肺への転移は、食道癌や子宮癌からも見られます。このページでは肺へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。
肺転移とは、他の臓器や組織で発生した癌細胞が肺に転移してしまうこと。食道や子宮からの転移が多く見られ、血液やリンパの流れに乗った癌細胞が肺に到達することで起こります。食道癌は進行が早いため、様々な器官に転移しやすい癌。子宮癌は肺とは離れた位置にある癌ですが、血液の流れに乗って転移すると言われています。
食道癌が肺に転移した場合は、咳や胸の痛みが出るようになります。咳が出るのは、転移した肺癌が気管支や肺を刺激するからです。胸の痛みは、肺癌が肋骨や肋間神経に刺激を与えることで起こります。食欲減退や体重減少、疲れやすいといった症状が起こるのは、転移性の肺癌が進行して体力がなくなるため。肺だけでなく様々な癌で共通する症状です。
子宮癌が肺に転移した場合は風邪を引いた時と同じような症状が起こるので、転移に気づかないことがあります。転移によって起こる咳は、癌が肺や気管支を絶えず刺激し続けるため長くしつこいのが特徴です。癌が進行すると血痰や気管支炎になり、胸に水が溜まって肺が小さくなることで呼吸困難を起こすようになります。
大腸癌からの肺転移は、原発巣である大腸から癌細胞が静脈に侵入。血液の流れに乗って、肺で増殖することで引き起こされます。大腸癌の転移の中でも、肺転移は肝臓に次いで起こりやすいと言われています[1]。
癌細胞が原発巣から剥がれ落ち、血液の流れに乗って転移する血行性転移は、細胞と細胞をつなげるために必要とされる細胞間接着分子E-カドヘリンと呼ばれる部室が、何らかの原因で機能異常や分泌量が減少することで引き起こされるのではないかと考えられています。
細胞間接着E-カドヘリン機能と頭頚部癌細胞株を抗E-カドヘリン抗体SHE78-7で処理す ると,E-カドヘリン陽性細胞は接着特性を失い遊離した。転移の第一段階である癌細胞の原発巣からの離脱には,E-カドヘリンの機能抑制が関連していると考えられた。
大腸から肺へと転移した癌細胞は、肺で増殖するわけですが、転移をしていてもなかなか症状が出にくい点が転移性肺癌の特徴の一つです。例えば、咳が出ていても「風邪かな?」と思いそのままにしていたら、肺癌だったというケースも少なくありません。
癌を経験した方で、1週間以上長引くような咳がある場合には、肺癌が肺や気管支を刺激している可能性もあります。ぜひ、早めに病院で検査を受けましょう。
大腸癌からの転移性肺癌の治療は、他の場所への転移の有無や、肺のどの部分に転移しているかによっても治療方針が異なります。
例えば、原発巣である大腸癌に再発が見られず、肺の摘出可能な場所に癌が広がっているなら、肺の一部もしくは片肺を摘出し、癌細胞を除去する外科手術も検討されます。外科手術と一口に言っても、胸腔鏡手術、胸腔鏡補助手術、開胸手術など複数のアプローチがありますから、医師の判断・説明をしっかりと聞き、必要であればセカンドオピニオンなどを仰いでみてもいいでしょう。
その他、大腸癌から肺へと転移した癌の治療には、外科治療以外に抗癌剤による化学療法、分離標的薬、放射線療法、光線力学療法などが挙げられます。
少し古いデータですが、大腸癌から肺転移を起こす頻度に関する研究報告によれば、大腸癌根治手術後の肺転移は肺転移のみが見られたケースが20.7パーセント、肺と肝臓に転移が見られたケースが51.8パーセント、肺にも肝臓にも転移が見られなかった症例は10.3パーセントだったことが報告されています。原発巣の初回手術時に肺転移を起こしている頻度は、肝転移よりも低いものの、結腸癌からの転移よりも直腸癌からの転移の頻度の方が高いとも報告されています。[2]
このように、大腸癌から肺へと転移することは決して珍しいことではありません。癌治療後は、根治していたとしても経過観察をしっかりとすることで、転移も早期に発見することができるでしょう。
必ず定期健診は受け、ご自身の体調の変化に気をくばるようにしましょう。また、定期健診以外のタイミングでも、何か不安や異変を感じるようなことがあれば、すぐに主治医に相談をするようにしましょう。早期発見につなげることが、肺転移の予後にも大きな影響を与えます。
[1]出典:大腸癌研究会_患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版
[2]出典:(PDF) 「大腸癌肝転移・肺転移の頻度と切除の意義」大腸肛門誌,37,1984[PDF]
主に「薬物療法」と「対症療法」が選択されます。
薬物療法は、癌細胞の増殖や破壊を行うために抗癌剤などの薬剤を投与する治療法です。肺を切り取らず温存できたり、入院せずに通院治療できたりするメリットがあります。
対症療法とは、病気に伴う症状を緩和することが目的の治療法。根治を目指すのではなく、辛い症状や痛みによる不快感を取り除くことで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めるために行われます。
癌の大きさや病巣の数を見て、手術か抗癌剤治療のどちらかが行われます。子宮頸癌の場合、「病巣が3つ以下」「腫瘍の大きさが3センチ以下」の時に手術を選択。これ以上数が多い場合は抗癌剤治療を用いて病気の改善を目指します。
肺癌の治療方法は患者本人の体力、意思、原発腫瘍ごと、ステージ、タイプにもより異なります。肺癌には大きく分けて「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、非小細胞肺がんで比較的早期の場合は手術療法、手術が難しい場合には放射線治療が主に選択されます。
小細胞肺がんで比較的早期の場合は手術を行うこともありますが、小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です※1
そのほかにも転移の個数や転移の場所、体力で慎重な判断が必要です。まずは専門医のセカンドオピニオンを受けてみてください。
ここでは【外科手術】【放射線療法】【薬物療法】それぞれでおすすめの病院・クリニックを紹介いたします。ぜひ参考にしてください。
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本呼吸器外科学会指導医かつ日本外科学会外科専門医の所属する病院をご紹介します。(2021年11月時点)
呼吸器系の疾患を中心に、ロボット支援下手術も導入
東大病院呼吸器外科は、肺がんや肺腫瘍をはじめ、その他胸壁腫瘍や自然気胸、肺気腫などといった呼吸器系の疾患を中心的に診断・治療する病院。肺がんに関してはロボット支援下手術も導入しており、繊細かつ患者さんへの身体への負担に配慮した手術を可能としています。
在籍している医師:中島 淳医師
電話番号:03-3815-5411
他科とも連携した胸腔鏡下手術を提供
呼吸器に関しては肺がんから肺嚢胞・気胸、縦隔腫瘍、胸腺腫、重症筋無力症など幅広い疾患に対応している神戸市立医療センター中央市民病院。肺がんは主に胸腔鏡下手術による治療を提供していますが、総合病院ならではのネットワークを活かし、必要があれば他科とも協力を行うなど工夫しているそうです。
在籍している医師:高橋 豊医師
電話番号:078-302-4321
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本医学放射線学会専門医が在籍する癌放射線治療専門クリニックをご紹介します。(2021年11月時点)
幅広い部位のがん治療に期待できる「トモセラピー」
クリニックC4は、主に新型の放射線機器とされる「トモセラピー」を用いたがん治療を行っています。これは呼吸器のがんを含め、幅広い部位に対して照射が可能なだけでなく、病巣を包み込むように照射するため、適切な範囲を設定しやすいのが特徴です。副作用や痛みなどの身体への負担も少ないと言われていますから、体力的な不安がある方にもおすすめと言えるでしょう。
在籍している医師:青木 幸昌医師
電話番号:03-6407-9407
肺がんでは保険が適用される可能性のある治療法も
高精度放射線治療をはじめ、一般的な分割照射法や化学放射線治療など、幅広い治療法を揃えている苑田放射線クリニック。高精度放射線治療の中でも、定位放射線治療(SRT、体幹部に用いられる場合はSBRTと呼ばれる)は肺がんや肝がんでの治療だと保険が適用される可能性があるとのことなので、気になる方は一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。
在籍している医師:齋藤 勉医師
電話番号:03-5851-5751
早期発見・改善をテーマに、幅広い部位に対応する高精度放射線治療
東京ベイ先端医療・幕張クリニックは、がんに関して診断から治療まで一貫した対応を行っている医院。早期発見・治療をモットーに、高精度放射線を中心とした治療を提供しています。肺がんも含め幅広い箇所へのがんに適応しているため、他部位からの転移についても相談できるでしょう。
在籍している医師:幡野 和男医師
電話番号:043-299-2000
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本血液学会血液専門医かつ日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の所属する病院をご紹介します。(2021年11月時点)
肺がんの治療実績も豊富な、地域に根差した医院
虎の門病院は「地域がん診療連携拠点病院」、かつ「がんゲノム医療連携病院」として、地元を中心に信頼を集めている総合病院。がん治療に関しては身体への負担が少ない治療法を追求しており、24時間365日体制で細やかに対応にあたっています。様々な専門科を有していることから、肺がん治療の実績も豊富です。
在籍している医師:三浦 裕司医師
電話番号:03-3588-1111
肺転移は食道や子宮をはじめ、様々な臓器や組織の癌が肺に転移して起こる病気です。肺以外の臓器では癌細胞が定着しにくいため、転移することはそんなに多くありません。一方、肺の肺胞には多くの毛細血管が張り巡っており、血液やリンパの流れに乗った癌細胞が流れ込みやすいという特徴があります。そのため、肺は転移の可能性が他よりも高い臓器なのです。
もし肺に転移があると診断されても慌ててはいけません。進行した癌や転移した癌を治療する医師がいます。癌治療に力を入れている専門医療機関を見つけて、最適な方法で治療をすることが大切です。
がん細胞が血液の流れに乗って肺に達し、肺で生育して出現する転移性肺がんは、症状が出にくい疾患と言われています。
肺がんの症状は、咳や痰、血痰、発熱、胸の痛み、呼吸困難などが挙げられますが、これらの症状は肺がん以外の病気の症状としても見られることがあるため、症状だけで肺がんかどうかを判断するのは難しいと言われています。[1]
肺がんに伴い、初発症状として痛み(胸痛)が見られる割合は、全肺がん患者の約15.8%。全ての方が痛みを感じるわけではないことが過去の研究からも明らかになっています。
初発症状:前例について17.5%は無症状, 9.3%咳嗽,23.7%疾,19.0%血疾,15.8%胸痛,6.3%呼吸困難,5.8%やせ,5.1%倦怠,9.8%熱,4.0%嗅声等である.
調査対象:肺癌全国登録症例(1975・76・77年次4,931例のうち、男性3,770例、女性1,161例)
引用元:『全国集計よりみた肺癌の組織型別臨床統計』肺癌,22(1),1982
https://www.jstage.jst.go.jp/article/haigan1960/22/1/22_1_1/_article/-char/ja/
肺がんの初発症状を調査した別の研究では、胸痛は肺がん患者の方の49%に、骨痛が25%の方に見られたという統計もあります。[2]
また、痛みがある場合でも、肺へと転移したがんのできた場所によっても痛む場所が異なります。例えば、肺尖部(肺の上部)に腫瘍ができている場合、肩や脇の下、腕などの痛みを感じることもあります。また、末梢神経幹が傷つき、灼熱痛と言って、焼けるような痛みを生じるケースもあります。
転移性肺がんによる胸痛の原因は、肺を包む膜や気管にがんが広がり生じる痛みと、肺の周囲にある神経や肋骨にがんが広がることで生じる痛みが考えられます。一般的に、肋骨や神経にがんが広がった場合は鋭い痛みを感じることがあるようです。このようにがんの痛みは、原因もさまざま。がんの進行や腫瘍の大きさなどが痛みと関係しているかというとどうやらそうではないようで、小さいがんだったとしても、骨や神経近くにがんができた場合には痛みを強く感じることがあります。
転移性肺がんの場合、がんの治療はどこから転移してきたがんなのか、他の場所に転移はあるかどうかなど様々な要素をチェックした上で、治療方針が決められます。
体力があると判断された場合には、転移性肺がんも外科手術で腫瘍を取り除くケースがあります。また、化学療法や分子標的薬による治療、放射線療法による治療などが行われることもあります。
手術後の慢性痛や、抗がん剤による副作用など、がん治療が原因で転移性肺がんの治療中に痛みを感じることは大いに考えられます。
転移性肺がんに限らず、がんの痛みは治療中約半数の方に、さらに進行がんの患者さんの場合3人中2人が痛みを感じると言われています。
近年、がん治療において痛みの緩和ケアの重要性が認識され、痛み治療に関するガイドラインや患者さんへの情報提供も盛んにされるようになってきました。
がんの痛み治療の中心は、痛み止めによる服薬治療です。WHO方式のがんの疼痛治療法では、痛みを「弱い痛み」「弱い痛みから中くらいの痛み」「中くらいの痛みから強い痛み」の3つに分類。それぞれの痛みの程度に応じた痛み止めを使用します。
最も軽い「弱い痛み」では解熱鎮痛薬を。次の「弱い痛みから中くらいの痛み」にはコデインやトラマドールを。最も辛い「中くらいの痛みから強い痛み」にはモルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの鎮痛剤を用います。[3]
このように、転移性肺がんは、がん腫瘍だけでなく治療中にも痛みを生じることがあるため、がんへの治療に加えて、こうしたがんの痛みに対する治療も非常に重要になってきます。
「肺にまで転移したのだから、痛みは仕方がない。我慢するべきだ」と考えずに、痛みを軽減するための方策を医師と相談して決めていくことで、がん治療の苦痛が緩和され、より良い日常生活が送れるようになるのではないでしょうか?
【参考URL】
参考[1]:国立がん研究センター がん情報サービス『肺がん治療』(2018年1月25日確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
参考[2]:『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド第1章』日本緩和医療学会,2014
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/patienta/2014/pdf/01.pdf
参考[3]:『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド第3章』日本緩和医療学会,2014
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/patienta/2014/pdf/03.pdf
癌には色々な種類があり、それぞれの癌によって原因も様々だとされていますが、特に肺癌ではまず喫煙習慣が肺癌リスクを高めると指摘されています。そのため肺癌の予防として禁煙を心がけることは重要であり、その他にも日々の暮らしの中で複数の予防ポイントを考えることが可能です。
ここでは一般論として肺癌の予防につながると考えられる取り組みなどをまとめていますので、ライフスタイルの見直しの参考にしてみてください。
肺癌リスクは喫煙で高められる他、様々な生活習慣によってリスクが高くなっていくと示唆されています。国立がん研究センターなどが日本人を対象とした癌研究を行ってきた結果として、まず癌の全般的な予防には禁煙や節酒、食生活の改善、適度な運動や体重管理、さらに感染予防といったものが効果的だと判明しています。
そのため、現在のライフスタイルとして飲酒量が多かったり暴飲暴食をしていたり、肥満体型や痩せ過ぎといった人は、生活習慣を見直して健康的なライフスタイルを獲得することが、肺癌を含めた癌全般の予防につながるといえるでしょう。また肺癌予防へ直接に効果がなかったとしても、その他の臓器で癌が発生するリスクを抑えられれば、肺の転移リスクを下げられるため、結果として肺癌予防に貢献します。
喫煙は肺癌の危険因子とされており、喫煙者と非喫煙者の癌発生率を比較した場合、男性であれば4.4倍、女性であれば2.8倍の割合で肺癌になっていることが発表されています。
またタバコを吸い始めた年齢が若く、日々の喫煙量が多い人ほど肺癌リスクが高まるとも指摘されており、同時に本人がタバコを吸っていなくても周囲に喫煙者がいることで受動喫煙の影響を受けている場合、やはり肺癌リスクが高まると指摘されている点も見逃せません。
そのため自分自身の肺癌予防として禁煙を心がけることはもちろん、家族や周囲の人の肺癌リスクも軽減しようと思えば、やはり禁煙によって受動喫煙の発生を防ぐことも効果があると考えられるでしょう。
喫煙は肺がんの危険因子の1つです。喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍肺がんになりやすく、喫煙を始めた年齢が若く、喫煙量が多いほど肺がんになる危険性が高くなります。受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)も肺がんになる危険性を2~3割程度高めるといわれています。喫煙していない人や受動喫煙の影響を受けていない人でも肺がんになることもあります。
スクリーニングとは、現時点で癌と診断されていない人の体内を様々な方法で検査して、癌の発見を目指すための方法の総称です。一般的に癌検診や肺癌検診で実施される検査をスクリーニングとして考えることが可能であり、スクリーニングによって癌の早期発見が叶えば治療効果や治療後の生存率を向上できる可能性が高まります。
ここでは一般的に肺癌のスクリーニングとして利用されている検査方法や、将来的に発展性が期待されているスクリーニング方法などをまとめて紹介していますので、参考にしてください。
肺癌は早期の自覚症状がない癌であるため、普段の生活で肺癌だと自分で早めに気づくことは困難です。そのため肺癌のスクリーニングや検診は自分が健康であると思っている時点で受けることが大切であり、さらに血痰や咳、声のかれ、胸痛といった症状が気になれば速やかに医師の診察を適切に受けることが重要です。
検診で早期に発見して治療することにより、肺がんで亡くなることを防ぐことができます。検診は自覚症状がないうちに受けることが大事です。早期の肺がんは自覚症状がありません。
血痰、長引く咳、胸痛、声のかれ、息切れなどの症状がある場合には検診ではなく、すぐに医療機関を受診してください。
胸部X線検査はいわゆる「レントゲン検査」であり、肺癌のスクリーニングとして一般的に利用されている方法です。
放射線の1種であるX線を患者の体の外側から照射して、胸部全体の様子を撮影することがポイントです。そのため胸部X線検査(レントゲン検査)では大きく息を吸い込み、肺を膨らませた状態で撮影します。
得られた結果は撮影画像として取得され、医師がその画像を確認しながら肺の内部にある病変や炎症などをチェック。胸部X線検査のみで肺癌であると確定することはできないため、レントゲン写真に異常や気になる点が認められた場合、さらに肺癌のスクリーニングを進めていくという流れです。
喀痰細胞診とは、「痰(たん)」の中に含まれている細胞を採取して、その状態を病理医がチェックすることで肺癌の可能性を診察する検査です。なお喀痰細胞診は基本的に胸部X線検査と併用で行われる上、そもそも喀痰細胞診によって肺癌のスクリーニングを実施できる人の条件が限られていることも見逃せません。
喀痰細胞診の有効性が認められている人は、年齢が「50歳以上」、さらに日常的に喫煙習慣があり、以下の公式によって算出される「喫煙指数」が「600以上」になる人となります。なお喫煙については現在の喫煙習慣の有無を問わず、過去にタバコを吸っていた人も対象です。また加熱式たばこに関しては「喫煙本数」を「カートリッジ本数」に替えて計算します。
上記の条件に当てはまらない人に対しては、喀痰細胞診の効果がないため実施する必要がありません。
胸部CT検査は一般的に肺癌の精密検査と呼ばれるスクリーニングの1つであり、胸部X線検査や喀痰細胞診によって肺癌の疑いがあるとされた場合に、改めて肺の内部を診察するために実施されます。
胸部CT検査ではCT画像診断装置とX線を使って、胸部X線撮影の時よりも詳細かつ立体的に肺の内部を画像化して断面図を取得することが可能です。なお胸部CT検査は肺癌のスクリーニングだけに使用されるのみならず、放射線治療などを実施する際には治療計画用CTを使った画像診断も行われます。
気管支鏡検査も肺癌の精密検査の1つであり、患者の口や鼻から気管支鏡を挿入して、肺癌の疑いのある病変部位を医師が直接に観察します。また必要に応じて対象部位から細胞を採取し、それを病理医が顕微鏡下で観察して腫瘍の悪性などを診断するという流れです。
肺癌の検診などでは血液検査によって癌リスクをチェックすることもあります。方法としては、肺癌に特有の物質(腫瘍マーカー)が患者の血中にあるかどうかを検査するものであり、腫瘍マーカーの数値によって肺癌が発生しているかどうかを推定。ただし、血液検査や腫瘍マーカーによる肺癌検診はそれだけで確定診断とできるものでないため、あくまでも胸部X線検査や喀痰細胞診などの補助的検査として行われることもポイントです。
腫瘍マーカーは肺がんと診断された後に補助的役割を果たします。治療効果の目安であったり,経過観察中の再発を疑うときの参考値となります。将来的には血液中にがん細胞由来の遺伝子が流れ出ているかどうかを調べるなどの検査が可能になるかもしれませんが,少なくとも,いま肺がんにかかっているか,あるいは将来的に肺がんになりやすいかどうかということを血液検査では確定できません。肺がんの診断では画像診断や組織診断が必須になります。
引用元:特定非営利活動法人日本肺癌学会
検査者の尿に含まれている成分を分析して、肺癌のリスクを検討するという尿検査によるスクリーニングを実施している医療機関なども存在しています。
肺癌のリスクを具体的に発見したり、肺癌であると確定診断を出したりするためには画像診断や細胞診といった検査が必須ですが、そもそもスクリーニングを実施することにもリスクがあることは無視できません。
スクリーニングのリスクとしては、直接的に肉体へ負担をかけるリスクと、結果の内容によって間接的に発生しうるリスクの大きく2つが考えられます。
偽陰性とは、文字通り「偽物の陰性」であり、本来であれば陽性として診断されて然るべき患者がスクリーニングの検査結果で「陰性」と誤って診断されてしまっている状態です。あらゆる検査において偽陰性は起こり得ますが、偽陰性は実際には癌であるにもかかわらず、癌を見落として適切な治療のスタートを遅らせるリスクへつながります。
定期的に肺癌検診などを受けていたとしても、偽陰性によって精密検査や治療が必要ないと判断されてしまえば、結果として深刻な状態になるまで癌に気づけなくなる可能性が高まるため、肺癌のスクリーニングは複数の方法を併用して多角的に結果を検証しなければなりません。
偽陽性は偽陰性の反対であり、本来は陰性になるべき人が「陽性」として診断されてしまう状態です。偽陽性は患者の体内に癌がないにもかかわらず「癌の疑いあり」と判断される根拠になり、その後の精密検査などが必要となります。
偽陽性は偽陰性よりも癌を見落とすリスクがないという点でまだマシと考えられがちですが、偽陽性の結果によって本来は不要なCT検査や気管支鏡検査を行ったことで、別の副作用リスクなどを生じさせる危険があります。また自分が癌であると思い込むことで、過度なストレスによる悪影響が生じることもあるでしょう。
胸部X線検査やCT検査では放射線を使用するため、基本的に被曝ダメージは少ないとされているものの、やはりその影響はゼロでありません。また気管支鏡検査で組織や細胞の一部を採取した場合、出血や痛みが生じたり、そこから感染症が引き起こされたりといった合併症・偶発症のリスクもあります。
その他にも血液検査で注射針を腕に刺した結果、思いがけないトラブルが偶発的に起きる可能性もあります。
肺癌の患者は治療中に痛みや不調を感じたり、手術後にも痛みや違和感があったりと、患者によって様々なケースが考えられることも重要です。
このような痛みや違和感、不調は時に患者の生活にストレスや不具合を生じさせて、患者の生活の質(QOL)を低下させる原因にもなるため適切に対処しなければなりません。
肺癌患者のQOLコントロールには複数のポイントがありますが、ここでは主に手術後の痛みや暮らし方に注目して解説します。
肺癌で手術を受けた場合、体を傷つけているため必然的に術後しばらくは痛みがあります。また肺癌の手術では肋骨周辺の神経や骨膜を刺激することもあり、これらも痛みの原因になっていると考えられていることがポイントです。なお、このような術後の痛みは時間経過によって徐々に緩和されていき、およそ2~3ヶ月程度でほとんど気にならなくなるとされています。
また痛みが引いても違和感が残ることはありますが、これも通常は半年から1年ほどで解消されることが多いようです。手術後すぐやどうしても痛みが強い場合などは鎮痛剤を処方してもらい、上手にペインコントロールを行うことでQOL低下に繋がるでしょう。
肺癌の手術後は胸の痛みや違和感の他にも、退院後しばらく発熱が起きやすくなります。ただし37度台の発熱であれば正常な範囲として、安静にしておくことで改善できるでしょう。ただし38度以上の高熱が出た場合などは医師へ相談しなければなりません。
また術後は肺のサイズが縮小しているため呼吸機能も低下しており、いきなり激しい運動や長距離の外出、肉体的に負担のある仕事をすることは避けてください。とはいえ適度な運動や家事などは肺機能のリハビリにもなるため、無理のない範囲で体を動かすことは大切です。
呼吸が苦しくなったり、痛みや不調が強くなったりすれば、無理をせずに、自分にとって暮らしやすいペースを見つけてライフスタイルを構築していきましょう。また諸症状は徐々に改善してくるため、それに合わせて自分のやりたいことや目標を刷新していくことも工夫の1つです。また術後の喫煙や受動喫煙はNGであり、飲酒についても体の健康やバランスを考えて節減するようにしましょう。
病期 | 広がっている範囲 |
---|---|
ⅢA期 | 元々あるがんの大きさに関係なく、肺の周囲にある臓器に及んでいないもののうち、リンパ節転移が元のがんの同じ側の縦幅までに限られる状態。 または、元のがんの大きさにかかわらず、肺の周りの臓器に及ぶけれど、リンパ節移転移が気管支のまわりあるいは縦幅に限られる場合や、元のがんが、肺の周りにある心臓や大血管、気管、食道、椎体など重要臓器まで及んでいるものの、リンパ節転移が元のがんと同じ側の気管支の周りまでに限られる場合がこれに該当します。 |
ⅢB期 | 元々あるがんが、心臓や大血管、気管、食道、椎体など重要臓器まで及んでいるが、リンパ節転移が縦幅、鎖骨上窩まで及んでいるもの。 |
Ⅳ期 | 元のがんの大きさ、リンパ節転移に関係なく、元のがんと同じ胸腔内や肺から離れた臓器に転移しているもの及び、がん性胸水、心襄水。 |
肺癌がどれだけ進捗しているかというステージ分類は、TNM分類と呼ばれる分類法で決定します。
TNM分類のTNMとは、Primary Tumor(原発腫瘍)、Regional Lymph Nodes(所属リンパ節)、Distant Metastasis(遠隔転移)のそれぞれの頭文字を組み合わせたものです。もう少し分かりやすく説明すると、Primary Tumor(原発腫瘍)は腫瘍の大きさ、広がりを見る因子、Regional Lymph Nodes(所属リンパ節)はリンパ節への転移を見る因子、Distant Metastasis(遠隔転移)は他の臓器への転移を見る因子となっています。
腫瘍の大きさ、広がりを見る因子であるTは、大きく分けるとT1からT4の4つに分けられ、細かく分類すると12個に分けることが可能。一番、小さいものは腫瘍の大きさが2センチ以下、最も広がっている場合だと同側の他肺葉にまで転移した腫瘍ということになります。T2までは、腫瘍の大きさだけで判断しているのに対し、T3からは腫瘍の広がり具合も見ながら分類しているのが特徴です。
リンパ節への転移を見るための因子であるNは、N1からN3の3つに分類。N1は、腫瘍と同側の気管支周囲リンパ節転移、同側の肺門リンパ節転移、肺内リンパ節転移の3つがあります。N2は、腫瘍と同側の縦隔リンパ節転移、期間分岐部リンパ節転移の2つ。N3は、対側縦隔リンパ節転移、対側肺門リンパ節転移、前斜角筋リンパ節転移、鎖骨上窩リンパ節転移の4つがあります。つまり、腫瘍がある側の肺へのリンパ節転移であればN1またはN2になるのに対し、反対側にまで及ぶとN3に分類されるということになるのです。
最後は、他の臓器への転移を見るための因子であるM。こちらについては、対側肺に転移した腫瘍、胸膜播種、胸水にがん細胞が見られる、多臓器転移の4つに分けられます。
これらの3つの要素を総合的に判断して病期が決まるのが一般的です。ただし、遠隔転移がある時点で病期は最も進行したステージⅣ期に分類されます。肺癌の治療としてどのような選択肢を候補とすべきか、それぞれの患者の肺癌がどのステージにあるかを正確に診断した上で、患者の要望やライフステージ、またこれまでの治療歴などを総合的に考慮して主治医と検討することになります。そのためステージによって第一候補となる治療法や治療方針は異なってくる上、同じステージであっても個々の状態や条件に応じて詳細が変わってくることもポイントです。
ここでは一般的に検討される、肺癌のステージ(Ⅰ期~Ⅳ期)に応じた治療方針について紹介しますので、治療法を考える上で材料の1つとしてご活用ください。
※参照元:がん・感染症センター 都立駒込病院|肺がんの診断、放射線治療 ステージごとに解説
※参照元:岡山済生会総合病院岡山済生会外来センター病院|肺がんのステージ(病期)と生存率について
ステージⅠ期の肺癌は病変が肺に限局している早期癌であり、自覚症状も現れにくいものの、ステージⅠ期で肺癌を発見できた場合は早期に治療することで根治を目指すことが可能です。
ステージⅠ期の肺癌治療は、まず非小細胞癌であった場合、患者が手術に耐えられる状態であることを条件として手術による切除が第一候補となります。また、小細胞癌の場合は手術に加えて抗がん剤を併用する治療法が検討されます。
なお、患者が手術に耐えられる状態にあるかどうかは、呼吸機能や肝機能、腎機能、心臓の機能などを総合的に考慮して診断されます。
その他、高精度放射線治療として肺癌患者に対する定位放射線治療(定位照射)も2004年から保険適応となりました。
※参照元:がん・感染症センター 都立駒込病院|肺がんの診断、放射線治療 ステージごとに解説
ステージⅠ期よりもやや進行しているステージⅡ期ですが、やはり第一候補としては手術が検討されます。ただし、ステージⅠ期と比較すれば手術のみによる治癒率が減少することもあり、再発リスクや転移リスクへ備えるために術後化学療法や術後放射線治療といった治療が併用されます。
ステージⅢ期の肺癌患者では、局所進行癌の進行状況によって段階的な検討がされることも特徴です。
まず肺だけで進行している初期の進行癌の場合、非小細胞癌であれば手術が基本となります。ただし術後の再発率が高く、リスクマネジメントとして術後化学療法や放射線治療の併用といった集学的治療によるアプローチが検討されます。手術困難な場合は抗がん剤投与と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が基本です。また、その他に免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法が行われることもあります。
小細胞癌では化学放射線療法が基本として考慮されるでしょう。
また、リンパ節転移が生じているような場合、手術だけで全ての癌を切除することは困難であり、基本的に手術が選択肢となるケースはありません。そのため化学放射線療法が標準治療となり、さらに非小細胞癌の場合は状況に応じて免疫療法も併用されます。
なお、ステージⅢ期においても手術が行われることはあるものの、この場合は根治を目的とした手術でなく、癌による諸症状を緩和して進行を遅らせることが目的になっています。
肺癌が転移しているステージⅣ期では、基本的に手術で癌細胞を全て除去することができないため、まず抗がん剤による化学療法が第一候補として検討されるでしょう。ただし抗がん剤による化学療法は根治目的でなく、症状を緩和してQOLを向上させる緩和ケアを目的とする場合が多くなります。
また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を使った治療が行われることもあります。実際にどのような治療薬を使うかは個々の患者の状態に応じてプランニングされるため、まずはしっかりと主治医と話し合って検討することが大切です。
肺癌からの脳転移が認められる場合、放射線治療として脳全体への全脳照射や、癌のみをターゲットにして局所的に照射する定位照射といった治療法も検討されます。
その他、肺に大量の胸水が貯まっている患者に対しては、それを改善するための治療が主として行われることもあります。
がんのスクリーニングや予防法について知りたいと思っている方もいることでしょう。がんを予防するためには、バランスの取れた食事、適正体重の維持、がん検診を定期的に受けるなど、日頃から予防行動を心がける必要があります。この章では、予防やスクリーニングに関する情報を解説しますので、ぜひチェックしてみてください。
現在、肺がんを予防する効果的な方法はないとされています。肺がんを予防するためには、喫煙習慣のある方は禁煙をする・もともと吸わない方はなるべく煙草の煙を避けるようにすることが重要です。
お酒は「絶対に飲んではいけない」というものではありませんが、飲み過ぎは控える必要があります。日頃より、節度ある飲酒を意識するようにしましょう。
飲酒量の目安として、1日あたり、ビールなら大瓶1本・日本酒なら1合・焼酎なら2/3合・ウイスキーならダブル1杯・ワインならボトル1/3本ほどが適量と言われています。基本的にお酒は飲まないという方や飲めない場合は、アルコールを摂らないことが重要です。
がんを予防するため、「これを食べていればがんにならない」というもの現在のところ存在しません。偏食はしないよう心がけ、さまざまな栄養素をまんべんなくとるよう意識しましょう。日々の食生活は減塩を意識して、塩分の取りすぎには注意するようにしてください。
厚生労働省が定めた「健康日本21(第二次)」では、野菜は1日あたり350g摂取することを目標としています。果物も合わせた目安量としては、野菜を小鉢5皿分・果物1皿分を食べると、約400g摂取できます。
参照元:がん情報サービス公益財団法人長寿科学振興財団によると、がん予防のための食事は、バランスのよい食事が基本とされています。がん予防のための食事については、以下をご覧ください。
がん予防の観点からすると、肥満はもちろん、やせすぎもよくありません。肥満度を示すBMI(※)では、中高年期の男性21〜27、女性21〜25が標準と言われています。この範囲を目安に、適正体重を維持できるといいでしょう。
(※)BMI:Body Mass Indexの略。体重(kg)÷身長(m)2で算出します。
厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2013」によると、18~64歳の身体活動基準として歩行もしくは、歩行と同等以上の運動を毎日60分行うよう推奨されています。65歳以上では、横になった状態・座ったままにならなければ、どのような動きでもよいので、身体活動を毎日40分行うことが推奨されています。
適度な運動習慣をつけることは、がんはもちろん、さまざまな生活習慣病のリスクを低減し、元気で長生きすることにつながります。家事で体を動かす・買い物や散歩で歩数を増やす・趣味として運動を楽しみながら継続するなど、活動的な生活習慣を意識するようにしてください。
参照元:公益財団法人長寿科学振興財団公式サイト先述の通り、肺がんを予防するためには、煙草を吸っている人は禁煙し、吸わない人は煙を避けて生活することが望ましいです。禁煙を開始してから10年後には、禁煙しなかった方と比較して、肺がんのリスクをおよそ半分に減らせることが分かっています。
参照元:がん情報サービス肺がんのスクリーニング検査にはどのようなものがあるのでしょうか。
スクリーニング検査を希望している方は、事前に担当医へしっかりと確認しておくことが重要です。検査にはどのような害を伴う可能性があるのか、あらかじめ把握しておきましょう。
ここでは、肝がんのスクリーニング検査についてご紹介します。
らせん状の軌道に沿って、身体の中をスキャンするX線機器を用いて、低線量の放射線を照射しながら精細な連続画像を作る検査。スパイラルスキャンもしくは、ヘリカルスキャンとも呼ばれています。
X線は放射線の一種のことで、これを人体を通しフィルム上に照射すると、フィルムに体内領域の画像が映し出されるのが特徴です。
顕微鏡を用いて、痰(咳をすると、肺から排出される粘液)のサンプルを観察しがん細胞の有無を調べる検査。上記のスクリーニングを行って、肺がんの疑いのある場合は、気管支鏡検査や生検といった詳しく調べられる検査を行い、がん細胞の有無・がんの種類を確認します。
スクリーニング検査に関する判断は、困難な場合があるとされています。すべてのスクリーニング検査が役立つわけではなく、そのほとんどがリスクを伴うのです。スクリーニング検査を受けたいと考えている場合は、主治医とよく話し合っておく必要があります。検査に伴うリスクをよく理解し、がん死亡のリスク低減といった効果が実際に証明されているのかも確認しおきたいポイントです。
肺がんが存在していたとしても、スクリーニング検査の結果が正常と出てしまう場合があります。偽陰性(がんが存在しているのにも関わらず、存在しないと判定)の結果を受けた場合、例え症状が現れていたとしても、医師の診察を受けるのが遅くなってしまうケースがあります。
がんが存在していないのにも関わらず、スクリーニング検査の結果が異常と判定されるケースもあります。偽陽性(がんは存在しないのにも関わらず、存在すると判定)の結果を受けると、不安の原因となってしまいます。
偽陽性の判定後は、引き続き生検などの検査が実施されるケースが多く、そのような検査によるリスクも生じるのです。肺がんを診断するための生検が原因で肺の一部に虚脱(しぼんで戻らなくなること)が起きる場合もあります。場合によっては、肺を再び膨らませるために手術が必要になることもあります。重度または長期の喫煙による医学的問題がみられる患者さんには、診断検査の害がより頻繁に生じるのです。
がんかどうか、診断を確定するために、気管支鏡下検査・生検が行われます。細い内視鏡(直径5mmほど)を、鼻もしくは口から挿入して気管支内を観察し、がんが疑われている部位の細胞や組織を採取。検査の精度をさらに高めるため、超音波検査を併用する場合があります。
気管支鏡検査は、外来で行われるケースもありますが、入院が必要なこともります。主な合併症として、以下の症状が挙げられます。
肺がんで肺切除術を行った後の患者は、手術手技や術後管理の発展、在院日数の短縮によって、早期に自宅退院を遂げている状況だとされています。しかし、そのような患者が、退院後にどのような身体症状が見られ、生活に関連した問題に直面しているのかは明らかにされていません。
肺がんの術後にある患者の退院後の身体症状・生活に関連した問題点を明確にするために、健康関連QOLを指標にその特徴や経時的な推移について調査された研究があります。ここでは、研究内容とその結果について詳しくご紹介します。
呼吸器外科において待機手術予定であり、術前外来診察時より評価が可能な肺癌患者57例を対象とした研究です。評価には、がん患者に特異的な日本語版European Organization for Research and Treatment of Cancer - QLQ -C 30を使用して、術前と術後1・3および6か月の時点で評価が実施されています。
対象者のQOLは、総得点と身体や役割面の機能尺度、倦怠感および呼吸困難、痛み、睡眠障害を術前と比べて、有意に低下していました。QOLの総則点や機能および症状尺度ほとんどの項目は、術前と同レベルまで回復していますが、機能尺度の身体面と症状尺度の倦怠感や呼吸困難という項目は、術前値まで回復しなかったとされています。
肺がんの術後患者のQOLは、身体や役割、倦怠感、呼吸困難、痛み、睡眠が障害を受けやすく、とりわけ階段昇降や歩行(長・短距離)といった身体活動の質を反映する機能尺度の身体面や倦怠感、呼吸困難においては、障害が長期化しやすことが判明しました。このような結果を踏まえると、肺がん術後患者は、外来によるリハビリテーションの継続はもちろん、症状の回復促進に向け、新たなサポートやケアの必要性が示唆されました。
肺がんで治療を受けている方の体験談や生の声が聞きたい方もいるのではないでしょうか。ここでは、肺がんと診断された方の体験談をご紹介します。診断された際の声や治療を受けている方の声をまとめましたので、チェックしてみてください。
30歳代半ばの夫婦です。夫に肺がんが見つかり、ステージⅡの診断で、手術と放射線治療をおこない、うまくいっていたところでしたが、早々に再発し、ステージⅣになってしまいました。
現在、体調に波はあるものの分子標的薬のおかげで、思ったより元気に仕事とプライベートを楽しむことが出来ています。子供も小さい事もあり、出来るだけ長くこの良い状態が続いてくれればいいなあ…と願ってやみません。
引用元:肺がんとともに生きる|アストラゼネカ『幸いほかへの転移も無く、現在にいたっています』
毎年受けてる検診で、今回腫瘍があると指摘されました。早速病院で、検査したところ18ミリあるとのことでした。私自身全く症状はありません。詳しくは他の検査もしてみないとわからないとのことでした。検査の結果、肺腺がんと告知されました。いかに検診が、大事だといわれているかがわかりました!
引用元:肺がんとともに生きる|アストラゼネカ『いかに検診が、大事だといわれているかがわかりました!』
ある日内科医師の指示で CT 検査をおこなうといわれました。検査の結果、肺腺がんと診断されました。
最初の病院で、精密検査を受けた結果、手術が出来ないといわれました。しかし、隣県の県立病院で改めて専門医による精密検査を、受ける機会に恵まれ、その病院では手術可能の判断をしていただき、後日手術をしてもらいました。幸いほかへの転移も無く、現在にいたっています。
引用元:肺がんとともに生きる|アストラゼネカ『幸いほかへの転移も無く、現在にいたっています』
肺がんの治療は、手術療法・放射線療法・薬物療法に大きく分けられます。薬物療法には、細胞障害性抗がん剤のほか、分子標的治療薬・免疫療法といったものが含まれているのが特徴です。肺がんの治療方針は病期にもとづいて決定されます。治療方針の決定をする際には、正確な病期診断が重要とされています。治療の詳細や病状で不明な点がある方は、主治医へ確認するようにしましょう。
一般的な肺癌の治療としては大きく「外科治療(手術)」、「放射線療法」、「化学療法(薬物療法)」の3種類があり、それぞれを単独で実施する場合があれば、複数の治療法を組み合わせて治療効果を向上させる集学的治療が検討される場合もあります。
肺癌の治療として外科治療(手術)は一般的に行われているものですが、肺癌の種類によって切除・摘出する範囲や部位が変わってくるため、必ず事前の精密検査によって肺癌の情報を取得することが欠かせません。
また、肺は人の呼吸に不可欠な臓器であり、肺の摘出範囲が多ければ多いほど術後のQOLが低下しやすくなることも重要です。そのため肺癌の手術では肺の温存を前提として、肺葉の一部だけを切除(縮小手術)したり、癌が存在している側の肺(片肺)だけを全て摘出したりと、色々なプランニングが検討されていることもポイントです。
ただし縮小手術や片側肺全摘術は通常、非小細胞肺癌のケースで検討される手術であり、小細胞肺癌の場合は癌が存在している肺葉を切除する「肺葉切除術」が基本になります。
上述したように肺癌の手術には大きく3つの種類があり、肺に存在している癌のサイズや位置、ステージなどによって適切な手術法が選択されます。なお小細胞肺癌なのか非小細胞肺癌なのかによって選択が行われることも特徴です。ここではそれぞれの手術の特徴について紹介しますので参考にしてください。
片側肺全摘術は文字通り、片方の肺の全てを摘出してしまう手術です。左右どちらかの肺に癌が存在しており、癌が広範囲に広がっている場合や、肺動脈・肺静脈といった太い血管または気管支にまで進展している場合には片側肺全摘術が検討されます。さらに癌が胸壁や心膜へ広がっている場合はそこも含めて切除対象です。
ただし片側肺全摘術は肺を失う範囲が広く術後に影響も大きいため、手術の適用性について慎重に判断しなければなりません。
肺は左右それぞれに1つずつある臓器だと思われがちですが、実際には「肺葉」と呼ばれる5つのブロックで構成されています。肺葉切除術とは文字通り、癌のある肺葉を切除する手術であり、状況に応じて周辺のリンパ節を切除するリンパ節郭清も併せて実施されます。
ステージでいえばⅠ期の一部やⅡ期、Ⅲ期の一部の非小細胞肺癌における標準的な手術です。
区域切除や楔状切除は肺葉切除術よりもさらに小範囲の切除術であり、それぞれの癌が小さく切除範囲が小さくても転移や再発リスクを抑えられるという場合に採用される手術です。通常、縮小手術は非小細胞肺癌のⅠA期で、癌の大きさが2cm以下の場合に標準治療として採用されます。
周術期治療とは肺癌の手術に併用する形で行われる治療を指し、集学的治療として患者の状態に合わせて検討されます。肺癌の周術期治療としては主として手術前に行われる術前導入療法と、手術後に行われる術後補助化学療法の大きく2種類があり、それぞれに治療の目的や効果が設定されていることも特徴です。
術前導入療法は文字通り手術の前に実施される治療であり、手術の効果を向上させて術後の再発リスクを低減させる目的で行われます。
具体的な方法としては、免疫チェックポイント阻害薬と細胞障害性抗がん薬を複合的に用いる薬物療法や、放射線治療と薬物療法を組み合わせた放射線化学療法などがあり、術前導入療法によって癌の状態を安定させたり範囲を縮小させたりすることで手術の難易度を下げて治療効果を向上させられることがメリットです。
手術によって肺癌ごと広範囲の肺を摘出したとしても、微少な癌細胞が残っており、癌が再発するリスクをゼロにすることは困難です。そのため術後の再発リスクを減少させるために、改めて細胞障害性抗がん薬や免疫チェックポイント阻害薬などを使った化学療法が補助的に実施されます。
手術の内容や範囲、患者の体力などによって手術後に様々な合併症が発生するリスクもあるでしょう。また患者の喫煙習慣の有無や体質によって合併症リスクも変動します。
肺癌手術における術後合併症としては、肺炎や肺瘻(はいろう)・気管支断端瘻、膿胸、さらに循環器系合併症といったものが想定されます。
肺を切除した影響で呼吸機能が低下したり、痰を上手く出せなくなったりした際に、肺の中で菌が繁殖して炎症を起こす肺炎リスクが高まることは課題です。肺炎の治療には抗菌薬を使用しますが、何よりも禁煙を徹底することが必要です。
「瘻(ろう)」とは「漏れる」ということを意味しており、肺の手術時に縫合が正しく行われていなかったり組織の癒合が適切に起こらなかったりした場合、肺や気管支の切り口から空気が漏れて再手術となります。
肺の中に細菌が繁殖して膿が溜まった状態です。抗菌薬で改善しない場合は膿を除去するための再手術が必要です。
肺の呼吸機能が低下することで心臓に負担がかかってしまい、不整脈や血圧の変化などの症状が出ることもあります。その他、心筋梗塞や肺血栓といった合併症のリスクも、頻度は少ないものの存在します。
肺癌の治療として、高エネルギーのX線などを使用した放射線治療を行うこともあるでしょう。放射線治療は肺癌の患者で手術を受けられないⅢ期の患者に対して行ったり、術前導入療法の一環として使用されたりと、色々なケースが想定されます。
また術後の再発リスクの軽減や、場合によっては標準治療による根治が困難と診断された患者に対して、QOLの向上を目的として緩和的照射を行うこともあります。
強力なエネルギーを有する放射線を癌へ照射することで、癌細胞を破壊して治療する放射線治療ですが、そもそも肺は呼吸に連動して常に動いている臓器であり、位置が変化する肺の中にある癌細胞のみに放射線を照射することが難しいといった課題があることも事実です。
放射線治療の中には、画像処理システムと放射線照射装置を連動させて、呼吸などによって動いている肺の動きをシステムで追跡しながら、ターゲットの癌細胞をロックオンしてピンポイントで放射線を照射する、高精度放射線治療といったものも開発されています。
放射線治療では高エネルギーのX線などを患者の体外から肺の内部にある癌へ照射するため、従来の放射線治療ではどうしても健康な細胞にも放射線の影響が及んでしまうといったリスクがあります。
肺癌における放射線治療の副作用としては、咳の増加や食道炎・皮膚炎、貧血や白血球の減少といったものがあり、実際にどのような副作用が生じるかは患者の体質などによって個人差があります、ただし放射線治療による副作用は、基本的には放射線治療を終了すると改善されるものであり、あまりにも放射線治療の副作用が激しい場合には治療計画を見直さなければなりません。なお喫煙歴のある人は放射線肺臓炎のリスクも考える必要があります。
抗がん剤などの薬を使って癌を治療したり、手術や放射線治療の精度を高めたりする目的で薬物療法(化学療法)も実施されています。
薬物療法で用いられる医薬品には、細胞障害性抗がん薬や免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬といった複数の種類があり、さらにそれぞれのジャンルの中にも多種多様な薬が市販されていることが特徴です。そのため、一般的に使用されている抗がん剤での治療効果が認められなくても、別の抗がん剤へ変更することで治療効果が認められて癌を縮小できるといった期待もあります。
ただし、実際にどの抗がん薬を使用するかは患者の既往歴や癌の症状、健康状態なども考慮して複合的に検証されなければなりません。
細胞障害性抗がん薬は、細胞が増殖する機構を阻害して、細胞を減少へ導く薬です。細胞障害性抗がん薬は肺癌治療に使用する抗がん剤として一般的に使用される薬である一方、細胞増殖が阻害されるのは癌細胞だけでなく健康な細胞まで影響を受けるため、色々な副作用を及ぼすデメリットもあります。
分子標的治療薬(分子標的薬)は、特定のタンパク質などターゲットになる「分子へ選択的に作用する薬です。分子標的薬は細胞障害性抗がん薬と異なり、攻撃対象となる細胞をある程度限定できるため、癌以外の細胞に対する攻撃を抑えつつ、癌細胞への効果を高めやすいといったメリットがあります。
人体に備わっている免疫機構は、通常であれば癌細胞のような異常細胞や異物を検知して除去しますが、癌細胞には免疫細胞に作用して免疫の働きを抑制する能力があり、本来の免疫機能が発揮されません。
免疫チェックポイント阻害薬はそのような癌細胞の機能を抑制することで、免疫機能をサポートして癌への攻撃を促進することが特徴です。
細胞障害性抗がん薬だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など抗がん剤にはそれぞれ副作用のリスクがあり、その症状の内容や程度は使用する医薬品や患者の体質などによって様々です。
薬物療法の副作用として一般的なものだけでも脱毛や内出血、貧血、倦怠感、嘔吐、口内炎、下痢、癌以外の病気への感染など複数のものが考えられ、人によってはそれぞれの症状が耐えがたいほどひどくなってしまうこともあります。
薬物療法で副作用のリスクを完全にゼロとすることは困難ですが、副作用が強すぎると治療継続そのものが困難になるため、副作用を軽減する薬なども併用しながらバランスを見極めなければなりません。
副作用の情報は治療計画を策定する上で重要であり、少しでも違和感に気づいたら速やかに医師へ報告・相談してください。
癌細胞には人体の免疫機構を阻害する機能が備わっており、それこそが体内で癌が増殖してしまう一因にもなっています。一方、免疫療法は癌細胞によって低下した免疫機能を活性化させて、本来の免疫の働きを取り戻して癌を攻撃する治療法であり、世界中で色々なアプローチによる免疫療法が研究されています。
とはいえ、2024年2月現在で小細胞癌や非小細胞肺癌の治療として医学的に治療効果が認められている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用した方法のみであり、その他の免疫療法はあくまでも治療効果が公的に認められていないことはポイントです。
なお、免疫療法は免疫チェックポイント阻害薬を使用するため、薬物療法の一種として考えることもできます。
免疫療法によって体内の免疫機構が活性化した結果、免疫細胞が過剰に働いてしまって、癌細胞だけでなく健康な細胞や組織まで攻撃してしまうことがあります。
免疫療法においても副作用のリスクは存在しており、免疫チェックポイント阻害薬を使用する前にそれぞれどのような副作用が考えられるのか、医師へ尋ねて確認しておくことが大切です。
ここでは実際に肺癌の患者として治療を受けたり、術後に社会復帰を果たしたりした方々の体験談を患者の声として紹介します。肺癌として宣告された際や治療について考える時に、同じ悩みや不安を抱えた人の声はとても参考になるでしょう。
検診でⅠB期のがんが見つかり手術。がんを摘出できて喜んだのも束の間、病理検査でリンパ節への転移が判明し、ⅢBにステージが上がりました。奈落の底に突き落とされたようなショックを受けました。しかし、担当医がよいことも悪いことも、今後起こり得ることをすべて丁寧に教えてくれたおかげで見通しがわかり、その後の抗がん剤治療の副作用も受け入れられたし、心が平安でいられました。(後略)
(前略)これまでにさまざまな抗がん剤治療を受けてきましたが、妻は私の体調や食事に気を遣い、わからないことはすぐに担当医に相談し、一緒に病気と闘ってくれています。治療を受けるたびに検査結果に一喜一憂し、診察の前日は眠れないこともあります。でも、同じようにがんと闘っている長年の友人が近くに住んでいて、その人とは不安な気持ちも隠し立てせずに話せて、慰め励まし合えます。私は家族や友人に恵まれているのです。(後略)
(前略)泣きたくなるような痛みの日は、とにかく楽しいことを考えました。元気になったら釣りに行こうとか、庭に駐車場を造ろうとか、将来の楽しみを毎日、日記に書きました。また、じっとしているより動いたほうがよいと思い、増設を計画していた駐車場の図面を描き、必要な材料を買い揃え、自分でコンクリートを練って作業を開始しました。そうすることで気も紛れたし、毎日体を動かして限界を少しずつ伸ばしていくことで、痛みも減っていきました。(後略)
がんとわかったときは「タバコも吸わない私がどうして?」と、3日間泣き明かしました。夫と長男がすでに他界していたので、娘のためにも何としても生きなければと思う一方、1人でいることが不安で、とくに夜が怖くてたまりませんでした。
でも同じ1日ならめそめそするより、笑って生きようと決めて、副作用のつらさも乗り越えました。(後略)
ここでは、比較的新しい臨床試験や治療法について解説していきます。末梢型肺癌に対する光線力学的治療(PDT)に関する医師主導治験に関する情報や、免疫チェックポイント阻害薬を使用したことによって治療成績が向上した情報をご紹介します。
肺の末梢側に生じた早期の肺がん(ⅠA期)に対し、医薬品と医療機器の療法を用いた光線力学的療法(PDT)の効果や安全性を確認する医師主導治験。
厚生労働省の承認がおりているタラポルフィンナトリウムという医薬品とPDT半導体レーザ(医療機器)の適応拡大および、医療機器であるレーザ光を伝達するための小型化プローブに対して新たな承認取得を目的としているのです。
また、加齢によって生じる呼吸機能の低下や呼吸器疾病などによって、手術困難な末梢・小型の肺がん患者様を対象として、治験薬であるタラポルフィンナトリウとPDT半導体レーザとの組み合わせ、または小型化プローブを用いた光線力学的療法(PDT)を実施し、無治療の患者様の成績と比較して、効果が見られるのか、また安全であるのかどうかを比較していきます。
参照元:末梢型肺癌に対する光線力学的治療(PDT)に関する医師主導治験Ⅳ期の状態にある非小細胞肺がんに対して行える内科治療は、1990年代までは細胞傷害性抗がん剤しか選択肢がなく、全生存期間の中央値(OS)は1年ほどでした。これは、抗がん剤治療をすると、約半数の方が1年以上生きられたことを意味します。
2000年代には分子標的薬が登場し、ドライバー遺伝子変異の見られる方の場合はOSが3ほど期待されるようになりました。2010年代に入ると、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示唆され、ドライバー遺伝子変異の検出が見られなかった方でも、年単位のOSが報告されるなど、成績の向上が期待されていると言われています。
進展型小細胞肺がんにおける内科治療は、細胞傷害性抗がん剤しか選択肢がなく、OS1年ほどの時代が数十年続くという状況でしたが、近年になり、ようやく免疫チェックポイント阻害薬の上乗せ効果が認められたため、治療成績の向上が期待されているのです。
参照元:進化している肺がん治療国立研究開発法人国立がん研究センターは2023年9月4日、国際共同同第III相試験の結果として、EGFR遺伝子変異陽性早期肺癌の患者に対する完全切除後の術後補助療法にオシメルチニブが有効であるというデータを発表しました。
これまで術後補助療法としてゲフィチニブなどのEGFR阻害剤を使った治療が行われていましたが、今回のオシメルチニブを使った術後補助療法は従来型の治療に対して全生存期間が有意に延長されており、EGFR遺伝子変異陽性早期肺癌に対する医学的根拠にもとづいた治療提供の可能性を拡大しています。ただし、日本人の患者においてオシメルチニブを使用する際の薬剤性肺障害のリスクは従来の報告と同程度であり、新たな懸念はないものの引き続き注意が必要であることもポイントです。
また同研究チームはさらにオシメルチニブを活用した進行肺癌の治療法開発について、さらなる研究を行っています。
※参照元:国立がん研究センター|EGFR遺伝子変異陽性早期肺がんに対する術後補助療法としてオシメルチニブが全生存期間の延長を示す
アメリカ・テキサス大学MD AndersonがんセンターのJoe Y Chang氏らによる研究チームは、手術が可能とされるステージⅠ期の非小細胞癌患者に対して、手術でなく体幹部定位放射線治療(SABR)を実施した場合の3年生存率及び5年生存率に関する追跡調査を行いました。なお、比較対象は傾向スコアがマッチしている手術治療(ビデオ補助胸腔鏡下肺葉切除術+縦隔リンパ節郭清)を受けた患者群となっています。
そもそも同研究は、定位照射が切除不能な早期肺癌に対する標準治療となっており、手術可能なケースにおいては手術が選択されるといった状況を前提として実施されました。また、研究の結果として定位照射による生存率が手術に対して劣らない場合、そもそも肉体的負担を軽減できる定位照射を全症例において標準治療として検討することも可能になります。
結果として定位照射の3年全生存率は91%、5年生存率は87%と、手術と比較しても大きく劣っていないことが示されました。
※参照元:日経メディカル|ステージIの非小細胞肺癌に対する放射線治療成績は手術に劣らない
福岡県福岡市に本社を構えるメドメイン株式会社は、病理診断支援ソリューションとして「PidPort」を提供している医療ソフトウェアの開発企業であり、2021年4月14日にイギリスの自然科学誌「Scientific Reports」において肺癌の組織分類を行う病理人工知能(病理AI)の開発を発表しました。
本研究で利用された病理AIは、深層学習(ディープラーニング)によってTBLB(経気管支肺生検)にもとづく肺のデジタル標本を効率的に学習し、腺癌や扁平上皮癌、小細胞癌、非腫瘍性病変といった肺癌の主要組織型を自動的に分類できることが特徴とされています。
同病理AIはTBLBや手術標本といったサンプルで検証が重ねられ、いずれのケースにおいても「ROC-AUC:0.94以上」、さらに免疫組織化学染色を用いた診断では「ROC-AUC:0.99」という高精度の病理診断を実現していることがポイントです。
※参照元:PR TIMES|肺癌生検病理組織デジタル標本における組織型分類を可能にする深層学習を用いた人工知能の開発に成功~自然科学誌「Scientific Reports」に掲載~
日本の研究機関として国立研究開発法人国立がん研究センターや愛知県がんセンターも参加している、ドイツのケルン大学が主導する国際研究グループは、国際共同プロジェクトとして難治性の肺小細胞癌110例をサンプルとした全ゲノム解読を行い、同研究成果はイギリスの科学誌「Nature」において発表されています。
本プロジェクトでは日本やドイツを含めて16カ国の研究機関が参加し、それぞれにおいて集積されてきた肺小細胞癌試料を活用したゲノム解析が実施されました。
ゲノム解析の結果、従来の研究で判明していたTP53,RB1,CREBBPがん抑制遺伝子の不活性化に関して、改めて点変異以外のゲノム構成においても同遺伝子が不活性化されていたことが判明しています。また、異常の頻度に関してもTP53は100%、RB1は93%、そしてCREBBPは15%といったデータが解析されており、将来的な肺癌の治療開発やリスク判定に貢献することが期待されています。
2024年9月2日、国立がん研究センターの研究チームは、癌細胞において特徴的に見られるマイクロRNAの構造多様性を定量的にスコア化することに成功し、早期肺腺癌の術後再発リスクを予測するバイオマーカーとして利用できるという研究成果を発表しました。
そもそもマイクロRNAは細胞内に存在する短いRNA分子であり、遺伝子発現を調節する働きを持っています。そして癌細胞ではマイクロRNAの構造アイソフォームに特徴的な以上があることも報告されていました。
そのような前提を踏まえて、同研究チームは外科切除検体を使ったデータ解析によって、癌細胞に関連したマイクロRNAの構造を定量的に数値化し、同スコアが高くなるほどに早期ステージの肺腺癌の再発リスクも比例して高まっていることを発見しています。
これにより患者のマイクロRNA構造を分析することで、術後再発リスクや癌の悪性度を予測できるようになると示唆されました。
※参照元:オンコロ|がん細胞に特徴的なマイクロRNAの構造多様性を解明:早期肺腺がんの術後再発リスクの予測が可能に
2024年8月28日、非小細胞肺癌の術前・術後補助療法における治療薬として、MSD株式会社の抗PD-1抗体「キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))」が国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得しました。
また同日、中外製薬株式会社の「ALK阻害剤アレセンサ(一般名:アレクチニブ)」に関しても、「ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌における術後補助療法」として適応追加の承認取得が発表されています。
前者のキイトルーダは術前・術後療法として単独使用や化学療法との併用に使われます。また後者のアレセンサはALK陽性早期非小細胞肺癌の完全切除後の術後療法に用いられており、化学療法との併用などによる新しい治療選択肢の拡大を後押しするものとして期待されていることがポイントです。