肝臓への転移
肝臓への転移は大腸癌や胃癌からの転移が多く見られます。このページでは肝臓へ転移する癌の特徴や治療方法などをまとめました。
肝臓に転移するケースとは
癌が肝臓に転移する場合、大腸や胃、食道などの他臓器からの転移だけでなく、肝臓内で起こる肝臓内転移も見られます。肝臓に転移した癌は症状が現れにくく、初期段階で自覚しにくいのが特徴。そのため、気づかずに生活してしまう方も多いのだそうです。肝臓は全身に血液を送り出す臓器であり、血液の流れに乗った癌細胞が転移しやすくなっています。どの転移がんも黄疸が自覚症状として現れるので、その場合は転移を疑うようにしましょう。
肝転移の症状
大腸癌が転移した場合の症状
肝臓に転移しても初期段階ではほとんど症状が出ず、気づかずに過ごす方も多くいます。自覚症状として代表的なのが黄疸です。腹部の右上あたりに鈍痛が起こることも。倦怠感も生じやすく、体を動かしていなくてもだるかったり、疲れが取れなかったりする時は肝臓に転移している可能性があります。
胃癌が転移した場合の症状
初期段階ではほとんど症状が見られないので、進行しなければ症状が出ないのが厄介です。進行すると肝機能の低下によってだるさを感じることがあります。自覚できる症状の一つが黄疸で、腹部に張りを感じることも。かなり症状が進行した場合、痛みの症状が起こるようになります。
食道癌が転移した場合の症状
- 体重が減る
- 食欲がない
- 疲れやすい
- 背中、お腹の痛み
- 黄疸
肝臓へ転移した場合、病巣が大きくなるまで症状は現れにくいですが、体重の減少や食欲低下、疲れやすくなるなどの症状が出ることがあります。進行すると見られるのが、背中やお腹の痛み、黄疸といった症状です。
肝臓内転移が起こった場合の症状
- 肝機能の衰え
- 黄疸
- 尿が黄褐色になる
- 腹水
- むくみ
肝臓内転移が進行した場合、肝機能の衰えが症状として出るようになります。だるさや脱力感、肌や眼球が黄色くなる黄疸が現れることも。尿の色が黄褐色に変わることもあります。他に、腹水や手足のむくみといった症状も起こりやすいようです。
肝転移全般で起こり得る症状
肝転移は様々な種類のがんで非常によく起こるもので、その症状は、先にご紹介したように原発性のがんが発生した場所によって異なる場合もあります。ですが、どの部分から転移したとしても、症状としてよく見られるものは次の通りです[6]。
肝転移の初期症状は、このようにあまり重いものではありません。それは、肝臓に自己修復能力が備わっていることが原因で、肝転移がかなり進行しなければ大きな症状として現れてこないからです[7]。そのため、複数の箇所に転移しなければ自覚症状を得られないことも多く、発見が遅れがちながんともいえます[8]。
肝転移が進行した場合の症状
もしも、肝転移が進行して、肝臓の自己修復能力では追い付かなくなった場合、次のような明らかに自覚できる症状が現れます。
- 腹水
- むくみ
- 強い疲労感
- 体全体のかゆみ
- 腹痛
- 下痢
- 黄疸
- 肝性脳症
これらの症状が見られる場合は、末期の肝癌と診断されることになり、さらに症状が進行すると、進行性の黄疸や「肝性脳症」が引き起こされるようになります[6]。肝性脳症とは、有害物質を無害化する肝臓の機能が衰えることで現れる症状で、認知機能の低下、昏睡状態などに陥る可能性もあるものです[7]。
肝転移のチェック方法
肝転移の予後を良好とするためには早期発見をし、適切な治療を受けることが何よりも大切です。ですが、自覚症状が出にくい肝転移は、発見しにくいがんでもあります。早めに肝転移を発見するためには、体重の変化などの異変に常に気を配ることも必要ですが、術後に定期的な画像診断を受けることがおすすめです。
肝転移の画像診断は、US、ダイナミックCT、MRI、ダイナミックMRI、SPIO-MRIなどによって行われます。また、血管造影ではCTAP、CTAが用いられており、いずれも高い確率で腫瘍を検出できる性能を誇るものです[8]。術後の経過観察中には、これらの画像診断を受け、早めに肝転移を発見できるようにしましょう。
肝転移の治療方法
大腸癌が転移した場合の治療方法
一番効果があるのは、外科手術で腫瘍を切除することです。腫瘍の数が多くても、正常に機能する肝臓を残せるなら問題なく行えます。残せる肝臓が少ない時は、門脈塞栓という外科的処置を実施。術後に再発しないよう、抗がん剤治療を行う場合も。腫瘍が小さく、数が多い場合にも抗がん剤治療を用います。他に、マイクロ波凝固療法(MCT)や、ラジオ波焼灼療法(RFA)といった治療法も。どちらも局所療法なので、3センチ以内の癌に有効です。
肝臓の量による治療法の選択は、基本的に30%程度残せるようなら通常の切除手術で対応します。ただし、肝転移が複数に渡っている場合は40%以上、軽い肝障害などで肝機能が低下している場合は50%以上という基準を採用。医院によってこの基準には差があるものの、概ねこの程度のラインに沿って治療が行われます。
また、現在の医学の発達により、化学療法と切除手術を併用した治療法の選択肢も豊富になり、切除手術の適応例は徐々に拡大しつつある状況です。様々な化学療法を組み合わせた治療を行うことで、術後の予後も飛躍的に改善してきています[1]。
胃癌が転移した場合の治療方法
肝転移を起こしている時点で胃の近くのリンパ節や腹膜にも転移している可能性が高いので、切除手術を避けることが多いようです。肝動注療法と呼ばれる動脈に抗がん剤を注入することで、辛い症状や痛みを取り除き、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高める治療が行われます。
ただし、胃がんの肝転移の個数が少ない場合は、切除手術を行った後の予後も良好であり、長期的に良い状態を保てることもあるという報告があります。肝転移の個数が3個未満であれば、術後の生存率が高まると言われていますが、まだ十分な検証が行われているわけではありません。
そのような状態なので、現時点では、まず化学療法をメインにした治療が選択されます。この論文は2009年時点のものなので、今後胃がんの転移の際の検証が十分に行われれば、切除手術で良い結果を期待することもできるようになるでしょう。
食道癌が転移した場合の治療方法
薬物療法と対症療法が行われています。薬物療法は、癌細胞の破壊を目的に行う治療法です。対症療法は、病気に伴う症状を消す・緩和に向かわせる治療法。根治を目指すのではなく、辛い症状や痛みによる不快を取り除いてQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めるために行われます。
抗がん剤による治療は、胃がんの肝転移のときと同様に肝動注療法などが用いられることもあり、良好な効果を得られた例も存在します[3]。
もともと、食道がんの肝転移は予後不良のことが多いため、切除手術が用いられることは極めて稀です。ただし、切除手術が延命をもたらした例の報告もあり、この論文によると、切除手術を行った10例のうち、9割が生存となり、最長で7年4か月もの生存が確認されたと言います。しかも、再発もしていないそうなので、今後の検証が進めば、切除手術も選択肢となる可能性もあるでしょう[4]。
肝臓内転移が起こった場合の治療方法
肝臓内転移の場合の主な治療法として、切除手術とラジオ波焼灼が挙げられます。がんの進行が初期段階であれば、経皮的エタノール局注療法という治療法を実施。これらの治療が適応できない場合、動脈をふさぐ肝動脈塞栓術や抗がん剤を直接注入する動注療法などが用いられます。腫瘍の数が多い場合には、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法が有効です。
肝動脈化学塞栓術に関しては、他の臓器と肝臓内転移の両方が起こった進行性の症状に対しても、放射線療法と組み合わせた治療によって、約4年に渡って再発が見られなかったという事例もあります。放射線療法はラジオ波焼灼との併用も可能であり、比較的治療法の選択肢が多いタイプの転移だと言えるでしょう。
基本的に、他の部分への転移がない肝臓内転移では、切除手術によって有効な効果が認められることが多いため、切除手術が選択肢のひとつとなることもあるようです。
肝転移について
肝転移は他臓器だけでなく、肝臓内転移が見られるのが特徴です。肝臓は全身に血液を送り出すための臓器なので、血液の流れに乗った癌細胞が転移しやすいと言えます。転移した場合、初期段階ではほとんど症状が現れません。進行してから黄疸やだるさなどの症状が見られます。
治療法は転移が起こった部位によって異なりますが、切除手術や抗がん剤治療、薬物療法、対症療法といった様々な治療法が導入され、進行の度合いや腫瘍の数によって適切な方法が選択されます。転移した癌を治療するには、技術や実績を持った医師を探すことが重要です。
[1]参考:日本臨床外科学会『(PDF)大腸癌肝転移に対する外科治療update』
[2]参考:日本臨床外科学会『(PDF)胃癌肝転移に対する手術適応の検討』
[3]参考:一般社団法人 日本消化器外科学会『(PDF)食道癌肝転移例の検討』
[4]参考:一般社団法人 日本消化器外科学会『(PDF)食道癌術後遠隔臓器再発に対し集学的治療の一環として切除を行った2例』
[5]参考:一般社団法人 日本肝臓学会『(PDF)集学的治療が奏効したリンパ節転移を伴う Stage IVb 肝細胞癌の1例』
[6]参考:MSDマニュアル『転移性肝癌』
[7]参考:公益財団法人 長寿科学振興財団『肝がん末期』
[8]参考:日本消化器外科学会『(PDF)転移性肝癌の画像診断』
肝臓癌のステージ分類
病期 |
説明 |
ステージⅠ |
「腫瘍が1つである」「腫瘍の大きさが2センチ以下である」「脈管侵襲がない」の3つの項目のうち、全てが合致する場合 |
ステージⅡ |
「腫瘍が1つである」「腫瘍の大きさが2センチ以下である」「脈管侵襲がない」の3つの項目のうち、2項目が合致する場合 |
ステージⅢ |
「腫瘍が1つである」「腫瘍の大きさが2センチ以下である」「脈管侵襲がない」の3つの項目のうち、1項目が合致する場合 |
ステージⅣ |
「腫瘍が1つである」「腫瘍の大きさが2センチ以下である」「脈管侵襲がない」の3つの項目のうち、どれにも当てはまらない場合 |
ステージⅣ A期 |
ステージⅣのうち、リンパ節転移はあるものの、遠隔転移は認められない場合 |
ステージⅣ B期 |
ステージⅣのうち、遠隔転移がある場合 |
ステージの分類方法
上の表で解説してありますが、肝臓癌の進行度を判断する基準は「癌の数」「癌の大きさ」「脈管への侵襲の有無」の3つの項目です。これらのうち、どれだけの項目に該当するかによって判断。また遠隔転移があるかどうかでA期とB期に分けられます。
ステージで異なる治療方針
肝臓癌の治療には様々な選択肢があり、肝機能の状態やがんの数、大きさによって治療方法を選択します。主な治療方法としては次にあげる「肝切除」「ラジオ波焼灼療法(RFA)」「肝動脈化学塞栓療法(TACE)」「化学療法」「放射線療法」などです。
肝切除(手術療法)
肝臓を部分的に切除し、がんを取り除く方法です。がんの数が1個の場合は、がんの大きさがどれぐらいであっても手術が第一の選択肢。がんが2個以上の場合は、手術以外の方法で治療されるケースがほとんどです。がんが4個以上の場合は、手術の対象にはまずなりません。
手術療法は、医師が病巣を直接、見ながら行うので、がんを確実に取り除くことができます。ただし、お腹を切ってがんを切除するため、患者への負担が大きく、入院期間も2~3週間程度となるのが一般的です。
ラジオ波焼灼療法(RFA)
超音波による画像を元に、がんの位置を確認しながら、体外から細い針を刺し、その先からラジオ波を発生させ、熱でがんを焼き固めてしまう治療法。針を刺すだけで済むため、開腹する手術に比べて負担は軽くて済みます。1回の治療時間は、最大でも12分程度で、入院期間も3~5日ほど。がんの数が多かったり、大きかったりした場合は、2~3回に分けて治療することもあります。日本に導入されたのは15年ほど前ですが、現在では早期肝臓がんのスタンダードな治療法として有名です。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
肝障害の程度が軽度~中等度で、がんの数が4個以上の患者が対象となる治療法です。治療法は、まず太ももの付け根からカテーテルを入れ、肝動脈に送り込みます。そして、造影剤に抗がん剤を混ぜたものを注入。さらに特殊なスポンジで動脈を塞ぐというものです。がんへ流れる血液をせき止め、がんをいわゆる「兵糧攻め」するかたちで、多くのがんを死滅させることができます。
化学療法(抗がん剤療法)
化学療法は抗がん剤を用いた治療法です。肝障害が軽度~中等度で、がんの数が4個以上の進行肝臓がんの患者が対象となります。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を死滅させる治療法。肝臓がんの場合、放射線が肝臓に悪影響を及ぼすケースが多いため、あまり実施されてきませんでした。ところが最近、「陽子線」や「重粒子線(炭素イオン線)」を用いた新しい放射線療法が実用化され、肝機能を低下させることなく、肝臓がんを治療できるようになっています。
予防やスクリーニングに関する情報
がんはどのように予防していけばいいのか、スクリーニングについて知りたいと思っている方もいるのではないでしょうか。がんを予防するためには、バランスの取れた食事を心がける、適切な体重の維持、定期的ながん検診を受けるなど、日頃から健康管理を意識することが大切です。
肝細胞がんについては、現在日本で推奨されているがん検診はないといわれているため、気になる症状のある方は早めに医療機関を受診する必要があります。アルコールの飲み過ぎをはじめ、脂肪肝の原因となる肥満や糖尿病にも注意しなければなりません。生活習慣に問題のある方は、改善していきましょう。
この章では、予防やスクリーニングに関する情報を解説しますので、チェックしてみてください。
予防について
国立がん研究センターがん予防・検診研究センターより発表された「がんを防ぐための新12か条」は、以下の通りです。この新12か条は、日本人を対象とした疫学調査や現時点で妥当な研究方法で明らかになっている証拠を元にまとめられたものです。
- 禁煙
- 他人のたばこの煙を避ける
- 節度のある飲酒
- バランスのとれた食事
- 塩辛い食品は控えめに
- 野菜や果物は不足にならないように
- 身体活動
- 適切な体重維持
- ウイルスや細菌の感染予防と治療
- 定期的ながん検診を
- 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
- 正しいがん情報でがんを知ることから
肝細胞がんにおいては、肝炎ウイルスの感染予防が重要とされており、B型肝炎ウイルスは、ワクチン接種をすると感染予防につながります。また、肝炎ウイルス感染を早期の段階で知ることも、ウイルス感染者の肝臓がん発生予防に重要です。地域の保健所や医療機関にかかって、検査を受けることが大切です。
さらに、 B型肝炎やC型肝炎ウイルス感染が判明した場合には、肝細胞がんを予防していく必要があります。肝炎を進行させないように、ウイルスの排除や増殖を抑える薬を使用した抗ウイルス療法を受けることが推奨されています。
がん検診は、がんを早期に発見し、適切な治療を行って、がんによる死亡を減少させることを目的に行われているのが特徴です。肝細胞がんについては、現在日本で推奨されているがん検診はないと言われています。気になる症状がある方は、早めに医療機関を受診するようにしてください。
※B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス感染による肝硬変・慢性肝炎を指摘された方、肝炎ウイルスを伴わない肝硬変のある方は、3~6か月間隔で腹部超音波検査などの定期的な検査を受けるようにしましょう。
参照元:公益財団法人日本対がん協会
スクリーニングについて
肝がんのスクリーニング検査は、標準的なものはないといわれていますが、以下のような検査法が候補として挙げられます。
(※現在研究されている段階です)
超音波検査
超音波検査は、超音波を肝臓に反射させることによって生じたエコーを用いた検査法のことです。このエコーをもとに、ソノグラムと言われる肝臓の画像が描出されます。がんが発生した場所によっては検査が困難だったり、皮下脂肪が厚い場合はしっかりと検査が行えなかったりする場合があります。
がんのある部位や患者さんの状態によっては、血管から造影剤を注射して行う造影超音波検査を採用するケースもあります。
CTスキャン
CTは、肝臓をさまざまな角度から撮影することによって、精細な連続画像を作成する検査です。この画像は、X線装置につながっているコンピュータによって作成されます。肝臓をよりはっきりと映し出すために、静脈内から造影剤を注射したり、患者さんに造影剤を内服してもらったりする場合もあります。
α-フェトプロテイン腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは、腫瘍によって作られ、体液や血液、組織の中から検出されることのある物質のことで、バイオマーカーとも呼ばれています。特定の腫瘍マーカーの値で高値が出る場合は、体内に特定の種類のがんが存在していることを意味するケースがあります。
肝がんを検出するための腫瘍マーカーは、α-フェトプロテイン(AFP)が広く用いられているのが特徴です。しかしAFPの値は、他のがんや妊娠、肝炎によっても上昇する場合があります。現在、肝がんの早期発見につながる特異的な腫瘍マーカーの研究が進められています。
上述したスクリーニング検査を使用して、肝がんの発見や診断に役立てます。
肝臓癌のスクリーニングのリスク
スクリーニング検査に関する判断は、困難な場合があります。すべてのスクリーニング検査が役立つわけではなく、そのほとんどが検査に伴って害が生じるリスクがあります。スクリーニング検査を受けたい場合、不明な点を担当医にしっかりと確認しておきましょう。検査にはどのような害を伴う可能性があるのか、また、その検査ががんで死亡するリスクを低下させることが証明されているのかを把握しておく必要があります。
ここでは、肝がんのスクリーニングに伴うリスクについてご紹介します。
偽陰性の検査結果が出る可能性
検査結果が偽陰性となる可能性があります。。偽陰性の検査結果(実際にがんが存在していても存在しないと判定された)を受けた場合は、例え症状があったとしても、医師の診察を受けるのが遅くなってしまうことがあります。
偽陽性の検査結果が出る可能性
検査結果が偽陽性と出る可能性もあります。実際にがんが存在していなかったとしても、スクリーニング検査の結果が異常と判定される場合もあるということです。偽陽性の検査結果(実際にはがんは存在しないのに存在すると判定された)は、不安を抱える方も多いです。さらに、通常偽陽性では、確定診断をするための検査(肝生検など)が実施されるため、さまざまなリスクもあるのが特徴です。
参照元:がん情報サイト
合併症が生じる可能性
肝がんを診断するための手技においては、合併症が生じる可能性があります。スクリーニングの検査結果が異常と出た場合には、肝がんの診断のために肝生検と呼ばれる検査が行われます。肝生検では、以下のような重篤な合併症が発生するおそれがあります。(※発生頻度はまれだと言われています)
- 出血
- 呼吸障害
- 胆汁の漏出(腹部の内側を覆っている膜が感染する可能性あり)
- 腹部臓器に小さな穿孔が発生(孔が開いてしまうこと)
- 生検用の針を穿刺して抜く際に、がん細胞が拡がってしまう
肝生検は局所麻酔で行うことが多い
肝生検は、1泊2日入院して行うことが多い検査です。
針を刺す予定の部位と肝臓の表面に局所麻酔をします。この時に痛みを感じる場合があります。また、麻酔を行っても、針を刺した部位や肩、みぞおちに痛みが見られることがあるため、心配な方はあらかじめスタッフへ相談しておきましょう。緊張や苦痛を和らげるために、鎮静剤などの薬剤を注射する場合もあります。
肝生検後の注意点
肝生検後はベットの上で、数時間安静で過ごします。検査後に、以下のような症状が見られた際にはスタッフに必ず伝えるようにしてください。
- 出血:お腹が痛い、刺した皮膚が腫れてきた
- 薬剤アレルギー:皮膚に発疹が見られる・痒み・息苦しさ・めまいなど
上記以外にも気になる症状が見られる場合、近くのスタッフに相談するようにしましょう。退院後も腹痛やお腹の張りがある場合には、医療機関を受診するようにして下さい。
参照元:慶応義塾大学病院
患者のQOL(生活の質)について
肝がんの場合、根治的治療が行われても再発が避けられないケースが多く、長期にわたって治療を繰り返さなければなりません。したがって、それぞれの治療法は、生存率だけではなく患者のQOL(quality of life)を考慮して評価しなければなりません。
肝がんの手術後の注意点として、食事療法や生活上の制限はないとはいわれています。一般的には、1か月ほどはゆっくり過ごし、体を少しずつ慣らしていきます。体力が回復して、肝機能が安定してくると、少しずつ通常の生活に戻ることができるため、焦らずにできることから試していくことが重要です。
食事は、術後3日ほどで摂取できるようになります。肝切除の範囲が小さいと、肝機能の回復も早いため、栄養管理も心配はいらないといわれています。しかし、切除範囲が大きい場合には、食事摂取ができるようになるまで時間を要するケースもあります。
QOLの維持・向上に資する要素にはさまざまありますが、非常に大事な要素の1つが食事です。
点滴で栄養補給をする場合もありますが、肝臓の機能を回復させるためにも、徐々に口から摂取していくことが重要です。
患者の声・体験談
肝がんで治療を受けている方の体験談や生の声が聞きたい方もいることでしょう。ここでは、肝がんと診断された方の体験談をご紹介します。薬物療法、手術療法を受けた際の声をまとめましたので、チェックしてみてください。
告知を受けたときは信じられない気持ちだった
(前略)B型肝炎ウイルス感染から肝細胞がんに移行する例はそれほど多くないと聞いていたことや、肝細胞がんは比較的高齢の方の病気だと思っていたこともあり、告知を受けたときは、「まさか」と信じられない気持ちと、「なってしまったのか」との気持ちが交互に訪れ、頭の中が真っ白になるというのはこういうことかと思うくらい何も考えられない状態でした。(後略)
引用元:肝臓がん情報サイト『かず様の発症 / 診断に関する体験談』
開腹手術よりも負担が軽かった
入院は1週間程度で、多少身体的負担はありましたが、大きく切らねばならない開腹手術よりは負担は少なく済んだと思います。退院1週間後に新幹線で九州に出かける予定があったので、それを楽しみに多少の痛みは乗り切りました。さらに1ヶ月半後には、イギリス旅行にも出かけましたが、これには先生も驚いていました(笑)。
引用元:肝臓がん情報サイト『Renn様の肝切除 / 焼灼に関する体験談』
仕事に配慮していただきラジオ波焼灼療法(RFA)を受けた
(前略)TACEの効果がなかった部分には、ラジオ波焼灼療法(RFA)をすることになりました。仕事に配慮していただき、12月の冬休みに入ったタイミングで治療し年内に退院しました。
翌年3月末に仕事を退職し、5月に2回目のTACEをしました。このときは退院後の倦怠感が強く、家の中で横になっていることが多かったです。やる気はあるのですが、体が動かなかったんです。そのときも夫が家事をよくやってくれて、助かりました。TACEはその後にもう一度行い、同年に経皮的エタノール注入療法(PEIT)を実施したのが最後の治療です。長時間同じ姿勢を保つ必要がありましたが、治療をしながら先生と話をしたりもできましたので、それほど辛いと感じませんでした。
引用元:肝臓がん情報サイト『かず様のTACEに関する体験談』
対策を講じていただけた
抗がん剤の治療を始めてみると、想像していたよりも副作用が少なく、仕事への影響も殆どありませんでした。嬉しいことに治療効果もあって、がんが縮小しました。多少の副作用はありますが、それぞれに対策を講じていただき、ごく普通に生活できています。仕事や生活との両立が叶うこの治療をずっと続けられることを願っています。
引用元:肝臓がん情報サイト『からくり様の薬物療法に関する体験談』
治療と仕事が両立できるようになった
抗がん剤の治療では、医師と相談の上、副作用があるときは休むようにしています。当時、仕事が週の半分は在宅勤務だったため、治療と仕事の両立もでき、日常生活が戻ってきて気持ちもだいぶ落ち着いてきました。(後略)
引用元:肝臓がん情報サイト『Kana様の薬物療法に関する体験談』
治療選択の基準について
治療は、標準治療を基本として担当医と相談して決めます。身体の状態や年齢、本人の希望、生活環境などを総合的に検討したうえで決定します。肝細胞がんにかかった人の多くは、がんと慢性肝疾患という病気を抱えています。そのため、まずは肝予備能をChild-Pugh分類を使って評価し、治療法を選択していきます。
肝障害度
肝障害度もしくは肝障害度分類は、肝予備能を判断する指標として肝癌診療ガイドライン第3版まで採用されていた分類法です。ただし、現在でも肝臓の切除手術を行う場合は肝障害度によって分類されることが重要な点です。
肝障害度分類では「ICG(インドシアニングリーン)」という色素を用いて肝機能に関する検査を行います。手術によって肝臓をどの程度まで切除するのかといった計画は、同色素を使った肝機能診断にもとづいて策定されます。近年はChild-Pugh分類やALBIスコアなど、他の肝機能評価法も併用されることが増えてきました。
肝障害度では大きく「A・B・C」の三段階で評価を行い、また腹水の有無や血清ビリルビン値の数値などによって各項目が分類されます。
例えば腹水については以下のような分類で肝障害度が判断されるという仕組みです。
- 肝障害度A:腹水なし
- 肝障害度B:腹水少量
- 肝障害度A:腹水中等量
この他にも複数の検査結果を相互参照して多角的に肝障害度が判定されます。
Child-Pugh分類
Child-Pugh分類は肝予備能の指標として肝癌診療ガイドライン第4版から採用された分類法です。肝障害度分類ではICGが用いられましたが、Child-Pugh分類では同色素は使われず、肝性脳症の程度や腹水の量、血清ビリルビン値や血清アルブミン値といった検査結果を変数として計算式に当てはめ、その結果を「Child-Pugh分類/スコア」としてグレードA~Cの三段階で分類します。
Child-Pugh分類では、スコアにもとづいてグレードが判定され、Aであれば軽度の肝硬変、Bであれば中程度の肝硬変、そしてグレードCは重度の肝硬変(非代償性肝硬変)といったように判断されることが特徴です。
- グレードA(スコア 5~6点):軽度の肝硬変(代償性肝硬変)
- グレードB(スコア 7~9点):中程度の肝硬変
- グレードC(スコア 10~15点):重度の肝硬変(非代償性肝硬変)
臨床試験や治療法のトレンド
ここでは、比較的新しい臨床試験や治療法について解説していきます。予後が極めて不良と言われている中期進行肝がんにも治癒をもたらす可能性のある治療法や、切除不能な肝細胞がん患者さんの生存期間の延長効果が示されたものなどをご紹介します。
アテゾリズマブとベバシズマブと呼ばれる2種類の薬剤を用いた中期進行肝がん治療
近畿大学医学部内科学教室主任教授である工藤 正俊氏を中心とする研究チームは、国内6施設と香港1施設との共同研究において、切除不能な中期進行肝がん患者を治癒に導く治療法の開発を行いました。研究チームは、アテゾリズマブとベバシズマブと呼ばれる2種類の薬剤を用いた研究を実施。
研究の結果、7施設に入院中の中期進行肝がん110症例中、免疫療法後の切除、ラジオ波または免疫療法と選択的TACEを併用して38例(35%)が根治、このうち薬物治療を終えた後も再発が見られない患者は25例(23%)という結果が出ています。
腫瘍が縮小した症例は切除などで根治でき、また縮小しなかった場合も肝動脈塞栓療法(TACE)を複合免疫療法と併用し、TACEで狙ったがんだけではなく、その他の部位に見られるがんも治癒に導けることを証明しました。
将来的に、中期進行肝がん患者に対する標準治療法になることが期待されているだけではなく、予後が極めて不良と言われている中期進行肝がんにも治癒をもたらす可能性のある治療法と言われています。
イミフィンジ®(一般名:デュルバルマブ)とイジュド®(一般名:トレメリムマブ)の併用療法
アストラゼネカでは、第Ⅲ相HIMALAYA試験において最新の結果を発表しました。本試験では、アストラゼネカのイミフィンジ®(一般名:デュルバルマブ)とイジュド®(一般名:トレメリムマブ)の併用療法について記載されています。全身療法による治療歴がなく、局所療法が適応ではないとされる切除不能な肝細胞がん患者さんの治療薬として、4年経過時点で持続的で臨床的に意義のある全生存期間の延長効果が示されました。
今回のHIMALAYA試験の結果は、スペイン・バルセロナで開催された2023年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)世界消化器がん会議で発表されました。
新たに発表された4年間の追跡データから、イミフィンジにイジュドのプライミング単回投与を追加したSTRIDE(Single Tremelimumab Regular Interval Durvalumab)レジメンが、ソラフェニブと比べて、死亡リスクを22%低減させたと示されたのです。
参照元:KINDAI UNIVERSITY
参照元:アストラゼネカ
「肝転移を有する進行または再発固形がん」に対する第Ⅰ相試験
2023年8月、楽天メディカル株式会社は独自に開発・創薬した抗CD25抗体-色素複合体「RM-1995」と、医療用レーザー機器(波長690 nm)を活用した光免疫療法(アルミノックス治療)に関して、「肝転移を有する進行または再発固形がん」を対象としたⅠ相臨床試験を日本国内で開始したと発表しました。
この第Ⅰ相臨床試験は、標準治療による対処法がない進行癌や再発固形癌を適用対象としており、RM-1995とアルミノックス治療の単独療法や、ペムブロリズマブとの併用療法における安全性・忍容性などの評価を実施。この結果により薬剤や治療に関する最大耐量や最大投与量を分析し、次のステージである第II相臨床試験での推奨用量を決定していくことが期待されました。同時に肝転移における癌治療の手段としても、今回の治療に用いる機器の安全性評価を実施することが可能です。
また同社の代表取締役社長である三木谷氏も父親を膵臓癌で失った経験を踏まえて、RM-1995やアルミノックス治療の発展や確立を進めながら、新しい癌治療の実現と提供に取り組んでいく方針を発表しました。
参照元:楽天メディカル株式会社
肝癌における患者層別化バイオマーカーとして「血中MYCN」を発見
理化学研究所生命医科学研究センターや岐阜大学大学院医学系研究科、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座などのチームによる共同研究によって、「血中MYCN」が、肝臓癌の再発予防薬として期待されている「非環式レチノイド(商品名:ペレチノイン)」の治療応答性に関連していることが発見されました。これにより、患者の血中MYCNを知ることによって、肝臓癌の再発予防薬の効果を推察できる可能性が高まったとされ、結果的に血中MYCNが肝癌予防に向けた患者層別化バイオマーカーとして有用であると考えられたことが重要です。
2024年2月現在、日本発の肝癌再発予防薬として開発された非環式レチノイドは承認に至っていませんが、血中MYCNの発見によって非環式レチノイドの早期臨床応用がサポートされて個別化医療の研究を前向きに進めることが期待されており、今後の肝臓癌の再発予防薬研究や再発予防治療の実現に好影響を与える可能性が示唆されました。
参照元:理化学研究所|肝がん予防のための患者層別化マーカーを発見-血中MYCNで肝がん再発予防薬の効果を予測-
肝細胞癌の1次治療にニボルマブとイピリムマブを併用することで患者の生存期間が延長される
進行性の切除不能肝細胞癌の治療方法として、「抗PD-1抗体ニボルマブ」と「抗CTLA-4抗体イピリムマブ」を併用することにより、患者の死亡リスクを21%軽減して全生存期間を有意に延長できることが発見されました。
この研究はアメリカのBristol Myers Squibb社によって2024年3月に発表されており、フェーズ3試験である「CheckMate-9DW試験」の結果として得られたものです。また、同研究報告は同年5月末から6月4日にかけてシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2024)において、ドイツのUniversity Medical Center MainzのPeter R. Galle氏によっても報告されています。
なお、CheckMate-9DW試験には日本の施設も試験実施機関の1つとして参加しており、試験全体で全身治療を受けていない患者668人を対象として、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性が試験されました。
参照元:がんナビ|切除不能肝細胞癌の1次治療でニボルマブとイピリムマブの併用はレンバチニブまたはソラフェニブ単剤よりも死亡リスクを21%低減【ASCO 2024】
参照元:がんナビ|進行肝細胞癌の1次治療でニボルマブとイピリムマブの併用がチロシンキナーゼ阻害薬より有意に全生存期間を延長
肝細胞癌の新治療薬として注目される免疫療法+個別化ワクチン
アメリカのジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターのElizabeth Jaffee氏によって、肝細胞癌の標準的な免疫療法へ、個々の患者に合わせてオーダーメイドされた抗腫瘍ワクチン(個別化ワクチン)を併用することにより、肝細胞癌の縮小率が免疫療法のみを実施した患者より約2倍ほど改善することが発表されました。
Elizabeth Jaffee氏らの研究チームは肝細胞癌と診断された患者に対して、免疫療法に個別化ワクチンを組み合わせることで患者の生存率を向上させられると期待しており、またジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のMark Yarchoan氏によれば、同研究は個別化ワクチンが抗PD-1抗体への臨床反応の活性化を示すエビデンスになるとも語っています。ただし、同時にこの研究効果をさらに立証するには一層の大規模なランダム化比較試験が必要とも語られており、今後の研究結果が待たれています。
参照元:Care Net|免疫療法+個別化ワクチン、肝細胞がんの新治療法として有望
外科治療を行えない中期肝癌の新しい治療法により患者の35%を治癒
近畿大学医学部内科学教室の工藤正俊教授を中心とした研究チームは、日本国内の施設と香港の施設で行った共同研究により、切除不能な中期進行肝癌患者に対する新しい治療法を開発しました。
同研究では、中期進行肝癌患者の新規治療法として、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)を併用した化学療法を考案し、同治療によって患者の癌を手術可能な状態にまで縮小させ、根治治療を進められることに成功しました。また、治療によって癌が縮小しなかった場合においても、さらに肝動脈塞栓療法(TACE)を併用して複合免疫療法を実施することにより、癌治療について好意的な効果を期待できることを発見しています。
これにより、これまでは手術困難とされていた中期進行肝癌の患者であっても、改めて手術によって癌の根治を目指せる可能性が新たに生まれており、今後の肝臓癌治療の発展性に寄与することが期待されています。
参照元:近畿大学|世界初!切除不能な中期肝がんに対する新たな治療法を開発 先行した免疫療法と根治治療で中期肝がん患者の35%を治癒
関連ページ