根治切除不能または転移性の腎細胞癌に対する効果が臨床試験で証明された、抗悪性腫瘍薬「カボザンチニブ」(商品名:カボメティクス)が発売されました。
腎臓に発生する主な癌は、尿細管の細胞が癌化した腎細胞癌と、尿路の細胞が癌化した腎盂癌の2つです。腎細胞癌のほうが圧倒的に多く腎臓癌全体の約90%を占めていると言われていますが、臓器の癌の中では決して多いわけではありません。もっとも発症率が高いとされるのは85~89歳(2018年年齢階級別罹患率)で、男性にやや多い傾向がみられます。
※参照元:国立がん研究センターがん情報サービス/腎・尿路(膀胱除く)
腎細胞癌の治療は手術が基本で、それは癌が進行していても変わりません。また、抗がん剤を投与すると腎臓が本来の機能で成分を体の外に排出および代謝するので、化学療法の面でも効果はあまり期待できないと考えられてきました。
しかし、近年では進行腎細胞癌の治療薬としていくつもの分子標的薬が開発され、実用化に至っています。治療後である予後も改善の傾向にあるようです。分子標的薬は癌細胞の増殖に影響する特定の物質をピンポイントで抑制し、癌の進行を抑える薬です。手術で腎臓を摘出する際には、腫瘍を小さくする効果を期待して術前に分子標的薬を投与する補助療法が行なわれる場合もあります。
腎細胞癌に対する分子標的薬には、これまで以下のような薬がありました。
このほか、免疫チェックポイント阻害薬では抗PD-1抗体のニボルマブ(商品名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)、抗PD-L1抗体のアベルマブ(商品名:バベンチオ)が臨床の現場で使用されています。
これまで腎細胞癌の中でも進行性の癌に適応がある分子標的薬は、上記に挙げたスニチニブ、エベロリムス、テムシロリムスと血管新生阻害薬のソラフェニブの4種類でした。そこに登場したのがカボザンチニブです。
もうすでに4種類の分子標的薬が存在する中でカボザンチニブが効果を期待されているのは、既存の血管新生阻害薬の効果がなかった腎細胞癌の患者さん。このような腎細胞癌に対しては、mTOR阻害薬エベロリムスが用いられていましたが、カボザンチニブはエベロリムスの2倍に及ぶ効果があると臨床試験で証明(※)されたのです。
※参考文献:Cabozantinib versus Everolimus in Advanced Renal-Cell Carcinoma
カボザンチニブはスニチニブなどと同じく、複数のチロシンキナーゼ(癌細胞の増殖に影響する酵素)をターゲットにしたマルチキナーゼ阻害薬です。癌細胞の増殖を抑制したり、癌が栄養を取り込む血管をつくり出すのを阻害したりする作用があります。
具体的には、血管内皮細胞増殖因子受容体2(VEGFR2)や肝細胞増殖因子受容体(MET)などを介した癌細胞の増殖シグナル伝達を遮断しようとする薬です。
カボザンチニブの臨床試験は、スニチニブやバゾパニブなど既存の血管新生阻害薬で治療しても癌が進行してしまった、手術不能または転移性の淡明細胞型腎細胞癌(腎細胞癌の中でもっとも多い組織型)の患者さんを対象に国内外で実施されました。また、化学療法を受けたことのない患者さんに対しても、スニチニブとの比較対象試験が行われています。
その結果、カボザンチニブは二次治療以降の治療薬、そして一時治療薬として有効性が確認(※)されたのです。
※参考文献:Results of the BONSAI Trial for the Italian Network for Research in Urologic-Oncology (Meet-URO 2 Study)/Giuseppe Procopio, MD1; Pierangela Sepe, MD1; Melanie Claps, MD1; et al/JAMA Oncol. 2022;8(6):910-913. doi:10.1001/jamaoncol.2022.0238
2020年3月現在、カボザンチニブは米国や欧州を含む世界40カ国以上で承認されています。
主な副作用としては、下痢や疲労、食欲減退、悪心、口内炎、嘔吐、腹痛などがみられています。重大な副作用では手足症候群や高血圧、肝機能障害などが挙げられます。これらは実際に発生した副作用の一部です。
使用にあたっては副作用に十分留意しなければならないことは、すべての抗悪性腫瘍薬にいえることであり、カボザンチニブも例外ではありません。