近年のがん治療は、入院しながら行うものばかりではなく、外来で抗がん剤治療を受けるという人も増えてきています。このように通院しながらがん治療を行っている患者さんにとって気になるのが感染症のリスク。がんの治療を行っている人は、がんではない人に比べると免疫機能が低下する傾向にあり、免疫機能が少ない状態で感染症にかかってしまうと、通常の感染症よりも重症化してしまう可能性がグンと高くなります。
そのため、一般の人よりも感染症予防を入念に行う必要があり、具体的には、街中で感染症をもらわないよう手洗いやうがいをしっかりすることに加え、インフルエンザや肺炎球菌感染症のワクチン接種などが欠かせません。
そこで今回は、がん患者にとっての感染症対策や、治療中・退院後かかわらず自宅にいて気を付けなければいけないことなどを分かりやすくまとめて紹介していきます。
感染症の予防対策として最も重要な対策方法が、衛生管理の徹底です。流水と石けんで手を洗うのがベストですが、外出している場合などはその場でアルコールを含んでいる手指用の消毒剤で済ませると良いでしょう。普段から手指用の消毒剤を持ち歩くことをおすすめします。
では、具体的にどのような場合に手洗いをすべきなのかを確認しておきましょう。まず、以下のようなケースは流水と石けんによる手洗いを実践してください。
また、かぜなどの感染症のある人と接触した後や、エレベーターのボタンやつり革、手すりなど公共物の表面に触れた後は、手の表面を見て目に着く汚れがなければ、手洗いだけでなく、アルコールを含む手指消毒剤で対応しても問題ありません。
入浴やシャワーを浴びることが可能な人は、できるだけ毎日入るようにしましょう。とくに口の中は歯磨きやうがいをこまめにして、清潔に保たなければなりません。ただし、歯間ブラシは出血をしてしまうリスクがあるため、どうしても使用したい人は担当医へ相談するのがおすすめ。歯の痛みなど虫歯が気になる場合は担当医へ相談の上、早めに歯科を受診しましょう。
皮膚のケアを行う際には、以下のことに注意しましょう。
食事の準備をする際には、WHO(世界保健機関)が提唱する5つのことを守るようにしましょう。5つの項目は以下の通りです。
中でも、生ものの食事については、急性白血病のような非常に免疫が落ちる患者でも、よく洗った生野菜やフルーツの摂食が可能であるという研究が一部であります。しかし、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬を予防内服中の患者を対象とした研究であり、すべての患者に当てはまるわけではないのが現状。その他にも複数の報告がありますが、いずれも海外からの報告が中心で、私たちが日常的に摂取している生の魚や生もしくは半熟の卵、納豆などの安全性に関する報告は乏しいので注意が必要です。
ほこりには病原体が含まれるので、家の中でほこりが舞うような掃除をする際にはマスクを着用し、掃除後にはしっかりと手を洗いましょう。定期的な掃除を心がけ、清潔にすることが重要です。また、加湿器の使用は避けたほうが良いのですが、どうしても使用する場合は取扱説明書に準じて適切な衛生管理の下、使用するようにしましょう。
外出をする時には、人ごみはなるべく避けましょう。やむを得ず混雑している場所や満員電車に乗らなければならない場合はマスクを着用し、こまめな手洗いやうがいをする必要があります。
風邪やその他、感染症のある人との接触は避けるようにしましょう。家族に感染症の人がいる場合は、家族全員で手指衛生やうがいを徹底するのはもちろん、必要に応じてマスクを着用するなど、感染症が家族内で蔓延しないように注意しましょう。
自宅でペットを飼っている人は次のことに注意してください。
これまでに紹介してきたもの以外では、以下のことに気をつけてください。
がんの患者が気をつけなければならない感染症の中でもとくに要注意なのが、インフルエンザです。寒い時期になると毎年のように蔓延する病気で、インフルエンザウイルスに感染してしまうと、発熱や高度な倦怠感、咳、鼻水、頭痛や筋肉痛などの症状が見られます。若い健康な人の場合、重症化することはほとんどありませんが、高齢者をはじめとした体の抵抗力の落ちた方の場合には注意が必要です。
ヨーロッパでは、インフルエンザによる死亡者の約9割を高齢者が占めていることが示されています。
同じように免疫機能が低下しているがん患者もインフルエンザウイルスには弱く、海外の研究では、がん患者がインフルエンザにかかった場合には1割弱の人が亡くなるという報告が複数あります。また、インフルエンザに罹患した人のうち、がん患者の場合は死亡した人が3.1倍多かったという過去の研究のまとめもあるのです。
インフルエンザの予防でとくに重要なのは、他の感染症と同様、日々の手洗いとうがいです。最近では、夏の暑い時期にもインフルエンザと診断されるケースや、夏場に流行するパラインフルエンザウイルスなどもありますので、一年中、手洗いやうがいをしっかりと行う必要があります。
また、体調がよくない人との接触もなるべく避けるのがおすすめです。
過去の研究でインフルエンザワクチンの効果についての調査が行われ、例えば65歳以上の高齢者を対象とした研究のまとめでは、インフルエンザにかかる割合を半分以下に減らしてくれることが示されています。とはいえ、がん患者を対象にインフルエンザワクチンがどの程度、インフルエンザウイルスを減らしたのかについて調べた大規模な研究は行われていないのが現状です。
一方で、過去の複数の研究によると、ワクチンを接種することで死亡する割合を減らす・重症化を防ぐ可能性があることが示されています。
抗がん剤治療を行っている最中のがん患者がインフルエンザにかかった場合は、命にかかわる場合も少なくありません。そのため、速やかにかかりつけの病院もしくは、近くの内科を受診する必要があります。
かかりつけ医以外の医療機関を受診する場合には、自分ががん患者であることや、現在受けているがん治療、内服中の薬剤などをしっかりと伝えるようにしましょう。もし受診が困難な場合は、担当医へ電話で相談するようにしてください。