いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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緩和ケア

癌になったとき、考えなければならないのは身体や治療のことだけではありません。仕事のことや将来の不安など、心のつらさも経験せざるを得ないでしょう。ここでは緩和ケアについて詳しくお伝えしきます。

緩和ケアの定義とは

癌が進行すると、痛みや倦怠感など身体にさまざまな症状が現れます。そして落ち込みや悲しみといった精神的な苦痛に始まり、迫りくる死への恐怖、自分の人生に対する問いなど、心の問題が起こってきます。

緩和ケアとは、そのような癌患者の心身の苦痛を和らげ、本人にとっても家族にとっても、その人らしい生活を送れるようにするための医療です。世界保健機関(WHO)は、2018年に緩和ケアの定義を以下のように改訂しました。
生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者とその家族の生活の質(QOL)を、痛みやその他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな苦痛を予防し、緩和することによって向上させるアプローチです。
緩和ケアは、疾患の早期から、治療の意図にかかわらず適用されるべきであり、これらの苦痛に対処するための評価と治療を含みます。
以前の定義にあった以下の項目も、現在の緩和ケアの考え方に含まれています。

緩和ケアと聞くと、末期癌のイメージを思い浮かべる人も多いかもしれません。ですが、WHOの最新の定義にもあるように、緩和ケアは必ずしも進行癌に対して行なわれるものではありません。癌と診断された時点から心は動揺し、すでに痛みや息苦しさといった症状が現れていることもあるでしょう。そのような動揺や症状などのつらさに対して、いつでも緩和ケアを受けることができます。

緩和ケアは、必ずしも進行癌に対して行なわれるものではありません。癌と診断された時点で心は動揺し、すでに痛みや息苦しさといった症状が現れていることもあるでしょう。そのような動揺や症状などのつらさに対して、いつでも緩和ケアを受けることができるのです。

※参照元:日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳(https://www.jspm.ne.jp/information/WHO/index.html)

緩和ケアのはじまり

日本における緩和ケアのはじまりは、数十年前にさかのぼります。

1981年に静岡県浜松市の聖隷三方原病院に国内初となる独立型ホスピスが誕生しましたが、母体となったのは1930年にクリスチャンによって建てられた小さな病院だったそうです。その後、何度かの移転や増改築によって、同院の前身となる附属病院が設立されました。

そして1973年、精神科医であり、後のホスピス財団理事長となる柏木哲夫先生によって、大阪市の淀川キリスト教病院に末期癌患者のケアを行なう専門チームが結成されました。

末期癌患者の精神的苦痛や社会的・経済的苦痛などの複雑な苦しみに医師だけで対処するのは難しいと考え、米国の「OCDP(死にゆく患者への組織的ケア)」を参考にしたことがチーム発足のきっかけでした。さらに、一般病棟でのケアに限界を感じた柏木先生は、1979年にホスピス設立準備委員会を立ち上げ、1984年には国内初の病棟型ホスピス(一般病院の中にあるホスピス)を開設しました。

そして1990年、日本の医療制度に緩和ケア・ホスピスが組み込まれ、広く緩和ケアが認知されるようになったのです。

緩和ケアとホスピスの違い

緩和ケアに関しては、似たような言葉が多くあり、一般の方々にはわかりにくいと思います。ホスピスやターミナルケアという言葉も使われてきましたが、これらを緩和ケアと混同している向きもあります。前項のとおり、歴史的に同じような意味で語られてきた経緯もありますので、無理はありません。

まず、緩和ケアは癌の終末期に行なわれるものと誤解されることが多いのですが、癌の進行度には関係ありません。また、専門の病棟に入院して行なわれるだけではなく、すべての医療スタッフによって一般病棟や通院、訪問診療でも緩和ケアは行なわれます。心身のつらさを和らげるという意味では、対象となる病気は癌に限らないのです。

一方、ホスピスは患者さんの身体的・精神的・社会的背景などを総合的に捉えて、全人的なケアを行なう「ケアの考え方」と「ケアを提供する場所(施設)」の両方を指します。 緩和ケアが終末期に限らないことに対して、ホスピスは主に治療が望めなくなった時期から終末期にかけてを対象とします。

日本ではホスピスと名乗っている施設が多くありますが、本来は療養する場所ではなくケアの考え方を指していることは緩和ケアと同じですね。ただし、現在では「緩和ケア病棟」という名称で、専門的な緩和ケアを提供する入院施設も広く認知されています。

緩和ケアをサポートするチーム

緩和ケアは医療機関によって差がありますが、基本的には癌診療に関わる医療スタッフがチームになり、癌患者と家族のサポートにあたります。

そうした緩和ケアチームにいつからサポートしてもらうか、そのタイミングは患者さんの考えが尊重されます。緩和ケアには早すぎることも遅すぎることもありません。考えたくないときは考えなくてもいいのです。

とはいえ、気力や体力が衰えて考えるエネルギーが足りないと感じるときは、一人で抱え込まずに家族や医療スタッフに相談するべきです。緩和ケアチームのスタッフは、患者さんの悩みや不安を共有し、今後の治療において納得いく選択ができるように支援してくれるはずです。

それでは、緩和ケアのチームを構成する医療スタッフを紹介しましょう。

医師

主治医はもちろん、癌に伴うさまざまな症状をコントロールする緩和ケア専門の医師がチームをリードします。

看護師

日常のケアを担当する看護師のほか、緩和ケアに関する専門的な知識や技術を持った緩和ケア認定看護師や専門看護師などがチームに関わります。

ソーシャルワーカー

経済面の相談や福祉制度の紹介、在宅療養のための受け入れ先や訪問看護の調整など、患者さんと家族の生活全般をサポートします。医療ソーシャルワーカー(MSW)と呼ばれることもあります。

ケアマネージャー

主に在宅療養支援診療所などと協力して介護サービスを調整し、万が一容体が急変した場合には緊急入院できる病院と連携します。

心理士

癌の治療に伴う患者さんや家族の心の問題に向き合い、心理学的立場から専門的なサポートを行ないます。臨床心理士や公認心理師などがいます。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士

癌の症状や治療の副作用で身体が思うように動かなくなってきたときに、現状の身体機能を最大限に活かして生活を送るためのリハビリテーションを行ないます。

薬剤師

痛みや感覚の変化など、さまざまな癌の症状をコントロールするための薬について、使用の提案や説明を行ないます。緩和薬物療法認定薬剤師などの専門資格を持つ薬剤師もいます。

管理栄養士

食欲低下や口内炎など、癌の治療に伴う副作用で思うように食事が進まないとき、どのような食事を摂るべきかアドバイスを行ないます。
その他、必要に応じて以下のような専門職がチームに加わることもあります。

●チャプレン(宗教家):患者さんの精神的・スピリチュアルなサポートを行います。
●ボランティア:患者さんや家族の話し相手になったり、身の回りのお手伝いをしたりします。
●音楽療法士、アロマセラピストなど:症状緩和やリラックスを目的としたケアを提供します。

緩和ケアを利用する

緩和ケアは専門の施設に入って、専門の医療スタッフによって行われるものだという誤解が一部にあるようです。しかし、緩和ケアは癌だと診断されたときから、手術や薬物療法、放射線療法などの癌治療に関わるすべての医療スタッフによって提供されるべきものです。これを「基本的緩和ケア」と呼びます。

一方で、担当の医療スタッフによる通常の治療やケアでは、患者さんの癌の苦痛を和らげることが困難な場合もあります。そのようなときは、緩和ケアに関する特別なトレーニングを受けた専門の医療スタッフが対応します。これを「専門的緩和ケア」と呼びます。

日本では、療養の場によって専門的緩和ケアを提供する体制が少しずつ異なります。むしろそれは望ましいことで、患者さんはそのときの症状や家庭の環境に応じて病院や自宅、緩和ケア病棟など療養の場を移動するため、それぞれの場に応じた適切な専門的緩和ケアを受けられるようになっているのです。

それでは、緩和ケアの細かい分類と利用について紹介していきましょう。

一般病棟の緩和ケア

通常の一般病棟に入院した癌患者は、主治医や担当スタッフから鎮痛薬の投与や不安への対応といった基本的緩和ケアを受けることになります。もし対応が困難な苦痛などがあれば、緩和ケアチームによる専門的緩和ケアに移行していきます。

緩和ケアチームの活動体制は病院によってさまざまですが、患者さんを直接ケアしつつ、一般病棟のスタッフに専門的なアドバイスを行なうケースが多いようです。

通院での緩和ケア外来

通院の患者さんに対して、主治医や担当スタッフが一般病棟と同様の基本的緩和ケアを提供するスタイルです。しかし、最近では緩和ケアチームによる専門的緩和ケアによって対応困難な苦痛に向き合う「緩和ケア外来」を設置する医療機関が増えてきました。

厚生労働省が定めるがん診療連携拠点病院には緩和ケア外来の設置が必須要件であり、すべての患者さんが緩和ケア外来を利用できるようになっています。

しかし、緩和ケアチームの活動は医療機関によって程度差があり、まだ緩和ケア外来が設置されていない病院も多いことから、通院での緩和ケア外来の提供はまだ十分とはいえないのが現状です。地域によっては、複数の医療機関が連携して緩和ケア外来を提供している場合もあります。

専門病棟の緩和ケア

緩和ケアを提供する専門病棟は、緩和ケア病棟やホスピス、緩和ケアセンターなどと呼ばれています。そこでは一般病棟や在宅療養で対応が困難な心身の苦痛を抱える患者さんへの対応や、患者さんが人生の最期の時間を穏やかに過ごすためのサポートが目的です。

緩和ケアを専門とする医師が中心となって診療にあたり、看護スタッフの数も一般病棟より多い傾向にあるようです。病棟によっては専従の薬剤師やソーシャルワーカーに加えて宗教家やボランティアなども関わり、リハビリテーションのセラピストや管理栄養士などと連携しながら多職種によるチーム医療が提供されています。

抗がん剤など積極的な治療を行なわない場合が多いので、専門病棟の緩和ケアでは医療スタッフが患者さんと直接向き合う時間が取りやすいといわれます。また、病室は多くが個室仕様で家族がくつろげるスペースもあり、プライバシーに配慮されているのも特長です。家族が宿泊できる家族室や家族風呂、キッチンや談話室など設備が充実している施設も多いようです。

在宅での緩和ケア

在宅での緩和ケアは、主に診療所や訪問看護ステーションがその担い手となります。通院や訪問診療による緩和ケアの提供が診療所の役割ですが、現在では夜間の訪問診療や在宅での看取りにも対応する「在宅療養支援診療所」が制度化されており、24時間対応の訪問看護ステーションとの連携も含めた対応が可能な診療所が増えています。

癌患者の在宅療養では看護や介護の果たす役割が重要であり、訪問看護ステーションのほかにも訪問介護事業所やケアプランセンターなどのスタッフと協力し、チームによる緩和ケアを提供することも多くなってきました。緩和ケアを積極的に推し進めている診療所では、専門的な知識や技術を有する医師や看護師が24時間体制で訪問診療に対応しており、そのようなスタイルを「在宅緩和ケア」もしくは「在宅ホスピス」と呼ぶこともあります。近年では、情報通信技術(ICT)を活用したオンラインでの相談支援なども広がっています。