いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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肝臓への転移

肝臓への転移は大腸癌や胃癌からの転移が多く見られます。このページでは肝臓へ転移する癌の特徴や治療方法などをまとめました。

肝臓に転移するケースとは

癌が肝臓に転移する場合、大腸や胃、食道などの他臓器からの転移だけでなく、肝臓内で起こる肝臓内転移も見られます。肝臓に転移した癌は症状が現れにくく、初期段階で自覚しにくいのが特徴。そのため、気づかずに生活してしまう方も多いのだそうです。肝臓は全身に血液を送り出す臓器であり、血液の流れに乗った癌細胞が転移しやすくなっています。どの転移がんも黄疸が自覚症状として現れるので、その場合は転移を疑うようにしましょう。

肝転移の症状

大腸癌が転移した場合の症状

肝臓に転移しても初期段階ではほとんど症状が出ず、気づかずに過ごす方も多くいます。自覚症状として代表的なのが黄疸です。腹部の右上あたりに鈍痛が起こることも。倦怠感も生じやすく、体を動かしていなくてもだるかったり、疲れが取れなかったりする時は肝臓に転移している可能性があります。

胃癌が転移した場合の症状

初期段階ではほとんど症状が見られないので、進行しなければ症状が出ないのが厄介です。進行すると肝機能の低下によってだるさを感じることがあります。自覚できる症状の一つが黄疸で、腹部に張りを感じることも。かなり症状が進行した場合、痛みの症状が起こるようになります。

食道癌が転移した場合の症状

肝臓へ転移した場合、病巣が大きくなるまで症状は現れにくいですが、体重の減少や食欲低下、疲れやすくなるなどの症状が出ることがあります。進行すると見られるのが、背中やお腹の痛み、黄疸といった症状です。

肝臓内転移が起こった場合の症状

肝臓内転移が進行した場合、肝機能の衰えが症状として出るようになります。だるさや脱力感、肌や眼球が黄色くなる黄疸が現れることも。尿の色が黄褐色に変わることもあります。他に、腹水や手足のむくみといった症状も起こりやすいようです。

肝転移全般で起こり得る症状

肝転移は様々な種類のがんで非常によく起こるもので、その症状は、先にご紹介したように原発性のがんが発生した場所によって異なる場合もあります。ですが、どの部分から転移したとしても、症状としてよく見られるものは次の通りです[6]。

肝転移の初期症状は、このようにあまり重いものではありません。それは、肝臓に自己修復能力が備わっていることが原因で、肝転移がかなり進行しなければ大きな症状として現れてこないからです[7]。そのため、複数の箇所に転移しなければ自覚症状を得られないことも多く、発見が遅れがちながんともいえます[8]。

肝転移が進行した場合の症状

もしも、肝転移が進行して、肝臓の自己修復能力では追い付かなくなった場合、次のような明らかに自覚できる症状が現れます。

これらの症状が見られる場合は、末期の肝癌と診断されることになり、さらに症状が進行すると、進行性の黄疸や「肝性脳症」が引き起こされるようになります[6]。肝性脳症とは、有害物質を無害化する肝臓の機能が衰えることで現れる症状で、認知機能の低下、昏睡状態などに陥る可能性もあるものです[7]。

肝転移のチェック方法

肝転移の予後を良好とするためには早期発見をし、適切な治療を受けることが何よりも大切です。ですが、自覚症状が出にくい肝転移は、発見しにくいがんでもあります。早めに肝転移を発見するためには、体重の変化などの異変に常に気を配ることも必要ですが、術後に定期的な画像診断を受けることがおすすめです。

肝転移の画像診断は、US、ダイナミックCT、MRI、ダイナミックMRI、SPIO-MRIなどによって行われます。また、血管造影ではCTAP、CTAが用いられており、いずれも高い確率で腫瘍を検出できる性能を誇るものです[8]。術後の経過観察中には、これらの画像診断を受け、早めに肝転移を発見できるようにしましょう。

肝転移の治療方法

大腸癌が転移した場合の治療方法

一番効果があるのは、外科手術で腫瘍を切除することです。腫瘍の数が多くても、正常に機能する肝臓を残せるなら問題なく行えます。残せる肝臓が少ない時は、門脈塞栓という外科的処置を実施。術後に再発しないよう、抗がん剤治療を行う場合も。腫瘍が小さく、数が多い場合にも抗がん剤治療を用います。他に、マイクロ波凝固療法(MCT)や、ラジオ波焼灼療法(RFA)といった治療法も。どちらも局所療法なので、3センチ以内の癌に有効です。

肝臓の量による治療法の選択は、基本的に30%程度残せるようなら通常の切除手術で対応します。ただし、肝転移が複数に渡っている場合は40%以上、軽い肝障害などで肝機能が低下している場合は50%以上という基準を採用。医院によってこの基準には差があるものの、概ねこの程度のラインに沿って治療が行われます。

また、現在の医学の発達により、化学療法と切除手術を併用した治療法の選択肢も豊富になり、切除手術の適応例は徐々に拡大しつつある状況です。様々な化学療法を組み合わせた治療を行うことで、術後の予後も飛躍的に改善してきています[1]。

胃癌が転移した場合の治療方法

肝転移を起こしている時点で胃の近くのリンパ節や腹膜にも転移している可能性が高いので、切除手術を避けることが多いようです。肝動注療法と呼ばれる動脈に抗がん剤を注入することで、辛い症状や痛みを取り除き、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高める治療が行われます。

ただし、胃がんの肝転移の個数が少ない場合は、切除手術を行った後の予後も良好であり、長期的に良い状態を保てることもあるという報告があります。肝転移の個数が3個未満であれば、術後の生存率が高まると言われていますが、まだ十分な検証が行われているわけではありません。

そのような状態なので、現時点では、まず化学療法をメインにした治療が選択されます。この論文は2009年時点のものなので、今後胃がんの転移の際の検証が十分に行われれば、切除手術で良い結果を期待することもできるようになるでしょう。

食道癌が転移した場合の治療方法

薬物療法と対症療法が行われています。薬物療法は、癌細胞の破壊を目的に行う治療法です。対症療法は、病気に伴う症状を消す・緩和に向かわせる治療法。根治を目指すのではなく、辛い症状や痛みによる不快を取り除いてQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めるために行われます。

抗がん剤による治療は、胃がんの肝転移のときと同様に肝動注療法などが用いられることもあり、良好な効果を得られた例も存在します[3]。

もともと、食道がんの肝転移は予後不良のことが多いため、切除手術が用いられることは極めて稀です。ただし、切除手術が延命をもたらした例の報告もあり、この論文によると、切除手術を行った10例のうち、9割が生存となり、最長で7年4か月もの生存が確認されたと言います。しかも、再発もしていないそうなので、今後の検証が進めば、切除手術も選択肢となる可能性もあるでしょう[4]。

肝臓内転移が起こった場合の治療方法

肝臓内転移の場合の主な治療法として、切除手術とラジオ波焼灼が挙げられます。がんの進行が初期段階であれば、経皮的エタノール局注療法という治療法を実施。これらの治療が適応できない場合、動脈をふさぐ肝動脈塞栓術や抗がん剤を直接注入する動注療法などが用いられます。腫瘍の数が多い場合には、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法が有効です。

肝動脈化学塞栓術に関しては、他の臓器と肝臓内転移の両方が起こった進行性の症状に対しても、放射線療法と組み合わせた治療によって、約4年に渡って再発が見られなかったという事例もあります。放射線療法はラジオ波焼灼との併用も可能であり、比較的治療法の選択肢が多いタイプの転移だと言えるでしょう。

基本的に、他の部分への転移がない肝臓内転移では、切除手術によって有効な効果が認められることが多いため、切除手術が選択肢のひとつとなることもあるようです。

肝転移について

肝転移は他臓器だけでなく、肝臓内転移が見られるのが特徴です。肝臓は全身に血液を送り出すための臓器なので、血液の流れに乗った癌細胞が転移しやすいと言えます。転移した場合、初期段階ではほとんど症状が現れません。進行してから黄疸やだるさなどの症状が見られます。

治療法は転移が起こった部位によって異なりますが、切除手術や抗がん剤治療、薬物療法、対症療法といった様々な治療法が導入され、進行の度合いや腫瘍の数によって適切な方法が選択されます。転移した癌を治療するには、技術や実績を持った医師を探すことが重要です。

[1]参考:日本臨床外科学会『(PDF)大腸癌肝転移に対する外科治療update』

[2]参考:日本臨床外科学会『(PDF)胃癌肝転移に対する手術適応の検討』

[3]参考:一般社団法人 日本消化器外科学会『(PDF)食道癌肝転移例の検討』

[4]参考:一般社団法人 日本消化器外科学会『(PDF)食道癌術後遠隔臓器再発に対し集学的治療の一環として切除を行った2例』

[5]参考:一般社団法人 日本肝臓学会『(PDF)集学的治療が奏効したリンパ節転移を伴う Stage IVb 肝細胞癌の1例』

[6]参考:MSDマニュアル『転移性肝癌』

[7]参考:公益財団法人 長寿科学振興財団『肝がん末期』

[8]参考:日本消化器外科学会『(PDF)転移性肝癌の画像診断』