医学的根拠のもとで提供されている、癌の標準治療をまとめています。
標準治療とは、ある病気に対して効果や安全性が確立されており、広く普及している治療法のことを指します。その効果や安全性は科学的な臨床試験によって多数の症例で証明され、医師からも広く支持されています。
その一方、推奨される治療という意味ではなく一般的に普及している治療を指して標準治療とする場合もあるので、どちらの意味かはきちんと確認する必要があります。
医療においては新しい治療法が必ずしも優れているとは限りません。新しい治療法は研究開発中の治療として、効果や副作用などを判断する臨床試験で評価されます。臨床試験で従来の標準治療よりも優れていることが証明されて推奨されれば、その治療法が新たな標準治療として行なわれることになります。
がんの標準治療はガイドラインとして、がんの種類ごとに示されています。しかし、すべてのがんに標準治療があるわけではありません。現在は胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん、脳腫瘍など症例数が多いがんにガイドラインが存在し、各関連医学会がそれを編集しています。
このように標準治療が確立され普及するということは全国どこの医療施設でも有効性と安全性が認められているがん治療を受けられるということであり、患者さんにとって非常に大切な情報です。
しばしば誤解されがちですが、ガイドラインの存在は標準治療以外の治療をしてはならないという意味ではありません。あくまでも標準治療が望ましいという意味であり、その患者さんに適した治療方法を優先するのは当然のことです。
現在のところ、がんの標準治療には手術、化学療法、放射線療法の3つがあり、がんの三大療法とも呼ばれています。
手術は外科的にがんを取り除く治療法です。がんを取り残さないように、通常は周辺の正常組織やリンパ節も一緒に切除します。
早期がんでは多くの場合、手術がもっとも有効な治療法として第一選択肢に挙げられます。たとえば転移のない早期の胃がんであれば、手術によって5年生存率は90%近くにのぼります。
身体にメスを入れる手術は患者さんにとっても負担が大きくなりますが、近年は技術の進歩によって負担を軽減する方法がいくつも開発されています。その1つが内視鏡や腹腔鏡を用いた手術で、皮膚を大きく切開する必要がないため手術後の回復も早く、入院期間も短縮できます。内視鏡手術は主に早期がんに対して、胃がんや大腸がんなど消化管のがんを中心に普及しています。
化学療法というよりも抗がん剤治療といったほうがわかりやすいかもしれません。
がんは手術が成功しても再発することがあり、目に見えないがん細胞が再び増殖したり、血液やリンパの流れに乗って離れたところに転移したりすることがあります。そこで、抗がん剤でがん細胞を叩く化学療法が行なわれます。手術ができない進行がんの場合は、化学療法だけを行なうこともあります。
抗がん剤と聞けば副作用のイメージがありますが、それを最小限に抑えて最大の治療効果を得られるように調整しながら投与します。
近年は吐き気や白血球減少などの副作用を抑える支持療法が進歩しており、副作用で化学療法を中断するようなことは以前より少なくなっています。また、入院を必要とせず通院で化学療法を行なうケースも増えてきました。
放射線を照射してがん細胞を死滅させ、がんの拡大を抑える治療法が放射線療法です。大きく分けて体外から放射線を照射する外部照射と、小さな放射線源を体内に挿入して照射する密封小線源治療の2つがあります。
標準治療として実施する放射線療法は、がんの治癒を目指す根治治療と症状の軽減を目指す緩和治療に分けられます。緩和治療の場合は骨や脳への転移による症状や、がんの拡大によって神経や血管が圧迫されて起こる症状の軽減などが目的です。