骨転移が見られる臓器のうち、肺癌の場合は骨盤や大腿骨、腰椎、胸椎など体の中心部の骨に移るケースがほとんどです。乳癌が転移を起こす時は骨に移動することが最も多いと言われており、胴体部だけでなく、頭蓋骨や手足の骨にも転移します。肝臓癌の場合、胸椎・腰椎などの椎骨や体幹の要である骨盤に転移しやすいそう。転移癌の中には骨芽細胞を刺激して骨を硬くするものがあるため、柔軟性を失って骨折が起こりやすくなります。
転移した部分に痛みやしびれが起こるのが主な症状。骨が非常に弱くなることも分かっています。骨の中のカルシウムが血中に流れ出すことで高カルシウム血症という状態になってしまうのです。すると、少し衝撃を受けただけでも骨折してしまうようになります。
骨に転移しても痛みがすぐに強く出ることはありませんが、早急に対策できない方は十分に注意する必要があるでしょう。脊髄に転移した場合は、筋力の低下や手足にしびれを感じる方も多数。状態が悪化すると麻痺にもつながります。
骨転移が起こると腰や肩、背中あたりに痛みが生じることがあります。転移部分の骨がもろくなり、小さな衝撃を受けるだけで骨折しやすくなるというのも症状の一つです。背骨に転移した場合、大きくなった腫瘍に脊髄が圧迫されて、しびれを感じることもあります。また、しびれだけでなく痛みを感じる方も。骨転移が原因で高カルシウム血症になり、脱水症状につながることもあります。
体幹部分の骨に腫瘍ができると、麻痺やしびれなどが起こります。骨折しやすくなるのも骨転移特有の症状。特に、腰や足の骨に移りやすい肝臓癌からの骨転移の場合、骨折して一気に体力が落ちてしまうような危険性も十分に考えられます。痛みが現れることで骨への転移を知る方も多数。腰椎だと腰痛、上腕骨では腕の痛みのように、どの骨に転移したのかで痛みが現れる場所は異なります。
薬物療法が有効な治療法です。症状が安定してきたところでデノスマブやゾレドロン酸といった骨修飾薬を使用します。骨折や脊髄圧迫といった骨関連事象(SRE)の予防になり、抗がん剤と併用することも可能です。骨修飾薬などを使っても痛みや麻痺が改善しない場合は放射線治療が行われます。痛みの軽減や骨折の予防をしてくれて、1度治療を行っただけで2~3年以上は再発しないのが特徴です。
主な治療法に放射線療法や抗がん剤治療、ホルモン療法があります。放射線治療は痛みの緩和や骨折予防に効果的な治療法。頚部や大腿骨の中央部、大腿骨に転移が見られた時は髄内釘を打ち込む方法や人工骨頭置換術を行い、腰髄や胸髄の場合は人工セメントを流し込むこともあります。抗がん剤やホルモン剤と一緒に「ビスホスホネート製剤」という薬を投与すると、痛みの緩和や骨折の可能性を減らすことも可能です。
骨転移は肺癌や乳癌、肝臓癌などを通して起こります。特に乳癌は骨に転移する場合が最も多いとされる癌。胴体部の骨だけでなく、頭蓋骨や手足の骨にも転移する危険性のある癌。肺癌は、手足の骨にはあまり転移しませんが、体の中心にある骨に転移することがあります。肝臓癌の骨転移は遠隔転移のため頻度は低いものの、椎骨や骨盤といった体幹に位置する部位に転移しやすいという特徴があります
骨転移を治療する手段は一般的に、抗がん剤・放射線・外科手術。骨の痛みが伴う場合は放射線による治療が効果的です。鎮痛薬の効果が得られない患者の7割が放射線治療によって疼痛をやわらげたという報告(※)があります。多発性の転移が疑われる場合は、広範囲のにちらばったがんに正確照射できる「強度変調放射線治療(IMRT)」という機器を導入している病院を探してみましょう。強度変調放射線治療ができる機器には「トリロジー」「トモセラピー」といったものがあります。
対処の難しい転移がんを治療するためには、治療に適した治療機器とそれを使いこなす技術・経験を持った医師を見つけることが重要です。痛みや麻痺を必要以上に長引かせないためにも、信頼できる医師を探しましょう。
骨転移のステージ分類
脳転移や腹膜転移などと同様に骨転移も発見された時点で病期はステージⅣと診断されるのが一般的です。
ステージで異なる治療方針
骨転移した場合の治療方法は、他のがん治療と同様に放射線療法、外科療法、薬物療法の3つが考えられます。
放射線療法
外照射
従来から最も一般的に行われる治療方法の1つです。痛みがある部位に放射線治療を行うと7割の患者さんで痛みの緩和が期待できます。
副作用は治療をする部位によって出現します。治療の部位ごとに異なりますが、一般には強い放射線治療を行うことは少ないので、重大な副作用が起きるケースはほとんどありません。これまでは10回(合計30グレイ)の治療を行うのが一般的でした。しかし、最近では病状に応じて5回(合計20グレイ)や1回(8グレイ)で治療される場面も多くなっています。
定位照射
放射線を病変がある部位に限局し、その分強い治療を行うことでより高い効果を得ることを期待するというのが定位照射の考え方です。従来までは、肺や脳の腫瘍によく用いられてきましたが、最近では骨にも定位照射を行う試みが行われています。転移の病変が1個だけの時や、普通は治療が難しい2回目の照射などに用いていられることの多い照射法です。
α線による治療
前立腺がんの骨転移を有する患者を対象にした薬剤による治療です。毎月1回、6か月間にわたってRa223(ラジウム223)という放射性物質を注射するのが一般的。日本では最近、承認された薬剤で、痛みをよくするだけでなく、その後の治療成績も改善したという臨床データ(※)があり、今後使用されることが多くなる可能性がある治療として注目されています。
【PDF】※参照元:日本アイソトープ協会/塩化ラジウム(Ra-223)注射液を用いる内用療法の適正使用マニュアル
保険適応上は、ホルモン療法が効かなくなって、骨転移が問題になっている方が治療の適応です。
β線による治療
Sr89(ストロンチウム89)という注射薬を1回注射します。注射した薬剤がカルシウムと同じような動態を示すので、骨に集積し、そこで放射線を放出することで症状がよくなるというメカニズムです。副作用として白血球、血小板、赤血球が減少する骨髄抑制などが考えられます。
外科療法
がんの治療として、骨に転移した病巣を取る手術を行うことはほとんどありません。しかし、病巣が限局していて取りきれる範囲である場合など、特定の癌種や状況である場合は手術を行うこともあります。
それ以上に頻度が高いものにがんの転移による骨折(病的骨折)と脊髄圧迫に対する手術があります。がんの転移が原因の骨折に対して、生活の質を保つための手術を行う場合も。脊髄の麻痺が切迫している場合には除圧術という、神経の圧迫を解除する手術を行うこともあるようです。
薬物療法
ゾレドロン酸、デノスマブ
骨を強くする薬として歯の骨への影響が出ることがあるため、使用前に治療が必要な口腔内の異常がないか確認する必要があります。またデノスマブを使用する際にはカルシウムが下がりすぎないよう、補充するなどの注意が必要です。
鎮痛薬
痛みを伴うことが多いため、オピオイド、消炎鎮痛薬、鎮痛補助薬といった適切な鎮痛薬を積極的に使用します。
がんに対する薬物治療
一部の病態では、がんに対する薬物治療がよく効果を示すので放射線治療よりも薬物による全身療法が優先されることがあります。特に乳がんや、前立腺がんではホルモン療法や、化学療法の効果が期待される場合はそちらが優先されることも珍しくありません。薬剤が効きやすい遺伝子変異をもつ肺がん、リンパ腫などでも、骨転移による症状が少なければ、まずそれぞれの腫瘍に対する治療を行うことがあります。
予防やスクリーニングに関する情報
骨転移のリスクを少しでも下げるためには、骨転移の原因になる癌の発生を抑えられるように普段から予防に努めたり、早期発見・早期治療を実現できるようにスクリーニング検査に取り組んみが大切です。
予防について
癌の骨転移リスクを下げるために特化した予防法については見つけられませんでした。しかし癌の発生原因には様々なものが考えられるものの、日本人の癌の原因として生活習慣と感染症が大きく関与しています。そこで、そもそも骨転移の原因である肺癌や乳癌、肝臓癌といった全身の癌について、国立研究開発法人国立がん研究センターの研究を参考にしながら日常で取り組める予防法をご紹介します。
生活習慣の改善による予防
国立がん研究センターの癌予防研究によれば、日本人の癌の発生原因として「生活習慣」による影響と、「感染症」による影響が大きな要因のひとつだと知られています。
中でも生活習慣は日本人男性の癌の発生原因として第1位、さらに女性でも第2位となっているなど、日頃のライフスタイルや生活様式が健康に大きく関係していることは無視できません。
国立がん研究センターによれば、癌予防の観点から生活習慣として改善すべきポイントとして、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 禁煙
- 節酒・断酒・禁酒
- 食生活の改善(栄養バランス・塩分量)
- 身体活動(適度な運動習慣)
- 適正体重の維持(メタボリックシンドロームや肥満の解消)
例えば骨転移の原発巣として肺癌が挙げられますが、禁煙は肺癌のリスクを上げる要因として知られており、言い換えれば禁煙によって肺癌のリスクを下げることは必然的に骨転移のリスクを抑制することにもつながるでしょう。また飲酒による肝臓への影響は肝臓癌のリスクに関係しており、これもまた骨転移との関連性が懸念されるポイントです。
その他にも日常の暮らしへ適度な運動習慣を取り入れたり、塩分量の多い食事メニューを見直して栄養バランスの整った食生活をしたりすることで、癌を含めて様々な健康課題へアプローチすることも可能です。またメタボリックシンドロームや肥満も癌リスクに影響する要因であり、総合的な生活習慣改善の結果として適正体重・体格の維持を目指すことも重要です。
参照元:がん情報サービス|科学的根拠に基づくがん予防
感染回避による予防
細菌やウイルスによる感染症が一部の癌のリスクを上げることも知られており、例えば骨転移の原因を考える時に注目されやすい肝臓の癌にも感染症の影響が関与しています。
感染症と発生リスクが関係している癌としては、例えば以下のようなものがあるでしょう。
- B型・C型肝炎ウイルス:肝細胞癌
- ヒトパピローマウイルス(HPV):子宮頸癌
- ヘリコバクターピロリ菌:胃癌
- ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型:成人T細胞白血病リンパ腫
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染すると、肝炎リスクが高まって結果的に肝細胞癌などの発生率まで増大することが問題です。骨転移は肝臓からの転移でも多く発生すると考えられており、肝炎ウイルスへの感染は間接的に骨転移の発生要因になり得るといえます。そのため適切な感染症対策に努めることは、骨転移の予防や回避を目指す上でも欠かせないポイントです。
参照元:がん情報サービス|科学的根拠に基づくがん予防
スクリーニングについて
スクリーニングとはすでに判明している症状や原因について詳しく調べるための検査でなく、まだ発見されていない病気やリスクについて確かめるための検査です。骨転移はいつ発生するか分からない問題であり、スクリーニング検査を定期的かつ適切に行うことで、骨転移の早期発見を叶えられるチャンスにもつながります。
骨転移のリスクを懸念して行われるスクリーニング検査としては、CT検査やX線検査、MRI検査といった一般的な癌スクリーニングに用いられる画像診断に加えて、癌の骨転移を検出するための「骨シンチグラフィ」などがあります。
骨シンチグラフィ
骨シンチグラフィは癌が骨へ転移しているかどうかを検出するための検査です。骨転移のスクリーニング検査として特に重要となる検査といえるでしょう。
骨シンチグラフィで調べるのは骨の造成です。骨がどのように作られているのか、その状態やバランスを調べる検査となります。人の骨は同じ形を維持しつつも常に古い細胞が新しい細胞へ入れ替わっており、破壊と再生を繰り返していると考えられます。そのため、骨の形成に関与する栄養や身体機能の障害、骨転移のような病気が発生すると、この骨造成のバランスが崩れて骨が過剰に作られるといった現象につながります。
骨シンチグラフィでは、放射性物質を含んだ専用の薬剤を患者に投与して、およそ三時間程度が経過した後に体内の骨の状態を撮影します。すると、癌の骨転移を起こしている部分の骨に薬剤が過剰に集中することで画像にも色濃く表れ、骨転移病巣が発見されるという仕組みです。
参照元:国立国際医療研究センター病院|骨シンチグラフィー
X線検査
X線検査は一般的な画像診断の1つであり、放射線(X線)によって患者の体内を撮影する手段です。X線検査は通常の骨折や骨の異常などを調べる時にも利用される画像診断であり、骨の異常をチェックして骨転移などのリスクを検証するためにも役立ちます。
ただし微少な骨転移などを調べるためにはCT検査やMRI検査といったさらに高度な画像診断が必要です。
CT検査
CT検査もまたX線を使った画像診断の1種ですが、通常のX線検査と異なるポイントは、CT検査は患者の体を全方向から撮影する検査です。患者の体内を立体的に撮影した断面図を取得することで一層に精密な画像診断を行えます。
CT検査は骨転移のスクリーニング検査として重要なものの1つですが、その一方、放射線による被曝リスクが発生するため受けられない患者がいることも考えなければなりません。
MRI検査
MRI検査も画像診断として骨転移のスクリーニングにしばしば使われるシステムです。ただしMRI検査は放射線を使用するのでなく、磁気を使って画像を取得する点が特徴です。
MRI検査では電磁石によって強力な磁気を発生させて、それを患者の体内へと照射します。すると患者の体内にある水素原子から微少な電磁波が発生するため、それを電気信号へ変換して画像データにする仕組みです。
MRI検査は放射線による被曝リスクを心配しなくて良いため、X線検査やCT検査を受けられない人でも骨転移のスクリーニング検査を受けられる可能性があります。
患者のQOL(生活の質)に関する情報
癌治療や治療後の生活を考える際に、「QOL(クオリティ・オブ・ライフ:Quality of life)」を無視することはできません。QOLは人生の質や生活の質として日本語訳されます。単に病気を治療するだけでなく、多角的な視点で苦痛や不安を軽減し、精神的にも肉体的にもストレスを緩和して、社会活動を含めた総合的な幸せや満足度を高めていく生活の実現を目指した考え方です。
特に骨転移は骨の状態が悪化することで骨折しやすくなったり、体を支える骨の強度が低下して転倒しやすくなったりと、日常生活にも支障がでてしまいます。また首の骨や背骨の異常でマヒなど神経障害が起こる可能性もゼロではありません。少しでもQOLを高められるように、日頃から色々と注意や工夫が大切です。
ここでは静岡県立静岡がんセンターが発行しているパンフレットを参考にしながら、癌の骨転移に関して日常生活で注意すべきポイントや具体的な行動の工夫について紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
参照元:静岡県立静岡がんセンター「学びの広場シリーズ からだ編14 がんの骨への転移と日常生活」
転倒による骨折を防ぐ注意点や工夫
歩行の対策
骨転移を起こしている骨は強度が低下したり、硬くなりすぎて柔軟性を失うことで骨折しやすくなっていたりします。そのため健常者よりも転倒時の骨折リスクが高くなっており、日常的に歩く際も転倒しないよう配慮して生活することが欠かせません。
例えば、外へ出かける時には歩きやすい靴を選択し、足下をきちんと確認して段差でつまずかないように注意してください。また歩く際には太ももをしっかりと持ち上げて、かかとから接地するよう意識することも大切です。なおサンダルやスリッパといった脱げやすい履き物は避けましょう。
屋内の対策
家や建物の中で歩く際にも段差でつまずかないように注意すると共に、カーペットや絨毯などで滑らないように気をつけます。また日頃から整理整頓や掃除を行い、足下に転倒へつながりそうなものが落ちていない状態を保ちましょう。
お風呂場など滑りやすそうな場所には滑り止めマットを敷いたり、逆にカーペットなどは取り除いたりしてリスクの軽減が肝要です。
足・骨盤に転移がある際の注意点や工夫
歩行に関する工夫
すでに足の骨や骨盤への癌転移が生じている場合、歩行時の負荷や衝撃によって骨折するリスクもあるため、自身の体質や状態、環境などに合わせて歩行をサポートする補助具などを利用することも効果的です。
補助具として考えられるものには以下のようなものがあります。
- 杖(松葉杖、T字杖、ロフストランド杖)
- 歩行器
- シルバーカー
- 車椅子(自走式、介助式)
実際にどの補助具が適しているのかは人によって異なるため、主治医などの医療従事者や介助してくれる家族とも相談して選ぶようにしましょう。
ベッド上で移動する際の注意点
足や骨盤の骨転移を治療した後、敷き布団でなくベッドを使って生活するようにします。可能であれば医療機関で利用されているような介護ベッド(特殊寝台)を自宅にも導入できると良いでしょう。
ベッドに上り下りする際には、骨転移のある足や治療した足を両手で支えるようにしてゆっくりとベッドの上に移動したり、手でベッドの柵をつかんで体を安定させた状態で足を接地したりすることが肝要です。
立ったり座ったりする際の注意点
立ったり座ったりする際には急に動作しないよう、ゆっくりとバランスを意識して立ち上がる、もしくは腰を下ろすようにします。またイスの高さを高めにしておくことで、移動しやすい状態にすることもポイントです。
中腰の姿勢やしゃがむといった行動は足腰に負担をかけるため、床に落ちたものを拾う時はマジックハンドのような器具を利用したり、靴を履く時には長めの靴ベラを使用したりといった方法も有効です。
家事をする際の注意点
掃除や洗濯、料理といった家事をする際にも、体の向きや力の方向を意識して、過度な負担や負荷がかからないよう気をつけます。重たいものを持ち上げて移動するとバランスを崩しやすくなるため、小分けにして持ち運んだり、足下の段差などでつまずかないよう注意しましょう。
腕・肘の骨に転移がある際の注意点や工夫
重いドアを開ける際の注意点
腕や肘といった部位に骨転移があると、ドアを開けたり重量物を持ち上げたりする際に負担がかかって骨折しやすくなります。そのため開閉に力がいるドアについては腕だけで操作しないように注意し、自宅内であれば開け放しにできる扉は開けたままにしておくといった配慮も効果的です。またドアが急に閉まってきて反射的に手で押さえるといったことも避けましょう。
トイレでの注意点
体をひねって腕を背後へ回す「ひねり動作」や、傾いた体を腕で支えることは、思いがけず腕を骨折するリスクを増大させます。そのため排便時にお尻をトイレットペーパーで拭く際には骨転移のない方の腕を使ったり、どうしても骨転移のある腕を使う際には体をひねらずに前から拭いたりといった配慮をします。また温水洗浄便座を使用して拭く回数を減らすこともポイントです。
ベッドから起きる・横になる際の注意点
下半身に骨転移があった場合は腕や手で足を支えるようにしますが、腕や肘といった部位に骨転移のある場合、少しでも腕に負担をかけないよう移動しなければなりません。またベッドに横たわる時に手を突いて体を支えないようにしたり、ベッドから立ち上がる時に柵を手でつかまないように注意したりします。なお、寝返りなどで体をひねって骨転移のある腕が体の下敷きにならないように気をつけます。
着替えをする際の注意点
少しでも腕にかかる負担を軽減するため、タイトな衣類やTシャツなどを避けて、前開きのものを着用するようにしましょう。また着る際には骨転移のある腕を先に袖へ通して、脱ぐ時は骨転移のない腕から先に抜くといった順番も大切です。
その他、伸縮性のある生地の服や、ボタンの少ないデザインを選ぶといったこともチェックポイントです。一人で着替えることが難しければ恥ずかしがらずに誰かへ手伝ってもらいましょう。
背骨・首の骨に転移がある場合の注意点や工夫
日常生活の中でも安静の状態を意識する
背骨や首の骨に骨転移が生じると、マヒなどの神経障害が発生してQOLが著しく低下します。そのため日常生活の中でも首や背中へ負担をかけないよう安静にして、必要であればコルセットやカラーといった器具を装着して患部への負担を軽減しましょう。
家事などは頭や体をあまり傾けなくて済むように、腰の高さで作業したり、重たいものを持ち上げて腰に負担がかからないような注意も必要です。
就寝時の姿勢と寝返り・起き上がりをする際の注意点
寝返りの際には上半身と下半身をセットで動かすように意識し、ひねり動作をしないように気をつけてください。ベッドから起き上がる際にも、ゆっくりと全身を横に向けて、先に足をベッドから垂らし、ベッドの端へ腰掛けるように身を起こしてからベッドを降ります。可能であればリクライニング機能を備えた介護ベッドなどを利用する方が無難です。
患者の声・体験談
骨の癌を経験した人や、骨の癌の治療を乗り越えた人など、ここでは骨の癌の患者さんによる体験談を紹介します。それぞれの患者さんがどのような思いを抱えていたのか、癌との向き合い方などと合わせてチェックしてみましょう。
癌を乗り越えて看護師になった
念願だった看護師の国家試験の合格発表があった直後、左の大腿骨にがんが見つかりました。その半年前から足の痛みはあったのですが、レントゲンには病変がうつらず、痛み止めを飲んでやり過ごしていました。途上国で働く国際看護に興味があったので短大卒業後、4年制大学の看護学部に編入し、さらに勉強する予定でした。(中略)今は、手術を受けたがん専門の病院で自分の主治医である先生について手術室勤務の看護師として働いています。たまに手術を不安がっている人がいると、「麻酔ってこうでした」「痛みはこうでした」と私は患者としての経験を話しています。知識ではなく、経験の方を知りたい人の方が多いんですよ、本当は。(後略)
引用元:アフラック|がん保険がよくわかるサイト
命か足の選択をしなくちゃいけなかった
高校2年生のときに、右膝に激しい痛みを感じて整形外科を受診しました。すぐに紹介されたがん専門病院で骨肉腫と診断され、病巣が大事な血管や神経を巻き込んでいるため切断せざるを得ないと、医師に言われました。
引用元:ONCOLOGY
リスクもあったけれど温存手術を選択
17歳の時から左膝に少し痛みがあり続いていましたが、若さゆえ病院には行かずに過ごしていました。初めて痛みを感じてから3ヵ月後位には痛みで歩きにくさを感じ、走る事も上手く出来ない状態に。それでも病院には行きませんでした。健康と言う言葉に全く関心が無かったからです。(中略)放置していた分、腫瘍はかなり大きくなっていて膝の9割が腫瘍でした。(中略)再発のリスクも説明を受けました。再発は5年間は要観察で退院後も2ヵ月に1度は定期検診でレントゲンと診察をうけていました。この手術から15年が経ちました。今は再発の恐れは無いとの事で、定期検診は終わっており、骨肉種で病院に掛かる事はありません。(後略)
引用元:Caloo
妊孕性について考える時に体験談が支えになった
妊孕性の問題は、骨肉腫と診断された時よりもつらかったです。22歳で、将来、子どもを持つことができないかもしれないと知ったんです。お金の面や治療方法はパンフレットに載っていましたが、私が知りたかったのは、実際に妊孕性について考えた方がどう決断しその後をどのように生きているのかということでした。今、28歳になって、同級生が結婚したり、子どもができたりすると、やはり妊孕性について思い出すことがあって、あの時、違う決断をしていたらどうなってたんだろうと考えますね。でもあの時決断をしたのは自分ですし、いつかこの選択をして良かったと思える日が来るのかなと思っています。
引用元:AYA Life
骨の癌に対する研究と論文
骨肉腫の肺転移機構と転移阻害薬候補について
がん研究会がん化学療法センター基礎研究部の高木聡研究員や片山量平部長などの研究グループによるマウス肺転移モデルを使った研究によって、骨肉腫の癌細胞が肺転移を起こす際に血小板を利用していることが解明されました。
骨の癌として知られる骨肉腫の細胞は患者の血流中で血小板を接触し、骨肉腫細胞と接触した血小板は活性化されて活性化血小板となります。そして活性化血小板から産生・放出されたリゾホスファチジン酸(LPA)によって、浸潤能が亢進されることが明らかになりました。
マウス肺転移モデルの骨肉腫細胞ではLPA受容体LPAR1の発現率が高く、血小板依存的な骨肉腫が浸潤していく働きに必須的な関与をしていることが明らかになっています。同時に、転移阻害薬としてLPAR1アンタゴニストを投与することで、骨肉腫による肺転移が抑制できる可能性も示唆されました。
※参照元:国立研究開発法人日本医療研究開発機構|骨肉腫の肺転移機構を解明し、転移阻害薬候補を発見(https://www.amed.go.jp/news/release_20210727.html)
細胞外小胞が骨肉腫の進展に関与
金沢大学ナノ生命科学研究所の華山力成教授など複数の研究者らによるグループによって、骨肉腫の浸潤や転移に細胞外小胞が関与しているという進展機構の研究結果が報告されました。
同研究グループは腫瘍細胞によって分泌される細胞外小胞が、癌周辺に存在しているマクロファージへ「miRNA146a-5p」という分子を送達して破骨細胞への分化をすることにより、腫瘍細胞の浸潤や転移が起こりやすくなることを発見しています。
また骨肉腫モデルマウスを用いた実験で、細胞外小胞の産生抑制を試みた結果、骨肉腫の転移が抑制されることも発見し、将来的な骨肉腫やその転移癌に対する治療の可能性を考察しています。
※参照元:金沢大学|細胞外小胞による骨肉腫の進展機構を解明(https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/92512/)
人工知能(AI)の技術を応用した骨肉腫診療
九州大学病院の整形外科や形態機能病理、システム情報科学研究院などが協同した研究グループによって、骨肉腫の予後診療に人工知能(AI)のアルゴリズムを用いた手法が考案されました。
骨肉腫は珍しい骨の癌であり、予後に関しては病理医による病理組織の確認と予測が必要になっていますが、評価の再現性や正確性といった課題が残っています。そこで同研究グループはAIのディープラーニングを活用して、抗がん剤治療後の骨肉腫患者から採取した細胞の情報収集や病理組織の評価を行うことにより、腫瘍細胞密度を産出して生命予後の予測の正確性が高められることを明らかにしました。これにより、今後は骨肉腫診療へAIを活用することにより、診療の適切性が向上すると期待されています。
※参照元:九州大学|⾻⾁腫診療へ⼈⼯知能を応⽤(https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1041/)
転移性骨肉腫患者に対するスチバーガ単剤療法
2019年4月23日の医学誌「Journal of Clinical Oncology」において、転移性骨肉腫患者(治療歴あり)に対するスチバーガ単剤療法の有効性や安全性に関する第2相のSARC024試験結果が発表されました。
「スチバーガ」はマルチキナーゼ阻害薬「レゴラフェニブ」の商品名であり、すでに別のマルチキナーゼ阻害薬として「ソラフェニブ(商品名ネクサバール)」の第2相試験結果が示されていたことから、スチバーガ単剤療法においても有用性の確認が行われました。
結論として、研究グループのLara E. Davis氏らはスチバーガ単剤療法によって、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の結果が改善されたことを報告しています。
※参照元:Randomized Double-Blind Phase II Study of Regorafenib in Patients With Metastatic Osteosarcoma(Journal of Clinical Oncology, Published online April 23, 2019.)(https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.18.02374?journalCode=jco)
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