がんの大きさや位置、周囲の臓器への広がり、ほかの臓器への転移、患者の全身状態などによっては、医師から「手術は難しい」「切除できない」と説明されることがあります。
手術ができないと聞くと、「もう治療法がないのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、手術ができないことと、受けられる治療がまったくないことは同じではありません。
がんの種類や状態によっては、放射線治療、薬物療法、症状を和らげる治療などが検討されます。また、一つの治療だけでなく、複数の治療を組み合わせることもあります。
このページでは、がんの手術ができないと判断される主な理由と、手術以外に検討される治療法、セカンドオピニオンや医療機関の選び方について解説します。
なお、実際に受けられる治療は、がんの種類、病変の位置や大きさ、転移の状況、これまでの治療歴、全身状態などによって異なります。現在受けている治療を自己判断で中止・変更せず、主治医や専門医に相談してください。
がんの手術ができないと判断される理由は一つではありません。がんが発生した場所や広がり方だけでなく、患者の体力や持病、手術によって得られる効果とリスクなどを総合して判断されます。
がんが重要な臓器、太い血管、神経などに接していたり、周囲へ広く浸潤していたりすると、安全に切除することが難しい場合があります。
がんを取り除くために臓器や神経を大きく切除すると、生命の維持や身体機能に重大な影響が生じる可能性もあります。そのため、手術による利益よりも身体への負担や合併症のリスクが大きいと判断された場合は、手術以外の治療が検討されます。
がんが原発巣から離れ、脳、骨、肺、肝臓、リンパ節など複数の場所へ転移している場合、手術だけですべての病変を取り除くことが難しくなります。
このような場合は、特定の病変に対する放射線治療などの局所治療と、全身へ作用する薬物療法を組み合わせることがあります。
ただし、転移があるという理由だけで、すべての患者が手術の対象外になるわけではありません。原発がんの種類、転移の個数や位置、ほかの病変の状態などによっては、手術を含む治療が検討される場合もあります。
一つの臓器内であっても、がんが広い範囲に及んでいる場合や、複数の病変が存在する場合は、すべてを切除すると臓器の機能を維持できないことがあります。
また、複数の病変がある場合は、病変の個数だけでなく、それぞれの大きさ、全体の体積、発生した位置なども踏まえて治療方針を検討します。
手術では、体にメスを入れる負担だけでなく、全身麻酔や術後の回復に耐えられる体力が必要です。
次のような状況では、手術による負担が大きいと判断されることがあります。
年齢だけで手術の可否が決まるわけではありません。実際には、年齢に加えて持病、日常生活の状況、臓器の機能、手術後の回復可能性などを確認します。
手術を行える技術的な可能性があっても、がんを十分に取り除けない、短期間で再発する可能性が高い、重い後遺症が残る恐れがあるなど、手術による利益が限られる場合があります。
その場合は、手術を行わないことが治療の放棄を意味するのではなく、放射線治療や薬物療法の方が病状に適していると判断されることがあります。
がんの治療には、手術以外にも放射線治療や薬物療法などがあります。がんの種類、発生した場所、転移の状況、症状、患者の全身状態などによって、治療の目的と方法を検討します。
治療の目的は、がんの根治を目指すことだけではありません。がんの進行を抑える、病変を小さくする、痛みや圧迫などの症状を和らげる、生活の質を維持するといった目的で治療が行われることもあります。
| 治療法 | 主な役割 |
|---|---|
| 放射線治療 | 病変へ放射線を照射し、がんの縮小、増大の抑制、症状の緩和などを目指します。 |
| 薬物療法 | 薬剤を全身へ作用させ、原発がんや転移病変の治療を行います。 |
| その他の局所治療 | 病変の状態に応じて、焼灼やカテーテルを使った治療などが検討される場合があります。 |
| 緩和ケア | 痛み、息苦しさ、吐き気、不安などを和らげ、患者と家族の生活を支えます。 |
| 支持療法 | がんや治療による副作用・合併症を予防または軽減し、治療を続けやすくします。 |
どの治療が適しているかは患者ごとに異なります。複数の治療を同時に行う場合もあれば、病状を確認しながら順番に行う場合もあります。
放射線治療は、がんの病変へ放射線を照射し、がん細胞のDNAにダメージを与えることで、細胞の増殖を抑える治療です。
手術と同じく、特定の病変を対象とする局所治療に分類されます。手術のように病変や臓器を切除することなく治療できる点が特徴です。
放射線治療は、がんの根治を目指して行われる場合と、痛みや圧迫、出血などの症状を和らげる目的で行われる場合があります。また、単独で行うだけでなく、手術や薬物療法と組み合わせることもあります。
手術が難しいがんでは、次のような場合に放射線治療が検討されることがあります。
ただし、放射線治療が適しているかどうかは、がんの種類、病変の大きさや位置、周囲の正常組織、これまでに受けた放射線治療、全身状態などによって異なります。
放射線治療では、がんの病変へ必要な放射線を照射しながら、周囲の正常な組織へ当たる放射線をできる限り抑えることが重要です。
病変の形状や位置に合わせて放射線を集中させる方法として、次のような治療があります。
治療には、リニアック、ガンマナイフ、サイバーナイフ、トモセラピーなどの装置が用いられることがあります。
装置によって照射方法や対応できる範囲は異なりますが、装置名だけで治療の優劣が決まるわけではありません。病変の種類、大きさ、位置、個数、過去の照射歴などに応じて、放射線治療を専門とする医師が治療方法を検討します。
複数の転移がある場合でも、直ちに放射線治療ができないと決まるわけではありません。
放射線治療の可否は、病変の個数だけでなく、次のような条件を踏まえて判断されます。
複数の病変を一度の治療計画で照射できる場合もあれば、特に症状や危険性の高い病変を優先して治療する場合もあります。対応できる治療方法や装置は医療機関によって異なるため、専門医による個別の判断が必要です。
放射線治療は、がんの病変だけでなく、周囲の正常な組織にも影響を与える可能性があります。副作用の種類や程度は、照射する部位、放射線量、治療回数などによって異なります。
治療中または治療直後に現れる副作用と、治療終了から数カ月~数年後に現れる副作用があります。治療前に、予想される副作用や対処方法について説明を受けておきましょう。
薬物療法は、薬剤を使ってがん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を攻撃したりする治療です。薬剤が血液を通じて全身へ運ばれるため、原発巣だけでなく、ほかの臓器へ転移した病変にも作用が期待されます。
使用する薬剤は、がんの種類、病理検査や遺伝子検査の結果、これまでの治療歴、患者の全身状態などによって選ばれます。
細胞障害性抗がん薬は、細胞分裂を妨げるなどの作用によって、がん細胞を攻撃する薬です。
全身の病変に対する治療として使用されますが、正常な細胞にも影響することがあり、吐き気、脱毛、骨髄抑制、倦怠感などの副作用が現れる場合があります。
分子標的薬は、がん細胞の増殖や生存に関係する特定の分子を標的として作用する薬です。
がん細胞の遺伝子変異や受容体の状態などを検査し、対応する標的が確認された場合に使用が検討される薬もあります。すべてのがんや患者に使用できるわけではありません。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によって抑えられている免疫の働きを利用して、がんを攻撃することを目指す薬です。
がんの種類や検査結果などを踏まえて使用が検討されます。免疫が過剰に働くことによる副作用が、さまざまな臓器に現れる可能性があります。
一部の乳がんや前立腺がんなどは、ホルモンの働きによって増殖する性質があります。ホルモン療法では、ホルモンの分泌や作用を抑えることで、がんの増殖を抑えます。
ホルモン療法を使用できるかどうかは、がんの種類や性質によって異なります。
特定の病変には放射線治療を行い、脳以外を含む全身の病変には薬物療法を行うなど、局所治療と全身治療を組み合わせることがあります。
放射線治療と薬物療法を同じ時期に行う場合もあれば、副作用や治療効果を考慮して順番に行う場合もあります。
組み合わせる治療や実施する順番は、原発がんの種類、転移した場所、使用する薬剤、患者の全身状態などによって異なります。
がんの治療では、病変の縮小や進行抑制だけでなく、痛みや息苦しさなどの症状を軽減し、生活の質を維持することも大切です。
骨転移やがんによる神経・臓器の圧迫によって、強い痛みが生じることがあります。
痛みに対しては、鎮痛薬の使用に加え、放射線治療によって病変を小さくし、痛みを軽減することが検討される場合があります。病状によっては、神経ブロックなどが行われることもあります。
がんが気道、消化管、神経、血管などを圧迫すると、息苦しさ、飲み込みにくさ、麻痺などが現れることがあります。また、がんからの出血が続く場合もあります。
このような症状に対し、放射線治療によって病変の縮小や出血の抑制を目指すことがあります。ただし、治療効果や適応は病変の状態によって異なります。
緩和ケアは、がんやがん治療に伴う身体的・精神的なつらさを和らげ、患者と家族を支えるためのケアです。
緩和ケアは、治療ができなくなった時期だけに受けるものではありません。がんと診断された段階から、手術、放射線治療、薬物療法などと並行して利用できます。
痛み、息苦しさ、吐き気、食欲不振、不眠、不安などがある場合は、主治医や看護師、緩和ケアチームへ相談してください。
「手術はできない」と説明を受けた場合は、その理由と、手術以外に検討できる治療を具体的に確認することが大切です。
主治医へ次のような内容を確認しましょう。
説明を聞いても分からない言葉がある場合は、その場で意味を確認しましょう。家族や信頼できる人に同席してもらい、説明内容を一緒に整理する方法もあります。
セカンドオピニオンは、現在の主治医とは別の医師から、診断や治療方針について意見を聞くことです。
主治医の診断が正しいかどうかだけを判断してもらうものではなく、提案されている治療を理解し、ほかに選択肢があるかを整理する目的でも利用できます。
セカンドオピニオンは必ずしも転院を前提とするものではありません。別の医師の意見を現在の主治医へ持ち帰り、今後の治療について改めて相談することもできます。
セカンドオピニオンを受ける際は、一般的に次のような資料が必要です。
必要な資料や予約方法は医療機関によって異なります。相談先を決めたら、事前に確認してください。
外科医と放射線治療医では、専門とする治療方法が異なります。手術が難しいと言われた場合は、放射線治療の適応について放射線治療を専門とする医師へ意見を聞く方法があります。
医療機関によって導入している装置や対応できる照射方法が異なるため、別の医療機関で異なる治療方法が提示される可能性もあります。
ただし、別の医療機関へ相談すれば必ず治療を受けられるわけではありません。セカンドオピニオンは、現在の状態に対してどのような治療が適切かを確認する機会として利用しましょう。
手術が難しいがんの治療では、放射線治療、薬物療法、症状緩和など、複数の視点から治療方針を考える必要があります。
特定の治療だけを前提とするのではなく、患者の病状や希望に応じて複数の選択肢を検討してもらえるかを確認しましょう。
転移癌の治療では、次のような診療科や専門職が連携することがあります。
必要に応じて複数の診療科が治療方針を検討できる体制があるかを確認してください。
医療機関によって、対応しているがんの種類や放射線治療の方法は異なります。
脳転移、骨転移、肺転移、肝転移、リンパ節転移、複数臓器への転移など、現在の病状について相談できるかを確認しましょう。
治療を受ける前に、次の点について説明を受けることが大切です。
手術ができないという理由だけで、治療結果や今後の見通しを一律に判断することはできません。
がんの種類や広がり、使用できる薬剤、放射線治療の適応、治療への反応などによっては、手術以外の治療によって病変を小さくしたり、長期間にわたって病状を管理したりできる場合があります。
一方、治療が難しい場合もあるため、個別の見通しは主治医へ確認してください。
転移があっても、転移の個数や場所、原発がんの状態などによっては、手術が検討される場合があります。
転移があることだけで一律に手術ができないと決まるわけではありません。手術、放射線治療、薬物療法のどれを優先するかは、病状に応じて判断されます。
手術が難しい場合でも、放射線治療を検討できることがあります。
ただし、がんの種類、位置、大きさ、周囲の臓器、これまでの照射歴、全身状態などによっては、放射線治療が適さない場合もあります。放射線治療科や放射線治療を専門とする医師へ相談してください。
複数の転移がある場合でも、放射線治療の対象になる可能性があります。
治療の可否は病変の個数だけではなく、大きさ、全体の体積、位置、症状、原発がん、全身状態などを踏まえて判断されます。
放射線治療の回数は、治療する部位、病変の大きさ、治療の目的、使用する照射方法などによって異なります。
1回で治療する場合もあれば、数回または数週間に分けて行う場合もあります。具体的な治療回数は、治療計画を作成したうえで説明されます。
セカンドオピニオンは、診断や治療方針について別の医師の意見を聞くための制度です。現在の主治医との関係を終了したり、必ず転院したりするものではありません。
希望する場合は、主治医へ診療情報提供書や画像データなどの準備を相談してください。
放射線治療の可否は、年齢だけで決まるものではありません。
病変の状態、患者の体力、持病、通院の可否、治療による利益と負担などを総合して判断します。高齢であることを理由に自己判断で治療を諦めず、医師へ相談してください。
がんの手術が難しいと判断される理由は、病変の位置や広がり、転移、全身状態など患者ごとに異なります。
手術ができないことと、受けられる治療法がまったくないことは同じではありません。病状によっては、放射線治療、薬物療法、症状を和らげる治療などが検討されます。
また、複数の転移がある場合でも、病変の個数だけで放射線治療の可否が決まるわけではありません。病変の大きさ、位置、全体の体積、過去の治療歴などを踏まえた専門医の判断が必要です。
現在提案されている治療方針に迷いがある場合や、放射線治療の適応について確認したい場合は、セカンドオピニオンを利用して、別の医師の意見を聞くことも選択肢です。