このページでは、癌治療の中でも免疫療法の一種としてかつて注目された「マクロファージ活性化療法」について解説しています。
マクロファージ活性化療法とは、人体の免疫機能を担う細胞「マクロファージ」を活用し、癌に対抗することを目指した免疫療法の一種です。
マクロファージは白血球の一種(単球由来)であり、人の体が生まれつき備える自然免疫において重要な役割を果たします。[注1]
体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を捕食・分解することで感染症から身を守ります。類似の機能をもつ細胞として「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」が挙げられます。
マクロファージは異物を捕食した後、サイトカインなどのタンパク質を分泌し、他の免疫細胞を活性化させます。
また、取り込んだ異物の情報を「T細胞」へ伝達することで、獲得免疫の活性化にも寄与します。[注2]
同様の情報伝達を担う細胞には「樹状細胞」があります。
マクロファージは異物の除去(NK細胞の役割)と抗原提示(樹状細胞の役割)の両方を担うことから、非常に多機能な免疫細胞といえます。
かつてはマクロファージが主に外来の病原体に対して働くと考えられていましたが、現在では、癌細胞の断片(死細胞)を取り込み、T細胞に情報を伝達することで抗腫瘍免疫を誘導する機能も知られています。[注2]
T細胞(Tリンパ球)はマクロファージが提示した癌抗原を認識し、特異的に癌細胞を攻撃する働きを持ちます。[注3]
「GcMAF(ジーシーマフ)」は、ビタミンD結合タンパク質(Gcグロブリン)由来の分子で、マクロファージの活性化を促すとされ、一部で癌治療への応用が提案されていました。
日本では2010年代後半、一部の自由診療クリニックでGcMAFを用いた療法が提供されていましたが、科学的根拠は乏しく、2025年5月時点において日本国内外での承認は得られていません。厚生労働省および米国FDAは、GcMAF製品の未承認使用や販売について注意喚起を行っています。
かつて紹介されたGcMAF療法の流れは以下のようなものでした(※実施は推奨されません)。
2025年5月現在、日本国内で医学的に有効性が認められている癌の免疫療法には、「免疫チェックポイント阻害薬」や「CAR-T細胞療法」などがあります。
これらはいずれもT細胞を中心とした治療であり、GcMAFを用いたマクロファージ活性化療法は、科学的根拠が乏しいため承認されておらず、標準治療でも保険適用でもありません。[注3]
マクロファージは免疫を活性化させる一方で、過剰な免疫反応を防ぐための抑制的機能も持ちます。
癌細胞はこの抑制的性質を利用して免疫監視を回避することが知られています。[注4]
癌細胞周囲には「腫瘍随伴マクロファージ(TAM)」が多く存在し、これが免疫抑制環境を形成し、癌細胞の増殖を促す要因となっています。
TAMの機能を制御し、免疫応答を正常化することは癌免疫療法の重要な研究課題の一つです。[注4]
2021年12月、神戸大学大学院の研究グループは、マクロファージに存在する膜タンパク質「SIRPα」「SIRPβ1」に注目し、これらへ作用する抗体を用いることで、癌細胞に対するマクロファージの攻撃性を高めることに成功しました。
この発見は、今後のマクロファージ標的治療の発展に寄与する可能性があり、注目されています。[注5]