脳や骨、肺、肝臓などに複数の転移が見つかると、「転移が多いから放射線治療は受けられないのではないか」「すべての病変を治療することは難しいのではないか」と不安になる方もいるでしょう。
しかし、多発転移があるという理由だけで、放射線治療が受けられないと決まるわけではありません。
放射線治療の可否は、転移の個数だけでなく、病変の大きさや全体の体積、発生した場所、症状、原発がんの種類、これまでの治療歴、患者の全身状態などを踏まえて判断されます。
複数の病変へ放射線を照射する場合もあれば、痛みや麻痺などの原因となっている病変、生命や身体機能への影響が大きい病変を優先して治療する場合もあります。また、薬物療法で全身のがんを治療しながら、特定の病変へ放射線治療を行うこともあります。
このページでは、多発転移に対する放射線治療の考え方、治療の判断基準、転移した部位ごとの治療、薬物療法との併用、セカンドオピニオンについて解説します。
なお、多発転移に対する放射線治療の適応は、患者ごとに異なります。現在受けている治療を自己判断で中止・変更せず、主治医や放射線治療を専門とする医師へ相談してください。
多発転移とは、一般的に、一つの臓器内に複数の転移病変がある状態や、複数の臓器・部位へがんが転移している状態を表す言葉です。
ただし、「多発転移」は病変の状態を幅広く表す言葉であり、すべての患者が同じ状態ではありません。小さな転移が同じ臓器内に複数ある場合と、複数の臓器に大きな病変がある場合では、治療方針が異なります。
同じ臓器の中に、複数の転移病変が確認されることがあります。
例えば、次のような状態です。
同じ臓器内の多発転移であっても、病変の個数、大きさ、全体の体積、位置、症状などによって、放射線治療の方法は異なります。
脳と骨、肺と肝臓、骨とリンパ節など、複数の臓器や部位に転移している状態は、「多臓器転移」や「全身転移」と表現されることがあります。
このような場合は、薬物療法などの全身治療を中心にしながら、特に症状が強い病変や、生命・身体機能への影響が大きい病変に対して放射線治療などの局所治療を行うことがあります。
多くの固形がんでは、原発巣から離れた臓器への遠隔転移が確認されると、進行した病期に分類されます。
ただし、病期の分類方法は原発がんの種類によって異なります。また、同じステージであっても、転移した臓器、病変の数、使用できる薬剤、全身状態などによって治療方針は異なります。
「ステージ4だから放射線治療ができない」「多発転移だから治療法がない」と一律に判断することはできません。
放射線治療は、放射線を病変へ照射し、がん細胞にダメージを与える治療です。手術と同じように、主に特定の病変を対象とする局所治療に分類されます。
多発転移に対する放射線治療では、必ずしもすべての病変を同時に治療するとは限りません。
患者の状態によって、主に次のような方針が検討されます。
病変の数が限られている場合や、それぞれの病変が比較的小さく、周囲の正常な組織への影響を抑えながら照射できる場合は、複数の病変へ放射線治療を行うことがあります。
放射線治療装置や治療計画技術の進歩により、一つの治療計画で複数の病変へ照射できる場合もあります。
ただし、複数の病変へ技術的に照射できることと、その治療が患者にとって医学的に適切であることは同じではありません。治療効果と正常な組織への影響を比較したうえで判断されます。
多発転移では、すべての病変を同時に治療するのではなく、症状が強い病変や、放置すると生命・身体機能へ大きな影響を及ぼす病変を優先して治療することがあります。
例えば、次のような病変です。
この場合の放射線治療は、がんの根治だけでなく、症状の軽減や生活の質の維持を目的として行われます。
薬物療法は、薬剤を血液を通じて全身へ作用させる治療です。一方、放射線治療は、主に特定の病変へ作用させる局所治療です。
多発転移では、薬物療法によって全身の病変を治療しながら、薬物療法だけでは制御しにくい病変や、症状が強い病変へ放射線治療を行うことがあります。
放射線治療と薬物療法を同じ時期に行う場合もあれば、副作用や治療効果を考慮し、順番に行う場合もあります。
多発転移に対する放射線治療は、転移の個数だけでは判断できません。主に次の項目を総合的に確認します。
| 確認する項目 | 治療判断との関係 |
|---|---|
| 病変の個数 | 照射方法、治療範囲、治療期間などを検討する材料になります。 |
| 病変の大きさ | 大きな病変では、一度に照射せず複数回に分ける場合や、ほかの治療を検討する場合があります。 |
| 病変全体の体積 | 複数の病変を合計した体積は、正常組織への影響を判断するうえで重要です。 |
| 転移した部位 | 脳、骨、肺、肝臓など、転移した部位によって照射方法や注意点が異なります。 |
| 正常組織との位置関係 | 脳幹、脊髄、肺、腸管などへの放射線の影響を確認します。 |
| 症状と緊急性 | 麻痺、強い痛み、出血、圧迫などがある病変は、優先的に治療される場合があります。 |
| 原発がんの種類 | 放射線への反応や、使用できる薬物療法が異なります。 |
| 全身のがんの状態 | 局所治療と全身治療のどちらを優先するかに影響します。 |
| 過去の放射線治療歴 | 同じ場所への再照射が可能かを判断する材料になります。 |
| 患者の全身状態 | 通院や治療に伴う負担へ耐えられるかを確認します。 |
「何個までなら放射線治療ができる」という固定的な基準だけで、治療の可否を判断することはできません。
例えば、小さな病変が複数ある場合と、大きな病変が少数ある場合では、正常な組織へ与える影響が異なります。そのため、病変の個数とともに、病変全体の体積も重要になります。
また、脳転移、骨転移、肺転移など、転移した場所によっても治療の考え方が異なります。
放射線治療では、病変へ必要な放射線を照射しながら、周囲の正常な臓器や組織へ当たる放射線をできる限り抑える必要があります。
脳幹、脊髄、視神経、肺、心臓、肝臓、腎臓、腸管など、放射線の影響を受けやすい組織の近くに病変がある場合は、照射できる放射線量が制限されることがあります。
技術的には照射できる場合でも、治療によって得られる利益より副作用のリスクが大きいと判断された場合は、放射線治療を行わないこともあります。
多発転移では、病変の大きさだけでなく、現在現れている症状や、今後生じる可能性がある障害も治療の優先順位に影響します。
特に、次のような症状がある場合は、早急な診察や治療が必要になることがあります。
これらの症状がある場合は、記事の情報だけで判断せず、速やかに医療機関へ相談してください。
外部照射は、体の外に設置された放射線治療装置から、体内の病変へ放射線を照射する方法です。
病変の位置や大きさを画像で確認し、治療計画を作成したうえで照射します。多発転移では、病変の制御や、痛み・圧迫・出血などの症状緩和を目的として行われることがあります。
治療回数は、照射する部位、病変の状態、治療目的、患者の全身状態などによって異なります。1回で治療する場合もあれば、数回から数週間に分ける場合もあります。
定位放射線治療は、画像を用いて病変の位置を正確に把握し、病変へ集中的に放射線を照射する治療です。
1回で高い線量を照射する方法は「定位手術的照射(SRS)」、複数回に分けて照射する方法は「定位放射線治療(SRT)」と呼ばれます。
脳転移や、一部の肺・肝臓・脊椎などの病変に対して検討されることがあります。
多発転移に対して定位放射線治療を行えるかどうかは、病変数だけでなく、大きさ、総体積、位置、正常組織との関係などによって判断されます。
強度変調放射線治療は、照射する方向ごとに放射線の強さを細かく調整し、病変の形状に合わせて放射線を集中させる方法です。
周囲の正常な組織へ当たる放射線を抑えながら、複雑な形状の病変へ照射することを目指します。
複数の病変や広い範囲を治療する際に検討される場合がありますが、すべての多発転移に適しているわけではありません。
放射線治療には、次のような装置が使用されます。
装置によって、放射線の照射方法、対応できる範囲、治療時の固定方法などが異なります。
ただし、装置名だけで治療効果や優劣が決まるわけではありません。患者の病状に適した治療計画を作成できるか、正常組織への影響を抑えられるかなどを含めて判断する必要があります。
脳内に複数の転移がある場合は、定位放射線治療や全脳照射、薬物療法などが検討されます。
治療方法は、脳転移の個数だけでなく、それぞれの大きさ、病変全体の体積、発生した位置、症状、原発がんの種類などを踏まえて判断されます。
脳全体へ放射線を照射する全脳照射が行われる場合もあれば、複数の病変へ定位放射線治療を行う場合もあります。
頭痛、吐き気、けいれん、麻痺、言語障害、意識障害などがある場合は、早めに医療機関へ相談してください。
骨の複数箇所に転移がある場合は、薬物療法、鎮痛薬、骨修飾薬、放射線治療などが検討されます。
放射線治療は、骨転移による痛みを和らげることや、病変の増大を抑えることを目的として行われる場合があります。
脊椎への転移によって脊髄が圧迫されると、麻痺や排尿・排便障害につながる可能性があります。手足の力が急に入りにくくなった、歩きにくくなったなどの症状がある場合は、速やかに受診してください。
骨折の危険性が高い場合は、放射線治療だけでなく、整形外科的な固定手術などが検討されることもあります。
肺に複数の転移がある場合は、薬物療法などの全身治療が中心になることがあります。
一方、病変の個数や位置、ほかの転移の状態によっては、特定の病変へ放射線治療が行われる場合もあります。
気道を圧迫して息苦しさがある場合や、出血などの症状がある場合には、症状の緩和を目的とした照射が検討されることがあります。
肺へ放射線を照射する場合は、正常な肺へ当たる放射線量にも配慮が必要です。
肝臓内に複数の転移がある場合は、原発がんの種類や肝臓の機能、ほかの転移の状態などを踏まえて治療方針を検討します。
薬物療法が治療の中心となる場合がありますが、病変の状態によっては、特定の肝転移へ放射線治療が検討されることもあります。
肝臓は放射線の影響を受ける臓器でもあるため、正常な肝臓へ当たる放射線量を考慮しながら治療計画を作成します。
複数の臓器へ転移している場合は、薬物療法などの全身治療と、放射線治療などの局所治療を組み合わせることがあります。
すべての転移を同じ方法で治療するのではなく、患者の生命や身体機能、生活に大きく影響する病変を優先して治療する場合があります。
治療を受ける際は、放射線治療の対象となる病変だけでなく、全身のがんをどのように治療・管理していくのかについても説明を受けることが大切です。
放射線治療によって、特定の転移病変の増大を抑えることを目指します。
病変の増大を抑えることで、周囲の臓器や神経への圧迫を防いだり、症状の悪化を遅らせたりできる可能性があります。
ただし、多発転移への放射線治療が、すべての病変の根治を目的として行われるとは限りません。治療前に、治療の目的と期待できる効果を確認しましょう。
多発転移への放射線治療では、痛みや圧迫などの症状を和らげることが重要な目的になる場合があります。
放射線治療が検討される症状には、次のようなものがあります。
痛みや麻痺などの症状を軽減することで、歩行や食事、睡眠などの日常生活を維持できる可能性があります。
放射線治療を受けるかどうかを考える際は、画像上の病変だけでなく、患者がどのような生活を大切にしたいかも重要です。
痛みや不安などのつらさについては、放射線治療や薬物療法と並行して緩和ケアを利用することもできます。
放射線治療では、病変だけでなく、その周囲にある正常な組織にも放射線が当たる可能性があります。
副作用の種類や程度は、照射する部位、放射線量、治療回数、照射範囲、薬物療法との組み合わせ、患者の全身状態などによって異なります。
治療中から治療直後に現れる副作用と、治療終了から数カ月~数年後に現れる副作用があります。
| 照射する部位 | 考えられる副作用の例 |
|---|---|
| 脳 | 吐き気、頭痛、脳浮腫、脱毛、認知機能への影響など |
| 肺・胸部 | 咳、食道の炎症、飲み込みにくさ、放射線肺炎など |
| 腹部 | 吐き気、食欲不振、下痢、腹痛など |
| 骨 | 照射部位の一時的な痛みの増加、皮膚の炎症など |
複数の部位へ照射する場合は、一つの病変だけを照射する場合よりも、照射範囲や全身への負担について慎重な検討が必要になることがあります。
治療前に、期待できる効果だけでなく、起こる可能性がある副作用とその対処方法について説明を受けてください。
多発転移では、薬物療法と放射線治療を組み合わせることがあります。
| 治療 | 主な役割 |
|---|---|
| 薬物療法 | 原発巣や全身の転移病変へ薬剤を作用させます。 |
| 放射線治療 | 特定の病変の制御や、痛み・圧迫などの症状緩和を目指します。 |
| 支持療法 | 治療による副作用や合併症を予防・軽減します。 |
| 緩和ケア | 痛み、不安、息苦しさなどのつらさを和らげ、生活を支えます。 |
放射線治療と薬物療法を同時に行うか、どちらかを先に行うかは、がんの種類、使用する薬剤、照射する部位、症状、全身状態などによって異なります。
薬剤によっては、放射線治療と同時に使用することで副作用が強くなる可能性があります。そのため、腫瘍内科、放射線治療科、原発がんを担当する診療科などが連携して治療スケジュールを検討します。
多発転移があっても放射線治療を受けられる場合がある一方、病状によっては放射線治療が適さないこともあります。
例えば、次のような場合です。
「技術的に照射できる」ということと、「患者にとって放射線治療を行う利益がある」ということは異なります。
放射線治療が難しいと説明された場合は、次の内容を確認しましょう。
現在の治療方針について迷いがある場合は、セカンドオピニオンを受ける方法があります。
セカンドオピニオンは、現在の主治医とは別の医師から、診断や治療方針について意見を聞くことです。必ずしも転院を前提とするものではありません。
次のような場合は、セカンドオピニオンを検討することがあります。
一般的に、次のような資料を準備します。
特に再照射を相談する場合は、過去に照射した場所、放射線量、治療回数などが分かる記録が重要になります。
放射線治療の適応は、放射線治療を専門とする医師が、画像やこれまでの治療歴、全身状態などを確認して評価します。
外科、腫瘍内科、放射線治療科では、それぞれ専門とする治療方法が異なります。複数の診療科から意見を聞くことで、治療方針を整理しやすくなる場合があります。
また、医療機関によって導入している放射線治療装置や、対応できる照射方法が異なります。
ただし、別の医療機関へ相談すれば必ず放射線治療を受けられるわけではありません。セカンドオピニオンは、現在の病状に対して何が適切かを確認する機会として利用しましょう。
多発転移の放射線治療では、すべての病変を治療するのか、特定の病変を優先するのか、薬物療法とどのように組み合わせるのかを確認することが大切です。
次の点について、具体的な説明を受けましょう。
多発転移では、放射線治療だけでなく、薬物療法、手術、症状緩和などを組み合わせる場合があります。
次のような診療科が必要に応じて連携できるかを確認しましょう。
医療機関によって、導入している装置や対応できる治療方法は異なります。
確認する項目としては、次のようなものがあります。
装置の種類だけで病院を選ぶのではなく、自分の病変に対してどのような治療計画を立てられるかを確認してください。
治療前に、次の点について説明を受けることが大切です。
転移の個数だけで、放射線治療の可否を決めることはできません。
病変の大きさ、全体の体積、発生した位置、正常組織との関係、症状、過去の治療歴、全身状態などを踏まえて判断されます。
複数の臓器へ転移している場合でも、症状や危険性の高い病変に対して放射線治療が検討されることがあります。
ただし、全身のすべての病変へ放射線を照射するとは限りません。全身の病変には薬物療法を行い、特定の病変へ放射線治療を行う場合があります。
病変の個数、大きさ、発生した部位などによっては、複数の病変を同じ治療計画で照射できる場合があります。
一方、正常な組織への影響が大きくなる場合や、全身状態への負担が大きい場合は、治療する病変に優先順位をつけることがあります。
病変の位置や広がり、照射範囲などによっては、トモセラピーによる治療が検討される場合があります。
ただし、トモセラピーがすべての多発転移に適しているわけではなく、ほかのリニアックや定位放射線治療装置が適している場合もあります。
装置名だけではなく、病状に適した照射方法を医師が判断することが重要です。
放射線治療と抗がん剤などの薬物療法を併用する場合があります。
一方、使用する薬剤や照射部位によっては副作用が強くなる可能性があるため、治療時期や薬剤の投与間隔を調整することがあります。
一般的な標準治療として行われる放射線治療は、公的医療保険の対象となることがあります。
ただし、治療方法、対象となる病変、使用する技術、施設の診療区分などによって自己負担額が異なります。先進医療や自由診療として行われる治療では、公的医療保険が適用されない費用が発生する場合があります。
治療前に、保険適用の範囲と自己負担となる費用を医療機関へ確認してください。
今後の見通しは、原発がんの種類、転移した臓器、病変の広がり、薬物療法への反応、全身状態などによって異なります。
多発転移という言葉だけで、治療期間や予後を一律に判断することはできません。治療効果だけでなく、生活の質や患者が大切にしたいことも含めて、主治医と治療方針を相談してください。
多発転移があるという理由だけで、一律に放射線治療ができないと決まるわけではありません。
放射線治療の可否は、病変の個数だけでなく、大きさ、全体の体積、位置、症状、原発がんの種類、過去の治療歴、全身状態などを踏まえて判断されます。
複数の病変へ照射する場合もあれば、症状や危険性の高い病変を優先して治療する場合もあります。また、薬物療法で全身のがんを治療しながら、一部の病変へ放射線治療を行うこともあります。
現在の治療方針に迷いがある場合や、多発転移に対する放射線治療の適応を確認したい場合は、放射線治療を専門とする医師から意見を聞くことも選択肢です。