このページでは唾液腺がんの症状や治療方法についてまとめました。
唾液腺がんは唾液腺組織を構成する細胞から発生したがんのことを指します。
唾液腺とは唾液を作る役割を果たすところで、耳下・顎下・舌下には「大唾液腺」があり、さらに、口腔粘膜やのどの粘膜の一部に「小唾液腺」が存在します。
そして唾液腺がんは「唾液腺構成組織から発生したがん」全体を指す言葉ではありますが、実際には唾液腺がんのほとんどは耳下腺がんと顎下腺がんで占められており、舌下腺がんはかなりまれ。その具体的な割合としては、耳下腺がんが60~70%、顎下腺がんが20~30%、そして舌下腺がんが2~3%程度(2022年2月時点)とされています。[注1]
あと、よく誤解されがちですが「唾液腺腫瘍=唾液腺がん」と言い切れるわけではありません。
実は唾液腺腫瘍の大半は良性のもので、悪性、つまり唾液腺がんと診断されるのは唾液腺腫瘍の中でも10%程度と言われています。
また、小唾液腺がんについては「口腔粘膜に小唾液腺がんができた場合、口腔がんの治療に準じた治療をする」といった形で、発生部位のがん標準治療に準じた治療がなされるため、大唾液腺がんとは扱いが大きく異なります。
したがってここから先は「大唾液腺がん」についての説明に絞っていきます。
唾液腺がんの症状として、次のような状態があげられます。
唾液腺がんの症状は「耳の下や顎の下に、今までなかったコブのような腫れが出て気づく」というケースがほとんどです。
そしてこの腫れが出始めた段階では、ほとんどの場合はまだ痛みや顔面神経痺などの症状は起こらず、これらの症状が起こった時は唾液腺がんが進行している可能性が高いと考えられます。特に、顔面神経麻痺の症状が出てきた場合は「耳下線がんの進行」が強く疑われますので要注意です。
ちなみに、唾液腺がんではなく良性の腫瘍であっても、同じように「コブのような腫れ」となりますので、この見分けは素人には難しいため、気づいた段階で医師に診てもらうことが非常に重要です。
悪性か良性かの見分け方の目安として「腫れの進行が早ければ悪性、腫れの進行が遅ければ良性腫瘍」ということが世間ではよく言われていますが、これはあくまで「おおむねそういう傾向がある」というだけで、すべてのケースに当てはまるわけではありません。
悪性腫瘍である唾液腺がんであっても、腫れの進行が比較的遅いケースもありますので、腫れの進行具合だけで素人判断をしてしまっては、取り返しのつかないことになるリスクもあるので気をつけましょう。
また、「腫れはまだ小さいのに、もう痛みの症状が出ている」という場合も要注意です。これもあくまでおおよその傾向にすぎませんが「良性腫瘍よりも悪性腫瘍のほうが痛みの症状が出やすい」と言われていますので、痛みを感じる腫瘍の存在に気づいた場合は特に早めの受診をおすすめします。
唾液腺がんの治療は、可能な限り「がんの切除」を第一に考えます。
がんをしっかりと摘出するために、切除手術においては可能な限り、がん細胞の周囲も含めた範囲、マージンを大きくとることが求められますが、そのために顔面神経の一部や骨なども切除することを求められるケースもあります。
また、唾液腺がんの進行度や、がん細胞の性質によっては、切除手術後に放射線治療や抗がん剤などの化学療法を用いるケースもあります。
ただし、唾液腺がんの治療法として放射線治療や化学療法の効果はそれほど高くは望めません。これらの治療法単独での根治はまず不可能。あくまで「切除が第一、放射線治療などはまず切除ありきのサポート的な治療」という位置づけです。
また、すでに唾液腺がんに転移が認められる時は、可能な限りがんそのものを摘出するだけでなく、リンパの切除や放射線治療・化学療法などが行われます。
ステージ0 | 原発腫瘍を認めず、所属リンパ節への転移もない場合 |
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ステージⅠ | 最大径が2㎝以下の腫瘍で軟部組織または神経に浸潤しておらず、所属リンパ節への転移もない場合 |
ステージⅡ | 最大径が2㎝をこえるが4㎝以下の腫瘍で軟部組織または神経に浸潤しておらず、所属リンパ節への転移もない場合 |
ステージⅢ | 最大径が4㎝をこえる腫瘍、および/または軟部組織または神経に浸潤しておらず、所属リンパ節への転移もない場合。もしくは腫瘍の大きさに関わらず、同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝以下の場合 |
ステージⅣA | 皮膚、下顎骨、外耳道、および/または顔面神経に浸潤する腫瘍が見られ、かつ両側または同側または対側のリンパ節転移で最大径が3~6㎝以下 |
ステージⅣB | 頭蓋底、翼状突起に浸潤する腫瘍、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍が見られる場合。または最大径が6㎝をこえるリンパ節転移が見られる場合 |
ステージⅣC | 遠隔転移がある場合 |
他のがんと同様に唾液腺がんでもTNM分類によるステージ分けが行われています。TNM分類とは、「T分類(がんの大きさ、浸潤の状態など)」「N分類(リンパ節への転移の状態)」「M分類(遠隔転移の状態)」の3つの分類を掛け合わせて病期を判断すること。
それぞれの分類の仕方は次の通りです。
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
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T0 | 原発腫瘍を認めない |
T1 | 最大径が2㎝以下の腫瘍で、軟部組織または神経への浸潤なし |
T2 | 最大径が2㎝をこえるが4㎝以下の腫瘍で、軟部組織または神経への浸潤なし |
T3 | 最大径が4㎝をこえる腫瘍、および/または軟部組織または神経への浸潤を伴う腫瘍 |
T4a | 皮膚、下顎骨、外耳道、および/または顔面神経に浸潤する腫瘍 |
T4b | 頭蓋底、翼状突起に浸潤する腫瘍、または頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍 |
NX | 所属リンパ節転移の評価が不可能 |
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N0 | 所属リンパ節転移なし |
N1 | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝以下 |
N2a | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝をこえるが6㎝以下 |
N2b | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が6㎝以下 |
N2c | 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6㎝以下 |
N3 | 最大径が6㎝をこえるリンパ節転移 |
M0 | 遠隔転移なし |
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M1 | 遠隔転移あり |
また、ステージ分類に加えて、唾液腺がんでは悪性度ごとに分けることができ、その分類は次の通りです。
低悪性度群 | 腺房細胞がん、粘表皮がん(低悪性度)、多型低悪性度腺がん、明細胞がん、基底細胞腺がん、嚢胞腺がん、低悪性度篩状嚢胞腺がん、粘液腺がん、腺がんNOS(低悪性度)、多形腺腫由来がん(非・微小浸潤型)、転移性多形腺腫、唾液腺芽腫 |
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中悪性度群 | 粘表皮がん(中悪性度)、腺様嚢胞がん(篩状、管状型)、上皮筋上皮がん、悪性脂腺腫瘍(脂腺がん、脂腺リンパ腺がん)、リンパ上皮がん |
高悪性度群 | 粘表皮がん(高悪性度)、腺様嚢胞がん(充実型)、オンコサイトがん、唾液腺導管がん、腺がんNOS(高悪性度)、筋上皮がん*、多形腺腫由来がん(浸潤型)、がん肉腫、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がん |
唾液腺がんの治療は手術で行うのが基本です。顔面神経を温存すべきかどうかは、腫瘍の大きさや位置、悪性度によって判断されます。手術後に放射線治療を選択されるケースもあるようです。化学療法については、標準的な治療として確立されたものはありませんが、他の頭頸部がんに準じた治療を組み合わせることが一般的となっています。