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頭頸部腫瘍

こちらのページでは、頭頸部腫瘍における放射線治療(トモセラピーなど)の目的や方法、副作用などについて詳しく紹介していきます。

頭頸部腫瘍で放射線治療を行う目的

頭頸部は顔面から頸部までの範囲を指すため、頭頸部腫瘍とは、この範囲に含まれる鼻や口、のど、耳などの部分にできるがんのことを意味します。さまざまな部位があるため、治療方法も手術による切除や放射線治療、化学薬物療法などいろんな手段があります。

頭頸部腫瘍における放射線治療の目的は、根治と緩和、予防の3種類が考えられます。

根治目的

放射線治療だけで治療するほか、薬物療法といった他の治療と組み合わせながら、がんの根治を目指す目的で放射線治療を行うことを指します。

根治目的の場合は、長期の治療期間を要するケースもあります。一方で、2010年代以降、国内でも導入が進んでいる「定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy:SBRT)」という高精度放射線治療であれば、短時間で治療を終了することも可能です。

予防目的

腫瘍の摘出手術や薬物療法の後などに、肉眼では明らかな病巣が残っていない場合であっても、顕微鏡で見なければ分からないレベルの病巣が残っていたために再発が危惧される…というケースも少なくありません。このような場合に、再発するのを防ぐ目的で行われるのが「予防目的の照射」になります。

緩和目的

がんが進行してしまったり再発してしまったりするケースで、頭頸部内もしくは他の部位まで広く染み込んでいる時には、根治が難しいという判断をされることも珍しくありません。また、がんが全身に広がってしまっている場合は薬物療法が適用となりますが、その効果が保たれる期間には限界があります。このような場合に、痛みやしこり、出血などの症状を和らげるために行われるのが、この「緩和目的の放射線治療」です。

頭頸部腫瘍における放射線治療の方法

頭頸部の腫瘍とひとまとめにされることが多いのですが、頭頸部とは顔面から頸部までの範囲を指すため、発生する部位によってがんの性質は異なり、治療法もさまざまです。また、同じ部位で発生した腫瘍であっても、大きさや広がり具合、つまり病期によって異なります。

ですが、大きく分けるとステージ1や2の比較的、早期なものについては手術単独や放射線治療(場合によっては化学療法も併用)で治療を行うことがほとんど。一方で、ステージ3や4の場合はまず術前化学療法を行い、その後に、手術もしくは放射線化学療法を基本として治療を行うのが一般的です。

では、放射線治療を受ける場合の治療の流れを確認していきます。

1.診察

頭頸科や耳鼻咽喉科、放射線治療医による診断を行います。中でも原発病巣については、間接喉頭鏡や内視鏡などを用いて腫瘍の範囲を特定。その後、CTやMRIの撮影を行い、画像とあわせて治療計画に反映させます。

2.治療計画の作成

まず、実際にどの範囲に放射線治療を行うかのシミュレーションを実施。CTの台に仰臥位(仰向け)で安静を維持した後、加熱して柔らかくなったシェル素材樹脂を顔面に当てて型を取ります。このようにお面を作成することで首や顔の位置を固定することができ、位置を固定することによって、治療時に放射線の当たる部位が動いてしまう危険を最小限に抑えることが可能になるのです。

3.リハーサル

治療台に乗って照射範囲を実際の治療に用いる放射線を使った写真で確認します。治療計画のコンピューター画像と照合しながら、ずれている場合は修正。治療期間中にも再度、LG(リニアックグラムもしくはリニアックグラフィ)撮影を行って、再現性の確認を行うこともあります。

4.治療をスタート

治療台の上に乗って、シェルを装着し、その場でじっとしていれば治療は完了します。シェルと体表につけたマーキング、レーザー照準装置を用いて三方向(縦・横・高さ)から照射位置を精密に確認し、放射線照射を実施。位置がずれないようにレーザービームで縦、横、高さの位置を確認します。毎回、同じ作業を繰り返して治療中の誤差をできるだけ少なくしながら治療を行います。

5.治療後のフォローアップ

治療の効果はもちろん、副作用も治療が終了してから徐々に現れてきます。そのため、治療が終わった後も放射線科のドクターに加え、頭頸科や耳鼻咽喉科の先生に経過を観察してもらうことが重要です。

放射線治療の副作用

頭頸部腫瘍を放射線治療で行った場合の副作用としては次のようなものが考えられます。

粘膜や皮膚の炎症

治療を行っている期間の間は、放射線が照射された部分の皮膚や粘膜に炎症にともなうただれや疼痛が見られます。炎症反応は、抗がん剤による化学療法が併用される場合などでは強くなることがあるため、治療前から治療後の栄養管理や疼痛管理が重要です。

唾液分泌障害

耳下腺、顎下腺、舌下腺などの大唾液腺や、口腔咽頭粘膜にある小唾液腺に照射を行った場合に見られる副作用で、照射される量が多いと非可逆的となり唾液が出なくなります。ただし、2010年代後半以降に普及したIMRT技術では、大唾液腺をできる限り避ける照射計画が可能となり、唾液分泌機能の温存が期待されます。

長期間にわたり唾液が出ない状態が続いてしまうと、口腔咽頭が乾燥してしまってむし歯の原因ともなることも。また乾燥が強い場合は、食事をする時に飲み込みが困難になる場合もあります。

放射線性骨髄炎、骨壊死

上の項目で紹介した口腔乾燥や虫歯が悪化してしまうと上顎の骨や下顎の骨に感染し、場合によっては骨髄炎や骨壊死に発展するケースがあります。頻度的にはそれほど高くはないものの、骨壊死がひどい場合は骨の切除や骨移植による再建術を必要とする場合も。

そのため、放射線治療を行う前には虫歯のチェックや予防的処置などの口腔ケアが非常に重要です。2020年以降、多くの医療機関では歯科医や歯科衛生士による事前・事後の口腔ケア介入が標準化されており、顎骨壊死のリスク軽減に寄与しています。

味覚障害

主に放射線を舌に照射した場合に生じるのがこちらの味覚障害。舌に病変がない場合でも、周辺の歯肉や中咽頭のがんなどに対して放射線治療を行った時に、舌を完全に避けることができなかったため、生じることもあります。照射範囲が狭ければ半年から1年ほどで味覚はほぼ回復しますが、範囲が広い場合だと、長年にわたり味覚低下が続くことがあります。

【結論】頭頸部腫瘍はトモセラピーで治療できる?

トモセラピーとは、アメリカで開発された放射線治療装置の名前です。トモセラピーによる治療はもともと、前立腺がん、頭頸部腫瘍、中枢神経腫瘍の3部位に適応が限られていましたが、治療実績を積み重ね、2010年4月の保険診療改正にともなう適応拡大でその数は大きく増加しました。そのため、頭頸部腫瘍をトモセラピーで治療することは可能となっています。

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ちなみに…頭頸部腫瘍はサイバーナイフで治療できる?

サイバーナイフは、ロボットのアームに装着された放射線治療装置が体の周りを動くことで、腫瘍に対し集中的に放射線を投与することができる定位放射線治療専用の機械。頭頸部の腫瘍に対する論文なども発表されているため、治療を行うことはできるでしょう。

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ちなみに…頭頸部腫瘍はガンマナイフで治療できる?

ガンマナイフは脳内病変など頭蓋内の治療を目的に開発されたものであり、頭頸部腫瘍に対しても一部の症例で適応となることがあります。ただし、病変が頭蓋内に限局している場合に限定されるため、サイバーナイフとは適応範囲が異なります。また、症状やがんの進行度によっては適用とならないこともあるため、主治医との相談が必要です。

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ちなみに…頭頸部腫瘍はトゥルービームで治療できる?

アメリカの医療機器メーカーが開発した放射線治療装置のトゥルービームは、広域にわたる大きな病巣への照射も短時間で行うことができます。実際に頭頸部腫瘍の治療で使っている医療機関もあるため、その使用については問題ないと考えられるでしょう。

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