腹膜への転移は、胃癌や大腸癌からによるものが多いようです。このページでは腹膜へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。
腹膜転移とは、消化管の粘膜にできた癌が消化管の壁を突き破ることで広がる癌転移のことです。胃癌や大腸癌が転移して起こり、「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と呼ばれます。胃癌が転移した場合は、胃壁を突破した癌細胞が臓器を覆う腹膜に散らばるのが原因。大腸癌が転移した場合は、腸管を破って腸の外へ出た癌細胞が腹膜に拡散されるのが原因です。初期段階での発見が難しく、がん性腹膜炎としての自覚症状が出て初めて発見されることが多いようです。この場合、症状がかなり進行しています。
初期段階だとほぼ症状が現れませんが、進行すると次のような症状が見られます。
まず、お腹に水が溜まります。腹水が溜まると呼吸困難になる場合が多く、張りや痛みを感じることもあります。腸閉塞もよく見られる症状のひとつ。癌細胞が腹膜で大きくなると腸管を圧迫する場合があり、食べ物の通りが悪くなって腸閉塞に発展しやすいのです。
他に、肝臓やすい臓に障害が起こって黄疸が出ることもあり、発症するとかゆみが起こるようになります。
初期段階で感じやすいのは、腹膜にしこりが発生することです。小さいしこりの時に発見できる方もいれば、大きくなって腸管を圧迫するようになって気づく方もいます。しこりがある程度大きくならないと見つかりにくいので厄介です。大きくなったしこりに圧迫された腸管が、腸閉塞を起こすケースも多いようです。腸閉塞が起きると、吐き気を感じる方も。痛みが強く出るため、痛みが発生してからやっと腹膜転移に気づけた方もいます。
一般的な方法は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高められる放射線や抗がん剤による全身療法です。治療効果や身体的な負担といった場合にリスクがありますが、抗がん剤を溶かした水溶液を用いて腹腔を洗浄する「腹腔内化学療法」や、広範囲にわたる腹膜の切除手術も行われています。
いったん腹膜に広く散らばってしまうと、癌細胞をすべて手術で除去するのは難しいので、主に抗がん剤を用いた化学療法による治療が行われます。ただ、腸が狭くなって食事が取れなかったり吐いたりなど、身体的に辛い症状がある時は、症状を和らげる手術を行うこともあるそうです。
腹膜転移は、腹膜に消化管などから癌が転移して起こる病気です。転移しやすい癌に胃癌や大腸癌などが挙げられます。腹膜に覆われた腹腔内に胃壁や腸壁などを突き破ってきた癌細胞が拡散することで腹水が溜まり、腸閉塞といった症状を引き起こすのです。初期段階で病気を明確にするのは難しく、手術時やそれぞれの症状がはっきりと現れてから診断される場合がほとんどです。先に発生している胃癌や大腸癌からの転移は発見が遅れる傾向があり、腹膜に転移した癌はかなり進行していると言えます。
腹膜への癌の転移が発覚した時、患者の心に芽生える不安感や焦燥感、絶望感は人によって様々です。そして、だからこそ色々な患者の体験談や思いへ耳を傾けることで、自分自身を見つめ直し、自分の癌治療へ前向きになれることもあります。
※記載されている治療法や薬品名は、体験者が治療を受けた時点のものです。最新の医療情報については、医師にご相談ください。
大腸がんで開腹手術を行い、術後2カ月で職場復帰したものの、半年後に再発(腹膜播種:ふくまくはしゅ)がわかってから、初めて闘病について考えました。(中略)今は、患者自身が知識を身に付け、情報を入手し、仲間と一緒に闘病生活の改善を目指して活動することが大切だと感じています。そして、“闘病”や“延命”にとらわれずに自然に死ぬこと、小さなことでも多くの人と力を合わせて成し遂げ、感謝の思いで生活していけることを願っています。
(前略)結局手術が上手くいったのかどうかもわからない状況。どうなっているんだろうと、あまりいい気持ちはしなかったです。丁度この時、妻と両親は主治医から腹膜播種(国立がん研究センターがん情報サービス「腹膜播種」)要は腹膜に転移していることを告げられていたようです。「本人にも告げますが大丈夫でしょうか」という話をしていたようですね。
目が覚めてから1時間ほど経った頃でしょうか。主治医と両親、妻が病室に来て、主治医から手術開始後すぐに転移が見つかったとを告げられました。(中略)今後の治療については抗がん剤の投与を勧められました。医師からは、抗がん剤のメリット・デメリットを説明され、この時に自分がこれから何をすればいいのか、ルートを示された感じがしました。とにかく治療法があることが分かって、まだ自分には生き延びる方法があるんだなと、ホッとした記憶があります。(後略)
私は30代から毎年人間ドックを受けていたのですが、50代の頃から肝臓の腫瘍マーカーであるAFPの高値を指摘されていました。CT上では肝臓に異常はなかったため、経過を見ていましたが肝臓ではなく腎細胞がんがわかり、右腎臓を切除しています。術後のフォローアップ検査でAFPの異常高値がみられたため、消化器内科を紹介され、そちらで経過観察を続けていたところ、50代で腹膜内悪性腫瘍がわかりました。(中略)将来が不安でたまらなくなり、家族がみな出かけてしまったあと、一人になって家事をしているときなどに、思わず涙が出てしまうこともありました。いま思うと、診断はされていませんが、うつ状態だったのかもしれません。あまりの辛さに先生に薬の変更を申し出てからは、気持ちも身体も楽になりました。先生に自分の思いを伝えたことは本当に良かったと思います。(後略)
(前略)次の日は、早速手術の説明を受けました。23年前の手術の話を説明したところ、その医師からは「精巣腫瘍とは別のがんです。これほど悪性の腫瘍が大きくなっていることから、病名は後腹膜腫瘍だと思われます」と診断されました。(中略)悪性と診断されて、「この先も生きていきたい」、「子どもの卒業式に参列したい」という希望が強く、「早く治療を進めなければ」という、焦りもありました。
一方で、20歳で罹患した精巣腫瘍に罹患した際は、早く手術した結果、元気になったので今回も大丈夫、という前向きな気持ちにもなっていました。
ここで死ねない、子ども達の成長をみたい、という目標があったからこそだと思います。(後略)
引用元:オンコロ|【精巣腫瘍・後腹膜胚細胞腫瘍体験談】転移再発を乗り越えて-みんなで社会と繋がろう
国立研究開発法人国立がん研究センターと国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科には、卵巣からお腹の中を覆う腹膜に広がる卵巣がん細胞の腹膜播種(ふくまくはしゅ)の転移について実験を行ないました。
この研究によって、卵巣がん細胞から分泌される細胞間のコミュニケーションの担い手となる小胞エクソソームにコラーゲン代謝に関与するMMP1遺伝子が豊富に含まれており腹膜播種性転移に関わっていることや、卵巣がんを患っている人の腹水に含まれるエクソソームの中にもMMP1遺伝子が多く含まれることを発見。
MMP1遺伝子が予後や治療効果の予測に対し、有効的なバイオマーカーとなる可能性が示されました。卵巣がんの有無を調べる検査の中でエクソソームの解析が加われば、卵巣がんの予後を早期に予測でき、経過観察における重要な情報となると考えられています。[注1]
参考文献:Nature Communications/Malignant extracellular vesicles carrying MMP1 mRNA facilitate peritoneal dissemination in ovarian cancer/Akira Yokoi, Yusuke Yoshioka, Yusuke Yamamoto, Mitsuya Ishikawa, Syunichi Ikeda, Tomoyasu Kato, Tohru Kiyono, Fumitaka Takeshita, Hiroaki Kajiyama, Fumitaka Kikkawa and Takahiro Ochiya
関西医科大学外科学講座・里井井壯平准教授の研究チームは、腹膜へ転移した膵臓(すいぞう)がん患者を対象にした臨床実験を行ないました。
臨床実験では経口の抗がん剤「S-1」と細胞分裂を阻害してがん細胞の増殖を抑える「パクリタキセル」の静脈注射と直接投与に注目し、いくつかの施設で共同して行なう多施設共同臨床試験を実施。
その結果、対象となる集団の中で半分の人が死亡する期間を示す生存期間中央値(MST:16.3か月)、切除率24.3%、腫瘍縮小率36%が得られることがわかりました。すい臓がん全体の5年生存率は約5%となっており、致死率が高い疾患となっています。
中でも腹膜に転移した膵臓がんは化学療法での制御が困難で、有効な治療法が確立されていないのが現状です。今回の臨床試験の治療法が実用化されると、膵臓がんが腹膜へ転移した際に発症する腹部膨満感・難治性腹水・栄養低下を緩和するのに加えて、生存期間の延長が期待されます。[注2]
富山大学大学院医学薬学研究部消火器・腫瘍・総合外科教授の藤井勉先生は、膵臓がんの手術前治療を行なっています。5年間データを集めたところ、手術のみの膵臓がん治療よりも、手術前に化学治療や法線治療を行なってから手術を実施した方が、再発の確率が低いことが明らかになりました。
また、膵臓がんの腹膜播種に対する治療として、「腹腔内科学療法」の可能性に期待しています。腹腔内化学療法は金属のボタンをお腹に埋め込み、ビニールのチューブを使用して直接抗がん剤を入れ込む治療法です。
33例のうち、半数は浮遊しているがん細胞が消失し、3分の1の人は血液検査の際にがんの有無を示す数値の腫瘍マーカーが正常値に。
大元の膵臓がんにも効果があり、腫瘍が小さくなり手術を行なえたケースもあります。腹腔内化学療法が確立すれば、膵臓が治療の未来が明るくなるはずです。[注3]
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の放射線がん研究生物学研究チームに所属する、長谷川純崇チームリーダーと李惠子日本学術振興会特別研究員は、同研究所の永津弘太郎主幹研究員と共に腹膜播種(ふくまくはしゅ)した転移性胃がんに対しα線放出核種を用い治療薬(211At-トラスツズマブ)を作製し、動物実験で治療効果を確認。
その結果、211At-トラスツズマブを投与したマウスは6匹中5匹が生存し、そのうち2匹はがんが消失し、残りの3匹は50~90%のがん退縮が認められました。
懸念されていた白血球や体重の減少は観察されず、腎臓や肝臓の機能異常もありませんでした。効果的な治療法が確立されていない、胃がん腹膜播種の新たな治療法となることが期待されています。[注4]
参考文献:Locoregional therapy with α-emitting trastuzumab against peritoneal metastasis of human epidermal growth factor receptor 2-positive gastric cancer in mice/Huizi Keiko Li, Yukie Morokoshi, Kotaro Nagatsu, Tadashi Kamada, and Sumitaka Hasegawa
腹膜への癌転移を引き起こす癌として大腸癌が知られていますが、進行性大腸癌から腹腔内へ癌細胞が散らばった腹膜播種については、手術や放射線照射による治療が困難とされ、基本的には全身化学療法が唯一の治療法とされていました。
しかし2024年3月、国立がん研究センターは腹膜播種を伴う大腸癌の治療として、積極的切除(完全減量手術)の有効性や安全性の評価をするため、同年4月から臨床試験をスタートすると発表しました。
そもそも腹膜播種に対する全身化学療法の効果は限定的とされ、予後も不良であったことが重要です。そのような状況下で国立がん研究センターでは、腹腔内に拡散した腹膜播種について、目に見える病変を全て切除することにより癌の完全除去を目指しています。
この積極的切除によって生存期間の延長が期待され、欧米では実施施設も増えている反面、合併症リスクや手術の困難さといったハードルもあり、今回の臨床試験の結果は将来的な治療の検討に影響するとされています。
参照元:オンコロ|【臨床試験開始】日本における大腸がんの腹膜播種に対する積極的切除の意義検証
東京理科大学薬学部薬学科の西川元也教授や同大学薬学部生命創薬科学科の草森浩輔准教授らによって構成されている研究チームは、2024年4月、米ぬか由来のエクソソーム様ナノ粒子(rbNPs; rice bran-derived nanoparticles)に優れた抗がん作用が存在することを発表しました。
同研究では、コシヒカリの米ぬかを原料としてリン酸緩衝生理食塩水を使って抽出したナノ粒子(rbNPs)を、マウス結腸がんcolon26細胞へ投与したところ、他の植物由来ナノ粒子よりも優れた細胞傷害作用を示したと報告されています。加えて、米ぬか由来ナノ粒子は癌細胞に対して特異的に作用しており、副作用のリスクを抑えられる安全性についても合わせて発見されたことが重要です。
この結果、rbNPが新薬創成の原料候補として大きな価値があると期待されており、また同研究成果は2024年3月16日付けで国際学術誌「Journal of Nanobiotechnology」のオンライン版にも掲載されました。
参照元:PR TIMES|米ぬか由来ナノ粒子の抗がん作用を確認 ~未利用資源を原料とした安価で安全なナノ粒子製剤開発に期待~
公益財団法人がん研究会がん研究所発がん研究部の米村敦子研究助手と、熊本大学国際先端医学研究機構客員教授である石本崇胤部長を中心に結成された研究チームが、藤田医科大学やシンガポール国立大学、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターといった研究機関と共同研究を行い、腹膜転移や腹膜播種の進行に中皮細胞が関与する新たな仕組みを解明したと発表しました。
同研究では、腹膜播種に伴う癌性腹水の中において中皮細胞が増加し、その多くが間葉系中皮細胞であることが発見されています。また、さらにそれらの中皮細胞が免疫抑制性細胞を一層に集積させ、癌細胞が腹膜へ定着しやすい環境を促進していることも解明されました。
この研究成果は消化器系癌から腹膜への転移機構を一層詳細に解明する一助になると共に、再発予防や新しい癌治療のアプローチを検討する可能性を広げています。
参照元:PR TIMES|胃がん腹膜播種を促進する中皮細胞の新たな役割を解明
公益財団法人佐々木研究所附属佐々木研究所の副所長である山口英樹氏と宮崎允研究員が中心となって構成されている研究グループが、癌細胞を蛍光タンパク質で発光させて追跡することにより、進行胃癌や卵巣癌、大腸癌などを原発として腹膜へ転移する腹膜播種の仕組みを解明しました。なお、同研究は他に国立がん研究センターや東京理科大学、東京薬科大学など複数の研究機関が共同研究しており、文部科学省科学研究費補助金などの助成を受けて実施されています。
本研究ではまずRGBマーキングという手法を使って7色に光る癌細胞を作成し、それをマウスの腹腔内へ移植することで腹膜への転移を起こさせ、その後の腫瘍の状態を観察しました。なお、染色は細胞の特性によって色分けがされるため、特定の色集団が構成されれば、必然的に細胞特性に合わせたクラスターが形成されていると判明します。
結果的に癌細胞は腹腔内でクラスターを結成し、腹膜へ集団で接着してマルチクローナルな腫瘍へ発達することが確認されました。
参照元:PR TIMES|がん細胞を七色に光らせて腹膜播種の仕組みを解明
大阪市立大学大学院医学研究科癌分子病態制御学・消化器外科学の八代正和研究教授らによって構成される研究グループによって、腹膜(胃漿膜表面)から腫瘍細胞までの距離(DIFS)が、腹膜への転移(腹膜播種)のリスクへ影響していることが解明されました。
そして同時に、その結果によって、腹膜から腫瘍細胞までの距離を測定することにより、腹膜播種の再発リスクについても予測を行えるという仕組みを発見しています。
同研究では高性能顕微鏡を使って腹膜と腫瘍細胞の距離をマイクロメートルレベルで測定したところ、両者の距離がある程度より近い関係にある場合において、腹膜播種の再発リスクが向上することが発見されました。なお、DIFS測定はおよそ1分で行えるものであり、今回の研究成果によって将来的な再発リスク分類や、化学療法における薬剤選定にも新しいアプローチが期待されています。