肺への転移は、食道癌や子宮癌からも見られます。このページでは肺へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。
肺転移とは、他の臓器や組織で発生した癌細胞が肺に転移してしまうこと。食道や子宮からの転移が多く見られ、血液やリンパの流れに乗った癌細胞が肺に到達することで起こります。食道癌は進行が早いため、様々な器官に転移しやすい癌。子宮癌は肺とは離れた位置にある癌ですが、血液の流れに乗って転移すると言われています。
食道癌が肺に転移した場合は、咳や胸の痛みが出るようになります。咳が出るのは、転移した肺癌が気管支や肺を刺激するからです。胸の痛みは、肺癌が肋骨や肋間神経に刺激を与えることで起こります。食欲減退や体重減少、疲れやすいといった症状が起こるのは、転移性の肺癌が進行して体力がなくなるため。肺だけでなく様々な癌で共通する症状です。
子宮癌が肺に転移した場合は風邪を引いた時と同じような症状が起こるので、転移に気づかないことがあります。転移によって起こる咳は、癌が肺や気管支を絶えず刺激し続けるため長くしつこいのが特徴です。癌が進行すると血痰や気管支炎になり、胸に水が溜まって肺が小さくなることで呼吸困難を起こすようになります。
大腸癌からの肺転移は、原発巣である大腸から癌細胞が静脈に侵入。血液の流れに乗って、肺で増殖することで引き起こされます。大腸癌の転移の中でも、肺転移は肝臓に次いで起こりやすいと言われています[1]。
癌細胞が原発巣から剥がれ落ち、血液の流れに乗って転移する血行性転移は、細胞と細胞をつなげるために必要とされる細胞間接着分子E-カドヘリンと呼ばれる部室が、何らかの原因で機能異常や分泌量が減少することで引き起こされるのではないかと考えられています。
細胞間接着E-カドヘリン機能と頭頚部癌細胞株を抗E-カドヘリン抗体SHE78-7で処理す ると,E-カドヘリン陽性細胞は接着特性を失い遊離した。転移の第一段階である癌細胞の原発巣からの離脱には,E-カドヘリンの機能抑制が関連していると考えられた。
大腸から肺へと転移した癌細胞は、肺で増殖するわけですが、転移をしていてもなかなか症状が出にくい点が転移性肺癌の特徴の一つです。例えば、咳が出ていても「風邪かな?」と思いそのままにしていたら、肺癌だったというケースも少なくありません。
癌を経験した方で、1週間以上長引くような咳がある場合には、肺癌が肺や気管支を刺激している可能性もあります。ぜひ、早めに病院で検査を受けましょう。
大腸癌からの転移性肺癌の治療は、他の場所への転移の有無や、肺のどの部分に転移しているかによっても治療方針が異なります。
例えば、原発巣である大腸癌に再発が見られず、肺の摘出可能な場所に癌が広がっているなら、肺の一部もしくは片肺を摘出し、癌細胞を除去する外科手術も検討されます。外科手術と一口に言っても、胸腔鏡手術、胸腔鏡補助手術、開胸手術など複数のアプローチがありますから、医師の判断・説明をしっかりと聞き、必要であればセカンドオピニオンなどを仰いでみてもいいでしょう。
その他、大腸癌から肺へと転移した癌の治療には、外科治療以外に抗癌剤による化学療法、分離標的薬、放射線療法、光線力学療法などが挙げられます。
少し古いデータですが、大腸癌から肺転移を起こす頻度に関する研究報告によれば、大腸癌根治手術後の肺転移は肺転移のみが見られたケースが20.7パーセント、肺と肝臓に転移が見られたケースが51.8パーセント、肺にも肝臓にも転移が見られなかった症例は10.3パーセントだったことが報告されています。原発巣の初回手術時に肺転移を起こしている頻度は、肝転移よりも低いものの、結腸癌からの転移よりも直腸癌からの転移の頻度の方が高いとも報告されています。[2]
このように、大腸癌から肺へと転移することは決して珍しいことではありません。癌治療後は、根治していたとしても経過観察をしっかりとすることで、転移も早期に発見することができるでしょう。
必ず定期健診は受け、ご自身の体調の変化に気をくばるようにしましょう。また、定期健診以外のタイミングでも、何か不安や異変を感じるようなことがあれば、すぐに主治医に相談をするようにしましょう。早期発見につなげることが、肺転移の予後にも大きな影響を与えます。
[1]出典:大腸癌研究会_患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版
[2]出典:(PDF) 「大腸癌肝転移・肺転移の頻度と切除の意義」大腸肛門誌,37,1984[PDF]
主に「薬物療法」と「対症療法」が選択されます。
薬物療法は、癌細胞の増殖や破壊を行うために抗癌剤などの薬剤を投与する治療法です。肺を切り取らず温存できたり、入院せずに通院治療できたりするメリットがあります。
対症療法とは、病気に伴う症状を緩和することが目的の治療法。根治を目指すのではなく、辛い症状や痛みによる不快感を取り除くことで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めるために行われます。
癌の大きさや病巣の数を見て、手術か抗癌剤治療のどちらかが行われます。子宮頸癌の場合、「病巣が3つ以下」「腫瘍の大きさが3センチ以下」の時に手術を選択。これ以上数が多い場合は抗癌剤治療を用いて病気の改善を目指します。
肺癌の治療方法は患者本人の体力、意思、原発腫瘍ごと、ステージ、タイプにもより異なります。肺癌には大きく分けて「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、非小細胞肺がんで比較的早期の場合は手術療法、手術が難しい場合には放射線治療が主に選択されます。
小細胞肺がんで比較的早期の場合は手術を行うこともありますが、小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です※1
※1.参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター公式サイト(https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html)
そのほかにも転移の個数や転移の場所、体力で慎重な判断が必要です。まずは専門医のセカンドオピニオンを受けてみてください。
ここでは【外科手術】【放射線療法】【薬物療法】それぞれでおすすめの病院・クリニックを紹介いたします。ぜひ参考にしてください。
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本呼吸器外科学会指導医かつ日本外科学会外科専門医の所属する病院をご紹介します。(2021年11月時点)
呼吸器系の疾患を中心に、ロボット支援下手術も導入
東大病院呼吸器外科は、肺がんや肺腫瘍をはじめ、その他胸壁腫瘍や自然気胸、肺気腫などといった呼吸器系の疾患を中心的に診断・治療する病院。肺がんに関してはロボット支援下手術も導入しており、繊細かつ患者さんへの身体への負担に配慮した手術を可能としています。
在籍している医師:中島 淳医師
電話番号:03-3815-5411
他科とも連携した胸腔鏡下手術を提供
呼吸器に関しては肺がんから肺嚢胞・気胸、縦隔腫瘍、胸腺腫、重症筋無力症など幅広い疾患に対応している神戸市立医療センター中央市民病院。肺がんは主に胸腔鏡下手術による治療を提供していますが、総合病院ならではのネットワークを活かし、必要があれば他科とも協力を行うなど工夫しているそうです。
在籍している医師:高橋 豊医師
電話番号:078-302-4321
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本医学放射線学会専門医が在籍する癌放射線治療専門クリニックをご紹介します。(2021年11月時点)
幅広い部位のがん治療に期待できる「トモセラピー」
クリニックC4は、主に新型の放射線機器とされる「トモセラピー」を用いたがん治療を行っています。これは呼吸器のがんを含め、幅広い部位に対して照射が可能なだけでなく、病巣を包み込むように照射するため、適切な範囲を設定しやすいのが特徴です。副作用や痛みなどの身体への負担も少ないと言われていますから、体力的な不安がある方にもおすすめと言えるでしょう。
在籍している医師:青木 幸昌医師
電話番号:03-6407-9407
肺がんでは保険が適用される可能性のある治療法も
高精度放射線治療をはじめ、一般的な分割照射法や化学放射線治療など、幅広い治療法を揃えている苑田放射線クリニック。高精度放射線治療の中でも、定位放射線治療(SRT、体幹部に用いられる場合はSBRTと呼ばれる)は肺がんや肝がんでの治療だと保険が適用される可能性があるとのことなので、気になる方は一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。
在籍している医師:齋藤 勉医師
電話番号:03-5851-5751
早期発見・改善をテーマに、幅広い部位に対応する高精度放射線治療
東京ベイ先端医療・幕張クリニックは、がんに関して診断から治療まで一貫した対応を行っている医院。早期発見・治療をモットーに、高精度放射線を中心とした治療を提供しています。肺がんも含め幅広い箇所へのがんに適応しているため、他部位からの転移についても相談できるでしょう。
在籍している医師:幡野 和男医師
電話番号:043-299-2000
ここでは、当サイトで治療医師として掲載している日本血液学会血液専門医かつ日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の所属する病院をご紹介します。(2021年11月時点)
肺がんの治療実績も豊富な、地域に根差した医院
虎の門病院は「地域がん診療連携拠点病院」、かつ「がんゲノム医療連携病院」として、地元を中心に信頼を集めている総合病院。がん治療に関しては身体への負担が少ない治療法を追求しており、24時間365日体制で細やかに対応にあたっています。様々な専門科を有していることから、肺がん治療の実績も豊富です。
在籍している医師:三浦 裕司医師
電話番号:03-3588-1111
肺転移は食道や子宮をはじめ、様々な臓器や組織の癌が肺に転移して起こる病気です。肺以外の臓器では癌細胞が定着しにくいため、転移することはそんなに多くありません。一方、肺の肺胞には多くの毛細血管が張り巡っており、血液やリンパの流れに乗った癌細胞が流れ込みやすいという特徴があります。そのため、肺は転移の可能性が他よりも高い臓器なのです。
もし肺に転移があると診断されても慌ててはいけません。進行した癌や転移した癌を治療する医師がいます。癌治療に力を入れている専門医療機関を見つけて、最適な方法で治療をすることが大切です。
がん細胞が血液の流れに乗って肺に達し、肺で生育して出現する転移性肺がんは、症状が出にくい疾患と言われています。
肺がんの症状は、咳や痰、血痰、発熱、胸の痛み、呼吸困難などが挙げられますが、これらの症状は肺がん以外の病気の症状としても見られることがあるため、症状だけで肺がんかどうかを判断するのは難しいと言われています。[1]
肺がんに伴い、初発症状として痛み(胸痛)が見られる割合は、全肺がん患者の約15.8%。全ての方が痛みを感じるわけではないことが過去の研究からも明らかになっています。
初発症状:前例について17.5%は無症状, 9.3%咳嗽,23.7%疾,19.0%血疾,15.8%胸痛,6.3%呼吸困難,5.8%やせ,5.1%倦怠,9.8%熱,4.0%嗅声等である.
調査対象:肺癌全国登録症例(1975・76・77年次4,931例のうち、男性3,770例、女性1,161例)
引用元:『全国集計よりみた肺癌の組織型別臨床統計』肺癌,22(1),1982
https://www.jstage.jst.go.jp/article/haigan1960/22/1/22_1_1/_article/-char/ja/
肺がんの初発症状を調査した別の研究では、胸痛は肺がん患者の方の49%に、骨痛が25%の方に見られたという統計もあります。[2]
また、痛みがある場合でも、肺へと転移したがんのできた場所によっても痛む場所が異なります。例えば、肺尖部(肺の上部)に腫瘍ができている場合、肩や脇の下、腕などの痛みを感じることもあります。また、末梢神経幹が傷つき、灼熱痛と言って、焼けるような痛みを生じるケースもあります。
転移性肺がんによる胸痛の原因は、肺を包む膜や気管にがんが広がり生じる痛みと、肺の周囲にある神経や肋骨にがんが広がることで生じる痛みが考えられます。一般的に、肋骨や神経にがんが広がった場合は鋭い痛みを感じることがあるようです。このようにがんの痛みは、原因もさまざま。がんの進行や腫瘍の大きさなどが痛みと関係しているかというとどうやらそうではないようで、小さいがんだったとしても、骨や神経近くにがんができた場合には痛みを強く感じることがあります。
転移性肺がんの場合、がんの治療はどこから転移してきたがんなのか、他の場所に転移はあるかどうかなど様々な要素をチェックした上で、治療方針が決められます。
体力があると判断された場合には、転移性肺がんも外科手術で腫瘍を取り除くケースがあります。また、化学療法や分子標的薬による治療、放射線療法による治療などが行われることもあります。
手術後の慢性痛や、抗がん剤による副作用など、がん治療が原因で転移性肺がんの治療中に痛みを感じることは大いに考えられます。
転移性肺がんに限らず、がんの痛みは治療中約半数の方に、さらに進行がんの患者さんの場合3人中2人が痛みを感じると言われています。
近年、がん治療において痛みの緩和ケアの重要性が認識され、痛み治療に関するガイドラインや患者さんへの情報提供も盛んにされるようになってきました。
がんの痛み治療の中心は、痛み止めによる服薬治療です。WHO方式のがんの疼痛治療法では、痛みを「弱い痛み」「弱い痛みから中くらいの痛み」「中くらいの痛みから強い痛み」の3つに分類。それぞれの痛みの程度に応じた痛み止めを使用します。
最も軽い「弱い痛み」では解熱鎮痛薬を。次の「弱い痛みから中くらいの痛み」にはコデインやトラマドールを。最も辛い「中くらいの痛みから強い痛み」にはモルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの鎮痛剤を用います。[3]
このように、転移性肺がんは、がん腫瘍だけでなく治療中にも痛みを生じることがあるため、がんへの治療に加えて、こうしたがんの痛みに対する治療も非常に重要になってきます。
「肺にまで転移したのだから、痛みは仕方がない。我慢するべきだ」と考えずに、痛みを軽減するための方策を医師と相談して決めていくことで、がん治療の苦痛が緩和され、より良い日常生活が送れるようになるのではないでしょうか?
【参考URL】
参考[1]:国立がん研究センター がん情報サービス『肺がん治療』(2018年1月25日確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html
参考[2]:『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド第1章』日本緩和医療学会,2014
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/patienta/2014/pdf/01.pdf
参考[3]:『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド第3章』日本緩和医療学会,2014
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/patienta/2014/pdf/03.pdf
病期 | 広がっている範囲 |
---|---|
ⅢA期 | 元々あるがんの大きさに関係なく、肺の周囲にある臓器に及んでいないもののうち、リンパ節転移が元のがんの同じ側の縦幅までに限られる状態。 または、元のがんの大きさにかかわらず、肺の周りの臓器に及ぶけれど、リンパ節移転移が気管支のまわりあるいは縦幅に限られる場合や、元のがんが、肺の周りにある心臓や大血管、気管、食道、椎体など重要臓器まで及んでいるものの、リンパ節転移が元のがんと同じ側の気管支の周りまでに限られる場合がこれに該当します。 |
ⅢB期 | 元々あるがんが、心臓や大血管、気管、食道、椎体など重要臓器まで及んでいるが、リンパ節転移が縦幅、鎖骨上窩まで及んでいるもの。 |
Ⅳ期 | 元のがんの大きさ、リンパ節転移に関係なく、元のがんと同じ胸腔内や肺から離れた臓器に転移しているもの及び、がん性胸水、心襄水。 |
肺癌がどれだけ進捗しているかというステージ分類は、TNM分類と呼ばれる分類法で決定します。
TNM分類のTNMとは、Primary Tumor(原発腫瘍)、Regional Lymph Nodes(所属リンパ節)、Distant Metastasis(遠隔転移)のそれぞれの頭文字を組み合わせたものです。もう少し分かりやすく説明すると、Primary Tumor(原発腫瘍)は腫瘍の大きさ、広がりを見る因子、Regional Lymph Nodes(所属リンパ節)はリンパ節への転移を見る因子、Distant Metastasis(遠隔転移)は他の臓器への転移を見る因子となっています。
腫瘍の大きさ、広がりを見る因子であるTは、大きく分けるとT1からT4の4つに分けられ、細かく分類すると12個に分けることが可能。一番、小さいものは腫瘍の大きさが2センチ以下、最も広がっている場合だと同側の他肺葉にまで転移した腫瘍ということになります。T2までは、腫瘍の大きさだけで判断しているのに対し、T3からは腫瘍の広がり具合も見ながら分類しているのが特徴です。
リンパ節への転移を見るための因子であるNは、N1からN3の3つに分類。N1は、腫瘍と同側の気管支周囲リンパ節転移、同側の肺門リンパ節転移、肺内リンパ節転移の3つがあります。N2は、腫瘍と同側の縦隔リンパ節転移、期間分岐部リンパ節転移の2つ。N3は、対側縦隔リンパ節転移、対側肺門リンパ節転移、前斜角筋リンパ節転移、鎖骨上窩リンパ節転移の4つがあります。つまり、腫瘍がある側の肺へのリンパ節転移であればN1またはN2になるのに対し、反対側にまで及ぶとN3に分類されるということになるのです。
最後は、他の臓器への転移を見るための因子であるM。こちらについては、対側肺に転移した腫瘍、胸膜播種、胸水にがん細胞が見られる、多臓器転移の4つに分けられます。
これらの3つの要素を総合的に判断して病期が決まるのが一般的です。ただし、遠隔転移がある時点で病期は最も進行したステージⅣ期に分類されます。肺癌でステージⅢ期であれば、薬物療法と放射線療法を組み合わせた治療、ステージⅣ期であれば、薬物療法がメイン。病状によってはこれらにあわせて緩和ケアが行われることもあります。