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癌遺伝子治療

癌遺伝子治療

癌遺伝子治療はがん治療のひとつとして注目されている、正常な細胞にダメージを与えることなく全身のがん細胞を攻撃する治療法です。

早期がんの場合は遺伝子治療だけでの根治が可能という考え方もあり、進行がんの場合でも手術や抗がん剤治療と併用することで手術の範囲を小さくしたり、副作用を軽減させたりする効果も期待できます。また、放射線治療と遺伝子治療を併用することで相乗効果を生むともいわれています。

新しい治療法だけに手術や抗がん剤治療、放射線治療といった標準治療に比べて治療実績が少なく、現在は大学病院などで積極的な臨床試験が行われている段階です。保険診療として承認されるまでにはまだ時間がかかりますが、多くの関心を集めている先進的な治療法には間違いありません。

癌遺伝子治療とは

私たち人間の身体は、およそ60兆個もの細胞から構成されています。人間はその60兆個の細胞を維持するため、死滅した細胞を新しい細胞に日々入れ替えます。早ければ1日、遅くとも半年で細胞は死を迎え、新しい細胞に置き換えられるわけです。

すべての細胞は同一の遺伝子情報を持っており、遺伝子は人体の設計図ともいえるものです。そこには、生まれてから老いて死ぬまでの生命活動を司る情報が組み込まれています。どんなたんぱく質からどんな細胞を生み出し、どんな臓器や組織をつくるかまで、すべては遺伝子が決定しているのです。

その遺伝子は、大気汚染や化学物質、紫外線や放射線などの影響によって日々ダメージを追っています。傷ついた遺伝子をそのままコピーして細胞が分裂、増殖しないよう、遺伝子には自己修復する機能も併せ持っています。もしこの自己修復機能が働かなくなると、異常な細胞がコピーされて増え続けることになります。

また、正常な細胞にはある程度のコピーを繰り返すと寿命を迎えるアポトーシス(細胞の自然死)という働きがあります。この機能も壊れてしまった場合は、異常な細胞が無限に増殖してしまいます。これがいわゆるがん細胞と呼ばれるものです。

これらの自己修復や自然死を促す遺伝子が「がん抑制遺伝子」です。本来は正常な細胞が持っていたはずのがん抑制遺伝子を、がん細胞の中に発現させて自然死に導いていく、それが癌遺伝子治療のメカニズムです。

他の治療との組み合わせ

癌遺伝子治療はその名のとおり、がん細胞に対して遺伝子レベルで作用する治療法です。本質的な治療につながるアプローチが特徴のため、手術や抗がん剤治療、放射線治療といった標準治療と併用することで、高い相互作用が期待できます。また、本来は正常な細胞で機能しているはずのがん抑制遺伝子の力を利用するので、正常な細胞にダメージを与えることはありません。したがって手術前や手術後の再発予防、再発がん、末期がんなど、どの病期であっても治療が可能です。

さらに、がんの初回治療や再発がん治療だけではなく、ごく小さなマイクロ転移や微細ながん細胞からの発症予防などにも作用するので、治療適応の範囲は広いと考えられています。

他の治療法との違い

抗がん剤治療などの化学療法をはじめ、がん治療における副作用は避けられない問題です。最近ではがん細胞だけをターゲットにして副作用を抑える分子標的薬の研究開発が進んでいますが、それでも副作用をゼロに近づけることは困難です。

それらに比べると、癌遺伝子治療は本来人間が持っている機能を利用する治療のため、正常な細胞には基本的にダメージを与えません。化学療法のようにがん細胞膜のレセプターなどを介することなく、直接細胞に取り込まれて作用するので耐性ができないので、防御力の強いがん細胞に対しても効果が期待できます。

具体的な治療法

癌遺伝子治療は、がん抑制遺伝子を点滴で体内に投与し、がん抑制機能を回復させてがん細胞の増殖停止と死滅を目指します。その際はがん細胞に効果的にがん抑制遺伝子を運ぶため、安全性の確認されたウイルスや、EPR効果と呼ばれる仕組みを活用します。

EPR効果とは?

がん細胞は周囲の毛細血管から新しい血管をつくり出し、そこから酸素や栄養を取りこんで盛んに分裂や増殖を繰り返しながら成長していきます。ただしその新生血管は正常な血管よりも壁の目が粗く、100~200ナノメートルほどのすき間が開いています。抗がん剤やがん抑制遺伝子などの成分は通常1ナノメートル以下の低分子なので、そのまま投与すると正常な血管からも漏れ出してしまい、正常な組織にもダメージを与えてしまいます。抗がん剤の副作用はこうした影響もあるのです。

そこで、正常な血管からは漏れずに新生血管からだけ漏れるよう、薬剤の分子の大きさを100ナノメートル程度の大きさに加工します。すると、薬剤の成分はがん細胞に集中的に蓄積。蓄積された成分は再び血管内に戻ることはなく、がん細胞の周辺にとどまって作用します。

がん抑制遺伝子の種類

癌遺伝子治療に用いるがん抑制遺伝子の種類をみていきましょう。

p53

p53は細胞の危険信号を受信して活性化するがん抑制遺伝子で、がんの発症を防ぐためにさまざまな遺伝子に命令を出すので「遺伝子の司令塔」「ゲノムの守護者」などという通り名を持っています。具体的には遺伝子の傷の修復や、細胞の過剰な増殖や傷ついた細胞のアポトーシスを促すことなどで、がん細胞を消滅させようとします。

このp53はあらゆるがんに発現することが知られており、ほとんどのがんに対する遺伝子治療に使用できる重要ながん抑制遺伝子です。ただ、がん細胞の中にはp53の働きを阻害するたんぱく質をつくり出すタイプもあるため、癌遺伝子治療の前段階としてp53の働きを阻害するたんぱく質を抑制する遺伝子を先に投与することもあります。

TRAIL

TRAILは腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor:TNF)のひとつです。がん細胞を選択的に攻撃するのが特徴で、正常な組織にはダメージを与えずにがん細胞の表面にだけ結合し、アポトーシスを誘導する信号を発します。

免疫細胞であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)を使用した免疫療法の効果を高める作用もあるので、それらと組み合わせて治療を行なう場合もあります。

p16

p16は細胞の入れ替え周期の調整に深く関与しているたんぱく質で、具体的には細胞周期をストップして老化させることで、異常な細胞増殖を防ぐ役割を持っています。正常な細胞であればp16はほとんど機能しませんが、異常な細胞であれば機能を開始するので、がん細胞への初期対応を果たす遺伝子だといえるでしょう。

肺がんや腎臓がん、子宮がん、乳がんなどではp16が壊れている場合が多く、中でもホルモン療法の適応がある乳がんの治療成功率を下げる要因としてp16の異常がみられるようです。遺伝子治療においてはp53など他のがん抑制遺伝子と同時に投与されます。

CDC6shRNA

CDC6はp16とは反対に細胞を増殖させる働きを持つたんぱく質で、細胞周期を調整する因子のひとつとして知られています。

がん細胞にはCDC6が過剰に発現しており、遺伝子治療ではCDC6の働きを阻害するCDC6shRNAを投与して、がん細胞の増殖にブレーキをかけてアポトーシスを促します。

PTEN

PTENは、細胞の異常増殖やアポトーシスの回避に影響するがん原遺伝子AKTの働きをコントロールする酵素です。PTENが異常を起こしたり、欠けたりしている細胞は、がん化して炎症や血管新生などが促進され、がん細胞の増殖が加速します。そこで正常なPTENを投与することで、がん細胞の増殖抑制を目指します。

前立腺がんや膵臓がん、乳がん、子宮がん、大腸がんなどでは、PTENの異常が多くみられるようです。

Rb

Rbは網膜芽細胞腫の原因として発見された遺伝子で、細胞分裂の進行を抑える働きを持っています。Rbに異常をきたすと、がん細胞がどんどん分裂を続けて増殖していきます。

網膜芽細胞腫以外にも、小細胞肺がんや骨肉腫などでもRbの異常が多く報告されています。

CDK4

CDK4の異常は前述のp16やRb遺伝子に関与し、さまざまながんの腫瘍形成に大きく影響しています。遺伝子治療ではp16やRbの投与に先立って使用されることが多く、基本的には組み合わせて治療を行ないます。

乳がんの新薬として登場したリボシクリブは、このCDK4や前述のCDK6の阻害剤としてアメリカ食品医薬品局に承認されています。また、軟部肉腫などの希少がんでもCDK4の異常が多く認められることから、幅広い領域のがんに影響を及ぼしていると考えられます。

PMSD10(ガンキリン)

PMSD10は、がんの抑制に重要な役割を持つp53やRb、PTEN遺伝子が十分に機能するように使用される遺伝子です。単独で使用しても明らかな治療効果は認められないようですが、他のがん抑制遺伝子と組み合わせることで高い効果が期待できる、いわばサポートの役割を果たしているといえそうです。

   
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