このページでは、癌と牛乳との関係について分かりやすくまとめていますので、食生活を改善する際の参考にしてください。
国立がん研究センター癌対策研究所の予防関連プロジェクトにおいて、全国の10保健所が約4万3千人の男性を対象として行った追跡調査の結果、牛乳やヨーグルトといった牛乳・乳製品の摂取と、前立腺癌の発生率との相関が示唆されました。
同報告書では、対象者およそ4万3千人のうち調査期間中に前立腺癌を発症した人は329人となっており、特に牛乳やチーズ、ヨーグルトといった乳製品を多く摂取しているグループは、それらの食品をあまり摂取していないグループの人々よりも発癌率が高かったとされています。
参考元:国立研究開発法人国立がん研究センター癌対策研究所予防関連プロジェクト|乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について
同報告書では牛乳、チーズ、ヨーグルト及びそれらを全て含めた「乳製品」という4つのカテゴリーに被験者を分類し、それぞれの摂取量と前立腺癌の発症率を調査しています。
その結果、特に牛乳では摂取量が多くなるほど前立腺癌の罹患率が上昇しており、最も摂取量が少ないグループを1とすれば、牛乳の摂取量が最も多いグループの前立腺癌の罹患率は約1.53倍にも達していることがポイントです。
これにより、牛乳を日常的に多く摂取することで、男性の場合では前立腺癌のリスクがやや高まる可能性が示唆されました。
参考元:国立研究開発法人国立がん研究センター癌対策研究所予防関連プロジェクト|乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について
牛乳が前立腺癌の罹患率を上げる要因として、牛乳に含まれているカルシウムだけでなく、飽和脂肪酸の影響も示唆されています。
同報告書ではカルシウムと飽和脂肪酸の摂取量が、それぞれ前立腺癌の罹患率へどう影響しているかも調査されていますが、結果としてはカルシウムと飽和脂肪酸はともに前立腺癌のリスクをやや高めるというデータが得られました。また、カルシウムと飽和脂肪酸の摂取量に比例して発癌リスクが上昇していることも重要です。
欧米ではすでに、乳製品が前立腺癌のリスクを上げる可能性が示唆されています。また、カルシウムの摂取量増加がどうして前立腺癌の発症につながるのかというシステムについても多方面で研究が行われており、カルシウム摂取量の増加によって引き起こされる血中ビタミンD濃度の低下やIGF-I濃度の上昇といった現象が原因であるという報告も存在します。
反面、これらはあくまでも欧米における研究報告であり、必ずしも日本人や日本の生活習慣と合致しない点も無視できません。
また日本人を対象とした追跡調査においては、欧米の研究報告で発表されているほど、牛乳の摂取量と前立腺癌の発症率に明確な差が生じていないことも事実です。
参考元:国立研究開発法人国立がん研究センター癌対策研究所予防関連プロジェクト|乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について
諸外国の人々を対象とした研究と、日本人のみを対象とした研究では、同じテーマや実験法であっても、必ずしも同じ結果が出るとは限りません。
これは、人種による体質の違いや伝統的な食生活、生活習慣など様々な影響が理由として考えられ、一概にどれが大きな理由だと言い切ることもできません。
そのため、特に食生活や健康習慣などに関する海外の研究報告は、日本で暮らす日本人にとってあくまでも参考の1つとしてとどめておき、絶対的な医学的事実として信じすぎないようバランスを保つことも大切です。
牛乳の摂取が男性の前立腺癌の罹患率を上げるかも知れないというデータに対して、女性の場合、乳製品を多く摂る人ほど乳癌リスクがやや低くなるという可能性も指摘されています。
とはいえ牛乳単体だけで見れば乳癌リスクへの影響はあまり認められておらず、牛乳を摂取することが乳癌の発症へ良いとも悪いとも断定できないというのが、少なくとも2022年1月時点の実状のようです。
参考元:Dairy consumption and risk of breast cancer: a meta-analysis of prospective cohort studies(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21442197/)
健康的で活力のある長寿社会の実現を目指す公益財団法人長寿科学振興財団では、牛乳やヨーグルトといった乳製品は、カルシウムの供給源となるため日頃から積極的に食生活へ取り入れていきたい食材とされています。
カルシウムはそもそも人体に吸収しにくいミネラルの1つであり、特に高齢者において、カルシウム不足や骨粗鬆症は健康寿命を考える上でリスクとされています。そのため、あくまでも一日の摂取目安量を守った上であれば、牛乳を積極的に飲むことはむしろ推奨されていることも事実のようです。
参考元:公益財団法人長寿科学振興財団健康長寿ネット|牛乳・乳製品の摂取量の目安
カルシウムは牛乳や乳製品の他、小魚や緑黄色野菜にも含まれており、牛乳だけに頼るのでなくバランスの良い食生活を心がけることが肝心です。
前立腺癌に関してのみ注目すれば、カルシウムや飽和脂肪酸が発症リスクを高めたり、進行を早めたりするといった可能性も考えられます。
しかし、一方で乳製品の摂取で乳癌や大腸癌のリスクが低下するといった報告もあり、単に「牛乳に含まれている成分が癌を進行させる」と言い切ることはできません。
また、たとえ健康に良いとされているビタミンであっても、過剰に摂取すれば健康被害を引き起こすこともあります。
仮に、牛乳が体に良い飲み物であったとしても、飲み過ぎればお腹を壊したりカロリー過多になったりと、健康へ悪影響を及ぼすリスクが増大します。反面、体に良いとされるサプリメントであっても、過剰に摂取すれば深刻な健康被害を招きかねません。
癌といっても様々な種類があり、それぞれに発生システムやリスク因子も異なります。どのような食材にも体に良い成分や悪い成分は含まれており、重要なことは極端な過剰摂取をするのでなく色々な食材をバランス良く食べることといえるでしょう。
癌の原因は1つでなく、様々な要因が複合的に組み合わさって発症へつながります。また、遺伝的要因によっても影響するため、同じ生活習慣を守っていても、ある人は癌になって、ある人は癌にならないといったこともあるでしょう。
ですが、いずれの場合も癌の早期発見・早期治療が重要であるという事実は共通しています。
そのため、定期的な癌検診や健康チェックによって、癌を早めに発見できるよう心がけることこそが、癌リスク低減の大きなポイントといえるかも知れません。
どのような食材でも飲み過ぎはNGです。特に牛乳は飲み過ぎることで下痢を引き起こしたり、カロリー過多になったりする可能性があります。
牛乳は食物アレルギーの代表的な原因食物であり、牛乳にアレルギーがある人は摂取を避けなければなりません。
処方されている医薬品によっては牛乳との併用が禁忌になる可能性もあります。そのため、病気の治療中の人などは医師や薬剤師へ相談するようにしてください。また、サプリメントの内容によって栄養が過剰になる危険もあります。
乳製品の中でもヨーグルトはカルシウムやビタミンを摂取できる上、乳酸菌が腸内環境へ良い影響を与えるとする報告も少なくありません。
腸内環境の改善は大腸癌など様々な癌リスクを下げる可能性も示唆されており、ヨーグルトを積極的に摂ることは食生活の改善策の1つとなり得るでしょう。
ただし、砂糖が添加されているヨーグルトの場合、カロリーにも注意が必要です。
国立がん研究センターでは、癌患者や手術後におすすめのメニューとして、牛乳や乳製品を活用した調理法を広く公開しています。
一方、牛乳を含めて特定の食材や栄養を摂り過ぎることは危険です。
牛乳によって癌のリスクが上昇するのか低下するのか、必ずしも言い切れないからこそ、自分なりに健康的な食生活を意識しながらバランスの良いメニューを続けていくようにしましょう。
なお、不安な人は医師や薬剤師、管理栄養士へ相談することが賢明です。