いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

いちから分かる癌転移の治療方法ガイド » 癌の転移に負けない治療方法について » 原発不明がんの症状や転移、治療法について

原発不明がんの症状や転移、治療法について

このページでは原発不明がんの症状や治療方法についてまとめました。

原発不明がんとは

原発不明がんとは、ごく簡単に言えば「最初にどこにできたのかが分からないがん」を指します。

一般的ながんの診断は、たとえば胃にできたがんを胃がん、肝臓にできたがんを肝臓がんと呼ぶように、がんが発生した臓器=原発部位にならって、がんの名前がつけられます。そしてその原発部位にできたがんのことを、原発巣と呼びます。

たとえば胃にできたがん=胃がんが肝臓に転移したとしても、それは肝臓がんとは呼ばれません。あくまで胃がんの肝転移という扱いになり、転移先の肝臓でも、そのがんは原発巣である胃がんの性質を示します。

ところが原発不明がんというのは、画像診断や病理検査など、さまざまな検査をした上でも「がんがもうすでに転移している状態であり、どこからどこへ転移したのか、その経過が分からない」という状態で、がんが発生した臓器の判断がつかず、原発部位も原発巣も不明のままとなってしまうのです。

そして「原発巣が分からないからこそ、がんの性質を判断することがきわめて困難になってしまいがち」というのが、原発不明がんのやっかいなところです。

がん全体の中で、こうした原発不明がんの割合は推定1~5%と言われています。[注1]

これだけを見れば、原発不明がんの割合は意外と多そうに思えますが、原発巣がどこなのかは患者それぞれ、さらに転移の経過も患者それぞれだからこそ、患者ごとに病気の状態が異なるため「同様の病態を示す患者の数」はきわめて少なくなります。

患者の数だけさまざまな症例があると言える、それが原発不明がんなのです。

[注1]九州大学病院 がんセンター:原発不明がん

原発不明がんの症状

原発不明がんは、原発巣が不明ながんであるだけに、ありとあらゆるがんの性質の可能性を出す可能性があるため、明確に「この症状が出たら原発不明がん」と示せるようなものはありませんが、以下のような症状をきっかけに、原発不明がんが発覚するケースが多いです。

いずれも、がん転移が発生した際に起こりやすい症状であることが分かります。

原発不明がんの治療法

原発不明がんは原発巣が不明であるために、たとえば「胃がん治療にはまずこの治療法」というような、明確な治療方針を立てることに困難がともないます。

ただ、原発不明がんの中にも「今のところ、女性患者の脇のリンパ節のみにがんが検出されている=乳がんのがん分布に非常に似ている」など、特定の原発巣のあるがんと非常に近い病態を示すものもあり、この場合はその原発巣がんを治療する時と同様の治療法を採用することもあります。例に挙げたケースだと、乳がん向けの治療をするということになります。

しかし、そうした「特定の原発巣のあるがんと非常に近い病態を示す原発不明がん」の割合は少なく、大半の原発不明がんは「がんの病態が、特定の原発巣のあるがんのような特徴を示さない」という状態なのが現実です。

しかも、原発不明がんはすでにがんが転移している状態であり、手術をしたとしてもがんの切除はきわめて困難な状態となっています。

そのため、原発不明がんの治療の多くは、薬物治療でがんの進行を遅らせたり痛みの症状を和らげたりすることが中心となってきます。

他にも「これ以上の転移を少しでも抑えるため」「がんを少しでも縮小させるため」という目的で放射線治療が適用されることもあります。

原発不明癌のステージ分類

原発不明癌の場合、ステージなどの病期分類は設定されないケースがほとんどです。

ステージの分類方法

一般的に、がんの広がりは「ステージ」で表され、この「ステージ」は治療法を選ぶために用いられます。例えば、がんが局所にとどまっている場合は、手術や放射線療法といった局所療法を行いますし、所属リンパ節への転移がある場合は、局所療法と全身療法を組合せた治療を実施。遠隔転移など局所を超えて広がっている場合であれば、薬物療法といった全身療法を行います。

原発不明がんは、遠隔転移先で発見されたがんであるため、薬物療法を中心とした治療が行われます。

ステージで異なる治療方針

原発不明がんの場合、組織診断と全身への病気の拡がり具合という2つの軸で原発巣を推定していくと、一定数の人たちには、ある特定の治療が効くのではないかという傾向が見られます。原発巣のがん種はそれぞれ別ですが、推定がしやすい人たちでもあり、推定されるがんごとに推奨される治療を行います。

特定の治療が想定される原発不明がんのパターンと、治療方針の具体例として次のようなものがあります。

特定の治療法があるケース 治療方針
女性、腺がん、腋窩リンパ節にのみ転移 腋窩リンパ節転移陽性の乳がん治療
女性、漿液性腺がん、がん性腹膜炎のみ発症 臨床病期Ⅲ病期の卵巣がん治療
男性、腺がん、多発性の造骨性骨転移、血清中PSA高値 転移性前立腺がん治療
50歳以下の男性、低・未分化がん、縦隔・後腹膜リンパ節転移など体の正中線上に病変が分布している場合 性腺外原発の胚細胞腫瘍治療
扁平上皮がん、上・中頸部リンパ節にのみ転移している場合 頭頸部がん治療
腺がん、CK7-、CK20+、CDX2+のプロファイル 結腸がん治療
低悪性度の神経内分泌腫瘍、骨への転移や肝転移が見られる場合 神経内分泌腫瘍の治療
高悪性度の神経内分泌がん 小細胞肺がんに準ずる治療
頸部、鼠径など限局するリンパ節転移のみが見られる場合 外科切除・放射線治療・化学療法などの局所療法を検討

特定の治療の想定が難しい人たちについては、特定の治療ではなく、複数の選択肢から臨機応変な治療を行うことになります。原発不明がんは、局所を越えて広がっている転移がんであるため、薬物療法が主体となるのが一般的な考え方。しかし、抗がん剤治療などの薬物療法を実施した場合と、がんに対する積極的な治療を行わずに症状緩和の治療のみを行うベストサポーティブケアと、どちらが患者の予後を改善するのかという比較試験はこれまでに報告されていないというのが現状です。