血管内治療とは、カテーテルという細い管を用いて血管の内側から治療をおこなう方法です。 がんの病巣部にピンポイントで直接アプローチできる治療法であり、ごく少量の薬剤の注入でほとんど痛みを感じずに効果を実感できます。 治療中はカテーテルを挿入する局所にだけ麻酔をし、モニターを見ながら治療経過の説明をうけられます。 がんを切除する手術とは異なるアプローチであり、切開による痛みや傷跡がほとんどないこともがんの治療法として注目されている理由のひとつです。
がんは、腫瘍血管という動脈と静脈が絡まったポンプのように拍動する異常血管をつくりだすことで栄養を得て大きくなっていきます。これを血管新生といい、この血管をなくすか、がんそのものに抗がん剤を投与することでがんの減少と消失につながります。新生された異常血管ではがんに栄養を送り続けるほかに、がんの転移を引きおこすこともあります。そこで、カテーテルを患部近くの血管にすすめ、異常血管を減少させる薬剤あるいはがんそのものに抗がん剤を注入します。
動脈塞栓術は、がんに栄養を送る異常血管に対してアプローチする方法です。 動脈の中にカテーテルという管を入れ、病巣部まで進めて異常血管の血の流れを止めます。血流が止まり栄養が絶たれたがんは縮小していくことから、兵糧攻めの治療法ともいわれています。血管へのアプローチはエックス線装置を使用し体のあらゆる部分まで行なえ、マイクロカテーテルという更に細い管を使用します。また、血管の流れを止めるのには動脈塞栓材料を使います。
動注化学療法はがんの病巣部そのものにアプローチする方法です。 がんの病巣部が一部に限られていて、特に高い濃度の薬剤を病巣に注入する必要がある場合に動注化学療法が用いられます。薬剤は抗がん剤ですが、少量の使用ですむメリットがあります。 また、継続した薬剤の注入が必要な場合には、リザーバーとよばれるカテーテルの端を皮下に埋め込むための器具を用いて治療にあたります。繰り返し薬剤を注入する必要がある際、カテーテルを体内に留置しておく必要があり、リザーバーを使用してカテーテルを皮下に埋め込みます。体の表面にカテーテルの先端が出ていると感染や出血などの原因となることがあり、そのリスクを無くせるほかにも、再度の薬剤の注入がリザーバーに注射針をさすことで容易にできるメリットがあります。 また病巣に血液を供給している動脈に薬剤を注入することは、静脈からの全身投与に比べて数倍から数十倍の局所濃度が得られます。
がんのなかでも血管が豊富に認められるもの対して治療が有効になります。ここでは血管内治療が適している代表的ながんを紹介します。また、他のがんでも症状によっては血管内治療が適応になることもあります。
血管内治療は肝臓がんの治療法としてとくに知られています。肝臓がんの治療には手術やラジオ波焼灼術(RFA)といった局所治癒がありますが、大きさや数に制限があるほか進行がんには対応できません。しかし血管内治療では、大きさにも数にも制限はなく、がんであっても肝機能を保てている状態であれば治療をすることができます。肝臓がんの多くは腫瘍に血管が非常に豊富なことが多いため、肝臓がんは血管内治療に適したがんのひとつといえるでしょう。
肺には肺動脈と気管支動脈という二本の動脈が流れています。とくに気管支動脈は気管支周辺の太い血管であり、肺の中心付近の肺がんやリンパ節転移に栄養を送ってしまいます。肺の中心部や縦隔に腫瘍があると、つらい息切れや激しい咳、血痰などの呼吸器症状の原因となりますが、この気管支動脈から抗がん剤の注入や塞栓術をおこなうことで高い局所効果が見込め、呼吸器症状を和らげることができます。
術後の再発や進行により手術が不可能だった乳がんでは、腫瘍が大きくなり皮膚に大きな潰瘍をつくってしまうことがあります。潰瘍からの多量出血や浸出液が日常生活に大きく影響するため、出血や浸出液を減らすことを目的とし血管内治療にて抗がん剤の注入や塞栓術をおこないます。
血管内治療はがん組織に栄養を送る血管に抗がん剤の注入や塞栓をおこなう治療方法です。注入された抗がん剤や塞栓物質のほとんどはがん組織に分布されますが、同時に周囲の組織にも分布します。周囲にどのような組織があるのかによって血管内治療が適応できるかが決まります。 例えば大腸がんでは、大腸自体が抗がん剤や虚血に弱い組織であるため、血管内治療は適応できません。その他にも、がん組織に栄養を送る血管にカテーテルが挿入できない部位や、その血管が見つからない場合にも血管内治療がおこなえません。
治療後は3~4時間の安静が必要になるものの、その後は通常の歩行程度は可能になります。
その後の経過観察 血管内治療では、一度薬剤を注入し治療をしたあとに定期的にCTなどの画像検査で経過を観察する必要があります。
例えば肝臓がんで動脈塞栓術の治療をうけた場合には、1週間後の検査で追加治療の必要がないと判断されても退院1ヵ月後にまた検査をします。うまく治療ができていれば3か月毎に検査を繰り返し、治癒効果を確認します。
また、抗がん剤を注入する動注化学療法では、がんの種類や副作用の程度により異なりますが、基本的に長期間にわたり継続した薬剤の注入によりがんの減少や消滅を目指します。
クリニカE.T.
https://clinica-et.com/cure.html(2018年11月14日確認)
(医)龍志会IGTクリニック
https://www.igtc.jp/(2019年9月3日確認)
東邦大学医療センター大橋病院 消化器内科
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/gastroenterology/patient/gallbladder_pancreas/cancer_of_liver/transcatheter_arterial_chemoembolization.html(2018年11月14日確認)
順天堂大学医学部付属順天堂医院
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/hoshasenka/senmon/disease01.html(2018年11月14日確認)