癌の手術治療のメリットやデメリットについて解説しています。また、手術後の注意点についてもまとめています。
癌の病巣を外科的に取り除く手術は、体内から癌細胞を直接除去することで、根治を目指せる治療法の一つとされています。メリットがある一方で、当然ながらデメリットも存在します。また、癌手術には注意しなければならない点もあります。
ここでは、がん手術のメリットやデメリット、そして癌手術後の注意点をまとめました。
癌治療で手術を行う最大のメリットは、小さな転移がなければ根治の可能性が高いことです。癌のかたまりを一括して除去できるため、予後も比較的良好となる傾向があります。癌組織を完全に取り除ければ、回復が期待できます。
また、進行した癌であっても、転移の範囲が限られていれば手術による除去が可能です。たとえば、転移が予想されるリンパ節を同時に切除することで、リンパ節への転移があっても改善が見込まれる場合があります。
身体への負担が大きいとされてきた外科手術ですが、切除範囲を小さくする縮小手術や、内視鏡を使用した腹腔鏡下手術・胸腔鏡下手術を導入することで、より低侵襲な治療が可能になっています(日本では2000年代以降に普及)。
がんの手術後の食事や生活についてみていきましょう。
胃や大腸など消化器官の癌を手術した後の食事は、消化器官に明らかな障害が残っていなければ、原則として退院後に特別な食事制限は設けられません。ただし、糖尿病などの併存疾患がある場合は、個別の指導が必要です。手術後の食事内容については、必ず主治医に確認しましょう。
胃の消化機能は手術直後に一時的に低下します。消化しやすい柔らかく煮込んだものや、細かく刻んだものを選びましょう。
1回あたりの食事量は少なめにし、複数回に分けて摂取することが推奨されます。また、よく噛んでゆっくりと食べることで胃の負担が軽減されます。退院直後は、繊維質の多い食品や脂肪分の多い揚げ物などは控え、経過を見ながら段階的に取り入れてください。
胃の一部または全部を切除した場合、カルシウムの吸収効率が低下する可能性があります。そのため、カルシウムを多く含む食品や、吸収を促すビタミンDを積極的に摂取しましょう。
胃がん手術後には、ダンピング症候群、胸やけ、便秘・下痢などの症状が出現することがあります。医師の指導に従い、食事の際はよく噛み、ゆっくりと食べることを基本としてください。
食後に冷や汗や動悸が出る早期ダンピング症候群が見られる場合、水分摂取を控え、消化の良い食品を選んでください。一方、食後2時間前後に発症する後期ダンピング症候群では、血糖値が急激に低下するため、間食などで調整を行い、糖質やでんぷん質の過剰摂取は避けましょう。
術後は腸の機能が一時的に低下するため、便秘や下痢が起きやすくなります。これらを完全に防ぐことはできませんが、腸閉塞を避けるためにも、食物繊維の多い食品や消化の悪いものはしばらく控えましょう。
食事はよく噛み、少量ずつゆっくりと楽しく摂るよう心がけてください。
便秘がある場合は、朝にコップ1杯の水や牛乳などで水分を補給しましょう。生活リズムを整え、便秘が長引く場合は主治医に相談してください。下痢がある場合は1回あたりの食事量を減らし、十分な水分補給を行うことが大切です。
参考:がん研究センター情報サービスHP「がんと食事」
https://ganjoho.jp/public/support/dietarylife/index.html
2020年代以降、医療技術の発展により、がんの手術は状況によっては1週間前後で退院できるケースも多くなりました。
手術後の体力回復や日常生活の再開には、リハビリテーションや適度な運動が重要です。現在では、手術後だけでなく手術前から開始する「術前リハビリ(プレハビリテーション)」の重要性が広く認識されています。
術前からリハビリを開始し、高齢者では運動療法を併用しつつ早期離床を目指します。術後のリハビリは自己判断を避け、担当医や看護師、リハビリスタッフの指示を守って進めましょう。
参考:【PDF】「手術後寝たきりにならないために~術前から始めるリハビリの重要性」国立がん研究センター東病院
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/topics/2017/20171014/20171014_Rehabilitation.pdf
現役世代にとって、手術後に職場復帰できるかどうかは大きな関心事です。実際には、がんの手術を経ても仕事と治療の両立を図っている人も多くいます。
わが国における胃がん手術体験者の職場復帰率は60~75%以上とされています。ただし、術後5年以内にダンピング症状がある人は35.4%、腹部症状のある人は約8割と報告されており、栄養障害によって日常生活に支障を来す例もあります。退院後の生活や仕事復帰について不安を抱えつつも、支援を受けながら復職するケースが多く見られます。引用元:『胃がん手術体験者の職場復帰に伴うストレスとコーピング』日本がん看護学会誌,20 (1),2006
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjscn/20/1/20_11/_pdf/-char/ja
希望する生活スタイルや職場復帰の予定がある場合は、早い段階で医師に相談し、治療計画やリハビリ内容に反映してもらうことが推奨されます。
癌手術の課題は、画像検査などで把握できない微小転移が存在する場合、それを除去しきれない点です。手術で切除しても、わずかな転移が残っていれば再発のリスクがあります。たとえば、胃がんでは、病期によって異なるものの、Stage II~IIIでは手術後も30~50%の再発率が報告されています。
また、外科手術であるため、治療部位の回復や全身状態の改善に一定の期間を要します。臓器を部分的に切除することで、身体機能の一部を失うリスクもあります。
デメリットの項でも述べたように、癌手術後には再発や転移のリスクが残ります。そのため、手術後も「完治した」と油断せず、定期的な検査によるフォローアップが重要です。
CT検査や超音波検査、腫瘍マーカーの測定などにより、再発や転移の兆候を早期に発見することが可能です。必要に応じて、抗がん剤治療や放射線治療を術後に追加することもあります(術後補助療法)。
癌手術は高い治療効果が期待できる手段ですが、転移リスクがある限り100%の完治は保証されません。術後も継続的な経過観察と主治医との連携が欠かせません。