「キラーT細胞」とは、リンパ球の一種である「T細胞」の1つです。T細胞は、免疫対応の細胞の1つで、機能ごとに分けることができます。抗体産生細胞への分化をフォローする「ヘルパーT細胞」、抑制する「サプレッサーT細胞」、アレルギー反応を誘う「エフェクターT細胞」、最後が標的を破壊することができる「キラーT細胞」です。
次に、キラーT細胞がどのようにして癌に作用するのかを紹介していきます。
まず初めに体の免疫がどのようになっているのかを確認しましょう。人間の体の免疫システムには、2種類あります。1つは、自然免疫でもう1つが獲得免疫です。自然免疫は、体内に侵入者がいないかを常に監視。侵入者を発見した場合、真っ先に攻撃を仕掛けます。つまり、体内に異物が入ってきた時の初期対応を行う免疫ということです。マクロファージや好中球、樹状細胞などがこの自然免疫に該当します。一方、獲得免疫は、生物の中でも人間のような高度な生物にだけ備わっている免疫です。癌などの強い破壊力を持つ侵入者に対応します。T細胞やB細胞などが獲得免疫となります。
先ほど紹介したように、体内に入ってきた外敵に対して、最初に対処にあたるのは自然免疫です。その自然免疫でも対処できない場合は、キラーT細胞などの獲得免疫が対処するという仕組みになっています。
自然免疫の中でも、総司令官的な役割を果たしているのが、樹状細胞となります。樹状細胞は、癌細胞などの異物を発見すると、キラーT細胞などに攻撃をするよう指示を送ります。そこで癌細胞を排除するために動き出したキラーT細胞が、癌細胞に取り付いて排除するのです。
ところが癌細胞は厄介なので、体外からの侵入者と思わせないようにして、増殖をしてしまいます。そうなるとキラーT細胞は、癌細胞に気づかず、攻撃しないままになってしまうのです。
ですが、最近ではキラーT細胞に関する研究が進み、2019年2月には吉村昭彦慶応大教授ら日米の共同チームが、キラーT細胞の働きが悪くなる仕組みを解明したと発表。また、京都大iPS細胞研究所などのチームが、人のiPS細胞から、「キラーT細胞」を作ることに成功したと公表しています。
次に、ヘルパーT細胞がどのようにして癌に作用するのかを紹介していきます。
ヘルパーT細胞には、さまざまな免疫細胞と関わりながら免疫システムを起動させる重要な役割があります。そして、身体の中に侵入した病原体や癌細胞のような異物と戦う際には、それぞれの免疫細胞に攻撃命令を発します。いわば、体内で異物と戦う防衛軍における司令官のような存在といってもいいでしょう。
ヘルパーT細胞はNK細胞のような自然免疫系の免疫細胞と違って、獲得免疫系の免疫細胞です。つまり、自然免疫系の免疫細胞からサインを受け取ってから働き始めることになります。
具体的には、樹状細胞から異物発見の知らせが届くとヘルパーT細胞は活性化して増殖し、体内に散らばっていきます。そしてマクロファージやキラーT細胞に攻撃指令を与えて活性化させるのです。これがヘルパーT細胞の重要な働きのひとつです。そしてもうひとつは、B細胞に作用して抗体をつくり出させることです。
活性化して体内に散らばったヘルパーT細胞は、出会ったマクロファージを活性化させます。マクロファージは異物を発見した時点ですでに攻撃を開始しているので、もう一度活性化させるといったほうがいいかもしれません。
キラーT細胞の活性化にはヘルパーT細胞の存在が必要です。樹状細胞からのサインだけでも活性化することはしますが、ヘルパーT細胞がいなければ活性化しにくいと考えられています。
キラーT細胞が完全に活性化するのは、ヘルパーT細胞と同じ樹状細胞に結合したときです。するとヘルパーT細胞がサイトカインというタンパク質を分泌し、それを浴びてキラーT細胞が活性化するのです。
ヘルパーT細胞はB細胞を活性化して抗体をつくり出させますが、その仕組みはマクロファージを活性化させるのと同じで、自身が出会った異物と同じ異物を取り込んだB細胞を活性化させます。
B細胞は自身がつくる抗体をレセプター(受容体:受け皿のようなもの)として表面に出現させています。これを使って異物を取り込み、樹状細胞のように抗原を知らせることもできます。これを感知したヘルパーT細胞がB細胞を活性化させ、つくられた抗体が異物を攻撃するのです。
次に、制御性T細胞がどのようにして癌に作用するかを紹介していきます。
制御性T細胞はサプレッサーT細胞、またはレギュラトリーT細胞とも呼ばれ、免疫が活性化しすぎた場合に、それにブレーキをかける役割を持っています。これには免疫のブレーキ役となる免疫チェックポイント分子が関与しています。
具体的にいいますと、制御性T細胞の表面にはCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)という免疫チェックポイント分子が常に出現しています。これが樹状細胞と結合するとキラーT細胞やヘルパーT細胞が結合できなくなるため、結果として免疫の働きが弱まります。これは、どっちが樹状細胞と結合するかという単純なしくみです。
また、制御性T細胞が樹状細胞と結合すると、樹状細胞そのものの働きにもブレーキをかけることがわかっています。
癌微小環境(癌の内部のこと)では多くの免疫抑制細胞が集まり、正常な組織とは生体反応が大きく異なります。そこには他の部位よりも制御性T細胞が高頻度に存在しますが、それは癌細胞が制御性T細胞を呼び寄せる物質をつくり出しているからです。
癌に誘導された制御性T細胞は、キラーT細胞やヘルパーT細胞が樹状細胞と結合するのを阻害します。そのほかにも免疫を鎮静化させる物質や細胞傷害性物質などを産生し、キラーT細胞やヘルパーT細胞の活性化を抑制したり破壊したりして免疫を抑制し、自らを攻撃させないように仕向けるのです。
免疫にブレーキをかけている制御性T細胞の働きを低下させれば、免疫は再び活性化されるでしょう。それには主として薬剤による治療が施されます。
ひとつは細胞傷害性抗癌剤による制御性T細胞の抑制ですが、それよりも近年注目を集めているのが免疫チェックポイント阻害剤です。
癌組織の中に存在する制御性T細胞は、CTLA-4の発現が通常よりも非常に多くなっています。すでに実用化されている抗CTLA-4抗体製剤には、制御性T細胞の機能を低下させる効果があります。さらに、NK細胞やマクロファージといった免疫細胞に癌組織内の制御性T細胞の存在を知らせて排除させる作用もあります(抗体依存性細胞障害作用)。
このように制御性T細胞を抑えることで、癌細胞に対する治療効果が期待できるのです。