「抗がん剤治療をしましょう」と医師から提示されても、費用感がわからないと患者さん本人もご家族も答えが出せないものです。こちらでは、さまざまなパターンが考えられる抗がん剤治療の費用目安をまとめます。
近年は分子標的薬や免疫療法など、新しい抗がん剤が次々に開発されています。治療の選択肢が増えるのは患者さんにとってありがたいことですが、その一方で気になるのは費用の問題。がん治療を進めていくうえで、費用の問題はどうしてもついてまわります。
ここでは、抗がん剤治療の費用目安の考え方についてお伝えします。
抗がん剤治療では、投与する薬剤のほかにもさまざまな費用がかかります。
まず、抗がん剤治療を初めて導入する場合は入院するのが一般的ですので、その費用は別途見積もっておかなければなりません。スムーズに治療を開始できたとして、通常は治療の際に毎回血液検査を実施して身体の状態を確認します。また、副作用が起きた場合はそれに対する治療も行なわれます。抗がん剤治療の費用を見積もる際には、そういった諸々も含めて考えておく必要があるのです。
また、治療に直接関係がない費用も必要になるケースは多々あります。以下に例を挙げてみます。
1つひとつは大きな金額ではないとしても、治療期間が長くなればなるほど、お金は必要になるでしょう。
抗がん剤治療は、たとえ同じがんでも患者さん一人ひとりの状況によって使用する薬剤など内容は大きく異なります。もし同じ内容だったとしても、患者さんの身長や体重によって使用する抗がん剤の用量が変わります。したがって、抗がん剤治療の正確な費用を算出するのは難しいというのが実情です。
ここでは費用の大まかな目安を立てるために、ケース別の費用実例を挙げてみましょう。
がん病変のある乳房をすべて切除し、その後の再発予防のため、点滴注射による抗がん剤(エピルビシン、エンドキサン、パクリタキセル、トラスツズマブ)に加えてホルモン剤も使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約2,700,000円となります。
広がってしまったがん病変を抑えるため、点滴注射による抗がん剤(パクリタキセル、トラスツズマブ)に加えてホルモン剤も使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約3,900,000円となります。
広がってしまったがん病変を抑えるため、点滴注射による抗がん剤(オキサリプラチン、フルオロウラシル、ベバシズマブ)を使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約7,500,000円となります。
がん病変と周辺のリンパ節を切除する手術を受け、その後半年間の点滴注射による抗がん剤(5FU、レボホリナート)を使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約850,000円となります。
がん病変と周辺のリンパ節を切除する手術を受け、その後半年間の点滴注射による抗がん剤(オキサリプラチン、フルオロウラシル)を使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約2,000,000円となります。
広がってしまったがん病変を抑えるため、点滴注射による抗がん剤(カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブ)を使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約6,500,000円となります。
同じく非小細胞肺がんステージⅣで、内服による抗がん剤(ゲフィチニブ)を使用したケースでは、年間の費用は約3,200,000円となっています。
広がってしまったがん病変を抑えるため、点滴注射による抗がん剤(イリノテカン、シスプラチン)を使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約1,600,000円となります。
放射線治療を受けた後、点滴注射による抗がん剤(エトポシド、シスプラチン)を3カ月間使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約1,600,000円となります。
手術は行なわず、内服による抗がん剤(ティーエスワン)と点滴注射による抗がん剤(シスプラチン)を同時に使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約2,600,000円となります。
定型手術(胃の2/3以上あるいは全摘出)と周辺のリンパ節切除を行なった後、再発予防を目的として内服による抗がん剤(ティーエスワン)を1年間使用したケースです。その場合の年間の抗がん剤治療費は約800,000円となります。
高額療養費制度を利用するためには、いくつかの条件があります。また、年齢や所得によって1カ月の自己負担上限額は変わります。
肝心なのは、高額療養費制度は医療保険適用となる治療費に対してのみ利用できるということ。国が定める先進医療や、自由診療扱いの治療を受ける場合はすべて自己負担になります。例を挙げると、放射線治療における陽子線治療や重粒子線治療などが先進医療にあたります。
とはいえ、抗がん剤治療でいえば、国内で受けられる治療のほとんどが医療保険適用となっているはずです。所得制限などの要件を満たせば、通常は制度を利用して自己負担を減らしながら治療を受けられると考えていいでしょう。
また、高額療養費制度には以下のしくみがあります。
同一世帯の中で他にも何らかの治療を受けている人がいる場合、もしくは一人でも複数の医療機関で治療を受けている場合に適用されるしくみです。家族全員分の医療費を合算して自己負担上限額を超えた場合、その分が払い戻されることになります。
直近1年間で高額療養費制度を3回以上利用している場合は、その月以降の自己負担上限額が引き下げられます。
それでは、一般的な抗がん剤治療の流れについて説明しましょう。
通常の抗がん剤治療では、もっとも効果的だと考えられる薬剤の組み合わせとスケジュールが確立しています。これは「レジメン(治療計画)」と呼ばれ、臨床試験で安全性と治療効果を検証したデータをもとに作成されたものです。
抗がん剤治療のレジメンが注射や点滴の場合は、投与する日とお休みの日を組み合わせた周期が決められています。その周期を1コース、もしくは1サイクルなどと呼びます。通常は何コースかを繰り返しますが、薬剤の投与間隔は連日の場合もあれば隔週、3週間ごとなどさまざまなレジメンがあります。
初めて抗がん剤治療を受ける際の最初の1コースは入院し、状態を確認しながら治療を進めていくことが多いようです。その後は通院で治療を続けていくことになります。
日々の治療は基本的に診察、検査、薬剤投与の流れで行なわれます。診察で体調変化の有無などを確認した後に採血を行ない、その結果に基づいて医師が治療の指示を出します。薬剤投与が終了すると、医療スタッフが体調を確認し、血圧や体温を測定します。問題なければ帰宅する流れです。