いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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癌関連血栓症

がん患者さんは血栓症を起こしやすく、がんに合併した血栓症をまとめて「がん関連血栓症」と呼んでいます。

それはどのような病気なのか、ここで詳しくみていきましょう。

がん関連血栓症とは?

さまざまな原因によって、血管内にできた血のかたまりが血管を詰まらせてしまう病気を血栓症といいます。ここで説明する「癌関連血栓症」とは、その名のとおりがんに合併して発症する血栓症のことです。中でも「静脈血栓塞栓症」の発生頻度が高く、確率でいえばがんではない人に比べて約4~7倍ものリスクがあるとされています。

がん治療を担当する医療スタッフは、そうしたことを踏まえて患者さんの対応にあたっています。もちろん患者さんも血栓症に対する正しい知識を持っていれば、気になる症状があった際に早めに申し出ることができます。血栓症は早期に適切な治療を開始することで、悪化を防ぐ可能性が高まるのです。

静脈血栓塞栓症とは?

血栓が血管を詰まらせて血流を阻害してしまう静脈血栓塞栓症には、いくつかのタイプがあります。

手足や骨盤の深い部分にある静脈に血栓ができる状態を「深部静脈血栓症」といい、これは下肢に多く発生します。また、その血栓が血液の流れに乗って移動し、肺の血管を詰まらせてしまう状態を「肺血栓塞栓症」といいます。肺血栓塞栓症の場合、大きな血栓が詰まった場合は呼吸苦や痛みなどの症状が現れますが、小さな血栓であれば症状が出にくいこともあります。

症状が出た場合はどうすべき?

がん関連血栓症は予兆なく突然に発症することもありますが、多くの場合は前述のような症状が前もって現れます。症状に気づいたら、すぐに主治医や医療スタッフに報告してください。

時間の経過とともに症状が悪化する場合や、呼吸苦や胸の痛み、冷や汗などの症状がみられる場合は要注意です。自宅でそのような症状が出た場合は次の受診日を待たず、すぐに受診しましょう。できるだけ早く治療を受け、悪化を防がなければなりません。特に肺血栓塞栓症は急激に悪化しがちです。

がん患者の血栓症のリスクが高いのはなぜ?

がん患者さんの血栓症のリスクが高い理由には、まずがんそのものが血栓をつくりやすいという性質の問題があります。さらに手術や抗がん剤治療、長期の入院生活など、がんの治療の背景に血栓ができやすい環境がそろっていることもリスクを高める一因です。

がんそのものの影響

がん細胞やがん組織の周辺に広がる炎症は、血液の凝固を促す物質を分泌しています。したがって、がん患者さんは血液を固まりやすくするシステムが過剰に作用しているといえます。

また、がんが進行して大きくなると血管が圧迫され、血液の流れが悪くなって血栓ができやすくなるのも原因のひとつ。血液が固まりやすい状態、血流が悪い状態はともに血栓症のリスクを高めるため、がんそのものが血栓症の原因となってしまうのです。

がんの治療による影響

抗がん剤の中には正常な組織にもダメージを与えてしまうものがあり、それは結果として血管も傷つけてしまいます。また、手術や点滴治療のための静脈カテーテル留置、放射線治療など、がん治療のための医療行為が血管を傷つけ、血流を悪くしたり血液が固まりやすい状態を促してしまうことがあります。

さらに、療養のため長期間にわたって安静にしなければならないことや、治療の副作用で水分が上手く摂れずに脱水を起こすことなども、結果として血栓症のリスクを高めてしまうのです。

がん以外の影響

がんに直接は関係がなくても、がんを発症したときに血栓症を起こしやすい危険因子を持っている可能性があります。一般的な静脈血栓症のリスクを挙げてみましょう。

こうした危険因子が重なると血栓ができやすくなり、そこにがんに伴う諸々の状況が重なると血栓症のリスクはさらに高まります。

がん関連血栓症の診断と治療

がん関連血栓症を疑う場合は医師が診察し、必要に応じて検査を行なった上で診断に至ります。治療は薬の投与が中心になります。

がん関連血栓症の検査

下肢のむくみや胸が締め付けられるような感覚などがある場合は、血栓の存在を疑って次のような検査を行ないます。

スクリーニング検査

血圧や心拍数の測定、酸素分圧測定、胸部のレントゲン、心電図、動脈血液ガス分析、血液性化学検査など、ひと通りのスクリーニング検査を行なって基本的な全身状態を把握します。その結果でも血栓塞栓症が疑われる場合は、精密検査に移行していきます。

止血機能検査

血液中の「Dダイマー」という物質の値を測定する検査です。Dダイマーは身体内で血液凝固が促進されているときの生成物で、これが異常値を示す場合は血栓症の合併が疑われます。

下肢静脈超音波検査

診察において血栓症の可能性が高いと判断された場合や、Dダイマーの値が異常値を示している場合は、超音波による下肢静脈の画像検査を行ないます。これによって、下肢の血管に血栓があるか、あるとしたら血栓のサイズや血管の状態、血流の状態などを調べます。

造影CT検査

血栓症を強く疑っているにもかかわらず超音波検査で血栓が確認できない場合や、他の検査で血栓症の可能性が高い場合は、造影CT検査を行ないます。造影剤を静脈に投与して血管内に循環させ、CTを撮影して血栓の有無や部位、サイズなどを調べます。

癌関連血栓症の治療

癌関連血栓症の治療は、血液を固まりにくくする抗凝固薬の投与が中心となります。通常は点滴や内服で投与されます。

手術前など出血のリスクが高い場合は、肺血栓塞栓症を予防するため下大静脈に一時的にフィルターを留置するという手法が取る場合もあります。

抗凝固療法

抗凝固薬によって血栓症の改善を目指す治療法で、癌関連血栓症の場合は深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症のいずれもこの治療が中心となります。

抗凝固薬は血液をサラサラにして固まりにくくし、血栓を小さくする作用があります。

血栓溶解療法

体内にカテーテルを挿入し、血栓溶解薬を注入して血管に詰まった血栓を溶かす治療法です。重症な肺血栓塞栓症の場合に行なわれることが多く、血栓が多い場合はカテーテルで血栓を吸引したり、破砕する方法を併せて行なったりこともあります。

この治療法は出血などのリスクもあるため、熟練の専門施設で実施することが推奨されています。

がん関連血栓症の予防について

がん患者さんが血栓症を起こしやすいことはおわかりいただけたと思います。特に治療の最中や、いったん血栓症を発症した場合などは再発する可能性も高いため、医療スタッフとも相談しながら発症予防に努めることが大切です。

それでは、がん関連血栓症の予防方法についてみていきましょう。

理学療法(リハビリテーション)による予防

長期間にわたって安静を余儀なくされると、静脈血栓塞栓症の発症リスクが高くなります。可能であれば、手術後は早い時期にベッドから離れて歩くことが勧められています。

とはいえ、手術後すぐに立ち上がったり歩いたりすることが難しい場合も多いはずです。そうであればベッド上での足の上げ下げやマッサージ、足首のストレッチなどがおすすめです。誰かの力を借りても構わないので、理学療法士などの医療スタッフに相談してみましょう。手術をしていない患者さんや、手術からしばらく経過している患者さんも、積極的な運動を心がけることが大切です。

また、弾力性のある特殊なストッキングの着用や、空気で足を圧迫する医療機器を使用して下肢静脈の血流を改善させる方法もあります。いずれも医療スタッフの指導のもとで取り組んでみましょう。

薬による予防

多発性骨髄腫をはじめ血栓ができやすいがん患者さんや、これから手術を予定している患者さん、以前に癌関連血栓症を起こしたことのある患者さんの場合は、薬による予防を行なうことがあります。

しかし、がん患者さんは血栓ができやすい一方で、がんそのものの影響や治療の副作用などで出血しやすかったり、血が止まりにくくなったりしている場合もあります。薬による予防を検討する際には、出血のリスクと血栓症の発症リスクを比較考慮して治療方針を決定する必要があります。

自分で取り組む予防方法

身体が脱水状態に陥ると、血液がドロドロになって血栓ができやすくなります。自分でできる予防方法としては、こまめに水分を補給して脱水状態を避けることが第一です。

抗がん剤などの副作用で水分が十分に摂れない場合や、治療上の理由で水分制限が必要な場合は主治医に相談してみましょう。