生存率の受け止め方は人それぞれですが、どのように計算されているのか、そしてそれは絶対なのか、そこをはっきりさせておく必要があります。生存率を正しく理解し、今後のがん治療に活かしていきましょう。
生存率とは、診断から一定期間を過ぎて生存している確率のことです。このパーセンテージはがん医療の評価において非常に重要な指標となっており、通常は診断から5年を経過した時点の生存率を治癒の目安とします。
ただし、がんの部位によっては10年を経過した時点の生存率を目安にする場合もあります。信頼性の高い生存率を算出するには、単に患者さんが医療機関を受診した情報だけではなく、診断から5年後ないし10年後の患者さんの安否を確認する予後調査(生存確認調査)が必須となります。
ところで、ひとくちに生存率といっても、いくつかの考え方があります。ここでは「実測生存率」と「相対生存率」について説明します。
「実測生存率」とは、死因にかかわらずすべての死亡を計算に入れた生存率を指します。つまり、がん以外の病気や事故による死亡も含まれます。性別や年齢、診断の時期など、がん以外の死因に影響を及ぼす要因が異なる集団で生存率を比較する場合は、その影響を補正しなければなりません。
こうした補正を経て算出されるのが「相対生存率」です。具体的には、性別や年齢、診断の時期などが異なる集団における実測生存率を、同じ条件を持った日本人の期待生存確率で割り出すという方法が取られます。この期待生存確率は、国立がん研究センターが公表している「コホート生存率表」に示されています。
国内における地域がん登録では相対生存率が用いられており、世界のがん生存率と日本を比較する場合も相対生存率が用いられます。
国立がん研究センターでは「5年相対生存率」を公表しており、これは医師ががん患者さんの余命を推測する際にしばしば用いられるデータです。
誤った解釈をする人が多いのですが、この5年相対生存率は、がんと診断されてから5年以上生きられる可能性ではありません。がんと診断されても5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合と比較して、どれだけ低くなるかを示しているのです。
もうひとつ、データを見る際に気をつけたいことがあります。それは、5年相対生存率は「がんと診断されてから5年」ということです。がんを発症してから5年ということではありません。がんが発見されるきっかけはさまざまで、健康診断や人間ドックで初期のがんが見つかるケースもあれば、体調を崩して医療機関を受診したら進行がんだったという場合もあるでしょう。5年相対生存率は、このようなすべての例を含めて算出されます。
がんの部位別、男女別に5年相対生存率をみていきます。
部位 | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|
すべての部位 | 62 | 66.9 |
口腔・咽頭 | 60.7 | 69.4 |
食道 | 40.6 | 45.9 |
胃 | 67.5 | 64.6 |
結腸 | 72.4 | 70.1 |
直腸 | 72.8 | 69.4 |
大腸 | 71.7 | 71.9 |
肝臓 | 36.2 | 35.1 |
胆のう・胆管 | 26.8 | 22.1 |
膵臓 | 8.9 | 8.1 |
喉頭 | 81.8 | 81.7 |
肺 | 29.5 | 46.8 |
皮膚 | 94.4 | 94.6 |
前立腺 | 99.1 | - |
乳房 | - | 92.3 |
子宮 | - | 78.7 |
子宮頸部 | - | 76.5 |
子宮体部 | - | 81.3 |
卵巣 | - | 60 |
膀胱 | 76.5 | 63 |
腎・尿路(膀胱除く) | 70.4 | 64.8 |
脳・中枢神経系 | 34.1 | 37.4 |
甲状腺 | 91.3 | 95.8 |
悪性リンパ腫 | 66.4 | 68.6 |
多発性骨髄腫 | 41.9 | 43.6 |
白血病 | 43.4 | 44.9 |
※データは2009年~2011年
引用元:全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)
独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a30
10年相対生存率の考え方は、基本的に5年相対生存率と同様です。ただ、10年相対生存率は「ピリオド法」という手法で算出されることが多くあります。これは、過去数年間に追跡されている患者集団のみを集計対象とし、この期間内の生存情報のみを利用して生存率を算出する方法です。
長期間の生存率算出において、最近の医療状況を反映させることができるのがメリットです。
がんの部位別、男女別に10年相対生存率(ピリオド法)をみていきます。
部位 | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|
口腔・咽頭 | 41.4 | 53.6 |
食道 | 24 | 32.4 |
胃 | 61.3 | 58.2 |
結腸 | 68.9 | 62.8 |
直腸 | 60.8 | 63.2 |
肝臓 | 9.6 | 9.1 |
胆のう・胆管 | 18.5 | 15.5 |
膵臓 | 4.6 | 4.8 |
喉頭 | 73.8(男女計) | 左記に同じ |
肺 | 18.1 | 31.2 |
皮膚 | 86.6 | 90.4 |
前立腺 | 78 | - |
乳房 | - | 79.3 |
子宮頸部 | - | 66.1 |
子宮体部 | - | 75.6 |
卵巣 | - | 43.9 |
膀胱 | 74.6 | 62.8 |
腎など | 59.3 | 57.1 |
脳・中枢神経系 | 21.5 | 24.4 |
甲状腺 | 87.1 | 94.8 |
悪性リンパ腫 | 43.1 | 50.6 |
多発性骨髄腫 | 11.4 | 14.3 |
白血病 | 20.5 | 20.5 |
※データは2002年~2006年の追跡症例、15歳から99歳の男女
引用元:Long-term survival and conditional survival of cancer patients in Japan using population-based cancer registry data.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a30
サバイバー生存率とは、診断から一定期間を経て生存しているがん患者さんの、その後の生存率を指します。たとえば、1年サバイバーの5年生存率は、がんと診断されてから1年後に生存している患者さんに限って算出した、その後の5年生存率という意味です。つまり、診断されてから6年が経過しているということになります。
がんの部位別、男女別にサバイバー生存率(1年サバイバー)をみていきます。
部位 | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|
口腔・咽頭 | 80.2 | 82.2 |
食道 | 71.7 | 73.2 |
胃 | 97.5 | 96.9 |
結腸 | 97.2 | 96.4 |
直腸 | 93 | 94.3 |
肝臓 | 38.1 | 33.9 |
胆のう・胆管 | 66.3 | 67.9 |
膵臓 | 45.4 | 47 |
喉頭 | 90.4(男女計) | 左記に同じ |
肺 | 72.1 | 87.1 |
皮膚 | 95.3 | 96.8 |
前立腺 | 99.7 | - |
乳房 | - | 96.6 |
子宮頸部 | - | 93.4 |
子宮体部 | - | 94.3 |
卵巣 | - | 89.5 |
腎・尿路(膀胱除く) | 92.6 | 92.4 |
膀胱 | 93.8 | 89.5 |
甲状腺 | 99.6 | 99.9 |
※データは2002年~2006年の追跡症例、15歳から99歳の男女
引用元:Long-term survival and conditional survival of cancer patients in Japan using population-based cancer registry data.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a30
近年は医療機関が単体で生存率を公表するケースも増えてきました。生存率は、極端にいえば医師が観察を開始した日と終了した日、終了時の生死の情報があれば算出できます。ただ、その値には以下のような情報が影響してきます。
上記のほかにも、さまざまな要因が生存率に関係するため、単純に生存率の高い医療機関は治療成績も良好、とは限りません。生存率の算出根拠をきちんと確認することがとても重要です。
多くのがんにおいて、5年後の生存状況が回復または治癒のひとつの目安とされ、前述のとおり国立がん研究センターでも5年後の生存率を公表してきました。しかし、近年のがん医療は目覚ましい進歩を遂げており、公表データが古いために直近のがん医療の実態が反映されていないという声も多く上がっています。そこで、現在のがん医療の実態を表すデータとして2018年に初めて3年生存率が公表されました。
また、主要な5つのがん(胃がん、大腸がん、乳がん、肝臓がん、肺がん)の医療機関別・病期別の5年生存率も同時に公表されています。これによって患者さんが医療機関の特徴を知ることができ、病院選びの参考になることも期待されています。
がんと診断されれば気持ちが大きく揺れ動くのは当然で、とくに生存率や余命といった死を意識せざるを得ないキーワードは大きな不安を招きます。
ただ、確かに生存率はひとつの目安ではありますが、あくまでも統計にすぎません。余命宣告の誤差は縮まるかもしれませんが、もちろんそれがすべての患者さんに当てはまるものでもありません。
大切なのは、現在の病状を把握した上で最善の方法を選択し、それに集中することです。生存率を気にし過ぎることなく、不安なことは主治医に確認し、情報を正しく理解するよう心がけましょう。