抗がん剤による治療を続けている中で、医師から「薬の効果が見られなくなった」「病変が大きくなっている」「別の治療を考えましょう」と説明されることがあります。
「抗がん剤が効かない」と聞くと、もう治療法が残っていないように感じるかもしれません。しかし、現在使用している抗がん剤が効かなくなったことと、すべての治療法がなくなったことは同じではありません。
がんの種類や性質、これまでに受けた治療、遺伝子・バイオマーカー検査の結果、病変の位置、患者の全身状態などによっては、別の薬物療法、放射線治療、手術やその他の局所治療、治験・臨床試験などを検討できる場合があります。
また、積極的ながん治療を続けることが難しい場合でも、痛みや息苦しさなどを和らげる治療や緩和ケアを受けることができます。
このページでは、抗がん剤が効かないと判断される主な理由と、その後に確認される治療の選択肢、放射線治療やセカンドオピニオンについて解説します。
なお、抗がん剤の効果や治療変更の必要性は、画像検査、血液検査、症状、副作用などを踏まえて医師が判断します。自己判断で抗がん剤を中止したり、投与量や服用方法を変更したりせず、主治医へ相談してください。
「抗がん剤が効かない」という表現には、いくつかの状態が含まれます。
画像検査で病変が大きくなった場合だけでなく、新しい転移が見つかった場合、一部の病変だけが進行した場合、副作用によって治療を続けられなくなった場合などもあります。
そのため、まずは何を根拠として治療の変更や中止が提案されたのかを確認することが大切です。
抗がん剤の効果は、CT、MRI、PETなどの画像検査によって確認されます。
治療前と比べて病変が大きくなっている場合や、新しい転移が見つかった場合は、現在の薬によってがんを十分に抑えられていないと判断されることがあります。
ただし、画像上の変化だけでなく、患者の症状、血液検査、腫瘍マーカー、全身状態なども含めて、治療を続けるか変更するかが検討されます。
腫瘍マーカーは、がんの状態や治療効果を確認する際に用いられる血液検査の一つです。
治療中に腫瘍マーカーが上昇すると、がんが進行している可能性を考えることがあります。一方、腫瘍マーカーは炎症や良性疾患などの影響を受けることもあり、数値だけで抗がん剤の効果を判断することはできません。
腫瘍マーカーの変化については、画像検査や症状などと合わせて、主治医から説明を受けてください。
抗がん剤治療中に新しい症状が現れた場合は、がんの進行や新しい転移が関係している可能性があります。
例えば、次のような症状があります。
症状が現れたからといって、必ず抗がん剤が効いていないとは限りませんが、原因を確認するために検査が必要になることがあります。
突然の麻痺、けいれん、意識障害、強い呼吸困難、止まりにくい出血などがある場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。
抗がん剤に治療効果が見られていても、副作用によって同じ薬を続けることが難しくなる場合があります。
治療の継続に影響する副作用には、次のようなものがあります。
この場合は、「抗がん剤が効かない」のではなく、治療によって得られる効果と身体への負担を比較し、安全性の面から休薬、減量、薬剤変更などが検討されます。
複数の病変がある場合、すべての病変が同じように抗がん剤へ反応するとは限りません。
多くの病変は小さくなっている、または大きさが変わっていないものの、一部の病変だけが大きくなることがあります。
このような場合は、全身の薬物療法を続けながら、進行している病変に対して放射線治療や手術などの局所治療を追加することがあります。
がん細胞の中には、最初から薬剤に反応しにくい細胞が含まれている場合があります。
抗がん剤によって反応しやすい細胞が減少しても、反応しにくい細胞が残って増殖すると、以前は効果が見られた薬が効きにくくなることがあります。この状態は、一般に「薬剤耐性」と呼ばれます。
薬剤耐性は、患者の生活習慣や努力不足によって生じるものではありません。
がん細胞は、治療を受ける中で遺伝子や性質が変化することがあります。
治療開始時に採取したがん組織と、治療後に進行した病変とで、薬剤への反応に関係する遺伝子変異や受容体の状態が異なる場合もあります。
必要に応じて、再びがん組織を採取する再生検や、血液中のがん由来成分を調べる検査が検討されることがあります。
転移した臓器や病変の周囲の環境によって、薬剤の届きやすさや効果が異なる場合があります。
例えば、脳には血液中の物質が脳内へ入り込むのを制限する仕組みがあり、一部の薬剤は脳転移へ届きにくいことがあります。
薬物療法だけでは制御しにくい病変に対して、放射線治療や手術などの局所治療が検討される場合があります。
抗がん剤は、標準的な投与量や投与間隔を基本としながら、患者の状態に応じて調整されます。
肝機能や腎機能の低下、血液細胞の減少、感染症、体力や栄養状態の低下などがある場合は、副作用を避けるために投与量を減らしたり、投与間隔を延ばしたりすることがあります。
薬剤の効果だけでなく、安全に治療を続けられるかも重要な判断材料です。
現在の抗がん剤によって十分な効果が得られない場合でも、がんの種類や状態に応じて、次のような治療が検討されます。
| 選択肢 | 主な内容 |
|---|---|
| 別の抗がん剤への変更 | 作用の異なる薬剤や治療の組み合わせへ変更します。 |
| 分子標的薬 | がんの増殖に関係する特定の分子を標的として治療します。 |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | 免疫細胞ががんを攻撃する働きを利用します。 |
| 抗体薬物複合体 | がん細胞の特定の目印へ結合する抗体に薬剤を組み合わせて治療します。 |
| ホルモン療法 | ホルモンを利用して増殖するがんに対し、ホルモンの働きを抑えます。 |
| 放射線治療 | 特定の転移病変の制御や、痛み・圧迫などの症状緩和を目指します。 |
| 手術・その他の局所治療 | 病変が限られている場合などに、病変を直接治療します。 |
| 治験・臨床試験 | 新しい薬剤や治療法の有効性・安全性を調べる試験への参加を検討します。 |
| 支持療法・緩和ケア | 治療による副作用や、がんによる身体的・精神的なつらさを和らげます。 |
すべての患者がこれらの治療を受けられるわけではありません。がんの種類、遺伝子や受容体の状態、これまでの治療、臓器機能、全身状態などから個別に判断されます。
がんの種類によっては、複数の抗がん剤や治療の組み合わせが用意されています。
最初に行う治療を一次治療、その後に行う治療を二次治療、三次治療などと呼ぶことがあります。
次の治療では、これまでに使用した薬、得られた効果、副作用、治療から経過した期間、患者の体力などを踏まえて、作用の異なる抗がん剤や治療の組み合わせが検討されます。
治療の順番が後になることだけで、必ず効果が低いと決まるわけではありません。一方で、効果を保証できるものでもないため、期待できる効果と副作用について説明を受けることが大切です。
複数の薬剤を組み合わせている場合は、一部の薬剤だけを変更したり、副作用の原因となっている薬剤を外したりすることがあります。
また、投与量を減らす、投与間隔を延ばす、点滴薬から内服薬へ変更するなど、患者の状態に応じて治療方法が調整される場合もあります。
投与量や服用方法は治療効果と安全性に関わるため、自己判断で変更しないでください。
がんの種類や検査結果によっては、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体などが検討される場合があります。
分子標的薬は、がんの発生や増殖に関わる特定の分子を標的として作用する薬です。
免疫チェックポイント阻害薬は、がんによって抑えられている免疫の働きを利用して、がん細胞を攻撃することを目指します。
抗体薬物複合体は、がん細胞にある特定の目印へ結合する抗体と、がん細胞を攻撃する薬剤を組み合わせた薬です。
これらの薬は、がんの種類や遺伝子変異、受容体、タンパク質の発現などによって使用できるかが異なります。また、従来の抗がん剤とは異なる副作用が現れる場合があります。
がんの薬物療法では、がん細胞の遺伝子変異、受容体、タンパク質の発現などを調べ、治療薬を選ぶことがあります。
例えば、肺がん、乳がん、大腸がんなどでは、がんの種類や状態に応じた遺伝子・バイオマーカー検査が行われます。
すでに診断時や治療開始前に検査を受けている場合もあるため、どの検査を受け、どのような結果だったかを確認しましょう。
がん遺伝子パネル検査は、がん細胞に生じている多数の遺伝子変化をまとめて調べる検査です。
検査によって、治療の標的となり得る遺伝子変化が見つかる場合があります。その結果をもとに、承認されている薬、治験、臨床試験などが検討されることがあります。
ただし、検査を受けても治療につながる遺伝子変化が見つからない場合があります。また、対応する薬があっても、がんの種類、承認状況、治験の参加条件などによって使用できないことがあります。
治療後にがんの性質が変化している可能性がある場合は、病変から再び組織を採取する再生検が検討されることがあります。
病変の位置などにより組織を採取することが難しい場合は、血液中に含まれるがん由来の遺伝子情報などを調べる検査が検討される場合もあります。
再生検や血液検査を行うかどうかは、検体を採取するリスク、得られる情報、検査結果が治療へつながる可能性などを踏まえて判断されます。
遺伝子検査を受ければ、必ず新しい薬が見つかるわけではありません。検査の対象や実施する時期について、主治医やがんゲノム医療を担当する医師へ相談してください。
薬物療法は、薬剤を血液などを通して全身へ作用させる治療です。一方、放射線治療は、主に特定の病変を対象とする局所治療です。
全身の病変に対する薬物療法の効果が十分でない場合や、一部の病変だけが進行している場合に、その病変へ放射線治療を行うことがあります。
薬物療法を変更してから放射線治療を行う場合もあれば、全身の薬物療法を続けながら、進行している病変に放射線を照射する場合もあります。
抗がん剤だけでは制御しにくい病変や、症状を生じている病変に対し、放射線治療が検討されることがあります。
例えば、次のような転移病変があります。
すべての転移病変が放射線治療の対象になるわけではありません。病変の大きさ、位置、個数、正常な組織との関係、過去の放射線治療歴、全身状態などを踏まえて判断されます。
全身の多くの病変は薬物療法によって抑えられている一方で、一部の病変だけが大きくなる場合があります。
このような場合に、進行している病変だけへ放射線治療などの局所治療を行い、全身の薬物療法を継続することがあります。
ただし、局所治療を追加することで現在の薬物療法を継続できるかどうかは、進行している病変の数や場所、薬物療法の効果、患者の全身状態などによって異なります。
放射線治療は、がんの根治だけでなく、転移病変による症状を和らげることを目的として行われる場合があります。
例えば、次のような症状に対して検討されます。
複数の転移がある場合でも、病変の個数だけで放射線治療ができないと決まるわけではありません。
複数の病変へ放射線を照射する場合もあれば、症状や危険性の高い病変を優先して治療する場合もあります。
放射線治療の可否は、病変の個数、大きさ、全体の体積、位置、正常組織への影響、患者の全身状態などを踏まえて判断されます。
放射線治療と抗がん剤などの薬物療法は、がんの種類や状態によって組み合わせて行われることがあります。
| 治療 | 主な役割 |
|---|---|
| 薬物療法 | 原発巣や全身の転移病変へ薬剤を作用させます。 |
| 放射線治療 | 特定の病変の制御や、痛み・圧迫などの症状緩和を目指します。 |
| 手術・その他の局所治療 | 限られた病変を直接取り除く、または治療します。 |
| 支持療法 | 薬物療法や放射線治療による副作用、合併症を軽減します。 |
| 緩和ケア | がんによる痛みや不安などを和らげ、患者と家族の生活を支えます。 |
薬物療法と放射線治療を同じ時期に行う場合もあれば、どちらかを先に行う場合もあります。
使用する薬剤や照射する部位によっては、副作用が重なる可能性があるため、一時的に薬剤を休む、投与間隔を調整するなどの対応が必要になることがあります。
薬物療法と放射線治療をどのように組み合わせるかは、腫瘍内科、放射線治療科、原発がんを担当する診療科などが連携して検討します。
抗がん剤の効果が十分ではなくても、病変が限られている場合や、症状の原因となっている病変がある場合は、手術が検討されることがあります。
また、病変の組織を採取し、がんの性質を改めて調べるために手術や生検が行われる場合もあります。
手術が可能かどうかは、病変の位置や大きさ、転移の状態、患者の全身状態などによって判断されます。
病変の部位や状態によっては、熱や冷却によってがんを治療する焼灼・凍結治療や、血管内へカテーテルを入れて行う治療などが検討されることがあります。
これらの治療は対象となる臓器や病変が限られており、すべての患者が受けられるものではありません。
放射線治療や手術と単純に優劣を比較するのではなく、病変の状態に適した方法を専門医が判断します。
臨床試験は、人を対象として新しい薬や治療法の有効性・安全性を調べる研究です。
そのうち、薬や医療機器について国の承認を得るために行われる臨床試験を「治験」と呼びます。
標準治療として提案できる薬物療法が限られている場合などに、治験や臨床試験が選択肢として検討されることがあります。
ただし、研究段階の治療であり、効果が保証されているものではありません。また、参加条件を満たさなければ治療を受けることはできません。
参加条件には、次のような項目があります。
治験や臨床試験へ参加する前に、次の点を確認してください。
支持療法は、がんやがん治療による副作用・合併症を予防または軽減し、治療を続けやすくするための治療です。
例えば、次のような治療があります。
副作用が強い場合でも、支持療法や薬剤の調整によって治療を続けられる場合があります。
緩和ケアは、がんやがん治療による身体的・精神的・社会的なつらさを和らげるためのケアです。
緩和ケアは、抗がん剤をやめた後だけに受けるものではありません。薬物療法や放射線治療などと並行して、がんと診断された段階から利用できます。
痛み、息苦しさ、吐き気、不眠、不安などがある場合は、主治医、看護師、緩和ケアチームへ相談してください。患者だけでなく、家族も相談できます。
副作用や体力低下がある場合は、抗がん剤を一時的に休むことがあります。体調が回復した後に、同じ薬を減量して再開したり、別の薬へ変更したりする場合もあります。
治療によって期待できる効果よりも身体への負担が大きい場合は、抗がん剤を中止することが検討されます。
抗がん剤を中止しても、痛みや息苦しさなどの症状に対する治療やケアがなくなるわけではありません。
治療を続けるかどうかは、医学的な効果だけでなく、患者が大切にしたい生活や価値観も含めて相談します。
治療変更の説明を受けた際は、現在の抗がん剤がどの病変に、どの程度効いているのかを具体的に確認することが大切です。
セカンドオピニオンは、現在の主治医とは別の医師から、診断や治療方針について意見を聞くことです。
次のような場合に、セカンドオピニオンを検討することがあります。
セカンドオピニオンは必ずしも転院を前提とするものではありません。聞いた意見を現在の主治医へ持ち帰り、今後の治療を相談できます。
一般的に、次のような資料を準備します。
腫瘍内科医は主に薬物療法を専門とし、放射線治療医は放射線治療の適応や治療計画を評価します。
一部の病変だけが進行している場合や、痛み・圧迫などの症状がある場合は、薬物療法だけでなく、放射線治療の適応を専門医へ確認することがあります。
外科を含む複数の診療科が治療方針を検討することで、選択肢を整理しやすくなる場合があります。
ただし、セカンドオピニオンを受ければ必ず新しい治療が見つかるわけではありません。現在の病状に対して何が適切かを理解する機会として利用しましょう。
標準治療として提案できる抗がん剤が限られている場合、自由診療による治療を検討する方もいます。
自由診療には、国内で承認されていない薬や、効果と安全性が十分に確認されていない治療が含まれることがあります。また、高額な費用が必要になる場合もあります。
自由診療を検討する際は、次の点を確認してください。
「必ず効く」「どのがんにも効く」「副作用がない」など、治療効果や安全性を断定する説明には注意が必要です。
検討している治療について、現在の主治医やがん相談支援センターにも相談しましょう。
腫瘍マーカーの上昇だけで、抗がん剤が効いていないと判断することはできません。
画像検査、症状、血液検査などを合わせて評価します。腫瘍マーカーが一時的に変動する場合もあるため、数値の意味について主治医へ確認してください。
がんの種類や治療歴によっては、以前使用した薬を再び使うことが検討される場合があります。
以前の治療効果、治療を中止してからの期間、副作用、現在の全身状態などを踏まえて判断されます。
抗がん剤だけでは制御しにくい病変や、症状を生じている病変に対して、放射線治療を検討できる場合があります。
放射線治療が可能かどうかは、病変の位置、大きさ、個数、正常組織との関係、過去の照射歴、全身状態などによって異なります。
別の抗がん剤へ変更しても、効果を保証することはできません。
がんの種類や性質、これまでの治療、患者の全身状態などによって、期待できる効果や副作用が異なります。
がん遺伝子パネル検査によって、治療の標的となる遺伝子変化が見つかる場合があります。
一方、検査を受けても対応する薬が見つからない場合や、薬があっても承認状況・治験の参加条件などにより使用できない場合があります。
標準的な抗がん剤が限られている場合でも、病状によっては放射線治療、手術、その他の局所治療、治験などを検討できる場合があります。
積極的ながん治療が難しい場合でも、痛みや息苦しさなどの症状を和らげる治療や緩和ケアは受けられます。
抗がん剤を中止した後の経過は、がんの種類、進行の速さ、これまでの治療効果、病変の状態などによって異なります。
一律に予測することはできません。中止する理由と、今後予想される経過について主治医へ確認してください。
「抗がん剤が効かない」という言葉が指す状態は、患者ごとに異なります。
画像検査で病変が大きくなっている場合だけでなく、一部の病変だけが進行している場合、副作用によって同じ薬を続けられない場合などもあります。
現在の抗がん剤が効かなくなったことと、あらゆる治療法やケアがなくなったことは同じではありません。
がんの種類や検査結果によっては、別の抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体などが検討される場合があります。
また、一部の転移病変だけが進行している場合や、痛み・圧迫などの症状がある場合は、放射線治療などの局所治療を検討することがあります。
現在の治療方針について判断が難しい場合は、薬物療法と放射線治療の両方について、別の医師から意見を聞くことも選択肢です。