いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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脳への転移

脳への転移は、肺癌や前立腺癌から起こることがあります。このページでは脳へ転移する場合の特徴や治療方法などをまとめました。

脳に転移するケースとは

脳への転移が多いとされているのが、臓器の中でも肺癌です。血液の循環により脳に流入した癌細胞が一番外側の「硬膜」に転移することで発生し、硬膜以外の脳のどの部分でも転移は起こり得ます。また、肺癌に限らずどの臓器でも転移する可能性があります。たとえば前立腺がんであっても、末期まで進行してしまうと脳に転移する場合もあり、非常に珍しいケースと言えますが、起こらないわけではありません。

脳転移の症状

肺癌から転移した場合の症状と特徴

脳の中で特に転移が認められやすい部位が硬膜。硬膜は、脳を保護する髄膜の一部に当たります。硬膜に転移すると、四肢の麻痺やけいれん、感覚障害、目まいといった症状が発生するケースがほとんどです。硬膜から他の部位にも転移が進んで髄液にまで達した場合、背中や腰の痛み、手足にしびれを感じることもあります。

また、肺癌が脳に転移した場合、転移した患部の周りにむくみが発生します。これにより頭蓋骨の内部が圧迫されてしまい、頭痛や吐き気を感じることも。

一口に脳転移といっても、脳のどの部位に転移するかで現れる症状は違ってきます。例えば、脳で思考や理性などの精神を司る働きを持つ前頭葉に癌が転移した場合、人格が変化して病気の発症前と別人のようになることもあり得るのです。

前立腺がんから転移した場合の症状と特徴

前立腺がんが脳に転移した場合は、頭痛や吐き気、目まい、麻痺などの神経障害をはじめ、意識障害や言語障害を生じる可能性があります。

脳転移の治療方法

肺から脳へ転移した場合の治療方法

肺から脳に転移が見つかった時は、外科手術や放射線治療がメインの治療法です。抗がん剤治療は脳に届きにくいので、あまり選択されません。病巣が10個以下で小さい腫瘍には「ガンマナイフ」という放射線を当てる治療法が行われます。ガンマナイフとは、腫瘍のある部分だけを限定して治療できる治療機械のこと。強い苦痛や痛みを伴わずに治療が可能です。脊髄まで腫瘍が転移し、病巣が10個以上あるような場合は「全脳照射」という治療が行われます。全脳照射は脳全体に放射線を当てることで腫瘍を消滅させる方法です。

前立腺から脳へ転移した場合の治療方法

前立腺がんから脳に転移が見つかった場合は、放射線治療を用いて症状を緩和させます。転移した癌の数や症状に応じて放射線の強さを変える治療法です。脳に転移した癌の数が少なければ、切除といった外科的処置が選択されます。

脳転移について

肺癌からの転移で多いケースが脳への転移です。反対に、レアなケースではありますが起こりうるのが前立腺がんです。どちらも症状としては、目まいや麻痺といった神経障害を引き起こします。癌細胞が転移した部位の周辺がむくむことで頭蓋骨の内部を圧迫するため、頭痛や吐き気などが起こることも。

治療には主に外科手術や放射線治療が行われます。病巣の数や大きさによって治療法は変わりますが、特に前立腺がんからの脳転移は珍しいため、適切な治療が施されないこともあり得るのです。

転移癌の治療は癌治療の中でも難しいとされ、実績がない医師に任せるより、転移癌の治療実績を豊富に持った医師を選んで相談することが大切です。

脳に転移してしまった人の体験談

脳への転移や再発を医師から告げられた時、大きなショックを受けたり強い不安を抱いたりする患者は少なくありません。一方で、そのような時に他の脳転移の癌患者から体験談や経験談を聞くことで、心の支えとして前向きになれることもあります。

※記載されている治療法や薬品名は、体験者が治療を受けた時点のものです。最新の医療情報については、医師にご相談ください。

患者としての生き方を沢山の人に支えてもらっている

(前略)もし、転移があり、手術で取りきれないとしたら抗がん剤治療になります。手術できるかどうかの判断も含めて、専門の大きな病院へ相談するべきだと思いました。翌日、撮影したデータを持参して、別の大きな病院に行き、精密検査を受けました。脳幹や小脳など脳にも10か所ほど転移していることがわかりました。手術ではない治療を受けることになりました。(中略)治療は同年代の信頼できる医師に担当してもらっています。自分の場合は医師として知識や経験もありますが、今は患者に徹することが大切だと感じています。がんの治療は日進月歩でどんどん進化して抗がん剤の種類も増えているので、主治医に任せたほうがいいと思いました。抗がん剤の治療の知識も2年経つと古くなるほど日々進歩しています。選択肢も増えて、治療選択が難しくなってきているので専門家の意見は大切です。

引用元:がん保険がよくわかるサイト|関本剛さん 肺がんを経験 ~いっしょにらくに長生きしましょう~

他の患者の言葉を知って一人ではないと思えた

私は肺腺がんステージⅢAと診断された後、肺上葉切除手術を受け、術後補助化学療法を4クールおこないました。しかし、5カ月で脳転移し、ガンマナイフ治療をやりました。PET検査もやる予定ですが、子供のことを考えては涙が出てきたり、先のことが不安で仕方のない日々でした。
こちらで同じ肺がんで頑張ってるみなさんのメッセージを見て、私も頑張ろうと思いました。

引用元:肺がんとともに生きる|私も頑張ろうと思いました

自分の体験談を人と共有することで得られた喜び

人生百年と言われる時代、私ががんになったのは半ば過ぎの55才でした。これから何かしようと思った矢先でした。年に一度の検診で肺がんが見つかり、翌年脳転移、8ヶ月後に新たな脳転移が見つかりました。3年間で手術、化学療法、放射線療法2回をやりました。一番ショックだったのは、脳転移でした。(中略)何回かサロンに通い気持ちに余裕が出来ると、家族の姿が頭に浮かびました。いつも温和な家族にも感情を吐き出す場所が必要だと感じたのです。私の会にも家族サロンがあると聞いていましたので、先日リモートで参加してみました。家族の思いも聞けましたし、亡くなった当事者がもし自分であったらどう思ったであろうかというお話などもできました。少しは患者として役に立てたかもしれないと実感し、プチ幸せです。がんになっても人の役に立てる喜びを感じ、新たな目標を見つけた気がします。

引用元:ちばがんなび|Vol.26 がんと私

自分の生き方と命の価値を見直すきっかけに

(前略)私は1年目に脳転移を経験しました。また、同じ病気の友達が旅立っていって、明日は必ず来るものではない、普通にできることが決して当たり前ではないということを痛感しました。そして、以前の私は「自分がやらなくては」とか「負けたくない」という気持ちでハードワークをこなしていたのですが、病気になったことで、命を削ってまでする仕事はないと思うようになりました。このことは、私の人生の大きなターニングポイントになったと感じています。(後略)

引用元:武田薬品工業株式会社|病気も包み隠さず接することで元気に

手術後の後遺症への対策

脳に転移したがんの摘出手術によって、脳の機能の一部が損なわれるケースがあります。考えられる後遺症はけいれん発作、手足の麻痺、話しにくい・聞いて理解しにくい・物が飲み込みづらいの4つです。それぞれの対策についてご紹介します。

けいれん発作

治療後、長期に渡ってけいれん発作を起こす可能性があります。そのため、発作を起こす可能性がある場合は、抗けいれん剤が処方されることも。指示された量を時間通りに飲むことで、継続的に予防効果を得られます。ただし、副作用として眠気が強くあらわれるので注意してください。

手足の麻痺

手足がしびれたり、麻痺したりして体がふらふらすることも。体の機能をサポートする装具の使用や、リハビリによって機能を回復させます。

話しにくい・聞いて理解しにくい

字を書く練習や発声練習を行ないます。もどかしいと感じることもあるかもしれませんが、家族や周囲の人と積極的に会話をするのが大切です。

物が飲み込みづらい

食べ物を細かく刻んだり、とろみを付けたりして工夫します。また、食事の際は飲み込みやすい姿勢を取るのも大切です。一般的に、あごを引くと飲み込みやすいと言われています。

日常生活を送る上で

後遺症が続く場合は、住環境を整えることが大切です。機能低下によって注意力が散漫になったり、手足の麻痺があったりすると自宅の段差で怪我をする危険性が高まります。しかし、自宅に潜む危険は住宅の整備をすることで大幅に軽減することが可能です。

例えば寝室が2階にある場合は1階へ移す、トイレが和式の場合は洋式にする、廊下や浴室に手すりを設置するといった工夫が必要になります。住宅整備には少なからず費用がかかってしまいますが、自治体によっては住宅改修の費用を補助してくれるところも。

市町村の窓口や相談支援センターに、問い合わせてみてください。そのほかに心のケアとしては、絵を描いた音楽を聴いたりするなど、自分の好きな方法でリラックスすることで、ストレスを解消できます。

患者のQOL(生活の質)に関する情報

脳転移の患者にとって、様々な症状や合併症が現れることは日常生活へ影響する重要なポイントであり、その症状によってはQOLが低下してしまうこともあります。

そのため症状に合わせた適切な対策によりQOLの向上へ努めていきましょう。

運動麻痺・失調・振戦への対策

脳転移など脳に関する疾患や病気では、しばしば脳機能の悪化や障害によって心身にマヒが生じたり、運動機能が低下したりといった問題が生じます。特にマヒなどの運動障害が生じる部位によってはスポーツを行えなくなったり、日常生活を送ることさえ困難になったりといったリスクも強まるため、状態に合わせて適切な対策やライフスタイルを考えていかなければなりません。

生活様式の変更・補助用具の活用

大前提として、運動機能の低下や身体的な障害の発生が現れた場合、自助努力も大切ですが必要に応じて介助者の支援を受けたり、補助用具を活用したりといった工夫も重要です。

例えば利き手の自由を失った場合や細かい作業が難しくなった場合、お箸を使う代わりにスプーンやフォークを使ったり、下半身の力が弱まった場合は布団や和式便所でなくベッドや洋式便所に変えたりといった工夫が考えられます。小さなボタンの付いた服は指先にマヒが生じた際は着脱が難しくなるため、ボタンのないトレーナーやベルトのないパンツなどを選ぶことも工夫のひとつです。

転倒の予防

滑りにくい床マットへ変えたり、転倒しやすいスリッパやハイヒールといった靴を避けたりすることも転倒予防になります。また車椅子や杖なども利用し、階段の移動では手すりの設置や介助者の準備も有効です。

失語症・構音障害への対策

脳機能が低下することで発音が難しくなったり、思い通りに発語できなくなったりすることもあります。

人のコミュニケーションにおいて会話によるやりとりは重要なウェイトを占めており、特に日常的に言葉で対話していた人がいきなり言語障害の問題に直面すると大きな精神的ストレスを抱くものです。失語症や構音障害といった言語機能の問題が生じた場合、例えば短文での会話を意識したり、「はい/いいえ」で応えられるような質問へ変えたりすることも工夫です。また表情や態度によるコミュニケーションも意識し、単語カードや「あいうえお表」の導入も検討してみましょう。

感覚障害への対策

感覚障害といってもその内容は患者によって様々であり、例えば温度を感じにくくなったり、痛みを感じにくくなったり、味や香りといったものを感じにくくなることもあります。

特に感覚障害の場合、そもそも本人が温度や味を感じ取れないため、自分が感覚障害に陥っていると気づけないことも少なくありません。しかし無自覚の感覚障害は日常生活において危険なものであり、QOLを低下させるだけでなく心身のリスクを増大させる可能性があります。

感覚障害への対策では、まずどのような感覚に影響が現れているのか確認することが必要です。例えば温度を感じにくくなっている場合、熱湯に触れて火傷したり、冷たいものに長く接して凍傷になったりするかも知れません。また痛覚が鈍化している場合、ケガをしていても気づかず悪化させる恐れもあるでしょう。

熱いものを直接に触らず、鍋つかみや温度計といったアイテムを使用し、顔や体の様子を鏡で定期的にチェックして異常の有無を確認してください。

記憶障害・失認・失行への対策

記憶が曖昧になっていたり、これまで当たり前に覚えていたことを忘れてしまったりすると、本人にとって大きな精神的ストレスが発生してQOLの低下へつながります。また周囲の人も不安や心配が大きくなり、人間関係やコミュニケーションに悪影響が及ぶこともあるでしょう。

記憶障害や失認、失行といった影響が認められた時は、焦ってパニックに陥るのでなく、まずは落ち着いて日々の行動を繰り返しながら自分にできる範囲を把握していくことが大切です。

記憶障害

脳転移や脳障害において記憶障害は一般的に認められる症状ですが、新しいことを覚えられなかったり、忘れてしまったりすることは患者にとって極度に強いストレスとなり得ます。

そのため、無理をして頭で記憶しようとするのでなく、メモを取ったりノートへ書いたりして覚えておくべき内容を記録することを習慣化しましょう。また情報量が過大にならないよう整理して簡潔にまとめる意識も大切です。

失認・失行

失認・失行は状況を認識できなかったり、思ったように行動できなかったりする脳機能の障害です。当たり前に行えたことができなくなった場合、焦ったり不安を強めたりしがちですが、決して慌てず、危険を回避するように努めましょう。また周囲はサポートできない範囲の行動を促さないように配慮してください。

社会行動障害

記憶障害や認識障害は日常生活や社会生活に悪影響を及ぼします。そして、それを受け入れるには相応の時間もかかります。

急に全てを上手く行おうとすると混乱が悪化するため、シンプルなコミュニケーションを心がけながら、不安があれば信頼できる人へ相談していきましょう。

脳神経障害への対策

脳神経障害としては、視力の低下や聴力の低下、嚥下障害など色々なケースが想定されます。視野障害や聴力低下は日常生活の行動でリスクを発生させ、嚥下障害は誤嚥性肺炎などの症状を引き起こしかねないため、それぞれに適した対処が必要です。

視野障害

視野障害は単に視力が低下している状態でなく、目で見える範囲(視野)が欠けたり、狭まったりしている状態です。

視野障害はすぐに自覚できないケースも多く、日常生活の中で死角が増えてしまうことは無視できません。

視野障害の程度によっては転倒や事故のリスクが増すため、まずは患者の見えない範囲を確認して、見えにくい場所へものを置くことを避け、また死角から声をかけないといった配慮も意識します。

聴力低下

聴力低下は片耳だけに生じる場合や両耳に生じる場合があり、もし片耳に発生しているのであれば、周囲の人は聞こえやすい方の耳から話しかけてあげるといった配慮が大切です。

また聴力が低下すると近づいてくる車の音を聞き取れなくなったり、インターホンの音が聞こえにくくなったりするため、外を歩く時には周囲の安全確認を心がけ、音による伝達でなく明かりや点滅など視覚へ訴えるアプローチを考えましょう。

嚥下障害

嚥下障害は食事などで口から胃へと食べものを飲み込む行為が難しくなり、食欲が低下したり、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくしたりといった影響が生じます。固形物を食べる時にむせやすくなった場合、飲み込みやすい刻み食やおかゆなどを選択して、食べることへストレスを感じないよう工夫することが大切です。

また食欲が低下したり食事量が減少したりすると、低栄養や脱水といったリスクが増すため、栄養補助食品や定期的な飲水を意識することもポイントです。

食生活に関する障害はQOL低下を招くため、安全に配慮しながら食事を楽しめる方法を本人や介助者が一緒に考えていきましょう