いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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大腸癌の転移

肝臓や肺への転移を起こしやすい、大腸癌。転移の検査方法や、転移してしまった場合の治療方法などをまとめています。

大腸癌の転移先や治療法

大腸癌の転移は、他の癌転移と異なり、比較的全身への広がりが遅いのが特徴です。そのため、早期発見ができれば長期生存の可能性が高いとされています。通常の癌転移であれば、一ヵ所転移が見つかった場合、既に全身に転移していることが多いです。

大腸がんではリンパ節や肝臓や肺への転移が多くみられます。 がんを手術で全部切除できたように見えても、その時点ですでにがん細胞が他の臓器に移動している可能性があり、手術した時点ではみつからなくても、時間がたってから転移として表れることがあります。

引用元:株式会社リンフォテック_大腸がんの転移・再発
https://www.lymphotec.co.jp/lymphocyte-therapy/colorectal_cancer/metastasis/

そして、このように、大腸癌は手術後ある程度の期間が経ってから、転移が見つかることも少なくありません。これは、転移した場合の、全身への広がりの遅さが原因とも考えられるため、術後も長期に渡って転移の不安から逃れられないのが大腸癌です。

しかし、大腸癌は早期発見できれば、転移が広がる前に切除手術が可能。特に肝臓への転移は、小さな段階で発見する技術が発達し、生存率が上昇しています。大腸癌の主な転移先は、肺と肝臓です。中でも肝臓への転移は圧倒的に多いので、注意する必要があります。

それでは、大腸癌における肝臓転移と肺転移の特徴と流れ、治療法を見ていきましょう。

肝臓転移

大腸癌になった約11%の人が、肝臓転移していると言われています。大腸から出た血液の行先は肝臓のため、血液の流れに乗って移動した癌細胞が転移してしまうのです。これを血行性転移と言います。自覚しやすい症状が少ないのが特徴です。腹痛や怠さ、腹水が溜まる、黄疸が見られるなどの症状が出たら、すぐに肝臓への転移を疑いましょう。

症状

肝臓に転移したとしても初期段階であればほとんど症状はありません。そのため、気づかずに生活してしまう方も多いのです。

自覚できる症状として代表的なのが、黄疸だといえるでしょう。肝臓転移が起こると肝臓の機能が著しく低下し、黄疸を招いてしまいます。

また、お腹の右上あたりに鈍痛を感じることもあるため、大腸癌で転移のリスクを抱えていてお腹に鈍痛を感じた方は転移を疑いましょう。特に初期の段階は何となく鈍痛があるような気がする…程度の痛みであるため、見逃してしまいがちです。

肝臓の機能が低下すると倦怠感も発生しやすくなります。体を動かしたわけでもないのに妙にだるい、疲れが取れない場合も肝臓転移の可能性があるでしょう。

治療方法

一番効果が高いのは、外科手術による腫瘍の切除です。手術を試行するには、腫瘍の大きさが要になります。腫瘍の数が多くても、正常に機能している肝臓を十分に残せるなら問題はあまりないといえるでしょう。

残せる肝臓が少ないと予測される場合には、切除する部分の肝臓にある門脈を閉塞させ、残す部分の肝臓を大きくする門脈塞栓という処置を行います。また、万が一手術後再発しないよう、念を入れて抗がん剤治療を行う事も多いです。腫瘍が小さく、数が多い場合にも、抗がん剤治療は用いられます。

抗がん剤治療の方法は、薬の服用と点滴の二種類。点滴の場合、冠動脈にカテーテルを挿し込み、抗がん剤を投与します。薬の服用よりも、直接的かつ少ない量で投与が可能。副作用も少ないです。

他にも、癌細胞を電磁波で凝固させ焼却するマイクロ波凝固療法(MCT)や、ラジオ波焼灼療法(RFA)など、様々な治療法があります。転移した腫瘍を取り除いた場合、約40%の確率で症状が改善できると言われています。

肺転移

肺転移は、大腸癌から直接ということではありません。まず、大腸癌が肝臓へ転移し、そこから肺へ血液の流れとともに癌細胞がやってくるという流れが多いです。転移すると、息苦しさや長引く咳、血痰などの症状が現れます。

症状

肺に転移した場合の代表的な症状ともいえるのが、咳が出るということです。風邪の場合、2~3日程度で良くなるケースが多いですよね。しかし、1週間以上続く咳がある場合は肺転移の可能性が考えられます。

ただの咳ではなく、血痰が出る場合は肺転移が起きていなかったとしても体の中で何か大きな異常が発生している可能性が高いため、すぐに病院で診察を受けるようにしましょう。

また、肺といえば呼吸をするために欠かせない臓器でもあるため、肺転移が起きた場合は息苦しさや呼吸困難などを感じることもあります。物を食べた時に何となくつかえる感じがするというのも代表的な症状です。

治療方法

肺転移の場合、一般的に胸腔鏡手術を行います。胸に小さな穴を数か所開け、手術器具とカメラを挿入、カメラの映像を確認しながら腫瘍を切除する手術方法です。

この治療法は、身体にかかる負担が少なく、術後も回復が早いメリットが。胸腔鏡手術で取り逃した小さな癌には、抗がん剤を使った化学療法や、ラジオ波焼灼療法、放射線療法などの治療が行われる場合もあります。

腹膜転移

大腸癌が進行すると、癌細胞が腸管を破り腸の外へ出てしまうケースも。外へ出た癌細胞は、腹膜を伝い広範囲に転移できるようになります。これが腹膜転移です。

腹膜転移する先は、主に脳と骨。脳転移の場合は、麻痺や痙攣、視界がぶれる、呂律が回らない、ふらつくなどの症状が現れます。放っておくと、頭痛や吐き気、意識障害などが起こるほど腫瘍が肥大化することに。

また、骨へ転移する可能性は1~2%とかなり低いと言われていますが、もし転移してしまった場合には治療が難しいため注意が必要です。骨を溶かし破壊するので、麻痺や痛みなどの症状があります。

症状

初期の段階で感じやすい変化はしこりが発生するということです。小さいしこりの段階で発見できる方もいれば、大きくなって腸管を圧迫するような状態になってからやっと気づく方もいます。

腹膜藩種はCT検査をしたとしても発見されにくく、しこりが大きくならなければ検査を受けても見つからない場合もあるため厄介だといえるでしょう。しこりが大きくなった場合には圧迫された腸管が腸閉塞を起こすケースも多いです。

腸閉塞が起きた場合には吐き気を感じる方もいます。痛みも強く出るので、このような痛みが発生してからやっと腹膜転移に気づけた方もいるようです。痛みは一度治まってもすぐに繰り返すので、病院で検査を受けましょう。

治療方法

脳転移の場合、ガンマナイフという放射線治療を行います。腫瘍の位置や大きさ、形に合わせ、一点集中で照射する治療法です。放射線の誤差は2mm以内。

脳組織へのダメージを小さく抑えられる治療です。骨転移は、痛みをモルヒネで抑えながら、放射線治療と抗がん剤治療を並行して行います。

転移予防のために

最近効果が認められた抗がん剤に、UFTというものがあります。

大腸がんの治療後の再発・転移リスクをコントロールするために、UFTを使った治療は今後標準化していくと注目されています。

もし大腸癌が転移したら

大腸癌の転移では、自覚症状が現れにくく進行しやすい肝転移で癌が深刻化する、脳や骨にまで転移する可能性のある腹膜転移で意識障害や麻痺などの症状が現れるなど、厄介な転移が多いことが特徴です。脳に障害が起きてしまえば、癌の症状に加えて、日常生活に支障が出る状態にまで発展してしまうでしょう。

治療が難しい転移もありますが、そのような場合はセカンドオピニオンによって、体の状態に適した治療方法を知ることが最も大切です。

転移癌や癌で評判の良い医院の中には、大腸癌を治療のメインとして扱っている場合もあり、大腸癌からの転移の治療にも光を与えてくれるでしょう。大腸癌の転移が見つかったら、癌治療で評判の高い医院に相談することがおすすめです。

転移した大腸がんを治療できる病院

癌を発見したときには、すでに他の所に転移してしまっていたなんてことは実は少なくありません。それは、大腸がんでも一緒です。もし、病院で検査して転移した癌が見つかった場合、検査した病院で「治療します」と焦って判断するのはやめましょう。

実は転移した癌の治療は癌治療の中でも難しいとされているため、中途半端な技術を持っている医師に任せるのは危険だと言えます。転移した癌治療の実績を豊富に持った医師を選んで相談するようにしましょう。

大腸癌の治療と選択の基準

大腸癌の治療法を検討する際に指標となるのが、大腸癌の進行度であり、一般的にそれは「ステージ(病期)」として表されます。大腸癌のステージは粘膜上に発生した癌の深達度や転移の有無によって分類されており、どの程度の深さまで癌が広がっているかで早期癌や進行癌として区別されます。

ステージの分類

大腸癌のステージは大きく分けて「0~Ⅳ」の5段階で設定されており、それぞれのステージは大腸癌の深達度やリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無といった基準で分類されます。

深達度

深達度とは、大腸壁の粘膜上に発生した大腸癌が、その表面からどの程度の深さまで大腸壁の中へ浸潤しているのかを示す指標のこと。アルファベットの「T」と英数字によって分類されます。

具体的には、粘膜上にとどまっている「Tis」から粘膜下層へ達した「T1」、そこから徐々に深さを増すごとに数字が大きくなっていき、最終的に「T4b」の深達度となります。Tに続く数字が大きいほど癌がより深部に到達していることを表します。

ステージ(病期)

大腸癌のステージは「0期」から「Ⅳ期」まで5段階存在し、癌が粘膜内にとどまっている場合は0期、そこから深達度やリンパ節転移の数によってⅡ期やⅢ期へ進行。肝転移や肺転移が認められたり腹膜播種が生じていたりすればⅣ期として区分されます。

大腸癌のステージが0期やⅠ期といった状況であれば、内視鏡治療など低侵襲な手術によって根治を目指せる可能性も高まりますが、Ⅱ期やⅢ期といった具合に進行していくほど治療の難易度が高まり、再発リスクや転移リスクも強くなるでしょう。

なお遠隔転移がある場合はⅣ期となり、実際の治療は癌の状態や転移部位などに応じて個々に判断されます。

大腸癌のステージ(病期)ごとの治療

大腸癌のステージ(病期)は治療法を検討する際の指標としても利用されており、それぞれの大腸癌のステージを前提としつつ、個々の患者の要望や心身の状態、それまでの既往歴などを総合的に考慮して最適と思われる治療法が選択されます。

ここでは一般的に大腸癌のステージに対応して候補となり得る治療法について分類していますので、ステージと治療法の相関性を比較する参考としてご活用ください。

※参照元:がん情報センター|大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療

ステージ0期

ステージ0期において治療の選択肢を考える際、まず注目されるのが「癌が切除可能か否か」という点です。特にステージ0期は癌が粘膜内にとどまっている早期癌の状態であり、基本的に内視鏡治療が可能かどうかで最初の判断が行われます。

内視鏡治療を行える場合、内視鏡によって大腸の内側から発生している癌を切除する外科治療が候補となります。また、内視鏡手術によって切除した病変組織を病理検査によって確認し、改めて組織型や再発リスク、転移リスクといった総合評価を行うという流れです。

病理診断の結果、改めてハイリスクであると認められた場合は開腹手術や腹腔鏡下手術といった外科手術が実施されます。

なお、そもそも内視鏡治療が困難な場合は外科治療が最初から第一候補となるでしょう。

ステージⅠ期

ステージⅠ期に関しては、癌の状態が軽度浸潤であるか、高度浸潤であるかによって選択肢が分かれます。

ステージⅠ期の大腸癌で軽度浸潤の場合、ステージ0期と同様に内視鏡治療の可否が確認され、可能であれば内視鏡治療が選択されます。またその後の流れに関してもステージ0期の場合と同様です。

一方、ステージⅠ期でも高度浸潤が認められる場合は、内視鏡治療でなく開腹手術や腹腔鏡下手術といった手術(外科治療)が第一候補として検討されます。

なお外科治療によって切除された組織は改めて病理検査・病理診断へ回され、結果的に再発リスクなどが高くなければ経過観察に移行するという流れです。

ステージⅡ期・Ⅲ期

ステージⅡ期とⅢ期については手術(外科治療)が最初に推奨される治療法となります。ただし、ステージⅠ期(高度浸潤)のケースと異なり、術後の病理診断によって再発リスクが高いと認められたステージⅡ期については術後に改めて補助化学療法(薬物療法)が推奨されます。

ステージⅢ期の場合は、外科治療後に薬物療法による補助化学療法を推奨されることが一般的です。

ステージⅣ期

遠隔転移が生じているステージⅣ期は、まず他臓器へ転移した癌(遠隔転移巣)の切除が可能かどうかを診断されます。そして遠隔転移巣の切除が可能であると判断された場合、大腸癌の原発巣と転移先の転移巣の療法を外科治療(手術)によって切除することが推奨されます。

一方、原発巣の切除は可能なものの、遠隔転移巣の切除が行えない場合、改めて原発巣の症状によって治療法を検討。原発巣による腸閉塞や穿孔、痛みなどの症状がある場合、手術と薬物療法や放射線治療を併用する集学的治療による対処が一般的です。一方、原発巣の症状がない場合は薬物療法を優先しつつ、放射線治療や対処療法が提案されます。

原発巣の切除も遠隔転移巣の切除も共にできない場合、薬物療法や放射線治療、対処療法といった手術以外の選択肢が主となるでしょう。

大腸癌の治療

大腸癌の治療は基本的に、外科治療によるアプローチで癌を切除することが第一となりますが、癌のステージによっては手術困難な場合もあり、患者の体調や年齢によっては手術に耐えられない場合もあるでしょう。

そのため大腸癌の治療は癌のステージや深達度はもちろん、個々の患者の条件を踏まえて治療を考えなければなりません

内視鏡治療

内視鏡は胃カメラや大腸カメラといった検査の際にも使用される医療器具であり、チューブの先端にデジタルカメラや臓器を切除するための装置が搭載されているものです。

内視鏡治療は早期癌を対象として行われる外科治療であり、患者の体をメスで切り開く必要がなく、患者へのダメージを軽減した低侵襲手術として採用されています。

なお食道癌や胃癌における内視鏡治療は口から挿入しますが、大腸癌の場合は肛門から内視鏡を挿入して治療を行います

大腸癌における内視鏡治療には「内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)」や「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」など複数の術式があることも特徴です。

内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)は、肛門から内視鏡を挿入して行う外科治療であり、大腸内でキノコ状に隆起した病変を内視鏡のワイヤーで切除する治療法です。

具体的には内視鏡の先端からリング状になった細いワイヤー(スネア)を出して、それをポリープの茎の部分へ回して病変を締め付けながら、高周波電流によって組織を焼き切ります。なお、1cmまでの小さなポリープで茎が存在しないような場合は、高周波電流を使わずにスネアを絞ってそのまま病変を切除するため、「コールドポリペクトミー」と呼ばれます。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

ポリープのようにスネアのワイヤーを引っかけやすい病変に対して、大腸癌の中には隆起がなだらかでスネアを引っかけにくい病変もあることが特徴です。そのため、そのような大腸癌についてはあらかじめ病変の下へ生理食塩水などを注入し、病変を浮き上がらせてからスネアをかけて高周波電流で切除するという流れになります。

これは内視鏡的粘膜切除術(EMR)と呼ばれる治療法であり、癌病変の周囲にある正常な組織ごと大腸癌を切除するため、術時に出血や穿孔の有無をチェックしなければなりません。

主に、キノコのような形に盛り上がった茎がある病変に対して行われます。内視鏡の先端からスネアと呼ばれる輪状の細いワイヤーを出し、スネアを茎に掛けて病変を絞めつけて、高周波電流で焼き切ります。茎のない、1cmまでの小さなポリープに対しては、高周波電流を用いないで、そのままスネアで切り取るコールドポリペクトミーという方法が主に行われます。

引用元:がん情報サービス|大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

比較的なだらかで、範囲が広くEMRで対応できないような大腸癌の場合、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれる術式が採用されます。

病変の下へ生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムといった薬剤を注入し、病変を浮き上がらせるところまではEMRと同じですが、ESDはワイヤーをかけて切除できない広い範囲が対象となっているため、その周囲を高周波ナイフで切開して剥ぎ取るという工程に変化します。

EMRよりも切除する範囲が広いため手術時間が長くなり、出血や穿孔といったリスクも少し上昇することがポイントです。

内視鏡的治療の合併症

内視鏡治療は開腹手術に比べて低侵襲な手術であり、術後の回復も早いことがメリットです。しかし、それでも大腸の中で組織の一部を切り取るために、出血が生じたり、切除範囲が大きすぎれば消化管に穴があく穿孔を引き起こしたりといったリスクもあるでしょう。

手術(外科治療)

癌のステージが進行している場合や内視鏡だけでは癌がきちんと取り除けないような場合、開腹手術によって癌の切除を行うことになります。開腹手術が必要な大腸癌の場合、手術で取り除くのは癌そのものだけでなく、癌が広がっている腸管やリンパ節なども含まれます。

結腸癌の手術

結腸に生じた癌の場合、癌の周りのリンパ節もまとめて切除するため、癌のあるポイントから10cmほど離れた部分で腸管を切除することになるでしょう。なお癌の生じている場所によって腸管の切除範囲が異なり、それぞれ回盲部切除術や結腸右半切除術、横行結腸切除術といった名称で術式が区別されています。

なお結腸に癌が生じている場合、排便が困難になることもあり、そのようなケースでは便の通り道としてバイパス手術を行ったり人工肛門(ストーマ)を作る手術を行ったりするケースもあります。

がんの周囲にあるリンパ節を同時に切除するために、がんのある部位から10cmほど離れたところで腸管を切除します。がんがある部位によって切除する腸管の範囲が決まり、部位により回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などの方法があります。また、がんを切除できない場合には、便が流れるように迂回路を作る手術(バイパス手術)や人工肛門(ストーマ)を作る手術を行うことがあります。

引用元:がん情報サービス|大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html

直腸癌の手術

直腸は肛門へつながっている部分であり、大腸全体の中でも結腸より肛門側へ近い場所に当たります。直腸の周囲には前立腺や膀胱、女性であれば子宮や卵巣といった臓器が存在しており、癌の状態によっては周辺の臓器への転移や浸潤を考えなければならないこともあるでしょう。

直腸のどこに癌が発生したかで切除する部位や範囲が異なり、直腸局所切除術・前方切除術・直腸切断術・括約筋間直腸切除術といった術式からそれぞれ適切なものを選択することになります。

また、癌の位置によっては人工肛門を作ったり肛門を残したりといった判断も分かれます。直腸の周辺には排尿や性機能に関連した自律神経も存在しており、癌の進行度によっては神経を残して術後の機能障害を抑えるための「自律神経温存術」が採用されることもあります。

直腸局所切除術

早期の大腸癌(直腸癌)で、癌と周辺部分のみの切除で根治が期待できるような場合、癌の発生場所が肛門のすぐ近くであれば癌を目視しながらの切除が可能です。

また、患者にうつ伏せの状態で寝てもらい、お尻の側からメスを入れて仙骨の横から癌を取り除く経仙骨的切除(経括約筋的切除)といった方法も存在します。

前方切除術

患者の体の前側(お腹側)からメスで切り開き、癌の存在する腸管を切除してから縫合して閉じる手術です。なお腸管の切断部を縫い合わせる部位によって術式の名前が区別されており、腹膜反転部より上部で縫い合わせる場合は高位前方切除術、腹膜反転部より下部で縫い合わせる場合は低位前方切除術と呼びます。

特に低位前方切除術に関しては一時的に人工肛門を作るケースもあります

直腸切断術

直腸切断術は、癌の根治を目指して直腸と肛門をまとめて切除する方法です。肛門が永久的に失われるため人工肛門が必要になるため、術後も人工肛門を装着して暮らしていくことが前提となります。

また特に高齢の患者の場合、そもそも肛門括約筋の筋力が低下しているため、肛門から癌が離れているような場合でも人工肛門の造設が推奨されるケースもあるでしょう。

なお、直腸だけを切除して肛門を残すようなケースにおいて、腸管を縫合せずに人工肛門を設置する手術は「ハルトマン手術」と呼ばれます

括約筋間直腸切除術(ISR)

肛門に近い直腸下部の癌であっても、適切に癌を切除することが可能であり、さらに術後の肛門機能を正常に保てると考えられる場合は、肛門括約筋の一部だけを切除して術後の肛門機能を温存するケースがあります。

これは括約筋間直腸切除術(ISR)と呼ばれ、人工肛門を回避して術後も自分の肛門で自然な排便が可能です。ただし、残存させる部位が多くなることで大腸癌の再発リスクが高くなるうえ、ISRを行っても術後の排便機能が低下する恐れはあります。本当にISRを選択するべきかどうかはメリットやデメリットを総合的に考えた上で主治医と相談しなければなりません。

腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術

腹腔鏡下手術は内視鏡治療の1種であり、患者の体に小さな穴を開けて、そこから腹腔鏡を挿入してカメラの画像を見ながら癌の切除などを行います。腹腔鏡を使用する際には患者の腹部は二酸化炭素などで膨らまされており、手術を行う空間を確保して行われます。

腹腔鏡は患者の体に穴を開けるため肛門から内視鏡を挿入する場合よりもダメージはありますが、開腹手術と比べれば肉体的負担を軽減できるため、術後の痛みを軽減して回復までの時間を短縮できるメリットがあります。しかし、開腹手術よりも手術時間が長くなる上、患者の体の状態や執刀医の技量によって手術の品質が左右されることはデメリットといえるでしょう。

一方、腹腔鏡下手術を発展させて、腹腔鏡下手術の低侵襲性と開腹手術の治療効果という2つのメリットを同時に追求したものがロボット支援下手術です。

ロボット支援下手術は文字通り医療用に開発された手術支援ロボットを活用する手術であり、執刀医はロボットアームに搭載されたカメラの映像をモニターで確認しながら、遠隔操作でロボットアームを操作して患者の体内にある癌へアプローチします。

ロボット支援下手術は高精細デジタルカメラや各種補助機能によって手術の品質を追求できる半面、そもそも手術支援ロボットを導入している医療機関でしか治療を受けられないため、全国的には発展途上の治療法といえるでしょう。

術後合併症

大腸癌の手術を行った場合、腸管の切除後に行う縫合が不十分であったり、腸管内の洗浄が不適切であったりすることで、縫合不全や創感染、腸閉塞といった合併症が生じるリスクもあります。

また手術によって自律神経を切除した場合、排便障害や排尿障害が発生することもあります。これらの機能障害は手術から時間が経過すれば改善することも多いものの、術前と全く同じ状態まで回復することは難しい点に注意してください。

薬物療法(化学療法)

大腸癌でも抗がん剤などを使用する薬物療法(化学療法)が行われますが、主として大腸癌で薬物療法を選択するケースは以下のどちらかに該当する場合となります。

癌の状態や遠隔転移の有無によっては、そもそも外科治療だけで癌を全て取り除くことが難しいケースもあるでしょう。そのような場合、化学療法によって手術で対応できない癌の治療を目指すことになります。あるいは、手術の前に化学療法を行って癌の状態をコントロールし、改めて手術可能な状態になってから手術を行うといった術前補助化学療法が採用されることもあります。

また手術は可能であったものの、手術だけで全ての癌細胞を取り除けないと判断さた場合、術後の再発リスクを軽減するため術後に化学療法を重ねて行う術後補助化学療法も効果的です。

補助化学療法

補助化学療法は文字通り補助的に行われる化学療法であり、複数の標準治療を組み合わせることで治療効果を向上させる集学的治療の1つとして実践されます。

補助化学療法としては上述したように、手術の前後に行われる化学療法があり、それぞれ手術の成功率や難易度をコントロールし、再発リスクをマネジメントするために有効です。

また補助化学療法は外科治療だけでなく放射線治療と組み合わせられることもあります。化学療法と放射線治療を組み合わせた治療法は化学放射線療法と呼ばれ、外科手術では対応困難な大腸癌に対して選択されることがあります。

一般的な術後補助化学療法はステージⅢの大腸癌や、再発リスクが高いと懸念されるステージⅡの大腸癌に対して実施が推奨されており、使用される抗がん剤には「細胞障害性抗がん薬」を使います。補助化学療法の治療期間は半年ほどですが、患者によっては3ヶ月程度で終了するケースもあります。

切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法

手術による切除が不能なほど進行している癌や、手術後に再発したような大腸癌については、外科治療で対応が難しいため薬物療法や放射線治療が中心となります。ただし現時点で切除不能な状態であっても、化学療法の結果、癌が退縮すれば手術が可能になることもあるでしょう。

前提として、進行癌では薬物療法だけで根治を目指すことは困難です。そのため患者の意向を踏まえてQOLの維持向上を目的として、緩和治療を前提とした薬物療法が選択されることもあります。また抗がん剤の使用は肝臓や腎臓といった内臓へ負担をかけるため、それらの臓器の機能が正常に保たれていることも薬物療法の選択条件です。

なお、大腸癌ではMSI検査などのような癌遺伝子を調べる検査が推奨されており、その結果によって使用すべき抗がん剤の種類が異なる点も見逃せません。

MSI-Highの場合

「MSI-High」とは、MSI検査で確認できる結果であり、遺伝子に生じた損傷の修復が行われにくい状態を指しています。この場合、最初の化学療法の段階(一次化学療法)において「免疫チェックポイント阻害薬」の使用が可能です。

免疫チェックポイント阻害薬は癌細胞が持っている機能を阻害して、患者の免疫機能によって癌細胞を攻撃できるように整える薬です。そもそも癌細胞は異物であり、本来であれば患者の免疫機能によって適切に排除されます。しかし癌細胞には免疫機能の働きを抑制して、免疫細胞の攻撃から逃れる性質が備わっていることは問題です。そしてこの機能により癌細胞は体内で増殖が可能となります。

免疫チェックポイント阻害薬は、この癌細胞による免疫回避機能を阻害して、患者本来の免疫機能で癌細胞を攻撃できるようにします。なお一次化学療法で効果が認められない場合、さらに遺伝子検査を進めて大腸癌に関連した遺伝子の状態を調べてから適切な抗がん剤を選択します。

一次治療では、免疫チェックポイント阻害薬を用いることが勧められています。
二次治療では、一次治療で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から検討します。一次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しなかった場合には、二次治療で免疫チェックポイント阻害薬を用いることがあります。

引用元:がん情報サービス|大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html

MSI-Highでない場合

MSI-Highでない場合は免疫チェックポイント阻害薬の使用が推奨されないため、遺伝子検査の結果に応じて使用する抗がん剤を選択しなければなりません。実際にどのような薬を使用できるかは患者の状態や癌の状態、またそれまでに行ってきた一次化学療法や二次化学療法の内容などによっても異なるため、詳細は主治医と相談してきちんと検討します。

薬物療法の副作用

薬物療法は薬の力で癌細胞を攻撃する治療ですが、同時に癌細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃するというデメリットがあります。

そのため薬物療法では様々な副作用が引き起こされ、その程度や症状によっては化学療法の継続が困難になることも少なくありません。

抗がん剤の副作用としては倦怠感や吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、下痢、口内炎、手足のマヒや腫れなど様々なものが存在し、患者や抗がん剤の種類によってどのような症状が強く表れるかも異なります。

また患者自身が自覚しにくい副作用として白血球や血小板の減少、貧血、肝機能や腎機能の低下といった体内の影響もあります。

副作用は患者にとって大きな負担になり、治療計画を考える重要な判断材料の1つになるため、少しでも辛さや変化を感じれば速やかに主治医へ報告して相談することが大切です。

免疫療法

免疫療法は患者の免疫機能を活用して癌細胞を攻撃する治療であり、化学療法の一部として考えられます。

2022年10月時点で大腸癌の治療として効果が明確に認められている免疫療法は、上述した「MSI-Highにおける免疫チェックポイント阻害薬の使用」のみとなっており、その他の治療法として大腸癌の治療効果が証明されているものは存在していません。

免疫療法と呼ばれる治療には様々なものが存在しており、その中にはクリニックなどで自由診療として受けられるものもあります。それらは治療効果がはっきりと証明されていない上、治療費が全額患者負担となるケースが多いため、治療を受ける前にしっかりとデメリットやリスクを考えることも不可欠です。

免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2022年10月現在、大腸がんの治療に効果があると証明されている方法は、MSI-Highの場合に免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法のみです。免疫チェックポイント阻害薬を使用する方法は、薬物療法の1つでもあります。

引用元:がん情報サービス|大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html

なお国立がん研究センター東病院では、大腸癌の患者に対して「ニボルマブ」という免疫チェックポイント阻害薬を使用した化学放射線療法や外科治療を行い、特に事前適性が高いと見込まれた患者についてはおよそ60%の確率で癌が完全に消失したという治験結果を得ています。

通常の化学放射線療法のみだと完全奏効(切除した組織ですべてのがん細胞が消失した状態)は10-15%ですが、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できないと言われているマイクロサテライト不安定注2がない(MSS)患者さんでも今回の新しい治療によって30%の患者さんで完全奏効が得られ、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できるマイクロサテライト不安定性のある(MSI-H)患者さんでは60%の患者さんで完全奏効が得られました。

引用元:国立がん研究センター東病院|直腸がんにおいて術前の免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られる症例の抽出に成功
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/gastrointestinal_oncology/040/20220127203107.html

免疫療法の副作用

免疫療法は化学療法の1種であり、使用する免疫チェックポイント阻害薬によって様々な副作用のリスクが生じます。

そのため大腸癌の治療として免疫療法を検討する際には、あらかじめどのような副作用が起こりやすいのかについても確認しておきましょう。

予防やスクリーニングに関する情報

予防について

原発性の大腸癌の発生リスクは生活習慣と関連性があるとされており、例えば喫煙や飲酒、肥満といった要因によって大腸癌の発生率が高まっていくと知られています。また女性に関しては加工肉や赤身肉を摂取することが大腸癌の危険性につながるとされていることも踏まえて、予防について考えていきましょう。

生活習慣の改善による予防

大腸癌を含めて消化器系の癌の発生については食事や飲酒、運動といった生活習慣が関与していると考えられており、必然的に生活習慣を見直して適正化することで癌の予防や生活習慣病など様々な疾患のリスク軽減につながると期待されています。

国立がん研究センターでは癌の予防やリスク軽減に関して多角的な研究を行っており、それらの研究で得られた結果やデータを総合的に評価することで、科学的根拠にもとづいた「がん予防ガイドライン」を策定していることも重要です。

国立がん研究センターが提供する「科学的根拠に基づくがん予防」によれば、日本人の癌リスクに関わる要因として5つの生活習慣と、感染症を合わせた6種類の項目が挙げられており、それぞれの生活習慣や感染症に配慮することで癌リスクを抑えられると期待されています。[注4]

お酒を控える

大腸癌の発生に関連した生活習慣として、飲酒はリスクの1つであると考えられています。そのため、日常的に飲酒習慣のある人の場合はアルコール量を減らして節酒に努めることで癌の発生リスクの軽減を期待できるでしょう。

また、そもそも日本人の中には体質的にアルコールへの耐性があまり高くない人も多く、そのような人の場合は少量のアルコール摂取でも癌リスクを高める可能性があるのです。そのため節酒でなく断酒・禁酒によって生活習慣を健全化する方が良いといった人もいるでしょう。

実際にお酒を全く飲まない方が良いのか、多少の飲酒は許容されるのか、遺伝的要因も影響するため不安があれば主治医へ相談して検討してください。

禁煙をする

喫煙は日本人の癌要因として大きなものだと考えられており、特に日本人男性の癌原因として最も多いものが喫煙であるとされています。

例えば国立がん研究センターがん情報サービスのデータによれば、日本人男性の癌のうち約43.4%が生活習慣による影響を受けているとされており、23.6%は喫煙がリスクであるという点も重要です。

見方を変えれば、禁煙をすることで癌のリスクを軽減できると期待できるでしょう。

ただし喫煙による影響は患者本人がタバコを吸っている場合に限らず、周辺に喫煙者がいることで副流煙を吸い込むという受動喫煙でも発生することが問題です。大腸癌は家族性のリスクも懸念されるため、同じ家庭内で喫煙者がいる場合は家族全員で禁煙を心がけることも1つのアイデアとして効果的です。

運動不足を解消する

運動不足は心肺機能を低下させたり癌リスクを高めたりする生活習慣の1つとされており、適度な運動習慣や身体活動を日常生活へ取り入れることで健康寿命の増進や癌リスクの軽減に寄与できることは見逃せません。

いきなり過度な運動をしたり、無理をして体を動かしたりすることは危険ですが、適切な運動を行うことは健康的な生活環境を整えるために役立ちます。

食生活の改善

大腸癌は消化系の癌であり、暴飲暴食や塩分過多の食事といった要素もリスクを高める原因として考えられます。

そのため大腸癌の予防を考える場合は飲酒だけでなく普段の食生活についても改善していくことが重要です。

食生活の改善では食べ過ぎや飲み過ぎを回避して、肉や炭水化物だけでなく野菜や果物など栄養価のある食事も食べるようにし、またゆっくりと噛んで満腹中枢を刺激してあげることも大切です。

なお、特に女性の場合は加工肉や赤身肉が大腸癌のリスクへつながる可能性も示唆されており、そのような食材やメニューにも配慮できるよう心がけていきましょう。

大腸がんの発生は、生活習慣と関わりがあるとされています。喫煙、飲酒、肥満により大腸がんが発生する危険性が高まります。女性では、加工肉や赤肉の摂取により大腸がんが発生する危険性が高くなる可能性があるといわれています。

引用元:国立がん研究センターがん情報サービス|大腸がん(結腸がん・直腸がん)予防・検診
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/prevention_screening.html

適正体重をキープする

肥満やメタボリックシンドロームは癌のみならず様々な病気や体調不良の原因と考えられており、太り過ぎだけでなく痩せ過ぎもまた健康な生活を送る上でリスクとなります。

すでに体重が重すぎる人に関しては食生活の見直しや運動習慣の導入によって適正体重へ近づけるように努め、痩せ過ぎの人についても体重減少の原因や理由を見極めて、ゆっくりとでも着実に健康習慣の改善を目指していくことが望ましいでしょう。

なお適正体重は年齢や性別、身長といった要素で変わるため、自分の適正体重がいくらであるのか主治医に確認しておくことも大切です。

感染回避による予防

日本人における癌の原因として、生活習慣病と並んで多いものが感染症による影響です。また大腸癌は原発性の癌だけでなく、他の臓器に発生した癌から転移して発生するものもあり、総合的な癌予防を考えることは結果として大腸癌の予防効果を一層に高められることがポイントです。

女性は感染症が癌の原因になることが一般的に考えられており、適切な対策で感染症を予防することが、結果として癌リスクの低減に役立ちます。

感染症は細菌による感染症やウイルスによる感染症など様々なものがありますが、一般的に癌との関連性が指摘されている感染症の一例としては以下のようなものが挙げられます。

例えばヘリコバクターピロリ菌への感染は胃粘膜の炎症や胃の伸縮を引き起こすと知られており、ピロリ菌に感染することで胃癌リスクが大きく高まると知られていることは無視できません。

スクリーニングについて

スクリーニングとは未発見の要素や課題を調べるために行われる検査やその手法を指す言葉であり、大腸癌のスクリーニングはすなわち未発見の癌を発見して、癌の早期発見・早期治療へつなげていくための検査です。

定期的な癌検診などでスクリーニングを適切に実施することは、患者本人も自覚していない癌のリスクを発見できる可能性を高めるため、結果として治療の効果や品質の向上にもつながることが重要です。

大腸癌に関連したスクリーニングは色々な種類がありますが、ここでは一般的に用いられる大腸癌スクリーニングの方法をまとめましたので参考にしてください。

全大腸内視鏡検査

内視鏡検査は消化管の癌の診察やスクリーニングへしばしば用いられる方法であり、大腸癌に関しては特に最初のスクリーニングとして全大腸内視鏡検査が行われます。また全大腸内視鏡検査は「大腸カメラ」と呼ばれることもあります。

具体的なやり方としては、あらかじめ下剤を服用して腸内を空にした後で、肛門から内視鏡を挿入して直腸~盲腸の大腸の全範囲を内部から観察して病変の有無をチェックするという流れです。もし腸内にポリープなどが見つかった場合、その大きさや状態によっては治療することもありますが、微少なポリープだけであればその場で治療せず次回の検診で経過観察を行うこともあるでしょう。
また必要に応じて組織の一部を採取し、悪性腫瘍かどうか病理検査へ回すことも考えられます。ただしその場合は出血や穿孔といった副作用のリスクにも配慮しなければなりません。

腸の状態に問題があって内視鏡だけで大腸の奥まで観察できない場合はX線検査を併用します。

大腸のX線検査(大腸内視鏡との併用法)

内視鏡だけで大腸の全部を観察することが困難である場合、内視鏡が届かない範囲に関しては改めてX線検査によって画像診断を行うことが一般的です。

大腸のX線検査もまた下剤で大腸を空にした後、肛門から造影剤としてバリウムを注入し、さらに空気を入れて大腸を膨らませて大腸全体の様子を多方向からX線撮影によって画像化します。

X線検査は内視鏡を挿入することが難しい範囲もカバーできるスクリーニングの方法ですが、放射線被曝のリスクなど患者に対するデメリットもあることは無視できません。

大腸CT検査(CTC検査)

通常のX線撮影検査でなく、CT検査によって大腸の様子を観察して癌の有無をチェックするスクリーニングもあります。

CT検査は患者の体内に放射線を照射して画像を取得する画像診断技術であり、患者の体内の断面図を撮影できるため、より詳しく大腸内の様子を観察することが可能です。なお前処置として検査前日から検査食を食べるか食事量を制限し、さらに下剤を用いて大腸の中身をコントロールします。その上で大腸CT専用の炭酸ガスを注入して大腸を拡張させてCT撮影をするという流れです。

また、3次元的な大腸のCT画像を取得する撮影として「大腸3D-CT(CTC検査)」もあり、128列CT装置などワークステーション性能を向上させられた環境で実施することができます。

CTC検査のメリットとして、腸管癒着など腸内に異常があって内視鏡が挿入困難な人でも、苦痛を抑えて大腸内のスクリーニングを行えることがあります。また大腸内視鏡検査と比較して下剤の量が少なくて済むため、下剤を飲むことが苦手な患者でもチャレンジしやすいことは利点です。

反面CTC検査では大腸の粘膜の色調観察が行えず、またポリープの切除や組織生検も行うことができません。

便潜血検査

大腸癌のスクリーニングとして便潜血検査も重要です。便潜血検査は排便に含まれている血の有無を調べるものであり、大腸癌が進行すると腸管から出血して便に血が混ざることから便潜血検査によって癌のリスクを検討できます。

ただし便に潜血が混在する原因は大腸癌だけでなく、例えば痔によって出血している場合や、腸内に炎症が発生して出血している場合でも潜血が混ざることはあります。そのため便潜血検査はあくまでも癌リスクを診断するための基準の1つであり、便潜血検査で陽性になれば改めて内視鏡検査といったスクリーニングを行うことになるでしょう。

なお、腸内で出血した場合と、胃で出血した場合は便の色が異なることもあります。そのため便の色が鮮やかな赤色であったり、どす黒い色であったりする場合、それらの色調について主治医へきちんと報告してください。

S状結腸鏡検査

S状結腸鏡検査は内視鏡検査の1種であり、大腸癌として発生率が高い直腸とS状結腸に小型カメラを挿入して内部を観察するスクリーニングです。S状結腸鏡検査のメリットは大腸内視鏡検査と同様であり、あらかじめ下剤や腸内洗浄で内容物をクリアにしてから肛門へ内視鏡を挿入し、50~60センチの範囲を観察します。

特に食事制限などは必要でなく、死亡率の減少に寄与することはメリットです。反面、内視鏡を挿入するリスクもゼロでないため集団検診の一次検診として利用されることは推奨されません。

結腸鏡検査

結腸は盲腸からS状結腸までの範囲を指しており、結腸鏡検査はS状結腸鏡検査で到達できる範囲よりさらに奥の範囲を内視鏡で観察するスクリーニングです。そのため結腸鏡検査は上述した大腸内視鏡検査と同様に考えることもできます。

バーチャル結腸鏡検査

バーチャル結腸鏡検査はマルチスライスCTのようなCT検査機を活用した結腸鏡検査であり、上述したCTC検査として提供されていることもあるスクリーニングです。

バーチャル大腸内視鏡検査やバーチャル結腸鏡検査は、内視鏡を挿入せずに、マルチスライスCTを使って3次元的画像を取得することが可能であり、コンピュータの画像処理システムを使うことであたかも内視鏡を挿入した際のように立体的な画像を取得できることが強みです。ただしあくまでもCT画像からコンピュータによって立体化されているモデルであり、実際の色などは判断できないといったデメリットもあります。

DNA検便

大腸癌は遺伝的要因も影響しているとされており、遺伝子診断として患者の糞便から採取したDNAを解析してスクリーニングを行うという研究も進められています。

DNA診断は大腸癌のスクリーニングやリスク診断に有効性があると考える研究者もいる反面、DNA検便は偽陽性のような誤診の発生率が高いという懸念があることも無視できません。

そのため内視鏡では問題がないと診断されているにもかかわらず、DNA検便では陽性になるといったケースも起こり得ます。

スクリーニングのリスク

スクリーニングは大腸癌のリスクを調べたり、大腸癌を早期発見したりするために必要な診断や検査です。そのため定期的な癌検診などによってスクリーニングを適切に実施することは欠かせません。

一方、例えば内視鏡検査では腸内を傷つけて出血や感染症につながるリスクがあったり、X線検査やCTC検査では放射線被曝のリスクがあったりと、個々のスクリーニングによって相応のリスクやデメリットがあることも問題です。

また、スクリーニングでは偽陽性のような誤診のリスクもあります。偽陰性や偽陽性といった誤診結果が生じた場合、適切な診断が困難になるだけでなく、癌が放置されて知らない間に進行してしまうといった恐れもあるため、必ずスクリーニングはリスクをコントロールしながら多角的な検証によって診断の正確性を追求していくことが大切です。

偽陰性の検査結果が出る可能性がある

偽陰性は、本来は陽性になるべき患者のスクリーニングの結果として「陰性」という誤った診断が行われてしまう状態です。偽陰性は陽性患者の体内にある癌のリスクを見逃してしまい、早期に治療すべきといった判断を遠ざけてしまう可能性があるため非常に危険なリスクといえます。

そもそもあらゆるスクリーニングや検査・診察において偽陰性や偽陽性のリスクは存在しており、科学的根拠にもとづいたスクリーニング手法を遵守することでそれらの誤診リスクを軽減して、少しでも高い検査精度を高められるといった点が重要です。

言い方を変えると、検査を行う医師の技量が未熟であったり、検査に用いる機器や設備の状態が悪かったりすると、スクリーニングの品質が低下して偽陰性の危険性が高まってしまいます。そのためスクリーニングを受ける場合は必ず医師や医療機関の実績や検査体制をチェックしておかなければなりません。

偽陽性の検査結果が出る可能性がある

偽陽性は偽陰性の反対であり、本来は陰性となるべき患者に対して「陽性」という誤診結果が出てしまう状態です。

偽陽性は癌が存在しない患者に関しても「癌の恐れがある」と示してしまう現象であり、例えばDNA検便や便潜血検査で偽陽性となった場合、改めてより高度な大腸癌スクリーニングを実施することになるでしょう。

偽陽性は偽陰性と比較して癌を見落とす可能性が少ないため、ともすればあまり害がないように考える人もいます。しかし、そもそもスクリーニング自体にリスクがあるため、本来は必要のない検査を強いるという点でやはり偽陽性もデメリットです。

発見した場合でも健康状態の改善が難しい場合がある

大腸癌は自覚症状の出にくい癌の1つであり、患者が気づかないままどんどんと進行してしまう恐れがあります。すると、ようやくスクリーニングで癌が発見された時点ではすでに治療困難であったり、速やかに健康を回復することができなかったりするかも知れません。

そのためスクリーニングの結果を踏まえて家族や主治医としっかり相談し、自身としてどうしたいのかきちんと考えて治療方針を決定してもらうことが大切です。

スクリーニング検査そのものによる副作用の可能性

大腸内視鏡検査などの内視鏡検査では、低確率であるものの肛門から内視鏡を挿入する際に腸壁を傷つけたり、穿孔が発生したりする恐れもあります。また放射線を使用した検査では被曝リスクがあり、妊娠中の女性や妊娠の可能性のある女性では検査を受けることができません。

便潜血検査やDNA検便は患者に対する肉体的負担やリスクはないものの、偽陰性や偽陽性といった検査リスクが存在します。

そのためスクリーニングを行う場合はそれらのリスクと有効性を比較検証し、きちんとメリット・デメリットを理解することが肝要です。

患者のQOL(生活の質)に関する情報

大腸癌の治療として大腸を切除したり、人工肛門(ストーマ)を装着したりした場合は、その後に様々な影響が懸念され、時には患者の生活の質(QOL)を低下させる恐れもあります。大腸癌の治療後に患者のQOLを低下させないように、体調管理や食生活などを含めて色々な取り組みを考えていくことが大切です。

大腸の切除による消化機能への影響

下痢や便失禁への配慮と対策

大腸は食べ物の消化吸収を行う機構として最終段階の場所であり、胃や小腸で栄養が吸収された残渣から、大腸では最後に水分が吸収されます。そのため大腸を切除すると、水分吸収の能力が低減してしまい、便にも水分が多く残ってしまうことがポイントです。

これにより大腸癌の手術後は下痢や軟便、水様便になりやすくなる上、手術で肛門の筋肉を傷つけている場合、特に術後半年~2年ほどはトイレに間に合わなかったり、気づかないうちに便が漏れてしまったりといった便失禁のリスクが高まることは無視できません。

便失禁の問題は手術後から徐々に良くなっていくとされていますが、どうしても不安な場合は大人用のおむつを装着するといったことも有効です。

便秘や便量の減少などの排便障害

大腸の全部や大部分を手術で失った場合、便を押し出す腸の蠕動運動が低下して便秘になったり、一度に排出される便量が減少したりといったことも起こります。

反面、便秘を改善しようと水分の摂取量を増やしてしまうと上述した便失禁のリスクが高まる恐れもあり、特に手術後しばらくは食事と排便のバランスを自分なりに考えながら、普段の暮らしの中でトイレに行くタイミングや感覚などを考えていくことが大切です。

人工肛門との付き合い方

人工肛門を装着している人の中には、人よりも便の臭いなどへ過敏になり、中には過剰なストレスや不安を抱いてしまう人も少なくありません。人工肛門は排出口の排泄物を綺麗に除去するなど、適切に使用することで悪臭の発生を予防しやすくなります。また、食事の後に便やガスの臭いを抑える食材や消臭健康食品なども研究されているため、気になる人は医師や看護して相談してみましょう。

手術後しばらくは食品選びに気を付ける

胃癌の患者と違って、大腸癌の治療後の食事制限は基本的にないものの、手術後しばらくは排便障害や便失禁などのリスクが高まっているため、水分摂取は少量を小分けにして、便秘のリスクを増やす食材もなるべく避けるようにします。その他、臭いの強い食べ物を避けることもポイントです。

食べ方を工夫する

大腸癌の手術後にガスが発生しやすくなったり、ストーマを装着している人の中には排ガスの臭いが気になったりといった人も現れるでしょう。

排ガスの発生原因は様々であり、人の体質や食生活など個人差があるため、一概に発生を抑制することは困難です。しかし一般論として食事中に空気を飲み込みやすい食べ方をすることで排ガス量が増えるともされており、楽しい食事を心がけつつ、排ガスの量を減らすために、食べ物を口に入れながら話すことは避け、また一度に飲み込む量を少なくするといった工夫を考えましょう。

外出時の排泄に不安への対策としてアプリの活用

ストーマ装具を装着している人のQOL向上をサポートするため、現在はオストメイト対応トイレの場所などを示すアプリも開発されています。ストーマ装具を利用している人にとって、オストメイト対応トイレの有無は外出意欲に直結しやすいため、あらかじめアプリをインストールして効果的に利用することで、外出時の不安やリスクを低減し、QOLを控除していくことも可能になります。

患者の声・体験談

ここでは、実際に大腸癌を経験して、大腸癌の治療を受けたり人工肛門を造設したりした患者の声を集めています。他の患者さんの声や体験談は、大腸癌の患者や家族にとって大きな支えになることもあるため、ぜひ参考にしてください。

癌になったからこそ自分の生き方を再発見した

(前略)大腸がんでの入院中、自分から乳がんの検査を受けたいと申し出て、乳がんも見つかりました。2つのがんで、漠然と思い描いていた人生の地図が大きく変わりました。「私」について考えました。生きている以上、やがては誰もが死を迎える。「がん」を告げられたことにより、突然死が身近なものになりました。私の人生は、私が考えていたよりずっと短いかもしれない。その日まで「私」として、どう生きるか、「生き方」を考えるようになりました。やり直しがきかない自分の人生、何か目標をもって、挑戦してみようかなと思うようになりました。(後略)

引用元:ちばがんなび

人工肛門になっても前向きに生活しています

私は55歳のとき大腸癌でストーマ(人工肛門)造設手術を受けましたが、その後無事に過ごしております。
当時特に自覚症状はありませんでしたが、市の広報紙で大腸がん検診の案内を見て念のため便潜血検査を受けてみました。精密検査の結果は悪性腫瘍で、手術ということになりました。しかし幸いに転移はありませんでした。がんは誰にでも出来る可能性があるわけですが、早く見つけることが重要だと思います。人工肛門と聞いてショックを受ける人も多いのですが、命のほうが大事と思い手術を受けました。(後略)

引用元:ちばがんなび

ストーマとの共生を考える

(前略)直腸がん手術から3年間で入退院を12回、手術は肛門も含め11回行っています。この間は仕事に集中することは不可能でしたが、幸いがんの転移もなく抗がん剤治療も行わず、仕事復帰を果たしました。しかしながら、ストーマに関する事は情報がなく、不安な生活を送っていたのです。
そんな時、公共施設に置いてあったチラシでオストミー協会の存在を知りました。社会適応訓練講習会に出席して情報を得たり、様々な人から体験をお聞きし大変参考になりました。オストミー協会の皆さんには「ストーマと共に楽しく暮らす」ということを教えて頂きました。

引用元:ちばがんなび

他の患者の言葉や経験で救われた

直腸がんなどと思わず痔の出血と誤認し、25年前に人工肛門になりました。排便が自分の意志で調節できないのが分かったとき、救われようのない絶望感に襲われました。排泄は誰にも秘の行為です。装具処理の失敗や、がん転移の恐怖、身も心も縮む思いを数しれず経験しました。(中略)ストーマは各人各様個性的で、そのケアは医療者のご指導が第一ですが、同憂者は心の痛みを分かち合ったり、経験者としての知恵を授けてくれます。個別の悩みを話す場所、知恵を出し合う場は必ずありますので、ひとりで悩まないでください。

引用元:ちばがんなび

大腸癌と治療に対する研究・論文

大腸がんの早期発見を実現するAIによる支援システムを確立

大腸がんは腫瘍性ポリープを大腸内視鏡によって早期発見し、切除することによって予防や治療成績の向上につながると言われています。

実際、大腸内視鏡による大腸がん予防効果は医師の腫瘍性ポリープ発見率(ADR)に比例すると言われており、ADRが1%上昇するにつれて将来の大腸がんが3%減少できる可能性も報告されているそうです。

ただ、医師のADRには個人差が大きい上、高齢化社会である日本では今後大腸がんの罹患率が上昇することが予測されることから、より効率よく、かつ正確な診断方法の開発が求められています。

そんな中、東京慈恵会医科大学がエルピクセル株式会社とともに行った共同研究により、人工知能(AI)を用いた検査支援システムの開発に成功。

東京慈恵会医科大学付属病院にて収集した約5万枚の大腸ポリープ画像から作成した学習用データを、AIによる物体認識性能に定評のある機械学習手法ディープラーニングに導入した結果、大腸ポリープを自動認識し、かつ組織診断の予測までリアルタイムに行うことを可能にしました。

この支援システムを活用した場合の大腸ポリープの検出精度は感度98%、陽性的中率91.2%を記録。

内視鏡専門医でも容易に発見できない平らなポリープや微傷ポリープであっても、検出感度93.7%、陽性的中率96.7%といずれも9割を超える高い精度が確認されています。

この研究結果を踏まえ、東京慈恵会医科大学付属病院の内視鏡室ではすでにAIによる支援システムが設置されており、さらなる研究と改良が進められています。

システムの有効性がより広く認知されれば、現状より良質な大腸内視鏡検査が可能となり、大腸がんの早期発見・早期治療に役立てられることでしょう。[注1]

ヒトの正常大腸上皮をマウスの腸内で再現することに成功

慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教室の佐藤准教授らの研究グループが、ヒトの正常大腸上皮をマウス生体内で生着させることに世界で初めて成功(2017年12月28日米科学誌『Cell Stem Cell』のオンライン版に掲載)しました。

まず先行研究において開発されたオルガノイド培養技術にゲノム編集技術を応用し、緑色京蛍光たんぱく質を組み込んだ遺伝子改変オルガノイドを作製。

これをマウスの腸管内に移植させた結果、10ヶ月以上の長期にわたって生着させ、ヒトの大腸上皮構造をマウスの腸管内に再構築させました。

マウスの腸管内に再構築されたヒトの大腸上皮構造は、マウスのものより大きな上皮構造を構築した上、産生する粘液のタイプも異なっていたことから、ヒト生体内でのパターンを反映していることがわかりました。

この結果により、マウスとヒトの腸上皮の種差は幹細胞に情報が保存されているということが判明しました。

研究グループはさらに、LGR5という遺伝子を発現する細胞をマークし、細胞系譜解析によってLGR5発現細胞の子孫細胞を異なる蛍光たんぱく質で識別するゲノム編集をオルガノイドに対して実施。

その結果、1つのLGR5発現正常幹細胞が自身を産生するとともに、子孫細胞を増やしながら半年以上の時間をかけて大腸上皮構造を再構築していく様子が確認されました。

ヒト大腸上皮細胞の胴体をマウスの腸管内で生きたまま観察する技術の開発に成功した今回の研究は、大腸がんや炎症性腸疾患の根治を目指すにあたって必要な正常幹細胞機能の解明につながり、ひいては新規治療法開発への新しい糸口となることが期待されています。[注2]

参考文献:Cell Stem Cell/Reconstruction of the Human Colon Epithelium In Vivo(生体内でのヒト大腸上皮の再構築)/杉本真也、太田悠木、藤井正幸、股野麻未、下川真理子、南木康作、伊達昌一、錦織伸吾、中里圭宏、中村哲也、金井隆典、佐藤俊朗

炎症性腸疾患などに対する粘膜再生治療の開発・炎症性発がん機構の解明への可能性

東京医科歯科大学・再生医療研究センターおよび大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の研究グループは、大腸上皮に内在する分泌系上皮細胞(ATOH1陽性細胞)が肝細胞性を再獲得する「可塑性」を発揮し、大腸粘膜の恒常性や組織再生、腫瘍の発生に貢献していることを発見しました。

大腸上皮幹細胞は大腸上皮を構成するすべての細胞の源で、大腸上皮細胞を作る再、吸収系上皮細胞と分泌系上皮細胞の2つに分化します。

後者はヒトの体の恒常性を保つ上で重要な役割を果たす粘液や消化管ホルモンを分泌するはたらきを持っており、転写因子ATOH1によって分化することがわかっています。

近年の研究により、分化した大腸上皮細胞が肝細胞性を再獲得する可塑性を発揮する可能性があることが報告されていますが、大腸上皮の分泌系上皮細胞が可塑性を発揮するかどうかは解明されていませんでした。

今回、研究グループは大腸部分泌系上皮細胞から派生する細胞を系譜追跡することができるマウスを作成・解析。

その結果、恒常状態において、ごく少数の大腸分泌系上皮細胞がATOH1およびLGR5遺伝子を発言させ、幹細胞として生体内で機能していることを発見しました。

さらに誘導性大腸炎を患ったマウスの大腸分泌系上皮細胞の系譜追跡を行ったところ、恒常状態と比較して多量の大腸分泌系上皮細胞が肝細胞として機能し、炎症による大腸潰瘍の組織再生に貢献していることが明らかになりました。

一方、大腸炎を母地とする腫瘍を作成・解析したところ、主要ないに大腸分泌系上皮細胞に由来する腫瘍幹細胞が存在し、腫瘍の増大に関与していることが判明しました。

大腸分泌系上皮細胞の新たな役割を明らかにした今回の研究は、炎症性腸疾患などに対する粘膜再生治療の開発や、炎症性発がん機構の解明につながる可能性があります。[注3]

参考文献:Stem Cell Reports/Contribution of ATOH1+ cells to the homeostasis, repair and tumorigenesis of the colonic epithelium.

ポリープから大腸癌へ変化するメカニズムを発見

大阪大学大学院医学系研究科と東京工業大学生命理工学院、京都府立医科大学、そして国立がん研究センター中央病院の研究者による研究グループによって、大腸内に発生しているポリープが大腸癌へ変化するメカニズムが発見されたことが、2024年8月23日に発表されました。

研究では、遺伝性疾患として大量の大腸ポリープができる家族性大腸腺腫症(FAP)の患者の中から、さらに大腸(亜)全摘術を受けていないFAP患者を対象として、それぞれの腸内細菌を解析することによってポリープから大腸癌へと変化するメカニズムが考察されています。

データを比較検証したところ、腸内細菌嚢の変動が大きいFAP患者においてポリープが悪性腫瘍へ変化しやすいことが認められ、結論としてポリープが大腸癌へ変化するメカニズムに腸内細菌嚢の影響が大きく関与していることが解明されました。なお、FAP患者のポリープが大腸癌へ変化するメカニズムは一般的な患者のケースと同様のものであり、結果的にこの研究報告によって大腸癌の発症機構がさらに詳しく解明され、また腸内細菌嚢の分析によって大腸癌のリスク解析や予防方法の発見につながるといった可能性が期待されています。

※参照元:国立がん研究センター|ポリープの大腸がん化に腸内細菌が関係していた

散発性大腸がんにおける免疫寛容の発生機序を同定し、
免疫療法の開発に貢献

大阪大学や東京大学、九州大学別府病院、東京医科歯科大学、国立がん研究センターなど複数の大学や研究機関に所属する教授や専門家らによる研究グループによって、早期大腸癌における腫瘍細胞の増殖や免疫寛容に関する仕組みについて新たな機序が解明されました。

免疫寛容とは、癌による免疫回避のシステムであり、大腸癌の多くにおいて自己免疫を回避する免疫寛容が発生することで免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が満足に発揮されないというケースも少なくありませんでした。そこで同研究グループは、研究対象としてアジア人早期大腸癌患者と進行大腸癌患者の空間的転写産物解析(ST-seq)などを利用し、大腸腺腫と癌の境界部における現象を単一細胞レベルで分析しました。

その結果、免疫寛容に「Midkine (MDK)」という分子シグナル経路が関与していることが解明されたそうです。またMDKは大腸癌において早期から血中に発現が認められる分子であり、これらの情報を総合的に踏まえた結果、将来的に早期大腸癌の診断を合理的に行えるようになったり、大腸癌の免疫寛容をコントロールして免疫療法の有効性を向上させられるようになったりといった期待が示唆されています。

※参照元:ResOU|大腸がん発がんにおける免疫寛容を引き起こす仕組みを同定

治療介入でRAS遺伝子変異型転移性大腸癌患者の
治療効果が向上する可能性

2024年7月19日、国立がん研究センターとがん研究会有明病院による共同研究グループは、RAS遺伝子変異型転移性大腸癌患者に対する抗EGFR抗体薬の有効性を、治療介入によって向上できる可能性があるという研究結果を発表しました。また、同研究は同年7月13日付けで科学雑誌「Nature Communications」にも掲載されています。

まず、RAS遺伝子変異型の大腸癌患者の癌細胞では、恒常的に細胞増殖シグナルが活性状態にあるため、転移性大腸癌の治療薬として主流となっている抗EGFR抗体薬の治療効果が期待できないという課題がありました。そのため、RAS遺伝子変異型の大腸癌患者はRAS野生型の大腸癌患者と比較して予後不良になりやすいとされています。

しかし今回の研究において、転移性大腸癌患者の血漿循環腫瘍DNAを用いた解析を用いることにより、RAS遺伝子変異型大腸癌患者が治療介入後にRAS野生型へ変化した場合、改めて抗EGFR抗体の効果を期待できる可能性が発見されました。

また、変異型から野生型へのRAS遺伝子変異が起こる病理学的特性についても調査が行われ、結果的にRAS遺伝子変異型転移性大腸癌患者の約1割で遺伝子変異が生じ、抗EGFR抗体の恩恵を受けられる可能性が示唆されています。

※参照元:オンコロ|治療介入によりRAS遺伝子が野生型に変化した大腸がんの臨床的特徴を解明:抗EGFR抗体薬の新たな治療標的の可能性

ステージⅢ期の高齢大腸癌患者における
キサリプラチンベース術後化学療法の有効性

2024年3月28日付けの医学誌「Journal of Clinical Oncology」において、ステージⅢ期にある高齢大腸癌患者の術後化学療法として、オキサリプラチンベースの治療を行った場合に有効性が認められたという研究結果が公表されました。同研究はClaire Gallois氏(Paris-Cite University)などによる研究チームによって報告されています。

研究では、ステージⅢ期大腸癌患者17,909人(70歳以上は4,340人)を対象として、オキサリプラチンベースの術後化学療法を3ヶ月、もしくは6ヶ月継続し、それぞれのグループにおける有効性や安全性を比較検証されました。

実験の結果、まず大腸患者全体において再発までの期間(TTR)に明確な有意差は認められず、70歳以上の患者でも70歳未満の患者と同等のTTRになったという点がポイントです。なお、無増悪生存期間や全生存期間、再発後の生存期間といった各種項目に関しては、70歳未満の大腸癌患者のグループよりも、70歳以上の高齢大腸癌患者において統計学的有意差が短期間になっていることが判明しました。

結論として、TTRを評価項目とすることにより、全身状態の良いⅢ期の高齢大腸癌患者に対するオキサリプラチンベースの術後化学療法の有効性が示唆されています。

※参照元:オンコロ|III期大腸がん高齢者患者に対するオキサリプラチンベースの術後化学療法、有効性が示唆される

キイトルーダ+アバスチン+CAPOXが
転移性大腸癌の治療に有効

2024年6月下旬にミュンヘン(ドイツ)で開催された「欧州臨床腫瘍学会世界消化器癌会議(ESMO Gastrointestinal Cancers Congress 2024)」において、マイクロサテライト安定性/ミスマッチ修復機構正常の転移性大腸癌に対する、「抗PD-1抗体薬キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)+アバスチン(一般名:ベバシズマブ)+CAPOX併用療法」の有効性や安全性が公表されました。

同研究は、まず原発巣のイムノスコアが1以上のマイクロサテライト安定性/ミスマッチ修復機構正常の転移性大腸癌患者が対象として選出され、その初回治療として3週間1サイクルとした上記併用療法が実施されました。なお、併用療法は病勢進行や有害事象の予期せぬ発生まで継続されました。

試験の結果として、完全奏効率が21%、部分奏効率が54%、さらに病勢コントロール率に関しては96%が達成され、奏効持続期間の中央値についても10ヶ月を達成。また安全性に関してグレード3もしくは4の有害事象発症率は64%となり、それによる死亡はありませんでした。

以上の結果から、上記併用療法が対象患者の治療法として有効であると示唆されています。

※参照元:オンコロ|イムノスコアが1以上のマイクロサテライト安定性/ミスマッチ修復機構正常の転移性大腸がんに対するキイトルーダ+ベバシズマブ+CAPOX、良好な抗腫瘍効果を示す

腹膜播種を伴う大腸癌の積極的切除の
意義検証が国内でスタート

2024年3月14日、国立がん研究センターは腹膜播種を伴う大腸癌において、腹膜播種に対する積極的切除(完全減量手術)の安全性評価臨床試験が2024年4月からスタートされることを発表しました。

まず、大腸癌は進行によって遠隔転移や腹腔内へ腫瘍細胞が分散する腹膜播種を引き起こす上、腹腔内に癌が散在する腹膜播種は手術や放射線治療による対処が困難とされています。そのため全身化学療法が第一候補となるものの、抗がん剤による治療効果は限定的であり予後不良であることが課題となっています。

そのような背景から、国立がん研究センターは日本国内でも腹膜播種に対する積極的切除(完全減量手術)を実施し、術後6ヶ月までの有害事象発症率などを追跡調査して、治療の安全性を検証する臨床試験をスタートさせました。なお対象患者は75歳以下の大腸癌腹膜播種患者で、事前検査により腹膜播種の完全減量手術が可能と診断された人とされています。

研究機関は2024年4月から3年間が予定されており、腹膜播種に対する完全減量手術の科学的評価として国内初の試験の結果検証と、将来的な腹膜播種の標準治療の確立が期待されています。

※参照元:オンコロ|【臨床試験開始】日本における大腸がんの腹膜播種に対する積極的切除の意義検証

大腸癌肝転移手術後の補助療法の判断にリキッドバイオプシーが有用

2024年9月17日、国立研究開発法人国立がん研究センターは、同センターや兵庫医科大学の研究者らによって構成された研究グループによる、国内外152施設が参加した研究プロジェクト「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」において、大腸癌肝転移手術後の補助療法実施の判断にリキッドバイオプシーを活用することの有用性が認められたと発表しました。

リキッドバイオプシーは癌患者の血液を利用してゲノム異常をスクリーニングする検査手法であり、血液検査によって繰り返しの測定が可能であることから組織や細胞を切除・採取する検査よりも低侵襲で、患者の癌の早期発見にもつながりやすいと期待されています。

今回の研究では、リキッドバイオプシーによって患者由来の血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の有無を分析し、結果が陽性の場合は術後補助化学療法によって再発リスクを低減でき、陰性であれば術後補助化学療法による再発リスクが低下しないことを示しました。これは大腸癌肝転移手術を行った後に補助療法を実施すべきか否かの評価を、リキッドバイオプシーを用いて行うことの有用性を客観的に示すデータを得られたものであり、患者ごとの転移リスクや再発リスクに応じて個別化医療の内容を検討する際に役立つと期待されています。

参照元:国立研究開発法人国立がん研究センター|リキッドバイオプシーが大腸がん肝転移術後の補助療法実施の判断に有用であることを確認

局所進行・転移性大腸癌に抗CEACAM5抗体薬物複合体「M9140」が有用

2024年10月24日から同月26日の期間に福岡市で開催された「第62回日本癌治療学会学術集会」において、国立がん研究センター中央病院消化管内科長の加藤健氏が、局所進行・転移性大腸癌の治療薬として抗癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)抗体薬物複合体「M9140」が有用であると考えられる可能性と、その根拠となる研究結果を報告しました。

抗癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)とは、細胞間接着や細胞の分化・増殖をコントロールする膜タンパク質であり、健常な成人組織では発現しにくいものの、腺癌の患者の組織において過剰に発現しているとされる物質です。また特に大腸癌では90%以上の発現率も報告されており、「M9140」はそのCEACAM5に選択的に結合し、癌細胞へ取り込まれることで、癌細胞内部でトポイソメラーゼI阻害薬エキサテカンを放出し、癌細胞を死滅させると期待されている抗体薬物複合体です。

本研究ではアメリカと欧州、そして日本における既治療の局所進行・転移性大腸癌の患者に対して、M9140を投与し、その投与量や有用性、あるいは血液学的有害事象の発生率などを総合的に検証した結果、M9140の使用には治療としての有用性が示唆されました。

参照元:がんナビ|既治療の局所進行・転移性大腸癌に抗CEACAM5抗体薬物複合体M9140が有用である可能性【日本癌治療学会2024】

骨髄芽大腸癌の転移を促進するメカニズムを解明し新治療の開発にも期待

京都大学は2023年10月27日、高悪性度大腸癌の転移について、患者の骨髄がリスク悪化に関与しているというメカニズムを明らかにしたことを公式サイトで発表しました。なお、本研究の結果は2023年9月25日に国際学術誌「Nature Communications」においてもオンライン掲載されています。

そもそも大腸癌は日本国内で男女ともに癌による死因の上位を占めている癌の1つであり、特に大腸癌全体の中でおよそ20%に該当する、転移リスクの高い高悪性度の大腸癌が患者の死につながっていることが重要です。

京都大学の妹尾浩医学研究科教授や中西祐貴助教、尾松万悠紀研究員らによって構成された研究グループは、改めて癌細胞と腫瘍間質の相互作用について研究することで、タンパク質「トロンボスポンジン-1(THBS1)」が高悪性度大腸癌の転移に関与していることを突き止めました。さらに、THBS1は骨髄由来の細胞から分泌されている事実も合わせて発見し、骨髄が高悪性度大腸癌の転移に深く関与していることを明らかにしています。

本研究の結果、THBS1をターゲットにした治療薬を開発することで、癌転移の発生を抑制し、大腸癌による死亡リスクの低減や患者の予後の改善につながることが期待されています。

参照元:京都大学|大腸がん:骨髄が転移を促進?―新しい治療法への展望―

切除不能転移を有する大腸癌(ステージ4)の標準治療について検証

2021年2月当時、手術による切除が不能な癌転移を有するステージ4の大腸癌の患者において、原発巣の症状が認められない場合に原発巣を切除すべきか非切除とすべきかについて、意見が二分されていました。そこで国立がん研究センター中央病院などが支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、改めて患者にとっての標準治療の有用性や治療効果を検証するため、切除不能転移を有するステージ4の大腸癌患者に対して、切除術と非切除によるそれぞれの治療の有効性や両者の有意差について研究し、2021年2月10日に公式サイトで結果を公表しました。また、本研究成果は同日に米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」でも発表されています。

結論として、原発巣を切除した患者と、非切除の患者において生存期間の有意差は認められず、原発巣切除を実施しても生存期間が延長されることはないという事実が示されました。また、むしろ原発巣切除を行うことで、その合併症や術後の体調悪化といった有害事象のリスクが増大していたことも指摘されています。

結果的に、切除不能転移を有するステージ4大腸癌患者の標準治療としては、原発巣を切除することなく化学療法を先行して実施することが、医学的に合理的であるとまとめられています。

参照元:国立がん研究センター|ステージ4大腸がんの新たな標準治療を検証

大腸癌患者の術後ctDNAはリンパ節転移のリスク評価に役立つ可能性

2024年1月18日から同月20日にアメリカのサンフランシスコで開催された「ASCO Gastrointestinal Cancers Symposium(ASCO GI 2024)」において、札幌医科大学の三代雅明氏らによる研究グループから、大腸癌患者の術後ctDNAの解析がリンパ節転移のリスク層別化の改善に貢献する可能性があるという発表がなされました。

「ctDNA」とは「血中循環腫瘍DNA」を意味しており、患者の血液の中に含まれている循環腫瘍DNAの有無をリキッドバイオプシーによって検査することで、患者の癌の早期発見や治療後の再発・転移のリスク分析に役立つと考えられています。

今回、研究グループは2021年7月から2023年5月の期間に登録された患者のうち、手術を実施するなど基準を満たした大腸癌の患者184人を対象として、術後ctDNAを分析し、リンパ節転移との相関性を調査しました。

比較分析の結果、術後ctDNAが陽性であった6人に関しては全員がリンパ節転移を有しており、陽性診断に基づいたリンパ節転移の的中率は100%に達しています。反面、術後ctDNA陰性の178人においてリンパ節転移は17人に認められ、陰性的中率は90.4%に達しました。

参照元:がんナビ|術後ctDNAはpT1大腸癌におけるリンパ節転移のリスク層別化を改善する可能性【ASCO GI 2024】

大腸癌の転移に関して新たな転移メカニズムを解明し新モデル概念を樹立

2021年2月10日、金沢大学ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の大島浩子准教授と大島正伸教授を中心とした研究グループが、東京大学の宮園浩平教授や上田泰己教授との共同研究を行い、遺伝的多様性を有する大腸癌における新たな転移メカニズムの解明に成功したと発表しました。

まず、従来から考えられていた大腸癌の転移メカニズムにおいては、細胞の遺伝子変異が癌の転移機構の根幹を成しているとされていましたが、本研究では遺伝子変異に依存した転移メカニズムでなく、遺伝子多様性のある癌細胞集団がクラスター(細胞塊)を形成して患者の体内を移動し、転移巣が形成されることが発見されています。

研究では、異なる遺伝子変異を持った腸管癌マウスの上皮細胞由来の組織(オルガノイド)を移植することで、転移性の高い悪性癌細胞が間質細胞を活性化させ、複数の異なる細胞による癌転移組織(転移ニッチ)が形成されることを突き止めました。これは細胞自身が遺伝子変異を起こしていなくとも、転移リスクの高い悪性癌細胞が作用することで転移巣を構築し、癌転移に至る過程を示しており、従来の遺伝子変異型転移モデルとは異なる新たな転移概念の樹立を導きました。

参照元:金沢大学|大腸がんの多様性が促進する転移機構を解明!

参考サイト

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