癌治療として放射線治療や抗がん剤治療(化学療法)を利用した場合、副作用として脱毛(抜け毛)が発生するケースも少なくありません。このページでは、癌治療で脱毛が起きてしまった場合の対策や事前のケアなどについて解説しています。
癌治療を受けた患者の全員に脱毛が起きるわけではありません。例えば手術によって癌を取り除く場合であれば脱毛のリスクは低下するでしょう。一方、抗がん剤治療や放射線治療では脱毛する可能性が高まります。
ここでは癌治療によって脱毛が起きてしまう仕組みや、治療法ごとの特徴などについてまとめました。
癌は細胞が異常に分裂・増殖してしまう病気であり、化学療法として用いられる抗がん剤は、特に細胞の分裂や増殖を阻害して癌の進行を抑える作用を有しています。一方、発毛を司る毛母細胞もまた細胞分裂が活発な細胞であり、そのために抗がん剤の影響を受けやすいという特徴があります。
抗がん剤によって毛母細胞の活動が制限・阻害された結果、毛を作ったり伸ばしたりする機能が低下して、結果的に髪の毛が細くなったり脱毛が進行したりといった副作用の原因になることもあるでしょう。
また、2020年代以降は治療中の脱毛を軽減する方法として、頭皮を冷却する「スカルプクーリング(頭皮冷却療法)」が注目されています。これは冷却によって頭皮の血流を減らし、抗がん剤が毛母細胞に届きにくくすることで脱毛の抑制を図るものです。一部の医療機関では導入されており、使用にあたっては主治医と相談してください。
抗がん剤治療による副作用では、全身の様々な場所において脱毛が生じる可能性があります。特に髪の毛は毛母細胞の活動が活発な範囲であり、同時に対外的にも目立つ場所であることから、髪の毛の脱毛が気になることは少なくありません。
加えて、眉毛や鼻毛、その他の体毛など様々な部位で毛が失われていくことも考えられます。
なお、抗がん剤の種類によっては、稀に髪の毛が長期間または恒久的に再生しない「永続的脱毛」が報告されており、特にタキサン系やアントラサイクリン系の薬剤においてそのリスクが指摘されています。治療前に医師から十分な説明を受けることが重要です。
放射線治療では、放射線によるエネルギーによって癌細胞を攻撃し、癌の増殖や進行を抑制することを目指しています。しかし、放射線は同時に健康な細胞にもダメージを与えることがあり、結果として毛母細胞にダメージが加わって発毛阻害や脱毛といった副作用へつながるケースも考えられるでしょう。
また、放射線によって皮膚に炎症が生じた場合、その皮膚炎が悪化して毛根に影響して脱毛へつながるといった場合もあります。
言い換えれば、放射線治療を終えて毛母細胞や皮膚の状態が正常化すれば、再び発毛することが期待できます。
放射線治療による脱毛の場合、基本的に放射線が照射された範囲において脱毛が生じます。そのため、全身性の脱毛が考えられる抗がん剤治療に対して、放射線治療では局所的な脱毛になりやすいことがポイントです。
癌治療によって脱毛のリスクがあると考えられる場合、あらかじめ対策しておくことも大切です。
人の髪の毛は健康な人でも毎日かなりの本数が抜けており、抜けては生えてを繰り返すことで通常の外見を保っています。ただし、髪の毛が長いと同じ本数が抜けていても、失われる毛量そのものは多くなるため、見た目にも大量の髪が抜けているとショックを受けやすくなることが重要です。
そのため、あらかじめ髪の毛を短くカットしておき、髪の少ない生活に慣れておくことや、抜ける毛量を少なくできるように準備しておくことはポイントです。
髪はクッションとして機能しており、皮膚を傷つけないために働いています。しかし髪が失われることで皮膚がむき出しになり、例えば頭を洗う際に爪で皮膚を傷つけてしまうといったリスクも高まります。
そのため、爪を短めに整えておき、洗髪の際にも頭部を傷つけないよう前もって意識する習慣をつけておきましょう。
パーマ液やヘアカラー剤は頭皮や毛根へ刺激を与えたり、ダメージを与えたりして皮膚炎や脱毛を促進する可能性があります。そのため、癌治療を受ける前はパーマやヘアカラーを中止し、治療後も主治医と相談して使用許可が下りるまでは髪や頭皮をいたわるようにしてください。
なお、育毛剤や発毛剤を主治医の許可なく利用することも厳禁です。特に、ミノキシジルやフィナステリドといった成分を含む薬剤は、体への影響が懸念されるため、必ず医師の指示を仰ぐ必要があります。
癌治療によって髪の毛が完全に失われた場合、医療用ウィッグを利用するといった方法も検討できます。ウィッグには個人の頭のサイズに合わせてオーダーメイドする医療用ウィッグ(メディカルウィッグ)や、ファッション性や低コスト性を重視したウィッグなどもあり、自分なりに情報を調べておくことも良いでしょう。
癌治療がスタートして脱毛が始まった場合において、対策やケアを考えるためのポイントをまとめました。
癌治療の副作用による脱毛が始まったからといって、いきなり全ての髪の毛が失われるといったケースはあまりありません。実際には、徐々に髪の毛が抜けていくというパターンが一般的です。
そのため、頭を洗うことで髪の毛が一層に抜けやすくなることを懸念して、洗髪を避けようとする癌患者も少なくありません。しかし毛穴が汚れたり詰まったりすると、炎症やかゆみの原因になり、不快感が強まるだけでなく髪の毛のケアとしても逆効果です。
脱毛対策と頭部の清潔さを保つことはセットで考えるべきものですが、強く頭を洗ってしまうと髪の毛が抜けやすくなることも事実です。そこで、頭部を洗う場合は頭皮への刺激を抑えられるようぬるま湯を利用して、シャンプーを使う前にしっかりと髪を濡らして頭皮を温め、毛穴を広げたり古い角質をふやかしたりして汚れを落ちやすくしておくようにします。
また、蒸しタオルで頭を温めるといった方法も効果的です。
使用するシャンプーやリンスについては、「低刺激」や「無添加」といった表示にこだわるよりも、自分の体質や使いやすさに合ったものを選びましょう。頭を洗う時には爪を立てたり強くこすったりせず、指の腹で頭皮をマッサージするように優しく洗い、さらに洗髪剤が残らないようきちんと洗い流してください。
洗髪後はタオルで強くこするのでなく、吸水性の良いタオルを優しく髪に当てて水分を吸い取ります。ドライヤーはあまり利用せず、使うにしても高温を避けて低温・微風で優しく乾かすことが肝心です。
髪の毛がもつれたり絡んでいたりすると、ブラッシング時に他の髪の毛を巻き込んで抜け毛につながる恐れがあります。そのため日常的にクシを使って髪をとかすことは大切です。
ただし、乱暴に髪をとかすと抜け毛が多くなるため、優しくブラッシングし、頭皮をこすらないように意識してください。またピンの目が粗めで、先端が丸まっているものは髪や皮膚へのダメージを抑えやすくなっています。
脱毛が進行している場合、頭皮が紫外線にさらされて日焼けや炎症を起こしやすくなります。また、乾燥肌やアトピー性皮膚炎の人では頭がかゆくなったり肌が荒れたりすることもあるでしょう。
加えて、夏場に屋外で帽子やウィッグを使用するような場合、汗をかいて汗もなどを生じる可能性もあります。
頭皮は清潔に保ち、必要に応じて乳液や保湿ローションを使ったケアを行ってください。
脱毛が気になる場合はウィッグを利用することも有効です。ただしウィッグにも様々な種類があり、天然毛と見分けが付かないようなオーダーメイドのメディカルウィッグから、ファッション性を重視した既製品まで色々なウィッグが考えられます。
どのようなウィッグを使うにしても、自分なりの目的や使い方を検討するだけでなく、頭皮のケアをきちんと行うことが肝心です。
髪の毛が抜け始めた場合、家の中でも帽子やスカーフなどを利用することで、ベッドや床に髪の毛が散乱することを避けられます。また、服の中に髪の毛が入って不快感を覚えるといったことを避ける上でも役立ちます。
また、完全に髪の毛が失われてからは頭皮のケアを考えて、自宅内ではウィッグを外して過ごすといったことも考えるようにしましょう。ただし、鏡を見て髪を失った自分の姿にストレスや不安感を強めてしまう場合、あえて室内でも頭をカバーするといった選択肢は考えられます。
屋外へ出る場合、帽子やスカーフ、ウィッグなど自分に合った方法を適切に利用することがポイントです。また、帽子やウィッグなどは髪の毛を失っている状態をカバーするだけでなく、紫外線による頭皮ダメージを予防する上でも役立ちます。
季節や気分、服装に合わせて帽子を使い分けることで、義務的に帽子を利用しているのでなく、ファッションの楽しみとして帽子を選んでいるのだと考えれば、メンタルケアとしても効果的です。
抗がん剤の影響によって眉毛やまつ毛といった目の周りの毛が抜けることもあります。そのような場合、対外的にはサングラスをかけることで見た目をカバーできるだけでなく、直射日光による紫外線対策としても利用できます。
また眉毛やまつ毛がなくなると、顔の汗が目に入りやすくなったり、異物が目に混入しやすくなったりといったリスクも高まるため、汗拭きタオルを常備したり、主治医や薬剤師に相談した上で目薬を用意したりといったことも有効です。
鼻毛は空気中のホコリや汚れ、雑菌などが鼻から体内へ入ることを防ぐためのバリアとして機能しています。そのため鼻毛がなくなると、雑菌やホコリなどが鼻から気道へ侵入しやすくなり、場合によってはアレルギーや炎症などの原因になります。
対策としては日常的にマスクをしたり、鼻うがいなどを行って鼻の内部をケアしたりといったことは効果的です。なお、鼻の粘膜や周りの皮膚は繊細なため、鼻をかんだり拭いたりする際には通常よりも柔らかいティッシュなどを利用しましょう。
癌治療を終了してから再び毛が生え始めるまでの期間は人によって様々です。しかし、一般的には1~2ヶ月程度が経過すると毛の再生が始まり、数ヶ月から半年程度である程度元通りに回復するといったことが考えられています。また、毛質や状態も基本的には治療前の状態に回復すると期待できます。
なお、再び毛が生えてきたからといって、すぐにパーマやヘアカラーを行うことは避けましょう。特に、頭皮へ刺激を与えるような薬剤や薬液を使用する場合、必ず前もって主治医に相談して髪の毛に関するスケジュールやプランを考えておくことが大切です。
人によって、元の髪質や毛質とは異なる髪の毛が生え始めてくることもあります。しかし、それが一過性のものか恒久的な体質変化かは即座に判断できないため、すぐに不安を抱くことなく、落ち着いて様子を見ていくことも意識してください。
髪の毛や眉毛、まつ毛といった「毛」は、人の見た目を左右するだけでなく、体を保護する作用としても重要なポイントです。そのため、癌治療によって脱毛が始まったり、思ったように発毛や再生が始まらなかったりした際には、一人で不安や悩みを抱えるのでなく主治医や看護師などへ相談するようにしてください。
また、未成年であればメディカルウィッグを安価で利用できるといったサービスもあり、成人でも自治体によってはウィッグの購入費の一部を助成する制度を実施している場合もあります。脱毛はストレスや不安につながりやすいですが、色々な解決策についてサポートを受けながら自分なりの選択肢を尊重し、前向きに癌治療を進めていく余裕が大切です。