いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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腹膜への転移

腹膜への転移は、胃癌や大腸癌からによるものが多いようです。このページでは腹膜へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。

腹膜に転移するケースとは

腹膜転移とは、消化管の粘膜にできた癌が消化管の壁を突き破ることで広がる癌転移のことです。胃癌や大腸癌が転移して起こり、「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と呼ばれます。胃癌が転移した場合は、胃壁を突破した癌細胞が臓器を覆う腹膜に散らばるのが原因。大腸癌が転移した場合は、腸管を破って腸の外へ出た癌細胞が腹膜に拡散されるのが原因です。初期段階での発見が難しく、がん性腹膜炎としての自覚症状が出て初めて発見されることが多いようです。この場合、症状がかなり進行しています。

腹膜転移の症状

胃癌が腹膜に転移した時の症状と特徴

初期段階だとほぼ症状が現れませんが、進行すると次のような症状が見られます。

まず、お腹に水が溜まります。腹水が溜まると呼吸困難になる場合が多く、張りや痛みを感じることもあります。腸閉塞もよく見られる症状のひとつ。癌細胞が腹膜で大きくなると腸管を圧迫する場合があり、食べ物の通りが悪くなって腸閉塞に発展しやすいのです。

他に、肝臓やすい臓に障害が起こって黄疸が出ることもあり、発症するとかゆみが起こるようになります。

大腸癌が腹膜に転移した時の症状と特徴

初期段階で感じやすいのは、腹膜にしこりが発生することです。小さいしこりの時に発見できる方もいれば、大きくなって腸管を圧迫するようになって気づく方もいます。しこりがある程度大きくならないと見つかりにくいので厄介です。大きくなったしこりに圧迫された腸管が、腸閉塞を起こすケースも多いようです。腸閉塞が起きると、吐き気を感じる方も。痛みが強く出るため、痛みが発生してからやっと腹膜転移に気づけた方もいます。

腹膜転移の治療方法

胃癌が腹膜に転移した時の治療方法

一般的な方法は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高められる放射線や抗がん剤による全身療法です。治療効果や身体的な負担といった場合にリスクがありますが、抗がん剤を溶かした水溶液を用いて腹腔を洗浄する「腹腔内化学療法」や、広範囲にわたる腹膜の切除手術も行われています。

大腸癌が腹膜に転移した時の治療方法

いったん腹膜に広く散らばってしまうと、癌細胞をすべて手術で除去するのは難しいので、主に抗がん剤を用いた化学療法による治療が行われます。ただ、腸が狭くなって食事が取れなかったり吐いたりなど、身体的に辛い症状がある時は、症状を和らげる手術を行うこともあるそうです。

腹膜転移について

腹膜転移は、腹膜に消化管などから癌が転移して起こる病気です。転移しやすい癌に胃癌や大腸癌などが挙げられます。腹膜に覆われた腹腔内に胃壁や腸壁などを突き破ってきた癌細胞が拡散することで腹水が溜まり、腸閉塞といった症状を引き起こすのです。初期段階で病気を明確にするのは難しく、手術時やそれぞれの症状がはっきりと現れてから診断される場合がほとんどです。先に発生している胃癌や大腸癌からの転移は発見が遅れる傾向があり、腹膜に転移した癌はかなり進行していると言えます。

患者のQOL(生活の質)について

生活の質を保つためには、どのようなことが大切なのでしょうか。ここでは、患者のQOL(生活の質)について解説します。

皮下埋め込み腹腔ポート

従来使用されていた全身的な抗がん剤治療に腹腔内化学療法をプラスするこの方法は、今までの経験では、腹膜播種はもちろん、転移リンパ節や胃癌の原発巣にも高い効果が認められているとされています。

また、比較的全身に対する副作用が少ないため、外来で実施可能であり、患者のQOL(生活の質)を維持できると考えられています。

安楽な体位や清潔の保持

日常の中でケアを行うことによって、症状を和らげることも可能です。安楽な体位を工夫したり、腹水による腹部膨満感・息苦しさなどの苦痛の緩和を図ったりします。また、皮膚がパンパンに張った状態だと、デリケートで傷つきやすくなります。腹部の皮膚への刺激をなるべく避けて、皮膚を清潔に保つようにしましょう。

薬物療法や腹水穿刺

薬物療法としては、尿を排泄することによって循環血液量を減らし、血管内圧を下げるために利尿薬が使用されます。薬物療法が効果が見られない場合は、腹水の直接穿刺による排液(腹腔穿刺)が検討される場合もあります。

腹膜に転移してしまった人の体験談

腹膜への癌の転移が発覚した時、患者の心に芽生える不安感や焦燥感、絶望感は人によって様々です。そして、だからこそ色々な患者の体験談や思いへ耳を傾けることで、自分自身を見つめ直し、自分の癌治療へ前向きになれることもあります。

※記載されている治療法や薬品名は、体験者が治療を受けた時点のものです。最新の医療情報については、医師にご相談ください。

腹膜転移をきっかけに癌との向き合い方や闘病について考えた

大腸がんで開腹手術を行い、術後2カ月で職場復帰したものの、半年後に再発(腹膜播種:ふくまくはしゅ)がわかってから、初めて闘病について考えました。(中略)今は、患者自身が知識を身に付け、情報を入手し、仲間と一緒に闘病生活の改善を目指して活動することが大切だと感じています。そして、“闘病”や“延命”にとらわれずに自然に死ぬこと、小さなことでも多くの人と力を合わせて成し遂げ、感謝の思いで生活していけることを願っています。

引用元:がん情報サービス|自分らしい過ごし方

告知された時には不安もあったが可能性も示されてほっとした

(前略)結局手術が上手くいったのかどうかもわからない状況。どうなっているんだろうと、あまりいい気持ちはしなかったです。丁度この時、妻と両親は主治医から腹膜播種(国立がん研究センターがん情報サービス「腹膜播種」)要は腹膜に転移していることを告げられていたようです。「本人にも告げますが大丈夫でしょうか」という話をしていたようですね。
目が覚めてから1時間ほど経った頃でしょうか。主治医と両親、妻が病室に来て、主治医から手術開始後すぐに転移が見つかったとを告げられました。(中略)今後の治療については抗がん剤の投与を勧められました。医師からは、抗がん剤のメリット・デメリットを説明され、この時に自分がこれから何をすればいいのか、ルートを示された感じがしました。とにかく治療法があることが分かって、まだ自分には生き延びる方法があるんだなと、ホッとした記憶があります。(後略)

引用元:tomosnote|みんなの体験談

私の不安へ医師がしっかりと向き合ってくれた

私は30代から毎年人間ドックを受けていたのですが、50代の頃から肝臓の腫瘍マーカーであるAFPの高値を指摘されていました。CT上では肝臓に異常はなかったため、経過を見ていましたが肝臓ではなく腎細胞がんがわかり、右腎臓を切除しています。術後のフォローアップ検査でAFPの異常高値がみられたため、消化器内科を紹介され、そちらで経過観察を続けていたところ、50代で腹膜内悪性腫瘍がわかりました。(中略)将来が不安でたまらなくなり、家族がみな出かけてしまったあと、一人になって家事をしているときなどに、思わず涙が出てしまうこともありました。いま思うと、診断はされていませんが、うつ状態だったのかもしれません。あまりの辛さに先生に薬の変更を申し出てからは、気持ちも身体も楽になりました。先生に自分の思いを伝えたことは本当に良かったと思います。(後略)

引用元:肝臓がん情報サイト|Mrs.K様の体験記

今はまだ死ねないと思える理由が生きる目標になった

(前略)次の日は、早速手術の説明を受けました。23年前の手術の話を説明したところ、その医師からは「精巣腫瘍とは別のがんです。これほど悪性の腫瘍が大きくなっていることから、病名は後腹膜腫瘍だと思われます」と診断されました。(中略)悪性と診断されて、「この先も生きていきたい」、「子どもの卒業式に参列したい」という希望が強く、「早く治療を進めなければ」という、焦りもありました。
一方で、20歳で罹患した精巣腫瘍に罹患した際は、早く手術した結果、元気になったので今回も大丈夫、という前向きな気持ちにもなっていました。
ここで死ねない、子ども達の成長をみたい、という目標があったからこそだと思います。(後略)

引用元:オンコロ|【精巣腫瘍・後腹膜胚細胞腫瘍体験談】転移再発を乗り越えて-みんなで社会と繋がろう

腹膜の癌に対する研究と論文

腹膜播種制御に向け突破口

国立研究開発法人国立がん研究センターと国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科には、卵巣からお腹の中を覆う腹膜に広がる卵巣がん細胞の腹膜播種(ふくまくはしゅ)の転移について実験を行ないました。

この研究によって、卵巣がん細胞から分泌される細胞間のコミュニケーションの担い手となる小胞エクソソームにコラーゲン代謝に関与するMMP1遺伝子が豊富に含まれており腹膜播種性転移に関わっていることや、卵巣がんを患っている人の腹水に含まれるエクソソームの中にもMMP1遺伝子が多く含まれることを発見。

MMP1遺伝子が予後や治療効果の予測に対し、有効的なバイオマーカーとなる可能性が示されました。卵巣がんの有無を調べる検査の中でエクソソームの解析が加われば、卵巣がんの予後を早期に予測でき、経過観察における重要な情報となると考えられています。[注1]

参考文献:Nature Communications/Malignant extracellular vesicles carrying MMP1 mRNA facilitate peritoneal dissemination in ovarian cancer/Akira Yokoi, Yusuke Yoshioka, Yusuke Yamamoto, Mitsuya Ishikawa, Syunichi Ikeda, Tomoyasu Kato, Tohru Kiyono, Fumitaka Takeshita, Hiroaki Kajiyama, Fumitaka Kikkawa and Takahiro Ochiya

腹膜転移膵臓がん患者に有効な治療法を発見

関西医科大学外科学講座・里井井壯平准教授の研究チームは、腹膜へ転移した膵臓(すいぞう)がん患者を対象にした臨床実験を行ないました。

臨床実験では経口の抗がん剤「S-1」と細胞分裂を阻害してがん細胞の増殖を抑える「パクリタキセル」の静脈注射と直接投与に注目し、いくつかの施設で共同して行なう多施設共同臨床試験を実施。

その結果、対象となる集団の中で半分の人が死亡する期間を示す生存期間中央値(MST:16.3か月)、切除率24.3%、腫瘍縮小率36%が得られることがわかりました。すい臓がん全体の5年生存率は約5%となっており、致死率が高い疾患となっています。

中でも腹膜に転移した膵臓がんは化学療法での制御が困難で、有効な治療法が確立されていないのが現状です。今回の臨床試験の治療法が実用化されると、膵臓がんが腹膜へ転移した際に発症する腹部膨満感・難治性腹水・栄養低下を緩和するのに加えて、生存期間の延長が期待されます。[注2]

「腹腔内化学療法」の可能性

富山大学大学院医学薬学研究部消火器・腫瘍・総合外科教授の藤井勉先生は、膵臓がんの手術前治療を行なっています。5年間データを集めたところ、手術のみの膵臓がん治療よりも、手術前に化学治療や法線治療を行なってから手術を実施した方が、再発の確率が低いことが明らかになりました。

また、膵臓がんの腹膜播種に対する治療として、「腹腔内科学療法」の可能性に期待しています。腹腔内化学療法は金属のボタンをお腹に埋め込み、ビニールのチューブを使用して直接抗がん剤を入れ込む治療法です。

33例のうち、半数は浮遊しているがん細胞が消失し、3分の1の人は血液検査の際にがんの有無を示す数値の腫瘍マーカーが正常値に。

大元の膵臓がんにも効果があり、腫瘍が小さくなり手術を行なえたケースもあります。腹腔内化学療法が確立すれば、膵臓が治療の未来が明るくなるはずです。[注3]

腹膜に散らばった転移胃がんに新たな治療法

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の放射線がん研究生物学研究チームに所属する、長谷川純崇チームリーダーと李惠子日本学術振興会特別研究員は、同研究所の永津弘太郎主幹研究員と共に腹膜播種(ふくまくはしゅ)した転移性胃がんに対しα線放出核種を用い治療薬(211At-トラスツズマブ)を作製し、動物実験で治療効果を確認。

その結果、211At-トラスツズマブを投与したマウスは6匹中5匹が生存し、そのうち2匹はがんが消失し、残りの3匹は50~90%のがん退縮が認められました。

懸念されていた白血球や体重の減少は観察されず、腎臓や肝臓の機能異常もありませんでした。効果的な治療法が確立されていない、胃がん腹膜播種の新たな治療法となることが期待されています。[注4]

参考文献:Locoregional therapy with α-emitting trastuzumab against peritoneal metastasis of human epidermal growth factor receptor 2-positive gastric cancer in mice/Huizi Keiko Li, Yukie Morokoshi, Kotaro Nagatsu, Tadashi Kamada, and Sumitaka Hasegawa

腹膜播種を伴う大腸癌の積極的切除の安全性や意義を評価

腹膜への癌転移を引き起こす癌として大腸癌が知られていますが、進行性大腸癌から腹腔内へ癌細胞が散らばった腹膜播種については、手術や放射線照射による治療が困難とされ、基本的には全身化学療法が唯一の治療法とされていました。

しかし2024年3月、国立がん研究センターは腹膜播種を伴う大腸癌の治療として、積極的切除(完全減量手術)の有効性や安全性の評価をするため、同年4月から臨床試験をスタートすると発表しました。

そもそも腹膜播種に対する全身化学療法の効果は限定的とされ、予後も不良であったことが重要です。そのような状況下で国立がん研究センターでは、腹腔内に拡散した腹膜播種について、目に見えるがん病変を全て切除することにより癌の完全除去を目指しています。

この積極的切除によって生存期間の延長が期待され、欧米では実施施設も増えている反面、合併症リスクや手術の困難さといったハードルもあり、今回の臨床試験の結果は将来的な治療の検討に影響するとされています。

参照元:オンコロ|【臨床試験開始】日本における大腸がんの腹膜播種に対する積極的切除の意義検証

米ぬか由来ナノ粒子の抗がん作用によって新薬開発の期待が広がる

東京理科大学薬学部薬学科の西川元也教授や同大学薬学部生命創薬科学科の草森浩輔准教授らによって構成されている研究チームは、2024年4月、米ぬか由来のエクソソーム様ナノ粒子(rbNPs; rice bran-derived nanoparticles)に優れた抗がん作用が存在することを発表しました。

同研究では、コシヒカリの米ぬかを原料としてリン酸緩衝生理食塩水を使って抽出したナノ粒子(rbNPs)を、マウス結腸がんcolon26細胞へ投与したところ、他の植物由来ナノ粒子よりも優れた細胞傷害作用を示したと報告されています。加えて、米ぬか由来ナノ粒子は癌細胞に対して特異的に作用しており、副作用のリスクを抑えられる安全性についても合わせて発見されたことが重要です。

この結果、rbNPが新薬創成の原料候補として大きな価値があると期待されており、また同研究成果は2024年3月16日付けで国際学術誌「Journal of Nanobiotechnology」のオンライン版にも掲載されました。

参照元:PR TIMES|米ぬか由来ナノ粒子の抗がん作用を確認 ~未利用資源を原料とした安価で安全なナノ粒子製剤開発に期待~

腹膜への転移や腹膜播種を促進させる新たな中皮細胞の役割を解明

公益財団法人がん研究会がん研究所発がん研究部の米村敦子研究助手と、熊本大学国際先端医学研究機構客員教授である石本崇胤部長を中心に結成された研究チームが、藤田医科大学やシンガポール国立大学、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターといった研究機関と共同研究を行い、腹膜転移や腹膜播種の進行に中皮細胞が関与する新たな仕組みを解明したと発表しました。

同研究では、腹膜播種に伴う癌性腹水の中において中皮細胞が増加し、その多くが間葉系中皮細胞であることが発見されています。また、さらにそれらの中皮細胞が免疫抑制性細胞を一層に集積させ、癌細胞が腹膜へ定着しやすい環境を促進していることも解明されました。

この研究成果は消化器系癌から腹膜への転移機構を一層詳細に解明する一助になると共に、再発予防や新しい癌治療のアプローチを検討する可能性を広げています。

参照元:PR TIMES|胃がん腹膜播種を促進する中皮細胞の新たな役割を解明

蛍光タンパク質で癌細胞を7色に光らせて腹膜転移の仕組みを追跡

公益財団法人佐々木研究所附属佐々木研究所の副所長である山口英樹氏と宮崎允研究員が中心となって構成されている研究グループが、癌細胞を蛍光タンパク質で発光させて追跡することにより、進行胃癌や卵巣癌、大腸癌などを原発として腹膜へ転移する腹膜播種の仕組みを解明しました。なお、同研究は他に国立がん研究センターや東京理科大学、東京薬科大学など複数の研究機関が共同研究しており、文部科学省科学研究費補助金などの助成を受けて実施されています。

本研究ではまずRGBマーキングという手法を使って7色に光る癌細胞を作成し、それをマウスの腹腔内へ移植することで腹膜への転移を起こさせ、その後の腫瘍の状態を観察しました。なお、染色は細胞の特性によって色分けがされるため、特定の色集団が構成されれば、必然的に細胞特性に合わせたクラスターが形成されていると判明します。

結果的に癌細胞は腹腔内でクラスターを結成し、腹膜へ集団で接着してマルチクローナルな腫瘍へ発達することが確認されました。

参照元:PR TIMES|がん細胞を七色に光らせて腹膜播種の仕組みを解明

腹膜から腫瘍細胞までの距離測定によって再発率を予測

大阪市立大学大学院医学研究科癌分子病態制御学・消化器外科学の八代正和研究教授らによって構成される研究グループによって、腹膜(胃漿膜表面)から腫瘍細胞までの距離(DIFS)が、腹膜への転移(腹膜播種)のリスクへ影響していることが解明されました。

そして同時に、その結果によって、腹膜から腫瘍細胞までの距離を測定することにより、腹膜播種の再発リスクについても予測を行えるという仕組みを発見しています。

同研究では高性能顕微鏡を使って腹膜と腫瘍細胞の距離をマイクロメートルレベルで測定したところ、両者の距離がある程度より近い関係にある場合において、腹膜播種の再発リスクが向上することが発見されました。なお、DIFS測定はおよそ1分で行えるものであり、今回の研究成果によって将来的な再発リスク分類や、化学療法における薬剤選定にも新しいアプローチが期待されています。

参照元:大阪市立大学|胃漿膜表面(腹膜)から腫瘍細胞までの距離(DIFS)測定が、胃癌患者の腹膜播種再発の予測に有用

卵巣癌・卵管癌・腹膜癌に対する治験薬「IMGN853」の第3相試験

2024年10月25日、武田薬品工業から卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治験薬「IMGN853」に関する第3相試験の実施状況についての公式発表が行われました。

同試験は高異型度漿液性上皮性卵巣癌、卵管癌、そして原発性腹膜癌の診断を受けている18歳以上の女性患者が対象となっており、また葉酸受容体αに関して陽性の患者が選定され、その他にもプラチナ製剤を含んだ一次化学療法を終えてから6ヶ月以上が経過した後に再発した癌や、二次治療としてプラチナ製剤を用いた3剤併用療法が対象になる方といった条件が指定されています。治験の参加者は418人が予定されており、実施期間は「2022年12月から2029年4月まで」を想定されています。

「IMGN853」の治療効果の検証を行うに当たって、実施医療機関として国立がん研究センター中央病院と国立がん研究センター東病院が指定されており、治験方法は治験薬IMGN853とベバシズマブを併用する群と、ベバシズマブのみを使用する群に分かれ、それぞれの群に対して3週間に1回の注射が1サイクルとして行われるといった流れです。

臨床試験に関する情報は随時Webサイトなどで公開される予定となっており、結果についても武田薬品工業の臨床試験情報専用サイトなどで公開されることになっています。

参照元:武田薬品工業|卵巣がん、卵管がん、腹膜がんに対するIMGN853の第3相試験

腹膜播種を伴う大腸癌への完全減量手術の臨床試験が2024年4月に開始

2024年3月、国立がん研究センター中央病院大腸外科において、腹膜播種を伴う大腸癌の治療として積極的切除(完全減量手術)に関する安全性評価のための臨床試験(jRCT1030230662)を、同年4月から開始することが公式にアナウンスされました。

前提として、腹膜播種では病変が腹膜の各所に点在している状況から、手術による切除やピンポイントでの放射線治療が困難であり、一般的には全身化学療法による治療が行われています。一方、腹膜播種に対する抗がん剤治療や化学療法は効果が限定的であることも事実であり、根治を目指すために海外では認識可能な播種病変を全て切除する「完全減量手術」が行われていることもポイントです。

ただし、完全減量手術は患者の肉体にダメージを与える治療である上、そもそも手術の難易度が高く、合併症によるリスクなどが懸念されている点も無視できません。加えて、現実的に全身化学療法と完全減量手術の間でどの程度の生存期間の有意差があるのか信頼できる客観的なデータも乏しいことが実状でした。

そこで国立がん研究センター中央病院は改めて腹膜播種を伴う大腸癌患者に対する完全減量手術の安全性を評価するため、2024年4月から3年間を目処に臨床試験を開始することを報告しています。

参照元:がんナビ|生存期間の延長が期待される完全減量手術 国立がん研究センターが腹膜播種を伴う大腸癌への完全減量手術の安全性を評価する臨床試験を4月から開始

腹膜転移を伴う胃癌患者に対する術中診断法の開発と臨床試験

大阪市立大学医学研究科 癌分子病態制御学・腫瘍外科学・難治がんTRセンター副センター長である八代正和准教授や腫瘍外科学の大平雅一教授らを中心とする研究グループにより、胃癌患者の腹膜転移リスクに関する術中診断方法が開発され、またそれを活用した術中予防的治療の有用性についての臨床試験がスタートしました。

そもそも同研究は、胃癌の術後再発で最も頻度が高いとされる腹膜転移に着目しており、研究グループは、胃癌の切除手術中に腹膜転移のリスクを病理診断することで、手術を継続しながら抗がん剤投与や腹腔内大量洗浄といった術中予防的治療を行えるようにし、その確立を目指しています。

手術中に腹膜転移のリスクマネジメントを同時に行えるようになれば、手術の合理性を高めて患者に追加手術の負担をかけることなく、術後の再発リスクや転移リスクを軽減できると期待されるため、非常に意義が大きいと考えられます。

なお、先行研究によって、漿膜捺印細胞診や漿膜擦過細胞遺伝子増幅を用いた診断によって腹膜転移リスクを判定できるようになったこともポイントであり、2017年4月から術中病理診断を対象とした臨床試験がスタートされています。

参照元:大阪市立大学|胃癌の腹膜転移予測に有用な術中診断法を開発 腹膜転移リスク患者に 術中予防的治療の臨床試験を開始

腹膜播種を伴う進行胃癌におけるラムシルマブとパクリタキセル/nab-パクリタキの併用効果

2022年1月20日から1月22日にかけてアメリカのサンフランシスコを主会場にハイブリッド形式で開催された「Gastrointestinal Cancers Symposium(ASCO GI 2022)」において、日本の慶應義塾大学の平田賢郎氏による研究グループが、腹膜播種を伴う進行胃癌の治療として「ラムシルマブ+パクリタキセル」の併用療法と、「ラムシルマブ+nab-パクリタキセル」の併用療法では両者に有意な効果差が認められないという研究結果を発表しました。

まず、前提として「フッ化ピリミジン系薬剤を含む1次治療に不応・不耐となった腹膜播種のある切除不能な進行・再発胃癌の患者に対しては、ラムシルマブにnab-パクリタキセルを加えた併用療法がより有効」といった仮説があり、同研究はそれを客観的に評価することが目的とされていました。

そして105人の患者を対象として、パクリタキセルとラムシルマブ併用療法群(パクリタキセル群)で53人、nab-パクリタキセルとラムシルマブ併用療法群(nab-パクリタキセル群)に52人というグループを分類し、それぞれの状態を調査した結果、両者の群において全生存期間などに明確な有意差は認められませんでした。

結果的に、どちらの治療法も選択肢になり得ることが示され、患者の状態などを考慮して適切な治療法を選択しやすくなったことは重要であると考えられています。

参照元:がんナビ|腹膜播種がある進行胃癌の2次治療でのラムシルマブの併用効果はパクリタキセルとnab-パクリタキセルで差はなし【ASCO GI 2022】

重度の腹膜転移を伴う進行胃癌の1次治療に「mFOLFOX6」を選べる可能性

2022年の6月29日~7月2日の期間、スペインのバルセロナで開催された「ESMO World Congress on Gastrointestinal Cancer 2022(WCGIC 2022)」において、埼玉県立がんセンターの原浩樹氏らによる研究チームが、重度の腹膜転移のある進行胃癌の患者に対して、1次治療の選択肢として「mFOLFOX6」の使用も検討できることが示されたという多施設単群オープンラベルフェーズ2試験の結果を報告しました。

臨床試験の対象となった患者は、重度の腹膜転移を伴う進行胃癌の患者で、さらに高度腹水あり、もしくは経口摂取不能のどちらかに該当している、もしくはその両方に該当していることが条件とされました。年齢は20歳から75歳で、当初の患者数設定は50人でしたが、最終的に51人が試験に参加しています。

試験の結果、治験レジメンとして「mFOLFOX6」を使用したところ、mFOLFOX投与に忍容性があるとされ、全生存期間(OS)に関しても95%信頼区間の下限値が閾値を上回ったことで主要評価項目が達成されています。

これらの結果にもとづき、研究チームは重度の腹膜転移を伴う進行胃癌の患者に対して、1次治療の選択肢に「mFOLFOX6」を検討することも可能であるという報告を行いました。

参照元:がんナビ|mFOLFOX6は重度の腹膜転移がある進行胃癌の1次治療の選択肢になり得る【WCGIC 2022】

腹水中の老化細胞によって胃癌の腹膜播種リスクが高まるメカニズムを解明

胃癌の患者においては高頻度で腹膜播種を有することが課題となっていますが、熊本大学の研究者を中心とした共同研究グループの報告により、患者の腹水中の老化細胞が、胃癌腹膜播種の増大を誘引するというメカニズムが新たに解明されました。

同研究グループは、癌細胞の周辺組織で癌微小環境を形成する癌関連線維芽細胞(CAFs)の研究を行っており、今回の報告ではCAFsの老化細胞が癌の腹膜播種を増大させることを発見しています。

まず、CAFsは癌細胞や周囲の細胞から放出される炎症性物質(サイトカイン)によって細胞増殖が停止するなど、いわゆる細胞老化の状態に至っていることが認められました。また、老化したCAFsは癌細胞の進展を助長する老化関連タンパク質を分泌し、慢性炎症を誘発することも知られています。

そしてさらに老化CAFsの詳細な遺伝子解析を行ったところ、細胞老化関連物質の分泌に関与する遺伝子の活性化が認められ、結果として老化CAFsは持続的に癌進展を促進するタンパク質を分泌していることが明らかとなりました。そして老化CAFsはスキルス胃癌患者の癌性腹水中に存在していることも解明され、総論として腹水中の老化CAFsが胃癌の腹膜播種を促進すると結論づけられています。

参照元:EurekAlert!|腹水中の老化細胞が胃がん腹膜播種の増大を引き起こす新たなメカニズムを解明

臨床試験や治療法のトレンド

臨床試験や治療法のトレンドには、どのような治療があるのか気になるものです。国立がん研究センター中央病院や関東労災病院などの研究や治療法などについてご紹介します。比較的新しい治療法が知りたい方は、チェックしてみてください。

2024年4月より国立がん研究センター中央病院にて大腸がんの腹膜播種に対する臨床試験開始

大腸がんの腹膜播種は、有効な治療法が明らかにされていない中、それに対する臨床試験を、2024年4月より国立がん研究センター中央病院で開始しました。腹膜播種は、抗がん剤の効果が現れにくく、がん病巣をすべて切り取る手術より、生存期間が延長する可能性があるとされています。

しかし、手術の難易度が高く、合併症の心配があることから、日本では専門の医療機関でもほとんど実施されてきませんでした。この試験では、大腸がん腹膜播種に対する手術が安全に行える治療なのか、科学的な評価を行い、さらに検証をします。大腸がん腹膜播種に対して、標準治療の確立を目指して行くとされています。

対象

研究期間と登録予定

完全減量手術実施から術後6か月まで、重篤な有害事象の発生頻度について調査し、安全性の評価を行います。期間は2024年4月から3年間の予定で、20例が登録予定となっています。

参照元:国立がん研究センター|大腸がんの腹膜播種に対する積極的切除の臨床試験を開始

関東労災病院で行われている腹腔内化学療法

延命・症状緩和を目的とした抗がん剤治療

腹膜播種は、ステージ4病期分類される状態で、手術で根治は期待できません。

胃を全摘できたとしても、腹腔という部位に散らばったがん細胞を取り覗けないからです。各種検査の結果、術前に腹水や腹膜播種の所見がみられた場合、特別な事情がない限り、急いで手術する意味はないといわれています。また、切除予定で開腹したところ、腹膜播種が発見された場合も、切除せずにそのままお腹を閉じるのが一般的です。

しかし、胃がんからの出血があり、貧血症状が改善しない場合や、がんのために食物の通りが悪い場合には、手術を行うケースもあります。腹膜播種で胃切除手術を行えなかった場合の標準的な治療方法は、肝転移や肺転移が見られる場合と同じで、延命・症状を緩和する目的とした抗がん剤治療です。

小腸や大腸の通過障害などを起こしている場合は、入院し絶食して、点滴で栄養を補給を行います。経鼻の穴から胃まで入れた管で、胃液を身体の外へ排出して嘔気や嘔吐をおさえるようにします。

バイパス手術や人工肛門造設術を実施する場合がある

ケースによっては、バイパス手術や人工肛門造設術を行うケースがあるとされています。肝・肺と違い、腹膜は生命の維持に必須の部位ではないため、腹膜播種のみでは、かならずしも今すぐ生命にかかわる事態にはならないとされています。しかし、長い期間、さまざまな症状に悩まされることがあるため、対処しなければなりません。大量に腹水貯留の見られる患者に対して、腹部へ針を刺し腹水を抜くことにより症状を緩和する場合があります。

頻回に穿刺排液すると体力低下を招くため、なるべく我慢してもらう場合が多い状況でした。しかし、最近 CART(腹水濾過濃縮再静注法)と呼ばれる方法で、大量に貯留している腹水による苦痛を軽減する試みが行われています。

腹腔内化学療法

タキサン系抗がん剤は、シスプラチンよりも長い時間、お腹の中にとどまる性質があることから、同院では、ステージ4の胃がんのうち、腹膜播種の初回治療には、S-1・シスプラチンと比べて、S-1・タキサン系抗がん剤の方が効果である可能性が高いのではないかと考えられています。

腹膜播種の見られる周りの抗がん剤濃度を増やすため、抗がん剤の静脈投与にプラスして、腹腔内化学療法と呼ばれる方法も一緒に行われることになりました。

具体的には、下腹部の皮下に埋め込んだ薬剤の注入器(ポート)より細い管を腹腔内に入れ、タキサン系抗がん剤(パクリタキセル・ドセタキセル)を繰り返し腹腔内に注入していく治療です。

参照元:関東労災病院|腹腔内化学療法について

国立国際医療研究センターでは大腸がん腹膜播腫に対して全身・腹腔内化学療法により臨床試験を実施

大腸がんの腹膜播腫は、肝転移・肺転移と同様に、治癒切除が不可能な要因とされています。大腸がんにおいては、遠隔転移が見られたとしても、なるべく外科的切除を行うのが望ましいですが、腹膜播腫では肝転移・肺転移よりも切除できる率が低いと考えられています。

また、腹膜播腫は、肝転移・肺転移よりも一般的に予後が悪いのが特徴です。国立国際医療研究センターでは、今まではどうにもならないと言われてきた大腸がん腹膜播腫に対し、全身・腹腔内化学療法によって生存期間の延長を図るという比較的新しい治療法を、臨床試験にて行っています。

参照元:国立国際医療研究センター|大腸癌腹膜播腫に対する新しい治療

大腸がんの腹膜播種に関して手術で切除できるケースでは腹膜切除を検討

大腸がんが腹膜播種を起こしている事例の治療方法について、国立国際医療研究センター病院の合田先生の見解をまとめます。大腸がんの腹膜播種や肝転移・肺転移などの遠隔転移における標準治療は、抗がん剤治療がメインなっています。

ただし、抗がん剤治療で根本的な治療を行えるケースは限りがあり、抗がん剤を用いて病状をコントロールできるのは2年ほどといわれています。大腸がんの腹膜播種に関しては、手術で切除できるケースは、腹膜切除を検討すべきだと考えています。

しかし、腹膜切除は、患者の身体への負担が大きい治療法のため、すべての方に適応となるわけではありません。希望する方は、治療実績がある医療機関へ相談するのが望ましいとコメントしています。

参照元:メディカルノート|大腸がんの腹膜播種に対する治療——腹膜切除と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)について

予防やスクリーニングに関する情報

予防について

腹膜転移や腹膜癌に特化した癌予防について見つけることはできませんでしたが、国立研究開発法人国立がん研究センターなどの機関では生活習慣の見直しのように、適切な取り組みをすることで癌リスクの軽減を目指せると考えています。

腹膜転移は原発性の腹膜癌だけでなく、胃癌や大腸癌といった別の臓器の癌から転移して発生することも多いため、基本的な癌予防対策を心がけることで間接的に腹膜癌のリスク軽減に役立つともいえるでしょう。ここでは癌予防として一般的に重要とされるポイントについて解説します。

生活習慣の改善による予防

国立がん研究センターなどの研究グループでは、日本人における癌リスクの予防法について研究を続けており、結果として日本人の癌予防としては大きく生活習慣に関連した5つの項目と、さらに感染症に起因するものの、合計6つの項目が重要であると定めました。

その中でも生活習慣に関連した予防法としては以下の5つが大切になります。

まず禁煙は癌予防において重要な項目であり、喫煙習慣がある人は胃癌や大腸癌、食道癌など様々な癌に関して、タバコを吸わない人よりも発癌リスクが高いことが分かっています。つまり禁煙は癌予防の具体的な方法として明確に役立つと考えることが可能です。

飲酒も癌リスクに関連した習慣であり、特にアルコールに対する耐性が低い人ほど節酒や断酒が癌予防に役立つとされています。またアルコールに対する耐性の高い人でも、飲酒量をコントロールすることで癌リスクを軽減可能です。

さらに飲酒だけでなく、食生活そのものを見直して塩分や脂肪分の多い食事を避けることで、生活習慣病といわれる病気や体調不良のリスクを低減できる他、暴飲暴食を避けて適正な体重をコントロールすることも癌予防として重要となります。

その他にも適切な運動習慣のように身体活動を取り入れることで、身体機能の低下を防いだり体重管理に役立てたりといった効果も期待できるでしょう。なお過度な運動や痩せ過ぎは危険です。

感染回避による予防

感染症も日本人の癌の原因として大きなものとなっており、特に女性の癌患者では癌の原因として第1位に当たるものが感染症とされています。

感染症にはウイルス性のものや細菌性のものがありますが、感染源と癌の相関としては主に以下のようなものが挙げられます。

上記は感染症と癌の関係を示す一例であり、これらの感染症になったからといって常に癌を発症するとは限りません。しかし感染症により癌リスクは増大するため、適切なワクチン接種や健診といった感染症対策が必要です。[注5]

スクリーニングについて

スクリーニングとは、適切な検査や診察を行うことで、自覚症状のない患者から癌を発見したり異常を診断したりすることを指します。すでに癌と診断されている患者のための検査でなく、まだ癌と診断されていない患者で癌を早期発見したり、再発・転移といった癌の発生を速やかにチェックしたりするためにスクリーニングは大切なポイントです。

癌スクリーニングには色々な種類がありますが、腹膜癌や腹膜転移のスクリーニングとしては内診や経過的超音波検査、CA125検査などが挙げられます。

内診

内診とは、内診台と呼ばれる台の上に患者を乗せて、婦人科医などの医師が患者の膣に指を挿入して子宮や卵巣の状態を調べる方法です。またお尻から指を入れて腸内の状態などを触診することもあります。内診は患者の体内へ指を入れて内側からしこりの有無や異常の有無などチェックする診断方法であり、さらに腹部へ手を添えて体を挟むように触ることで、腹膜の癌や転移について診断することも可能です。

なお指を挿入して内診するだけでなく、膣鏡と呼ばれる器具を挿入して診察することもあります。

経膣的超音波検査

経膣的超音波検査とは文字通り超音波検査(エコー診断)の1種であり、体の表面に超音波検査装置を当てて体内のエコー診断をするのでなく、専用の器具を膣内へ挿入して体の内側から超音波を照射してエコー診断することになります。

膣内へ超音波発生装置を挿入して体の中から診断部位へアプローチすることにより、体外からのエコー診断よりも検査の品質を高めてより詳細にチェックできることが強みです。

経膣的超音波検査は女性患者のためのスクリーニングですが、診断できる部位としては膣や子宮、卵管、そして膀胱が挙げられます。

CA125検査

CA125検査は血液検査として実施される癌スクリーニングであり、「CA125」は癌マーカーとして知られている物質の1つです。CA125検査は検査対象者の血液を採取して、血液内のCA125濃度を測定します。

癌マーカーは、癌が発生することで体内に産生されたり増加したりする物質であり、CA125は卵巣癌に関連した癌マーカーとして知られています。そのため血液検査によってCA125の血中濃度が通常よりも高くなっている場合、卵巣癌などのリスクが疑われるという診断になることがポイントです。

なお、CA125の血中濃度が高いからといって常に卵巣癌になっているとは限らない点も重要です。

スクリーニングのリスク

癌の治療は早期発見・早期治療が原則であり、スクリーニングによって癌のリスクや有無を速やかにチェックすることは癌治療の品質を向上させるために欠かせない過程といえるでしょう。しかしスクリーニングをしたからといって100%癌を発見できるという保証はなく、むしろスクリーニングによるリスクやデメリットがあることも考えなければなりません。

偽陰性の検査結果が出る可能性がある

偽陰性とは、本来であればスクリーニングで陽性の結果が出なければならない患者に対して、陰性の結果が誤って出てしまう現象です。偽陰性は癌を見落とす原因になり、速やかに治療すべき患者を健康体であると誤って診断してしまうリスクが高まります。

そのためスクリーニングは1つの検査だけを行うのでなく、複数の検査を併用して総合的に診断することで偽陰性のリスクを軽減させることが重要となります。

なお偽陰性は適切に検査を行っても発生するリスクがあり、不適切な方法で検査すれば当然ながら検査の品質が低下することも無視できません。

偽陽性の検査結果が出る可能性がある

偽陽性とは、癌が発生していない患者に対して、癌の疑いありという陽性結果がでる状態です。偽陽性では健康な人にも癌の疑いがあるという診断が下されるため、偽陽性が出た場合、本来は必要でない検査や治療がさらに行われるかも知れません。

偽陰性のように癌を見落とす恐れを考えれば偽陽性の方がマシだと思われることもありますが、癌検査には体へダメージを与えるものもあるため、不必要なリスクを招く恐れは避けるべきでしょう。

癌を発見した場合でも健康状態の改善が難しい場合がある

癌には自覚症状がないままに進行していくものもあり、スクリーニングによって癌を発見できたとしても、すでに癌の状態が治療困難なまでに悪化しているケースは少なくありません。またスクリーニングには患者の体へ負担を強いるものもあります。

そのためスクリーニングは早期発見・早期治療の原則において大切なポイントですが、スクリーニングを行うことで全ての癌治療を目指せるわけでなく、患者の健康状態やリスクも考慮した上で実施を検討することが肝要です。

参考サイト