骨転移は癌が骨に転移することであり、全ての癌において骨転移リスクは存在します。骨転移は人体を支える骨にダメージが生じるため、仮に癌の治療を終えられたとしても生活する上で注意すべき点が複数あります。
癌の骨転移とは、文字通り癌が骨に転移して発生・増殖している状態です。骨で癌が増殖すると、骨の構造がもろくなって骨折しやすくなったり「骨痛」と呼ばれる痛みを生じさせたりと、様々な不具合が生じます。
一般的に骨転移は初期において自覚症状がほとんどなく、骨転移が進行して骨痛が発生してからようやく自覚して発見されるというケースが多くなっています。加えて、骨転移は完治させることが困難です。骨転移のための治療を終えたとしても骨にダメージが残ったり、癌の再発リスクがあったりと注意すべきポイントを覚えておきましょう。
そのため早期発見が重要になります。治療中はもちろん、治療後も骨が強度を取り戻すまで数ヶ月間は骨転移した部位へ負担をかけないように慎重なケアが必要です。
骨転移した部位を損傷しないようにする状況下で、思いがけない転倒は大きな課題です。そのため、転倒してしまわないように普段の生活から注意を払う必要があります。
家の中で注意すべき点として、まず段差のケアが挙げられます。玄関や階段といった段差はもちろん、部屋と部屋を仕切る扉や引き戸の段差についても意識しておくようにしましょう。また入浴時に浴槽へ入ったり、椅子から立ち上がったり、ベッドから下りる際にも注意が必要です。
加えて、上半身と下半身の両方の骨に骨転移がある場合、転倒しかけた際に思わず手を突けば、転倒を免れても腕を骨折するリスクがあります。
そのほか、踏んだりつまずいたりして転倒しないように足下に物が落ちていない環境づくりを意識することも重要です。
家の外でも段差に注意することはもちろんとして、人混みの多い場所では他の人から押されたりぶつかられたりすることにも注意しなければなりません。また普段に使い慣れない椅子を利用する場合、ケガしないように見守ることが大切です。
タクシーや自家用車を使う際にも、乗り降りする時に気をつけます。バスを利用する場合はノンステップバスの利用を心がけ、バリアフリーを意識された公共交通機関を利用しましょう。
なお、服装や履き物は転倒しにくく脱ぎ履きしやすいものを選びます。
基本的な転倒リスクへの配慮や注意は必須として、骨転移した部位によって特に意識すべきこともあります。ここでは一般的に考えられる骨転移部位に応じたケアについて解説します。
足の骨や骨盤に骨転移が認められる場合、そもそも足腰に負担をかけない移動手段について考えることが必要です。
移動手段としては車椅子や歩行器、松葉杖のような杖から、日常の買い物などで利用しやすいシルバーカーなど様々なものが検討されます。また、車椅子にしても自走式と介助式があり、さらに屋内であれば電動式の車椅子を採用するといった方法もあるでしょう。
杖や歩行器を利用する場合も、松葉杖はT字杖といった杖の形状、歩行器でいうと車輪の有無など種類を検討することも必要になります。なお移動手段や補助器具を利用する場合、自宅の構造や間取りなどを考えて移動範囲を検討することも欠かせません。
車椅子や歩行器に関しては、自治体によってレンタルサービスを実施している所もあり、病院や役所の窓口へ相談してみると良いでしょう。
基本的に骨転移の患者の転倒リスクへ配慮したり、骨への負担を軽減したりするには、床に敷いた布団でなくベッドを利用することが無難です。可能であれば介護ベッドのような特殊寝台が望ましいでしょうが、一般的なベッドでも適切に注意点を押さえることで安全に利用できます。
ベッドには落下防止の柵を付けるだけではなく、柵にタオルを巻くなどして睡眠中に体をぶつけてケガをしないよう配慮することが求められます。また、ベッドから下りる際は治療中もしくは治療した足へ体重をかけないよう、両手で足を支えたり、無事な足を使用してゆっくりと動かしたりすることが大切です。
なお、無事な足にばかり過度な負担をかけて、健常な足まで状態を悪化させないよう全身を上手に使うことがポイントとなります。
椅子に座る場合、椅子の高さをやや高めにして屈伸運動を軽減できるよう配慮することがコツです。また、椅子に座ったり立ったりする場合、体をかがめたり前傾姿勢を取ったりするのでなく、ゆっくりと垂直運動で動作するように意識します。
なおソファなどに深く座りすぎると立ち上がる時に難しくなるため、場合に応じて周りの人へ介助してもらうことも必要です。
家の中で日常的に移動する場所と動線を確認することは欠かせないポイントです。動線に小さな段差がある場合、滑り止め対策をしたカーペットを利用して段差を解消したり、手すりを設置して体を支えやすくしたりといった対策も有効になります。
また、バリアフリー化を検討するといった手段もあるでしょう。
下半身は人の体を支える土台であり、意識せずとも普段から負担がかかっています。特にしゃがんだり姿勢を傾けたりする際には重心が移動して負担がかかりやすくなるため、料理や清掃といった家事についても主治医と相談しながら無理のない範囲で行うことが重要です。
腕や肘、手といった部位の骨に癌の骨転移が生じた場合、ものを掴んだり体を支えたりといった動作に関して慎重にならなければなりません。
トイレは洋式を利用し、可能であれば温水洗浄便座やシャワートイレを利用して、体をひねったり腕に力を込めたりといった動作を極力減らすことが大切です。また、基本的に排便後は骨転移のない腕で拭くようにし、体の後ろへ腕を回して拭くのでなく、体の前面から拭くように意識することもコツとなります。前側から拭く場合、特に男性は性器を汚さないようあらかじめ練習しておくようにしましょう。
入浴時も体をひねって背面を洗うのでなく、柄の付いたブラシを利用するなど腕や体に過度な力がかからないよう意識することが大切です。加えて、転倒リスクを避けるために座った状態で作業し、立ち上がる際には滑って転倒しないよう意識しなければなりません。
ただし、手すりを利用する時も、原則として骨転移のない腕のみを使うことがポイントです。
ベッドへ入る場合、手を突いて体を支えるのでなく、お尻から体をゆっくりと下ろすように移動します。また、手すりは骨転移のない方の手でつかめるよう位置を調整してください。
ベッドから起き上がる場合も、骨転移のない上で手すりをしっかりとつかんで、万一の転倒を避けるために慎重に体を支えながら移動します。
上着は基本的に前開きの服を選択し、袖口の狭いトレーナーなどは避けて、伸縮性がありゆったりとしたものを選びましょう。下着についても脱いだり着たりがしやすいものを選びます。また、着る際には骨転移のある腕から先に袖へ通して、脱ぐ際は骨転移のない腕から先に抜くと安全に着替えられます。
靴は作業が複雑な紐靴や転倒リスクのあるサンダルなどを避け、伸縮性がある靴を採用し、脱ぎ履きには靴べらを利用しましょう。
なお、一人で作業することが難しければ無理せず手伝ってもらうことも大切です。
当然ながら重いものを持つことを避け、骨転移のある腕はもちろん、健康な腕にも過度な負担をかけないように注意します。家事をはじめとする日常の作業についても主治医と相談しながら安全に暮らせるプランを検討してください。
首から腰にかけて、脊椎に骨転移がある場合、極めて慎重に生活しなければなりません。
まず、首の骨や背骨といった脊椎に骨転移がある場合、上半身の全体的な安静が必須です。また、ネックカラーやコルセットといった補助器具を利用して、骨転移のある部位へ力や重さがかからないよう配慮することも欠かせません。
なお、ネックカラーやコルセットにも様々な種類があるため、適切なものを選べるように主治医や看護師、介護士などへ相談します。
就寝中の寝返りは無意識に発生するものですが、これによって首の骨や背骨に負担をかけるリスクがあります。そのため就寝中に脊椎を保護できる補助器具などを利用することも1つの方法です。
また起床時にはいきなり頭を持ち上げたり体を起こしたりしないよう、ひねりやねじりといった動作を避けてゆっくりと体を起こしてください。
枕の高さや椅子の形状などは、脊椎への負担を軽減したり動作をサポートしたりする上で大切なポイントです。無理のない範囲で安全に利用できるものを選択してください、
思いがけない転倒はもちろん、驚いて振り返ったり急に動いたりといった動作も厳禁です。そのため、突発的な事態がそもそも起こらないように、身の回りを整理整頓して安全に生活できる環境を整えましょう。
入浴時や染髪時、また高い場所や低い場所にあるものを取る場合など、首や体を傾ける動作も基本的に避けることが無難です。安全性と効率性を考えてものの配置を変えたり、軽いものを取りたいだけであればマジックハンドのような器具を使ったりと、色々と工夫できる点を専門家に相談してください。
ネックカラーやコルセットは骨に力がかからないようサポートするために役立ちますが、転倒や衝突による衝撃の全てを防ぐことはできません。そのため、家の外では車椅子を利用して安全に移動することも大切です。
またタクシーや車へ乗り降りする時は、過度に前傾姿勢になったり車体へ頭をぶつけたりしないよう、運転手へサポートしてもらいましょう。
骨転移は初期症状を自覚しにくい癌転移ですが、骨転移した骨は癌によってダメージを受けており、癌治療そのものが一段落しても、再び骨に体を支えられる強度が戻るまで時間がかかります。そのため、自分なりに骨転移した部位へ負担をかけないよう動作や生活に注意するだけでなく、補装具や補助器具を利用したり他の人に介助してもらったりすることも大切です。
また、補助器具や補装具、介護ケアの利用については自治体が様々なサポート制度を実施していることもあり、公的な補助を利用することも重要です。
なお骨転移だけでなく骨痛もある患者の場合、放射線治療や化学療法などの緩和ケアや疼痛治療によって痛みを和らげられる可能性もあるため、まずは主治医へ相談してみましょう。