癌治療の手術によって身体機能の一部を失ったり、そもそも癌の影響で後遺障害が生じたりといったこともあります。そこで、このページでは癌患者が障害を負った後で障害者手帳を受け取るための手順や、障害者手帳を得ることで活用できる諸制度についてまとめました。
障害者手帳とは、文字通り何かしらの「障害」を抱えている人(障害者)に対して公的に交付される手帳であり、障害者であることの証明書です。
言い換えれば、障害者手帳を取得していなければ、障害者が受けられる公的サービスや福祉サービスを受けられないこともあり、基本的に障害認定をされる程度の人であれば障害手帳を申請して取得しておくことが良いと考えられます。
また、障害者として就職活動を行う際にも、きちんと障害者手帳を用意しておけば障害者雇用枠で求職活動を進めることが可能です。
なお、障害者手帳を持っているからといって、世間的に障害者として扱われなければならないということではありません。あくまでも障害者手帳を活用することで、障害者として公的に認定され、相応のケアやサービスを受けられるといったことになります。
障害者といっても身体障害者や精神障害者、知的障害者といった区別があるように、障害者手帳においても3つの種類があります。
一般的に癌患者が治療や癌の影響で障害者となる場合、身体障害者に分類されるケースが多いと考えられますが、状況によっては精神疾患を併発してしまうこともあり、自分の状態にあった障害への理解を行うことが大切です。
身体障害者が抱える障害については「身体障害者福祉法」で定められており、対象疾患には以下のように様々なものがあります。以下は対象疾患の一例です。
いずれの場合も、疾病などによって障害が永続的に残り、生活動作が不自由になるという点が要件になります。
また、症状の度合いによって1~6級の等級が規定されており、2つ以上の障害が重複すれば7級障害といった等級になります。
癌治療によって身体に障害が残るケースは珍しくありません。
例えば膀胱癌や直腸癌の治療のために消化器の一部を切除し、人工膀胱や人工肛門(ストーマ)などを活用することになれば、「ぼうこう又は直腸機能障害」の項目に該当します。
あるいは、肺癌の手術で肺を切除した場合、呼吸機能が低下して「呼吸器機能障害」に該当するかも知れません。
また、舌癌や頭頸部癌などの治療で腫瘍を切除した際、発語機能に障害が残ることもあり、その場合は「音声・言語・そしゃく機能障害」に該当するでしょう。
障害者手帳を申請してから発行されるまでには審査があります。そして審査では障害の程度や申請者の状態が確認され、実際にどの程度の障害が「固定」されているのか、専門家の目で判断されることになります。
そのため、基本的に癌の治療が終わったり、症状が落ち着いて状態が固定されたりするまでは、障害の適切な見極めが困難になるため申請を行うこともありません。
ただし、人工肛門を増設した場合のように、癌患者の状態によっては明らかに公的支援や福祉サービスの利用が必要と思われるような場合もあり、直ちに障害者手帳の申請を行える場合もあるでしょう。
実際の障害者手帳の申請や、自分が申請基準を満たしているかどうかについて、気になる人は居住している自治体の役所の窓口か、あるいは指定認定機関へ問い合わせてください。
障害種別 | 障害区分 | 認定時期 |
---|---|---|
視覚障害 | 全般 | 3か月後(手術施行の場合は術後6か月) |
聴覚障害 | 全般 | 聴力安定後3か月 |
音声機能・言語機能の障害 | 喉頭摘出 | 手術後 |
その他音声言語機能 | 機能の喪失の場合 3か月後 著しい障害の場合 6か月後 |
|
平衡機能障害 | 全般 | 6か月後 |
そしゃく機能障害 | 歯科矯正治療 | 歯科矯正開始前 |
その他のそしゃく機能障害 | 機能の喪失の場合 3か月後 著しい障害の場合 6か月後 |
|
肢体不自由 | 切断 | 手術後 |
外傷性脊髄損傷による完全麻痺 | 3か月後 | |
人工関節・人工骨頭 | 手術後6か月 | |
重度の脳血管障害(1・2級相当) | 3か月後 | |
その他の肢体不自由 | 6か月後(手術施行の場合は術後6か月) | |
心臓機能障害 | ペースメーカ 体内植え込み型除細動器(ICD) |
手術後 |
人工弁置換 | 手術後 | |
その他の心臓機能障害 | 3か月後(手術施行の場合は術後3か月) | |
腎臓機能障害 | 全般 | 3か月後 |
呼吸器機能障害 | 全般 | 3か月後 |
※表引用元:愛知県公式HP|身体障害認定における障害固定の時期の目安について(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/shogai/0000071135.html)
前述したように、原則として障害者手帳の申請は「障害の状態が固定された後」となります。そのため申請時期も治療完了後などが目安となりますが、あらかじめ認定基準によって認定時期が定められている障害事例(ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害、免疫機能障害、肝臓機能障害)については、その限りではありません。
障害者手帳の申請先は各市町村役場の障害福祉課か、もしくは住所地にある福祉事務所となっています。
障害者手帳の申請手続きは、指定窓口(市町村役場の障害福祉課か住所地にある福祉事務所)で行います。
まず、指定窓口で申請用紙や診断書用紙など必要な書類を受け取ってください。なお、障害を抱える本人が窓口へ来られない場合、家族など代理人が代行できます。
必要書類を受け取った後、都道府県知事が指定した医師(指定医)の診断を受けて障害の状態を診断してもらいます。かかりつけ医や主治医が指定でない場合、福祉事務所などで指定を紹介してもらえます。
指定医の診断を受けた後、「身体障害者手帳交付申請書」と「身体障害者診断書・意見書」に本人の写真を添付して、指定窓口へ提出しましょう。
提出した書類にもとづいて等級の判定が行われ、障害等級に該当していると判断されれば、1~2ヶ月程度を経てから身体障害者手帳(身障者手帳)が交付されます。
障害者手帳を持つことで受けられる支援・助成制度は多岐にわたっており、公共交通機関の利用料金の割引や民間施設の利用料金の割引など、日常的に受けられるものも少なくありません。
そこで、以下では特に癌患者が身体障害者手帳を交付された場合に、どのような支援・助成制度を受けられるか考えます。
身体障害者手帳を保有している人は、指定医療機関での自己負担額が原則1割となり、自治体によってはさらに助成費を受けられることもあります。
車椅子や補聴器、歩行器など補装具の購入・修理・交付に必要な費用の助成も特徴です。当然ながら、介護ベッドや人工肛門(ストーマ)の購入についても助成を受けることが可能です。
その他、自宅のバリアフリー化など生活に必要な環境を整えるためにかかったリフォーム費用についても助成されます。ただし、あくまでも身体障害者手帳に記載されている障害に対して必要なリフォームなどの費用が助成されるため、必ずしも全ての自宅改造の費用が認められるわけではありません。
身体障害者手帳を有する場合、所得税や住民税、相続税といった各種税金に対して軽減措置が適応されることもあります。
電車やバス、福祉タクシーといった交通機関の利用料金についての割引も重要です。また、高速道路などの有料道路についても通行料金の一部軽減措置があります。
その他、NHK放送受信料が軽減されたり、郵便料金についても割引措置があったりと、公共機関や公共サービスに関連する費用に関してメリットを得られることが少なくありません。
特に重度障害が認められる人や自治体が定める条件に該当する人の場合、手当給付を受けられることがあります。また、生活福祉資金の貸し付けを受けられることもあります。
ハローワークや自治体の就労支援サービスを受けやすくなることもポイントです。身体障害者手帳を使って就職活動を行った場合、障害者雇用枠で求職活動をすることができますが、障害者雇用枠での就職についてはメリットとデメリットがあるためしっかりと確認しておきましょう。
自治体ごとに独自で用意している支援制度や助成制度も存在します。
また、民間企業が障害者支援や社会福祉といった観点から、身体障害者手帳を持っている人のために特別なサービスや割引制度などを用意していることもあるでしょう。