がんの治療法の重要な役割を果たしている抗がん剤治療。具体的にどのような治療を行うのか、またどんな種類のものがあるのか、まとめてみました。
がんは、腫瘍を手術で取り除くだけでは根治できないことが非常に多い病気です。外科手術や放射線治療と組み合わせて、治療効果を高めるために使用されるのが「抗がん剤」です。
かつては手術の補助的な役割を果たしていた抗がん剤治療ですが、現在では投与方法の工夫や新薬の開発により大きく進歩しています。効果が高まっただけでなく、副作用を軽減したり、がんと長く付き合っていくための治療選択肢としての価値も高まっています。
ここでは、抗がん剤治療の概要や、その治療法の種類について解説していきます。
抗がん剤は、血液に乗って全身に行き渡り、がん細胞を攻撃する薬剤です。点滴や注射、あるいは内服薬として体内に投与されます。局所的な治療とは異なり、全身に分布するがん細胞に対して作用する全身療法として位置づけられます。
抗がん剤は、がん細胞を攻撃する一方で、正常細胞のうち分裂が活発な細胞(例:白血球、毛母細胞、消化管上皮細胞など)にも影響を与えるため、副作用が発生します。白血球が減少すれば免疫力が低下し、毛根細胞への影響で脱毛が生じます。吐き気や嘔吐は、主に中枢神経系および消化管粘膜の刺激により引き起こされます。
ただし、「抗がん剤の副作用は適切にコントロール可能である」ことも重要な事実です。制吐薬や造血因子製剤など、副作用軽減のための薬剤も多く開発されており、以前のように副作用に強く悩まされるケースは減少しています。
さらに、抗がん剤は複数種類を組み合わせて使うことが一般的です。一剤の副作用が強く出る場合は他剤と調整するなど、個別化された対応が可能です。
抗がん剤には副作用があるものの、手術が不可能な場合や、全身に広がったがんに対して効果を発揮できるため、治療の選択肢として重要です。目に見えないような微小ながん細胞や転移巣に対しても効果が期待できます。
手術や放射線治療の前後に抗がん剤を使用することもあります。治療前に抗がん剤を投与する術前化学療法(ネオアジュバント療法)は、がんを小さくして主治療の負担を軽減し、根治の可能性を高めます。
術後化学療法(アジュバント療法)は、手術後に残存する可能性のある微小ながんを排除し、再発や転移の予防を目的として行われます。
2022年4月~2025年3月までに新たに国内で承認された抗がん剤(抗悪性腫瘍薬)だけでも100種類以上にのぼり、がんの種類や病期に応じて最適な組み合わせが選択されます。
抗がん剤には大きく分けて、細胞障害性抗がん剤と分子標的治療薬の2つのタイプがあります。
細胞障害性抗がん剤は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を阻害し、アポトーシス(細胞死)を誘導することによって治療効果を発揮します。作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで、相乗効果を期待できます。
一方、2001年以降に実用化が進んだ分子標的治療薬は、がん細胞特有の分子異常(遺伝子変異や受容体の過剰発現など)を標的とする薬剤です。正常細胞とがん細胞の違いを利用し、がん細胞のみを狙って攻撃します。
代表例として、HER2陽性乳がんに対するトラスツズマブ(ハーセプチン)などがあり、劇的な治療効果が報告されています。
さらに、2014年以降には免疫チェックポイント阻害薬(例:ニボルマブ、ペムブロリズマブ)が登場し、非小細胞肺がん、悪性黒色腫、腎細胞がんなどにおいて新たな治療の柱となっています。これらの薬剤は、がん細胞が免疫から逃れる仕組みを解除することで、患者自身の免疫システムを活性化させてがんと闘わせる手法です。
分子標的治療薬や免疫療法には副作用や費用面での課題もありますが、抗がん剤治療における画期的な進展をもたらしました。
病気の原因になっているたんぱく質など、特定の分子だけに作用するしくみを持つ治療薬を分子標的薬といいます。
従来の抗がん剤はがん細胞を死滅させて増殖を抑えますが、正常な細胞にもダメージを与えてしまうため大きな副作用が生じる場合があります。しかし、分子標的薬はがんの原因にかかわる特定の分子に選択的に作用するため、がん細胞を主に標的とし、結果として副作用が比較的抑えられると考えられています。ただし、標的分子を有する正常細胞にも作用する可能性があるため、副作用が全くないわけではありません。
がん細胞の増殖に影響する特定のたんぱく質に対し、選択的に作用する低分子の分子標的薬の一種です。
がん細胞の中には、上皮成長因子受容体(EGFR)というたんぱく質を過剰に発現しているタイプがあります(EGFR陽性)。そこに情報伝達物質が結合すると、細胞に増殖のシグナルが送られてがんが増大します。この薬剤は細胞膜を通過し、EGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害することで、増殖シグナルの伝達をブロックし、がん細胞の増殖を抑制します。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
よく見られる副作用としては発疹や下痢、嘔吐、食欲不振などがあり、重大な副作用として急性肺障害、間質性肺炎、重度の下痢、脱水などが報告されています。
抗HER2抗体という薬剤で、悪性度の高いがん細胞に発現することの多いHER2という受容体に結合し、がん細胞の増殖を抑制する分子標的薬です。
具体的にはHER2受容体に結合することで、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導し、HER2を発現するがん細胞を免疫系によって攻撃します。この薬剤はHER2が過剰に発現するタイプのがんに対してのみ有効です。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
よく見られる副作用としては頭痛や悪寒などがあり、重大な副作用として心障害、ショック、アナフィラキシー、間質性肺炎、白血球減少、好中球減少などが報告されています。
抗HER2抗体の一種であり、がん細胞の増殖に関与するHER2受容体の異常な活性化を阻害する分子標的薬です。
乳がんの中には、細胞表面にHER2というたんぱく質を過剰に発現しているタイプがあります(HER2陽性)。HER2が過剰に発現すると、チロシンキナーゼという酵素の活性化により細胞増殖のシグナルが強くなり、がんが進行します。この薬剤はHER2の働きを阻害することで、がん細胞の増殖を抑制します。ペルツズマブはトラスツズマブおよびドセタキセルなどとの併用療法が基本です。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
よく見られる副作用としては下痢、悪心、発疹、脱毛などがあり、重大な副作用として好中球減少症、白血球減少症、急性輸液反応(投与中または投与後に出現する過敏症)、アナフィラキシーなどが報告されています。
抗HER2抗体のトラスツズマブに、がん細胞を攻撃する細胞毒性物質エムタンシンを結合させた抗体薬物複合体(ADC)です。トラスツズマブによりHER2陽性がん細胞を標的とし、エムタンシンが細胞内に取り込まれてがん細胞を死滅させます。これにより、正常な細胞への影響を抑えつつ、がん細胞を効率的に攻撃できます。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
よく見られる副作用としては吐き気、嘔吐、下痢、疲労感などがあり、重大な副作用として間質性肺炎、心障害、急性輸液反応、肝不全などが報告されています。
HER2チロシンキナーゼ阻害薬という分子標的薬の一種です。がん細胞の増殖を促すHER2が過剰に発現しているがん細胞に対し、HER2受容体の細胞内領域に存在するチロシンキナーゼ活性部位に作用し、細胞増殖のシグナル伝達を阻害することで増殖を抑制し、プログラムされた細胞死(アポトーシス)をもたらします。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては下痢や悪心、嘔吐、疲労感などが挙げられており、重大な副作用として肝機能障害、間質性肺疾患、心機能障害、QT延長(心電図異常)などが報告されています。
がん細胞は無秩序に増殖し、栄養や酸素を取り込むために新たな血管(新生血管)を形成します。この薬剤は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という血管形成に関わるたんぱく質を選択的に阻害し、新生血管の形成を抑えることでがん細胞への栄養供給を断ち、増殖抑制と転移抑制を図る分子標的薬です。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては血圧上昇、疲労・倦怠感、食欲低下、悪心などがあり、重大な副作用としてショック、アナフィラキシー、消化管穿孔、創傷治癒遅延、血栓塞栓症などが報告されています。
悪性リンパ腫はリンパ球ががん化し、リンパ節などに腫瘍を生じる血液のがんです。リンパ球にはB細胞、T細胞、NK細胞などがありますが、悪性リンパ腫の多くはB細胞ががん化したものです。この薬剤はB細胞の表面に存在するCD20というたんぱく質に結合し、免疫機構を介してがん化したB細胞を破壊する分子標的薬です。
2025年5月現在の主な適応は以下のとおりです。
主な副作用としては発熱、疼痛、倦怠感、悪心、嘔吐などがあり、重大な副作用としてアナフィラキシー、肺障害、心障害、血圧低下、B型肝炎ウイルス再活性化などが報告されています。
免疫調節薬の一種で、従来の抗がん剤とは異なる多面的な作用機序を持ちます。免疫細胞の活性化によってがん細胞への攻撃を強めるとともに、骨髄腫細胞のアポトーシス誘導や血管新生の抑制などを通じて腫瘍の進展を抑制します。サリドマイド誘導体であり、強い催奇形性を有するため、RevMate®(安全管理プログラム)による厳格な管理が必要です。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては便秘、下痢、悪心、疲労感、発疹などがあり、重大な副作用として静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、骨髄抑制、二次原発がんの発生リスクが報告されています。
損傷したDNAを修復するPARPというたんぱく質の働きを阻害する薬剤です。正常な細胞は他のDNA修復経路によって損傷を修復できますが、がん細胞、とくにBRCA遺伝子などの修復機能に異常がある細胞では、PARPを阻害されるとDNAを修復できず、アポトーシス(細胞の自然死)に至ります。このメカニズムにより、がん細胞の増殖を抑制する効果があるとされています。
2025年時点の承認適応は以下のとおりです。
BRCA遺伝子とは誰しもが持っている遺伝子のひとつで、DNAの損傷を修復して細胞のがん化を防ぐ作用があります。BRCA遺伝子変異陽性とは、その作用に異常をきたしていることを意味します。
この薬剤の主な副作用としては悪心や嘔吐、下痢、疲労などが挙げられており、重大な副作用として骨髄抑制や間質性肺疾患などが報告されています。
ネクサバール(一般名:ソラフェニブ)は、細胞増殖や腫瘍血管新生に関与する複数のキナーゼを阻害する分子標的薬であり、マルチキナーゼ阻害剤に分類されます。主にRafキナーゼ(MAPK経路)、VEGFR(血管内皮増殖因子受容体)、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)などの酵素活性を抑えることで、がん細胞の増殖および血管新生を抑制します。
2025年時点における日本での承認適応症は以下のとおりです。
主な副作用として、手足症候群、発疹、血圧上昇、下痢、疲労感、食欲不振などが報告されています。重大な副作用には、剥脱性皮膚炎、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、心筋虚血・梗塞、出血傾向、消化管穿孔などがあります。
2025年現在、肝細胞がんに対してはアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法やレンバチニブが一次治療として優先されており、ネクサバールは主に二次治療以降または他剤が使用できない症例で選択されることが一般的です。また、腎細胞がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法が普及しており、ソラフェニブは代替選択肢とされる傾向があります。
ジカディアは、がん細胞の増殖に関与するALK(未分化リンパ腫キナーゼ)を選択的に阻害する分子標的薬です。非小細胞肺がん(NSCLC)のうち、約3〜5%の患者にALK融合遺伝子陽性が認められ、これががん細胞の異常な増殖シグナルを引き起こします。セリチニブはこの異常なシグナル伝達を遮断し、がん細胞の増殖を抑制します。
2025年時点の日本における承認適応症は以下のとおりです。
主な副作用として、悪心、嘔吐、下痢、食欲減退、肝機能検査値異常などが報告されています。重大な副作用には、間質性肺疾患やQT延長などが含まれます。
2025年現在、ALK陽性非小細胞肺がんの初回治療としては、アレクチニブやロルラチニブなどの第2世代・第3世代ALK阻害薬の使用が主流となっており、セリチニブはこれら薬剤に対する耐性獲得後の治療選択肢となることが多くなっています。
ランマークは、破骨細胞の分化・活性化に関与するRANKL(Receptor Activator of Nuclear Factor κB Ligand)を標的とするヒト型IgG2モノクローナル抗体製剤です。RANKLの作用を阻害することで、破骨細胞の形成と機能を抑制し、骨吸収を抑える効果があります。これにより、がんの骨転移や骨巨細胞腫に伴う骨病変の進行を抑制します。
2025年時点の日本における承認適応症は以下のとおりです。
主な副作用としては、低カルシウム血症、悪心、疲労、食欲減退、無力症などが報告されています。重大な副作用には、顎骨壊死や非定型骨折が含まれます。特に低カルシウム血症の予防のため、カルシウムおよびビタミンDの補充が推奨されています。また、顎骨壊死のリスクを軽減するため、治療開始前に歯科検診を受け、必要な歯科治療を済ませておくことが重要です。
イブランスは、がん細胞の増殖に関与する細胞周期の進行を制御するCDK4およびCDK6という酵素の働きを阻害する薬です。ホルモン受容体陽性(HR+)、HER2陰性の手術不能または再発乳がんに対し、アロマターゼ阻害薬やフルベストラントなどの内分泌療法薬(ホルモン療法薬)と併用することで、内分泌療法単独よりも有効性が高いとされています。
2025年5月現在の日本での適応は以下のとおりです。
主な副作用には脱毛、悪心、口内炎、疲労感などがあり、重大な副作用として骨髄抑制(好中球減少、白血球減少、貧血など)や間質性肺疾患が報告されています。
がん細胞の表面にはEGFR(上皮成長因子受容体)というタンパク質が発現しており、これは細胞の増殖を促進するシグナルを伝える役割を担います。がん細胞はEGFRを過剰に発現しており、増殖シグナルを活発に送っています。EGFRを介したシグナル伝達にはRAS遺伝子が関与しており、RASが野生型である場合にはEGFR阻害が有効とされています。アービタックスはEGFRに結合し、その働きを阻害することでがんの増殖を抑えます。
2025年5月現在の日本での適応は以下のとおりです。
主な副作用には発疹、皮膚炎、疲労感、悪心、口内炎などがあり、重大な副作用としてアナフィラキシーショック、重度の皮膚障害、低マグネシウム血症などが報告されています。
がん細胞はVEGF(血管内皮増殖因子)という糖タンパク質を分泌し、血管内のVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)に結合することで新たな血管(血管新生)を形成させ、成長に必要な酸素や栄養を得ています。サイラムザはVEGFとVEGFRの結合を阻害し、血管新生を抑制することでがん細胞の成長を抑えます。
2025年5月現在の日本での適応は以下のとおりです。
主な副作用には下痢、高血圧、頭痛、口内炎、脱毛などがあり、重大な副作用として動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、アナフィラキシーショック、消化管出血などが報告されています。
スチバーガはマルチキナーゼ阻害薬に分類される分子標的薬であり、VEGFR、PDGFR-β、c-KITなど複数の受容体型チロシンキナーゼを阻害することで、がんの増殖シグナルを遮断し、アポトーシス(細胞死)を促進します。
2025年5月現在の日本での適応は以下のとおりです。
主な副作用には下痢、食欲減退、口内炎、悪心、発疹などがあり、重大な副作用として手足症候群、高血圧、中毒性表皮壊死融解症(TEN)が報告されています。
がん細胞では、細胞増殖を促進するチロシンキナーゼという酵素が異常に活性化していることがあります。そのチロシンキナーゼの一種であるKITは、身体のエネルギー産生に関与するATP(アデノシン三リン酸)と結合することで活性化され、細胞の増殖シグナルが作動します。
グリベックは、KITとATPが結合する部位に競合的に結合することで、がん細胞の増殖シグナルを遮断する分子標的薬です。2001年に日本で承認され、慢性骨髄性白血病(CML)や消化管間質腫瘍(GIST)を対象に導入されました。発売当初は再発例を中心に使用されていましたが、2025年現在では再発リスクが高いと判断された患者にも補助療法として使用されています。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用には発疹、筋肉のけいれん、嘔吐、下痢、浮腫などがあり、重大な副作用として骨髄抑制、消化管出血、肝機能障害、重篤な体液貯留などが報告されています。
がん細胞の成長には複数のチロシンキナーゼ酵素が関与しており、その過剰活性が腫瘍の増殖や血管新生を促進します。ヴォトリエントは、VEGFR、PDGFR、c-Kitなどのチロシンキナーゼの活性を阻害することで、がん細胞の増殖や血管新生を抑制します。
ヴォトリエントは、2012年に日本で承認された悪性軟部腫瘍に対する初のマルチキナーゼ阻害薬であり、腎細胞がんに対する治療選択肢としても位置付けられています。2025年現在では、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が標準治療となってきており、単剤使用の位置づけは一部限定されています。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用には食欲減退、下痢、悪心、毛髪変色、疲労感などがあり、重大な副作用として肝機能障害、高血圧、出血、甲状腺機能障害などが報告されています。
ザーコリはALK阻害薬に分類される分子標的薬で、非小細胞肺がん(NSCLC)のうち、腺がんでみられるALK融合遺伝子陽性例に対して効果を示します。ROS1融合遺伝子陽性肺がんにも適応があります。
ザーコリは2012年に日本で承認された初のALK阻害薬です。現在ではより高い中枢神経移行性を持つアレクチニブやロルラチニブが一次治療として推奨されることも多くなっていますが、ザーコリも有効性が確認された薬剤として位置づけられています。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては視覚障害、悪心、下痢、浮腫、味覚異常などがあり、重大な副作用として間質性肺疾患、肝不全、血液障害などが報告されています。
BRAFは細胞の増殖に関与するRAFファミリーの一員であり、BRAF遺伝子のV600変異により異常なシグナルが持続的に発信されると、がんの発症につながります。ビラフトビはこのBRAFの異常な活性を選択的に阻害する分子標的薬です。
2018年に日本で承認され、悪性黒色腫や結腸・直腸がんに対して使用されます。特に結腸・直腸がんでは抗EGFR抗体であるセツキシマブとの併用が必須です。また、悪性黒色腫ではMEK阻害薬(ビニメチニブ)との併用が標準治療とされています。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用には下痢、悪心、皮膚炎、疲労感などがあり、重大な副作用として末梢神経障害、網膜障害、出血などが報告されています。
細胞の増殖をコントロールする遺伝子のひとつに「MET遺伝子」があり、非小細胞肺がん(NSCLC)の患者さんの2~4%にMETエクソン14スキッピング変異がみられるといわれています。変異したMET遺伝子は異常なMETたんぱく質を生み出し、それが細胞に過剰な増殖シグナルを伝達し続けるため、がん細胞が増殖します。
タブレクタは異常なMETたんぱく質のチロシンキナーゼ活性を阻害する分子標的薬で、細胞増殖のシグナルを遮断することでがん細胞の増殖を抑制する効果があります。
2025年時点の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては悪心、下痢、食欲減退、疲労感、浮腫、肝機能障害などがあり、重大な副作用として間質性肺疾患、腎機能障害、体液貯留などが報告されています。
慢性リンパ性白血病(CLL)は、リンパ球の一種であるB細胞が異常に増殖し、末梢血液や骨髄、リンパ節、脾臓などに影響を及ぼす血液のがんです。
異常なB細胞の表面にはCD52抗原という糖たんぱく質が発現しており、マブキャンパスはこのCD52抗原に結合することでB細胞を標的として溶解・除去する作用を持つ薬です。
2025年時点の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては感染症、食欲減退、頭痛、嘔吐、下痢などがあり、重大な副作用として血球減少、アナフィラキシーショック、重症感染症、心障害などが報告されています。
スーテントはがん細胞の増殖抑制に加えて、がん組織への血管新生を阻害するという2つの作用を持つマルチキナーゼ阻害薬です。
がん細胞の増殖や血管新生には、チロシンキナーゼと呼ばれる酵素が重要な役割を果たしています。スーテントは複数のチロシンキナーゼ(VEGFR、PDGFR、KITなど)を阻害することで、がんの進行に関与するシグナル伝達を抑制します。その結果、がん細胞の成長が抑えられ、予後の改善が期待されます。
2025年時点の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては下痢、悪心、疲労感、口内炎、味覚異常、皮膚変色などがあり、重大な副作用として骨髄抑制、高血圧、出血、心不全、間質性肺疾患などが報告されています。
私たちの身体には、病原体や異常な細胞に対して防御反応を行う免疫細胞が存在します。しかし、一部のがん細胞は免疫細胞との接触により、免疫応答を抑制する分子(PD-L1など)を発現し、攻撃から逃れる仕組みを持っています。
がん細胞と免疫細胞との間の免疫抑制的な結合を「免疫チェックポイント」と呼びます。これを阻害することで、免疫細胞の抑制を解除し、本来のがん攻撃能力を回復させる薬が免疫チェックポイント阻害薬です。
主な薬剤にはPD-1阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)やPD-L1阻害薬(アテゾリズマブ)、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)などがあります。
がん細胞の表面に存在するPD-L1というたんぱく質は、免疫細胞の表面にあるPD-1というたんぱく質と結合することで免疫細胞の攻撃力にブレーキがかかってしまいます。この薬剤は抗PD-1抗体と呼ばれる免疫チェックポイント阻害薬の一種で、PD-L1とPD-1の結合を阻害して免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする作用があります。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては疲労感や下痢、悪心、食欲減退、関節痛などが挙げられており、重大な副作用として間質性肺疾患、内分泌障害、重症筋無力症、心筋炎、横紋筋融解症、神経障害などが報告されています。
がん細胞と免疫細胞の表面に存在するたんぱく質、それぞれPD-1とPD-L1との結合を阻害する免疫チェックポイント阻害薬です。有名なオプジーボは抗PD-1抗体ですが、この薬剤は抗PD-L1抗体で、同じように免疫チェックポイントを阻害して免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては下痢、悪心、嘔吐、手足の知覚異常などが挙げられており、重大な副作用として間質性肺疾患、膵炎、心筋炎、横紋筋融解症などが報告されています。
がん細胞への攻撃の司令塔となるのはT細胞という免疫細胞ですが、そもそもがん細胞が敵だという情報をT細胞に伝えるのが抗原提示細胞です。しかし、T細胞の表面に存在するCTLA-4という分子と、抗原提示細胞の表面にあるCD80/86という分子が結合すると、がん細胞への攻撃を止めるような指示が出てしまいます。
この薬剤はCD80/86よりも先にCTLA-4に結合することで攻撃中止指示を出させず、免疫細胞を活性化してがん細胞を攻撃させる作用があります。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としてはそう痒症、悪心、嘔吐、腹痛、疲労感などが挙げられており、重大な副作用として大腸炎、消化管穿孔、重度の下痢などが報告されています。
通常、がん細胞は免疫細胞に異物とみなされて攻撃を受けますが、その攻撃を避けるためにがん細胞はPD-L1というたんぱく質を細胞の表面に発現させます。このPD-L1が免疫細胞の表面にあるPD-1というたんぱく質と結合すると、免疫細胞はがん細胞への攻撃を中止してしまいます。
テセントリクは、がん細胞の表面のPD-L1と先に結合して蓋を閉じる作用があります。これによりPD-L1が免疫細胞のPD-1と結合できなくなり、免疫細胞は通常どおりがん細胞を攻撃できるようになります。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用としては、疲労感、下痢、悪心などがあり、重大な副作用として間質性肺疾患、肝機能障害、硬化性胆管炎、自己免疫性内分泌障害(甲状腺炎や副腎機能不全など)が報告されています。
イミフィンジは、がん細胞を直接攻撃する薬ではありません。免疫細胞ががん細胞を攻撃できるように免疫チェックポイントに作用し、本来の免疫機能を回復させてがん細胞を攻撃可能にする薬です。
がん細胞はPD-L1というたんぱく質を表面に発現させ、これが免疫細胞の表面にあるPD-1というたんぱく質と結合すると、免疫細胞の攻撃が抑制されます。イミフィンジはPD-L1に先回りして結合することで、この「攻撃中止のサイン」が出されるのを防ぎ、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を促進します。
2025年5月現在の適応は以下のとおりです。
主な副作用として発疹、そう痒症、下痢、発熱などがあり、重大な副作用として間質性肺疾患、大腸炎、重度の下痢、肝機能障害、内分泌障害などが報告されています。