骨への転移とは、肺がん・乳がん・前立腺がん・肝臓がんなど、別の臓器にできたがんが骨へ広がった状態を指します。骨に転移すると、痛み、しびれ、骨折、歩行障害、脊髄圧迫による麻痺など、生活の質に大きく関わる症状が起こることがあります。
一方で、骨転移が見つかったからといって、すぐにすべての治療ができなくなるわけではありません。薬物療法、放射線治療、骨修飾薬、手術、リハビリテーション、緩和ケアなどを組み合わせることで、痛みを抑えたり、骨折や麻痺を予防したり、日常生活を保ちながら治療を続けられる場合があります。
このページでは、骨転移で起こりやすい症状、治療法、治療を相談する医療機関を選ぶ際の考え方を分かりやすく解説します。
骨転移の治療では、がんの種類や転移した部位、痛み・麻痺・骨折リスクの有無によって、相談すべき診療科や治療法が異なります。まずは自分の状況に近い治療選択肢を知り、対応できる医療機関を確認することが大切です。
骨転移は、原発巣と呼ばれる最初に発生したがんの細胞が、血液やリンパの流れに乗って骨に移動し、そこで増殖することで起こります。骨に発生したがんであっても、肺がんが骨に転移した場合は「骨のがん」ではなく「肺がんの骨転移」として扱われます。
骨は体を支えるだけでなく、血液をつくる骨髄や、カルシウムを蓄える役割も持っています。そのため、骨転移が起こると、痛みや骨折だけでなく、高カルシウム血症、貧血、神経症状などにつながることもあります。
骨転移はさまざまながんで起こりますが、特に多いとされるのは以下のがんです。
肺がんでは背骨、肋骨、骨盤、大腿骨など体の中心部に転移することがあります。乳がんでは、背骨、骨盤、肋骨、大腿骨、頭蓋骨などに転移することがあり、前立腺がんでは骨転移を起こしやすいことが知られています。
どの骨に転移しているか、痛みや神経症状があるか、原発がんの治療がどの程度効いているかによって、治療方針は大きく変わります。
骨転移は、初期には自覚症状が少ないこともあります。症状が出る場合は、痛み、しびれ、骨折、動きにくさなどが代表的です。
骨転移で最も多い症状のひとつが痛みです。最初は動いたときだけ痛むことがありますが、進行すると安静時や夜間にも痛みが出ることがあります。
腰、背中、肩、肋骨、股関節、太ももなど、転移した骨の場所によって痛みの出る部位は異なります。痛みが長引く場合や、これまでと違う強い痛みが出た場合は、早めに主治医へ相談することが大切です。
背骨に骨転移が起こり、腫瘍や骨の変形によって脊髄や神経が圧迫されると、手足のしびれ、筋力低下、歩きにくさ、排尿・排便の異常などが起こることがあります。
特に、急に足に力が入りにくくなった、歩けなくなった、尿や便が出にくい・漏れるといった症状がある場合は、緊急性が高い可能性があります。すぐに医療機関へ連絡してください。
骨転移によって骨がもろくなると、転倒や強い衝撃がなくても骨折することがあります。これを病的骨折といいます。
大腿骨や骨盤、背骨など、体重を支える骨に転移がある場合は、骨折によって歩行や日常生活に大きな影響が出る可能性があります。骨折リスクが高いと判断された場合は、放射線治療、手術、装具、歩行補助具などを検討します。
骨が壊れることで血液中のカルシウム濃度が高くなると、吐き気、食欲不振、強い口の渇き、だるさ、意識がぼんやりするなどの症状が出ることがあります。
高カルシウム血症は放置すると危険な状態になることがあるため、体調の変化がある場合は早めに医師へ相談しましょう。
骨転移では、早めに対応することで麻痺や骨折を防げる可能性があります。以下のような症状がある場合は、我慢せず主治医や医療機関へ連絡してください。
骨転移が疑われる場合は、画像検査や血液検査を組み合わせて確認します。症状のある部位だけでなく、全身の状態を調べることもあります。
X線検査は、骨折や骨の変化を調べる基本的な検査です。ただし、初期の骨転移や小さな病変は分かりにくいことがあるため、必要に応じてCTやMRIなどを組み合わせます。
CT検査では、骨の破壊や変形、周囲の臓器との関係を詳しく確認できます。骨折リスクの評価や、手術・放射線治療の計画にも役立ちます。
MRI検査は、脊髄や神経の圧迫、骨髄内の病変を調べる際に有用です。背骨への転移や麻痺のリスクが疑われる場合に行われることがあります。
骨シンチグラフィは、骨の代謝が活発になっている部位を全身的に調べる検査です。複数の骨転移がないかを確認する目的で行われます。
PET-CT検査は、がんの活動性や全身の転移状況を調べるために用いられることがあります。骨転移だけでなく、他の臓器への転移の有無を確認する際にも役立ちます。
骨転移の治療では、原発がんそのものを抑える治療と、骨転移による痛み・骨折・麻痺を防ぐ治療を組み合わせます。治療の目的は、がんを抑えることだけでなく、痛みを軽くし、動ける状態を保ち、生活の質を守ることにもあります。
肺がん、乳がん、前立腺がんなど、原発がんに対する薬物療法が効く場合は、まず全身治療が重要になります。抗がん剤、分子標的薬、ホルモン療法、免疫チェックポイント阻害薬など、がんの種類や遺伝子変異、全身状態に応じて治療が検討されます。
骨転移があっても、原発がんに対する薬物療法が効くことで、骨の病変や痛みが改善する場合があります。
骨転移による骨折や脊髄圧迫などの骨関連事象を抑える目的で、ゾレドロン酸やデノスマブなどの骨修飾薬が使われることがあります。
骨修飾薬は骨折予防に役立つ一方で、顎骨壊死や低カルシウム血症などの副作用に注意が必要です。治療開始前には歯科受診や口腔内の管理を行い、治療中も口の中の異常がないか確認することが大切です。
骨転移による痛みの緩和や、骨折・麻痺の予防を目的として放射線治療が行われることがあります。痛みのある部位に放射線を照射することで、疼痛緩和が期待できます。
一般的な外照射のほか、病変の位置や数、過去の治療歴によっては、定位放射線治療や強度変調放射線治療(IMRT)などが検討されることもあります。多発している病変、脊椎や骨盤など重要な部位の病変、過去に照射歴がある部位では、対応できる治療設備や医師の経験が治療方針に関わることがあります。
骨転移そのものを根治目的で切除する手術は限られますが、骨折を予防するため、または骨折後に歩行や生活機能を保つために手術が行われることがあります。
大腿骨など体重を支える骨では、髄内釘や人工骨頭置換術などが検討される場合があります。脊髄圧迫による麻痺の危険がある場合には、神経の圧迫を減らす手術が検討されることもあります。
骨転移の痛みには、非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、オピオイド、鎮痛補助薬などを組み合わせて対応します。痛みを我慢し続けると、睡眠、食事、歩行、気持ちの安定にも影響します。
緩和ケアは終末期だけのものではありません。がん治療中の早い段階から、痛みや不安、生活上の困りごとを和らげるために利用できます。
骨転移は、骨に起こる変化によって大きく3つに分けられます。分類によって骨折しやすさや痛みの出方が異なるため、治療方針を考えるうえで重要です。
溶骨型転移は、骨が壊されてもろくなるタイプです。骨折しやすくなるため、痛みや歩行障害に注意が必要です。腎がん、肺がん、乳がんなどで見られることがあります。
造骨型転移は、骨が過剰につくられるように見えるタイプです。ただし、正常な骨とは異なるため、痛みや骨の異常が起こることがあります。前立腺がんの骨転移で比較的多いとされます。
溶骨型と造骨型の両方の特徴を持つタイプです。肺がん、乳がん、胃がん、大腸がんなど、さまざまながんで見られることがあります。
ここでは、骨転移の診断や治療を経験した方の体験談をテーマ別に紹介します。記載されている治療法や薬剤名は体験者が治療を受けた時点のものです。最新の医療情報については、医師にご相談ください。
乳がんで右乳房全摘から年数が経過していましたが再発しました。全身に骨転移もありました。真面目に通院して、次は2年後の通院で良いといわれていました。(中略)5年前に長男と2世帯住宅を建て、お嫁さんと小学生の孫に助けられています。小学2年生の孫には元気ももらっています。
引用元:アストラゼネカ株式会社|がんになっても
https://www.az-oncology.jp/taiken/taiken_detail.asp?id=366
(前略)手術してから8か月後に骨に転移が見つかったんです。骨に転移があったので、そこで抗がん剤をやりましょうということで。(中略)早期発見っていうか、早めに見つかったということが、良かったんですね、だから検診は行った方がいいし、検査を受けて下さいっていう用紙が来た時には、行った方がいいですね。何でもないよ、って言われたとしても、行った方がいいと思います。
引用元:青森県がん情報サービス
https://gan-info.pref.aomori.lg.jp/public/index.php/ct04/a43/2793-a43-case11-7.html
骨転移がある場合、骨折や転倒を防ぎながら、できる範囲で生活機能を保つことが大切です。無理に安静にしすぎると筋力や体力が落ちることもあるため、主治医やリハビリ担当者と相談しながら、安全に動ける範囲を確認しましょう。
大腿骨、骨盤、背骨に転移がある場合は、重いものを持つ、急に立ち上がる、体をひねる、中腰になるといった動作に注意が必要です。必要に応じて杖、歩行器、車椅子、コルセットなどを使いましょう。
痛みは、骨折や神経圧迫のサインである場合もあります。「がんだから仕方ない」と我慢せず、痛みの場所、強さ、出るタイミング、痛み止めの効き方を医師に伝えましょう。
骨転移の治療では、がんの種類だけでなく、転移した骨の場所、病変の数、痛みの強さ、麻痺や骨折のリスク、これまで受けた治療、全身状態を総合的に判断する必要があります。
そのため、医療機関を探す際は「有名な病院かどうか」だけでなく、自分の状態に合う治療を相談できるかを確認することが大切です。
骨転移の治療では、原発がんへの治療、痛みの緩和、骨折や麻痺の予防、生活の質の維持など、複数の目的を踏まえて医療機関を選ぶことが大切です。今の治療方針に不安がある場合や、ほかの治療選択肢も知りたい場合は、転移癌治療に対応する医師がいる医療機関を確認してみましょう。
骨転移が見つかったとき、「今の治療を続けるべきか」「放射線治療はできるのか」「手術は必要なのか」「痛みをもっと抑えられないか」と悩む方は少なくありません。
そのようなときは、セカンドオピニオンを活用する方法があります。セカンドオピニオンは主治医を否定するためのものではなく、別の医師の意見を聞き、納得して治療を選ぶための仕組みです。
相談時には、診断名、原発がんの種類、これまでの治療歴、画像検査の結果、現在の症状、今困っていることを整理しておくと、より具体的な意見を聞きやすくなります。
がんの種類や状態によっては、がん遺伝子パネル検査などを通じて、治療薬の候補や臨床試験の可能性を検討する場合があります。特に、標準治療後の選択肢を探す場面では、がんゲノム医療について主治医へ相談することもあります。
ただし、遺伝子検査を受ければ必ず使える薬が見つかるわけではありません。また、保険診療で受けられる検査と自由診療の検査があり、対象や費用、結果の活用方法は異なります。検査を検討する際は、主治医やがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院などで相談しましょう。
骨転移は、痛みや骨折、麻痺への不安が大きく、患者本人だけでなく家族にとっても精神的な負担が大きい状態です。しかし、痛みを抑える治療、骨折を防ぐ治療、歩行や生活動作を支えるリハビリ、心のつらさを支える緩和ケアなど、できることは複数あります。
大切なのは、痛みやしびれを我慢しないこと、治療の選択肢を一人で決め込まないこと、そして自分の状態に合う医療機関や医師に相談することです。
骨転移の治療は、がんの種類、転移の範囲、症状、体力、生活の希望によって変わります。今の治療に不安がある場合や、痛み・麻痺・骨折予防について詳しく相談したい場合は、主治医に加えて、放射線治療や骨転移診療に対応する医療機関への相談も検討してみましょう。