いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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免疫療法の副作用とその管理戦略

はじめに

外科手術、化学療法、放射線治療に次いで「第4の治療法」とされる免疫療法。標準治療を補う形で併用されることの多い免疫療法ですが、現在では免疫チェックポイント阻害剤(例:オプジーボ)などに見られる通り、積極的に選択を検討すべき重要な治療法の1つとされています。
その有効性が注目されている免疫療法ですが、最大限の効果を目指すためには、副作用の正しい理解や適切な管理戦略の策定も重要です。当ページでは、免疫療法で見られる副作用の種類、副作用の発見と診断、管理戦略等について詳しくご紹介します。

免疫療法の主な副作用

免疫関連の副作用(irAEs)

免疫療法を受けることで、「免疫関連有害事象(irAEs)」と総称される副作用を経験することがあります。
免疫関連有害事象(irAEs)の主な症状は、たとえば皮膚においては発疹やかゆみ、中毒性表皮壊死融解症(TEN)など。消化管においては下痢や腸炎、脱水、電解質異常など。肝臓においては、肝炎や黄疸、腹痛など。内分泌系においては、甲状腺機能低下や糖尿病、副腎不全などです。
安全かつ効果的な治療のためには、これら免疫関連有害事象(irAEs)の早期発見・早期対応が欠かせません。

一般的な副作用

免疫関連有害事象(irAEs)とは区別される一般的な副作用も見られることがあります。
一般的な副作用の主な症状は、疲労感や発熱、筋肉痛、関節痛、頭痛、悪心、倦怠感など。患者により、症状の程度は軽度から中等度まで見られますが、筋肉痛や関節痛が著しい場合、疼痛管理が必要となることもあります。
いずれも症状は一過性となりますが、患者さんの安心や治療効果の維持のためには、医療チームから適切なケアを受けることも大切です。

副作用の早期発見と診断

早期発見の重要性

少しでも副作用の症状を軽度に抑えるため、また、少しでも免疫療法の効果を高めるため、治療プロセスにおける副作用の早期発見は非常に重要なポイントになります。
たとえば、副作用としての下痢を早期発見できれば、腸炎への進行を予防できるでしょう。あるいは、内分泌系の異常を早期発見できれば、甲状腺ホルモン等の迅速な補充により、患者の負担を抑えることが可能となります。副作用は「軽度→中等度」と進行するため、軽度のうちに発見して対処することが、症状進行を食い止めるために大変重要です。
早期発見によって重い副作用を食い止められれば、免疫療法の中断リスクも避けられるでしょう。結果として、治療効果の維持・向上にもつながります。

副作用の診断方法

免疫療法の副作用に関する診断方法には、主に血液検査や画像診断・内視鏡検査、問診などがあります。
血液検査では、肝機能や腎機能、甲状腺ホルモンなどの異常の有無を確認します。画像診断・内視鏡検査では消化管や臓器の状態の評価、問診では疲労感や食欲不振、発熱、体重減少などの有無をチェックします。
同じ程度の副作用であっても、患者の性格等により主張には違いが見られるため、客観的な視点から副作用の有無や程度を診断することは大変重要です。

副作用の管理戦略

薬物療法

免疫療法の副作用に対する管理戦略において、一般に薬物療法は欠かせない選択肢の1つになります。
主に使用される薬物はステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなど)。皮膚炎や腸炎、肝炎など、副作用として炎症反応が生じた患者への第一選択となります。
ステロイドの投与に際しては、副作用の程度に応じた適量を検討することが前提となりますが、症状が重度の場合、ステロイド単体だけでは十分な効果を得られない場合には、免疫抑制剤(タクロリムスやミコフェノール酸モフェチルなど)の併用が検討されることもあります。
薬物療法により副作用の症状が緩和してきたら、合併症リスクを低減させるため、少しずつ薬剤を減量していくことも大切です。

支持療法

副作用の緩和を目指し、いわゆる支持療法を継続することも大変重要です。
主な支持療法としては、たとえば水分補給。副作用として下痢が見られる場合、脱水を防ぐための水分補給は大変重要です。ほかにも、体力の低下を防ぐための栄養管理、疼痛緩和のための各種薬剤の投与、皮膚炎予防のための保湿クリームの処方なども支持療法の一環として大切です。
治療中のQOL維持のため、必要に応じて臨床心理士や精神科医のサポートを受けることも、患者によっては大切な支持療法になるでしょう。

ライフスタイルの調整

免疫療法の副作用緩和に向け、患者自身によるライフスタイルの見直しも大切です。
たとえば、疲労感や倦怠感の緩和のためには、十分な睡眠時間の確保が不可欠。場合によっては、睡眠環境そのものを根本的に見直した方が良いかもしれません。
また、治療効果を高めるためには、適切な栄養摂取や水分補給も大切です。適度な運動等により、ストレスをためないことも重要でしょう。皮膚症状が見られる患者は、強い日光を避けつつ十分な保湿ケアを行うことも推奨されます。
なお、自覚している副作用の状況については、こまめに記録しておくことも大事。定期的に医師へ記録を見せることで、副作用の悪化予防につなげましょう。

患者教育とサポート

患者および家族への情報提供

免疫療法の副作用の影響を少しでも緩和させるためには、患者やその家族が、あらかじめ副作用に関して詳しく理解しておくことが大変重要です。免疫療法に見られがちな副作用の種類や兆候、程度をあらかじめ知っておけば、副作用の早期発見につながり悪化を食い止められる可能性があるからです。
また、副作用が生じた際にすぐ対応できるよう、平時や緊急時の連絡先や連絡手順を決め、家族で共有しておくことも大変重要。家族全員で副作用への理解や姿勢を共有しておくことが、患者本人にとっても家族にとっても大きな安心材料になることでしょう。

サポートネットワークの利用

免疫療法を受けるにあたり、医療チームのほかにも、カウンセラーやサポートグループなどのケアを利用することも検討してみましょう。
がん治療を受ける患者の多くは、精神的な不安やストレスを経験します。患者によっては、それら不安やストレスに押しつぶされそうになることもあるでしょう。
こうした精神的な負担を少しでも軽減させてくれるのが、カウンセラーやサポートグループ。臨床心理士のカウンセリングを受けたり、同じ治療を受ける患者・家族のサポートグループに参加したりなどすれば、精神的な負担が軽くなるとともに、治療に向けた前向きな気持ちが高まっていくことでしょう。

おわりに

がんの免疫療法について論じる際、免疫療法そのものの効果ばかりが注目されがちですが、その効果を高めるためには副作用の管理に注目することも大切です。
なぜならば、副作用が重度になると免疫療法を継続させることが困難となり、結果として免疫療法の効果を低下させることになりかねないからです。免疫療法を受ける際には、患者本人はもちろん、身近で患者のケアを行う家族もまた、副作用に関する十分な理解が必要であると心得ましょう。
実際に免疫療法をスタートさせたら、カウンセラーやサポートグループなどからの支援も検討してみてください。肉体的なケアと並行して精神的なケアも受けることで、少しでもQOLの高い毎日を目指していきましょう。