いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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腫瘍内科

わが国では癌患者さんが次第に増加しており、現在では年間約100万人もの人が癌の診断を受けています。それに伴って医療の高度化も進んでおり、専門的な癌治療が求められるようになりました。

そのような背景のもとに登場した診療科が「腫瘍内科」です。ここでは腫瘍内科について詳しくお伝えしていきます。

腫瘍内科とは

かつては外科手術による切除が中心だった癌治療は、過去30年間の医学の進歩によって有効な抗がん剤が数多く開発されたことで大きく変化しました。

とくに最近の新薬開発のペースは目覚ましいスピードで、これまで治療が困難だった癌にも有用性が期待できる薬剤が次々に登場しています。効果も飛躍的に向上したことで生存期間も延長され、手術ができなかったような癌でも抗がん剤で小さくして手術できるようになりました。

一方、内視鏡を使用した身体的負担の少ない低侵襲手術や、IMRT(強度変調放射線治療)や粒子線など放射線による局所療法も進歩しています。これらの治療と抗がん剤治療を組わせることで、手術にも引けを取らない高い治療効果を出せるまでになってきました。

このように、癌の治療は高度化・複雑化の一途をたどっています。その流れの中で、きめ細やかな全身管理や観察を要する薬物療法は、外科医から専門の内科医が担当するようになっていったのです。

また、最近では癌ゲノム医療も広まりつつあります。すべての遺伝子をまとめてゲノムと呼んでいますが、ゲノムの突然変異が積もり積もって癌細胞が無秩序に増殖を始めることで発症するのが癌のメカニズムです。他の組織や臓器への浸潤や転移も同じ理屈です。そこで、遺伝子を解析して患者さん一人ひとりの癌細胞のゲノム変異を詳しく検査し、その結果からその患者に合った治療を選択するのが癌ゲノム医療です。

癌細胞のゲノム変異は、必ずしも臓器に特有のものではありません。さらに、実際の癌ゲノム医療で高い効果が期待できる薬剤を見つけられるのは10%以下とされており、多くの患者さんには緩和ケアが必要になるのが現実です。このため、癌ゲノム医療では特定の臓器にフォーカスするのではなく、臓器横断的な対応が求められるのです。

腫瘍内科は、このような現代の癌治療におけるさまざまなニーズに応えるために設けられた診療科です。従来の臓器別診療科や放射線科、外科、緩和ケア科など、多くの診療科と協力・連携しながら、枠組みにとらわれない癌治療の提供を目指しています。

腫瘍内科のはじまり

世界的にみると腫瘍内科の歴史は意外に古く、アメリカでは1960年代にまでさかのぼります。当時から内科系の専門診療科のひとつとして確立されており、内科系の中では循環器科と並んで最大の規模となっています。

ちなみにアメリカでは、腫瘍内科のトレーニングを受けた医師だけが薬物療法を実施できます。一方、日本では外科医主導のもとで固形癌に対する化学療法を行なってきた歴史があり、医学部でも腫瘍内科講座は規模が小さいため専門の医師も少ないという現実があります。それでも徐々に薬物療法を専門とする医師が増えており、いずれはアメリカのような体制になることが期待されています。

腫瘍内科で診る主な疾患

腫瘍内科で診る主な疾患は以下のとおりです。

このように、基本的にはすべての癌を対象としますが、とくに転移や再発を起こして薬物療法が治療の主体となる固形癌が多くを占めます。

腫瘍内科の役割

腫瘍内科は、癌の診療に特化した内科の一領域です。その役割は癌の診断や薬物療法、さまざまな症状を和らげるための治療、複数の治療の選択肢からその人に合った組み合わせを探るための診療科の橋渡し役など、非常に多岐にわたります。

そんな腫瘍内科の主な役割として、以下の4つを紹介しましょう。

がん薬物療法(化学療法)

がん薬物療法(化学療法)は、本来であれば腫瘍内科医が行なうべき治療です。癌を攻撃・コントロールするための薬物療法には抗がん剤治療のほか、ホルモン療法、そして近年急速に進歩している分子標的治療などがあります。

腫瘍内科医は先進的な情報と専門的な知見、そして患者さんの価値観に基づいて患者に合った薬物療法を選択し、安全性に配慮して実施していきます。

日本ではとくに婦人科癌、乳癌、肉腫、泌尿器癌、原発不明癌、胚細胞腫瘍、絨毛癌などの専門家が少ないのですが、腫瘍内科ではこうした癌への薬物療法にも積極的に対応します。

支持的治療

支持的治療とは、癌そのものに対する治療ではありません。癌に伴う症状を和らげたり、治療の副作用を抑えたり、癌の合併症を治療したりすることを指します。

患者さんの全身状態を一定のレベルで維持するためにも、支持的治療の重要さは広く注目されています。とくにがん薬物療法の副作用の代表である悪心や嘔吐に対する支持的治療は以前に比べて格段に進歩しており、使用する薬物のリスクに応じて症状軽減から予防へと治療の視点が変わってきています。

がん医療のコーディネーター

腫瘍内科は内科の専門として、癌の状態や患者さんの全身状態、悩みや不安などと向き合います。そしてもっとも適した治療を提案し、さまざまな専門職と連携しながら治療を進めていく、いわば「がん医療のコーディネーター」を担っているのです。癌治療という困難な道があり、そこで迷いがちな患者さんにとっての道案内役ともいえるでしょう。

腫瘍内科が存在することで、外科医は手術に専念できるなど、各診療科の特性を存分に発揮できます。こうしたメリットは診療科だけに限らず、リハビリテーションや在宅療養の移行など、それぞれに関わる医療専門職の特性を活かしたチーム医療にとっても、腫瘍内科の意義は大きいものになります。

臨床研究

次々に開発される新しい薬は、当然ながら有効性や安全性をきちんと評価する必要があります。また、すでに存在している薬物療法でも、より適切な使用方法の確立が求められることもあります。そのために必要なのが臨床研究です。

医学が進歩したとはいえ、日常の診療で判断が難しい問題はたくさんあります。それは腫瘍内科の領域でも同様です。その答えを出すため、世界中で力を合わせて臨床研究を行なっていく必要があるのです。

腫瘍内科と関わりが深い「がん薬物療法専門医」

「がん薬物療法専門医」は、日本臨床腫瘍学会が定める専門医資格のひとつです。その名のとおり、癌患者さんの病状や病態に合った有効な薬物療法を安全性に配慮し、適正に行なう専門医ですが、それだけではありません。

がん薬物療法の質を向上させるために臨床試験や先進的な臨床開発研究にも関与し、その一方で癌患者さんの精神的・身体的苦痛にも真摯に向き合い、緩和医療にも精通することが求められます。

内科学全般にわたる幅広い知識のほか、他の診療科と連携するためのスキルなど多角的な能力が要求されるがん薬物療法専門医は、腫瘍内科の存在意義をそのまま体現しているともいえるでしょう。

「がん治療認定医」とはどう違うの?

「がん薬物療法専門医」は日本臨床腫瘍学会が認定する専門医資格であることに対して、「がん治療認定医」は日本医学会の提言によって日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、全国がんセンター協議会の4団体が中心となって設立された日本がん治療認定医機構が認定する認定医です。それぞれが資格制度とそれに伴う認定研修施設を定めているので、患者さんからしてみるとどっちがどう違うのか、非常にわかりにくいでしょう。

平たくいうと、がん治療認定医は癌治療の基礎的な知識と技術を持ち、専門医の指導を受けながら標準的な治療ができるレベルの医師です。

一方、がん薬物療法専門医は化学療法や分子標的療法、ホルモン療法など薬物療法の専門医であり、基礎的な知識や技術に加えて薬物療法の十分な経験、さまざまな癌の生物学的知見、先進的な臨床開発研究にも精通していることなどが求められるレベルの医師です。

がん薬物療法専門医とがん治療認定医の違いを明確に示している公式な解釈は存在しませんが、あえて説明するのであれば、がん薬物療法専門医は質の高いがん薬物療法を実践する医師であり、がん治療認定医は癌治療の基本を学び、まさに専門医を目指している医師だといえるでしょう。