がよいというデータが報告されていて、標準治療になりつつあります。胆道がんの予後は、まだ十分とは言えない状況です。
しかし、術前術後の補助化学療法を合わせた集学的治療で、転移・再発をおさえて予後の改善を目指していくとされています。
肝内胆管がんの転移再発部位については、報告によっても若干異なりますが、一番多いのは肝臓内に転移する肝内転移が50〜60%、腹膜播種・肺・遠隔リンパ節など肝外転移が10〜25%ほど、肝内+肝外転移が20〜35%ほどと報告されています。
切除不能・再発胆道がんに対する標準治療は、化学療法ですが、切除不能と診断された場合でも手術の可能性がゼロというわけではありません。 最近では、胆道がん・膵がんでも、切除不能なケースにおいて化学療法が奏功し、根治切除が可能になるconversion surgeryが30%ほど行われるようになったこともあり、注目を集めています。
※参照元:がんナビ|胆道がん市民ウィンターセミナーより(2)難治性の肝内胆管がんに希望の光切除不能とされたケースでも30%程度がconversion surgeryに
胆道は、肝臓で生成された胆汁が流れる通り道のことで、その部位に生じた癌を胆道癌と呼びます。胆道癌には、胆管癌・胆のう癌・十二指腸乳頭部癌が含まれているのが特徴です。
胆管癌は、その部位によって、肝内胆管癌・肝門部領域胆管癌・遠位胆管癌とわけて呼ぶケースもあります。これらは、似たような性質を備えているため、抗癌剤の治療効果をまとめて検証してきたと言われています。
手術不能もしくは術後に再発した胆道癌における標準的な治療は、ゲムシタビン+シスプラチン併用療法です。日本ではS-1と呼ばれる薬も広く用いられており、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1併用療法やゲムシタビン+S-1併用療法についても、有効性が示されています。
これらの治療法は、病状・体調によって使い分けられているのが特徴です。また高齢者の場合、ゲムシタビン単剤療法・S-1単剤療法が選択されるケースもあります。
日本臨床腫瘍研究グループの肝胆膵グループにおいて、大規模な臨床試験が行われたところ、胆道がん根治手術後の患者に対して、S-1補助療法によって生存期間が有意に延長すると示唆されました。
本試験の結果、エビデンスに沿った治療の提供が可能になり、胆道がんの根治手術後は、S-1補助療法の実施が第一選択として推奨されている状況です。同様の臨床試験は、海外においても実施されていて、本試験の結果によって、日本はもちろん海外のガイドラインでも標準治療にされ、胆道がん患者へさらに有効な治療が提供されることが期待されています。
※参照元:国立がん研究センター|S-1補助療法が胆道がん根治手術後の標準治療となることを証明―The Lancetに論文発表-
胆道がんは、日本では珍しいがんではなく、2020年におよそ2.1万人が新たに胆道がんと診断されている状況です。
胆道がんは、50〜70歳で診断されるケースが多く、初期には自覚症状は少なく、進行してきた段階で、皮膚・白目が黄色くなる閉塞性黄疸や、腹痛・皮膚のかゆみといった症状が見られます。
予後は、極めて不良でとされ、IV期と診断された患者の5年生存率は、肝内胆管がんで6.0%、 胆のうがんで2.1%と報告されている状況です。
今回行われた承認は、化学療法を受けたことのない治癒切除不能な胆道がんの方069例(日本人102例を含)を対象にした、国際共同第3相試験のKEYNOTE-966試験等の結果に基づいているとされています。
同試験では、キイトルーダ®と化学療法(ゲムシタビン・シスプラチン)の併用療法は、プラセボと化学療法の併用療法と比べ、主要評価項目である全生存期間の有意で臨床的に意味のある延長が示されたといわれています。
安全性の面では、安全性解析対象例529例中493例(日本人58例中55例を含)に副作用が認められたとされています。