公開日: |更新日:

運動療法

様々な病気の治療や症状の緩和に運動を取り入れた運動療法が実施されることもありますが、がんの治療においても運動療法が効果を持つとされることがあります。このページでは、癌患者の治療プランとして実施される運動療法の特徴や有効性、またがんの治療を目的として運動療法を行う際に注意すべきポイントなどを解説していますので、ぜひ参考にしてください。

運動療法とは?

医学的根拠にもとづいた運動とは?

運動療法とは、病気の治療や症状の緩和、また治療中・治療後のリハビリテーションなどを目的として、医学的根拠にもとづいて行われる有酸素運動や筋力トレーニングといった運動プログラムの総称です。運動療法には日々の生活習慣の中に取り入れて行う運動習慣のようなものがあれば、任意の部位の運動機能を回復させたり、病気による症状の緩和を目指したりする医療機関でのリハビリテーションもあります。

運動療法を実施する職種としては、リハビリテーション科医や看護師、理学療法士(PT)といった医療従事者が代表的です。なお、医療従事者の他にも、スポーツ医学について専門の研修を積んだスポーツトレーナーなどの専門家が患者の運動をサポートすることもありますが、基本的に治療行為としての運動療法を実施できるのはきちんと資格を有している者だけという点も重要です。

運動療法は癌の予防や一部の症状緩和などに有効であるとされているものの、実施方法を誤れば病気が悪化したりケガのリスクを増大させたりするため、必ず患者自身の体質や体力、それまでの運動経験などを総合的に判断した上で、有資格者によるプランニングを行ってもらうようにしてください。[注1]

運動療法は癌の予防や治療に効果的なのか?

国立がん研究センターなどによる研究グループが、日本人を対象として実施された癌治療に関する研究を精査したところ、「身体活動」や「適正体重の維持」といった要因が日本人の癌リスクの低減に役立つ可能性ことを発見しました。

また、術後のリハビリに運動療法を取り入れることで、弱った筋肉や運動機能を回復させて、より早期の社会復帰を実現したり癌の再発リスクを低下させたりといった効果も期待できます。

ただし、これらの有効性は必ず適正な指導や医師の監督の下に行われてこそ発揮されるものであり、闇雲に体を動かすことは逆にトラブルのリスクを招きかねないことも覚えておきましょう。[注2]

運動によって予防効果が期待できるとされる癌とは?

運動や仕事といった身体活動によってリスクを下げられる癌には、特に大腸癌と乳癌があります。また、その他の癌についても、男性であれば結腸癌や肝癌や膵癌、女性であれば胃癌について運動が発生リスクを下げると考えられており、さらに心疾患のリスクを下げられることもポイントです。

加えて、肥満は閉経後の乳癌リスクを高めるとされていますが、適度な運動によって適正体重を維持できれば、それだけ癌の発症や再発を抑えられると期待できるでしょう。なお、肥満だけでなく過度な体重減少も癌や病気のリスクを高めると考えられるため、あくまでも適正体重の維持を意識することが重要です。[注2][注3]

運動療法をサポートする理学療法士(PT)

患者のリハビリに従事する国家資格としては、理学療法士(PT)や作業療法士(QT)、言語聴覚士(ST)といった専門職がありますが、中でも患者の運動療法をサポートする専門家は理学療法士(Physical Therapist)です。

理学療法士は、事故や病気が原因で身体麻痺や身体障害を抱える人、加齢の影響で運動機能や筋力が低下している人など、運動機能に何かしらの問題を抱えている人々に対して、医師の指導の下で運動指導や物理療法を行うスペシャリストです。

理学療法士が担当する理学療法の内容は多岐にわたりますが、いずれの場合もまずは医師から提示された理学療法の内容を点検して、患者ごとに注意すべきポイントや患者の運動能力を検査します。そしてその上で、患者について総合的な評価を行いながら治療プログラムを作成し、個々の患者の治療や運動療法、自立支援のサポートなどを行うといった流れです。[注4]

運動療法によって患者の人生の質(QOL)も向上する?

適度な運動は肉体的な健康を維持するために重要なだけでなく、適切な運動習慣を取り入れることで人間の精神面に良い影響が与えられるとされています。

また、癌患者の中には病気や治療の影響で筋力や運動機能が低下して、あまり出歩かないようになる人もいるでしょう。その結果、自宅へ引きこもりがちになって他者とのコミュニケーションが不足してしまい、孤立感や孤独感を強めてしまうこともあります。

がん悪液質など、医学的理由があって運動機能が低下している人に対して、過度な運動を強制することは厳禁です。しかし、適切な運動によって筋力や運動機能を高めることができて、自発的に他者と交流するチャンスを拡大することで、心理面のストレスを緩和して人生の質(QOL)を高められることもあります。

運動療法の有効性については研究や論文ごとに意見の差もある

一般論として、適度な運動は健康維持に有効だとされています。また、日常的な身体活動が癌予防に効果的ということも重要です。しかし、癌治療を目的とした運動療法がどこまで効果を発揮するかは、研究者や論文・報告などによって意見が分かれていることも事実です。[注5]

運動療法で効果がある人は普段から運動している?

癌患者が運動療法の治療プログラムを生活に取り入れるとして、そもそも運動プログラムを自発的に選択する人は以前からある程度の運動習慣を維持していた人が多いとされています。つまり、実験対象となる患者の背後関係が、その他の患者とは異なる可能性もあるという点は重要です。

また、一口に「運動」といっても、行う運動の種類や強度、頻度、さらに1回の運動で費やす時間など様々な条件が分かれており、実験として一律の基準を明確化しにくいといったことも無視できません。[注5]

研究報告にばらつきがあるからこそ標準治療を重視する

運動療法には好意的な価値があると考えられているものの、医学的根拠として明確に有効性を認めるには不十分な部分もあります。そのため、運動療法はあくまでも補助的な治療計画として、まずはきちんと有効性を認められている標準治療にもとづいた治療計画をプランニングすることが大切です。

運動療法で軽減できるがんの身体症状とは?

癌患者へ有効な運動療法として、筋肉を使った運動や全身の持久力改善を目的とした有酸素運動、体幹強化を目指す抵抗運動などが挙げられています。

そして、それぞれの運動ごとに期待できる効果が異なることもポイントです。[注5]

痛み

頭頸部癌や乳癌の患者に関して、運動療法が肩の痛みや機能障害、関節の可動域に好影響を与えたという報告があります。

消化器症状

国立がん研究センターの研究によれば、適度な運動習慣が日本人の大腸癌の予防に効果的であるとされています。

なお、すでに消化器系の症状を訴えている癌患者に対して、運動療法が明確な有効性を示したというエビデンスは認められていません。ただし、運動療法を行ったことで癌に悪影響を与えたというデータはなく、適切なリハビリテーションなどを行いながら個々の患者の状態を観察・評価することが推奨されています。[注5]

呼吸器症状

癌患者の呼吸器関連の症状に関して、運動療法が明確に治療効果を発揮するという医学的根拠は得られていません。

ただし、有酸素運動による持久力改善が癌患者のQOL維持・向上に有効という意見もあります。

泌尿器症状

前立腺癌の患者について、治療中と治療後にウォーキングや抵抗運動などの運動療法を実施したところ、尿失禁などの合併症に好影響を与える可能性が示唆されました。また、「がんのリハビリテーションガイドライン」では、前立腺全摘出後の患者へ運動療法を行うことが推奨されています。[注5]

倦怠感

前立腺癌や乳癌などの患者の中で、運動療法(特に有酸素運動)を行っている人の倦怠感が比較的軽減される可能性が示唆されました。ただし、造血器腫瘍の患者に対しては効果がなかったとされています。[注5]

睡眠障害

癌患者の睡眠障害に対する運動療法の効果について、ヨガや有酸素運動などの有効性が期待されているものの、医学的な研究数が少ないとされています。ただし、一般的な睡眠障害について運動療法は効果的とされており、有酸素運動を始めとして抵抗運動や呼吸訓練といったプログラムが実施されていることもポイントです。

なお、どのような運動プログラムを実践するかは、医師や理学療法士と相談してプランニングすることが大切です。[注6]

運動療法で軽減できるがんに伴う精神症状とは?

不安・抑うつ

化学療法や放射線治療などを行った後の乳癌患者に関して、患者の状態や精神レベルに合わせた運動療法を実践することが、不安症状や抑うつ症に対して改善効果を持つと推奨されています。また、その他の婦人科系癌に関しても、手術後の化学療法や放射線治療などと並行して運動習慣を取り入れるように指導されていることが重要です。

造血器腫瘍の患者については、専門家の指導下で適切な運動療法を取り入れた場合、不安や抑うつ症を緩和すると推奨されています。ただし、これはあくまでも適切な運動プログラムにもとづいて実施されていることが前提です。

なお、運動療法と併せてカウンセリングやリハビリテーションも行うことが、患者の精神的ケアの観点から強く推奨されています。[注5]

その他

その他の精神症状については、主治医や理学療法士だけでなく、心療内科医や精神科医といった心身の専門家とも相談しながら、運動療法を実施すべきかも含めて相談していくようにしてください。

運動療法で検査・治療に伴う有害事象を軽減できる?

癌治療には副作用や合併症のリスクがあり、運動療法によって癌による症状だけでなく、それらの治療に伴うリスクやトラブルへも好意的な効果を得られる可能性はあります。

ただし、誤った知識や理解によって運動療法を実践した場合、逆効果として有害事象が一層に悪化する危険性もあるでしょう。

運動療法を実施してはいけないケース

個々の患者の状態や体質によって運動療法の実施を検討することは当然として、一般的に知られている、運動療法を実施すべきでない状態もあります。[注5]

例えば以下のような症状が見られる場合、運動療法やリハビリテーションは中止されます。

  • 貧血症状や血液検査による異常結果
  • 癌の骨転移
  • 有腔内臓・血管・脊髄の圧迫
  • 持続的な痛みや呼吸困難、胸水や腹水など
  • 意識障害や中枢神経の機能低下、頭蓋内圧亢進など
  • 低ナトリウム血症、低・高カリウム血症、低・高カルシウム血症
  • 起立性低血圧症
  • 頻脈・不整脈・心不全など
  • 発熱症状

その他の注意点

抗がん剤の点滴中や治療後24時間以内の運動を避けましょう。白血球減少が認められる場合は、感染症を予防するために公共施設やプールでの運動はNGです。貧血症状があれば改善するまで運動を控えて、放射線治療中は皮膚を防護するため塩素を含むプールの使用を避けてください。

高齢者に関しては、骨転移が起きていなくても骨粗鬆症によるケガや骨折に注意することも必要です。[注5]

参考サイト

   
免責事項
このサイトでは、がん治療に対応しているクリニックの「医師」を「名医」と定義しています。
あくまでもサイト上の呼称であり、医師の実力を定義づけるものではありません。

「いちから分かる癌転移の治療方法ガイド」は、独自に調べた内容をまとめたサイトです。
治療法など詳しく知りたい場合は直接に各医療機関へお問い合わせ下さい。(2015年11月時点)

癌の治療法としては主に、切除手術、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療があります。
掲載している治療法には保険適用のものと、適用外のものがございます。保険適用外の治療法については、全額自己負担となります。
症状・治療法・クリニックによって、費用や治療回数・期間は変動いたしますので、詳しくは直接クリニックへご相談ください。
また、副作用や治療によるリスク等も診療方法によって異なりますので、詳しくは各クリニックに直接確認してから治療を検討することをおすすめします。
治療法によっては未承認機器や未承認医薬品を使用する場合があります。
入手経路や国内の諸外国における安全性等にかかわる情報、同一成分や性能を有する他の国内承認医薬品等の有無は、使用する医療機器・医薬品、クリニックによって異なります。
詳細については各クリニックに直接お問い合わせください。

無断転用禁止(Unauthorized copying prohibited.)