近年の癌治療の進歩は目覚ましく、以前のような長期入院は少なくなり、抗がん剤治療や放射線療法も通院で受けられるようになってきました。入院とは違って普段の日常に近い生活を送りながら治療を受けることができるため、患者本人の不安やストレスも軽減できるでしょう。
ここでは、患者本人の療養生活をサポートする家族に知っておいてもらいたいことをお伝えします。
通院で治療を続ける自宅療養の最大のメリットは、何といっても本人のストレスが少ないことが挙げられます。住み慣れた自宅で家族と共に過ごす時間を大切にしながら、自分らしく生活することができるでしょう。もし仕事を続けることができるのであれば、ある程度は経済的な負担を軽減できます。
一方で、自宅療養のデメリットを挙げてみると、まずは通院治療による移動の負担が本人にも家族にもかかることが挙がります。また、治療の副作用が起こった場合の対処や、感染の予防なども本人と家族が対処しなければなりません。
入院治療であれば食生活の管理なども病院にお任せできるのですが、自宅療養となると本人と家族が行なうことになります。
規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠が体調管理の基本であることは言うまでもありません。しかし、癌の治療中は激しい体調変化をともない、寝てばかりの生活になることもあります。治療に対する不安も生活を不規則にさせる要因です。
こういうときは無理をせず、まずはゆっくり休むことが大切。本人がやっていた家事などは家族が引き受け、休養に専念できるような環境を整えてあげましょう。体力が戻ったら、無理のない範囲で少しずつ規則正しい生活に戻していけばよいのです。
一番大切なことは、気になる体調変化や症状は早めに主治医に連絡すること。本人が大丈夫だといっても、冷静な目で家族が判断してあげてください。
癌の治療中は疲れやすくなったり、眠っても眠っても疲れが取れなかったり、とにかく倦怠感を覚える人が多いようです。逆に眠れない、眠りが浅いという人もいます。
十分な睡眠をとるには心身をリラックスすることが大切です。ぬるめのお風呂にゆっくり浸かるのも良いですし、足湯なども効果が期待できそうです。
また、患者さんの趣味によってリラックス法はいろいろと変わります。身体を動かすことが好きな人であれば、無理のない範囲でのストレッチやヨガ、呼吸法などもよいですね。好きな読書や音楽でリラックスできる人もいるでしょう。患者さんに合ったリラックス法が見つかるよう、家族がサポートしてあげてください。一緒に暮らしてきたのですから、きっといいアイデアが出てくるのではないでしょうか。
癌で自宅療養を送っている患者さんにとって、避けたいことの1つが体重減少です。どんな癌でも起こる代表的な症状ですが、場合によっては体重減少によって体力が低下し、治療を中断せざるを得ないこともあります。
治療を続けるための体力を維持するためには、バランスの良い食事を摂って体重減少を防がなければなりません。しかし、治療の副作用によって食欲が低下し、食べたくても食べられないこともあるでしょう。そして食べられないことが本人を精神的に追い詰めてしまって、さらに食欲が落ちるという負のスパイラルにもはまりかねません。
まずは、無理せず体調に合わせて食べられるものから食べるのがよいでしょう。サポートする家族もあまり神経質にならないほうが、本人も気持ちもきっと楽になりますよ。
往診は医師が自宅を訪問して診察してくれますが、看護師が自宅を訪問してくれる訪問看護サービスもあります。近年は中心静脈栄養を在宅で管理したり、在宅酸素療法を受けたり、自宅で医療処置を行なうことが増えてきました。
訪問看護師は、家族に対して医療処置の指導や療養生活におけるアドバイスをしてくれるでしょう。
看護師の定期的な訪問は、療養生活をサポートする家族にとっても心強い存在です。
入院中であればしっかりリハビリを受けていても、自宅に戻ると身体を動かす機会がなくなりがちです。しかし、筋力を維持して身体機能を衰えさせないために、自宅に戻ってからもしっかりリハビリを継続したいところ。
こういう状態をサポートしてくれるのが訪問リハビリです。セラピストが自宅を訪れ、関節の動きが悪くならないように、そして筋力が低下しないようにリハビリ指導を行ってくれます。環境整備のサポートもしてくれるでしょう。
癌の治療中は副作用で食欲が低下して食べることができないほか、味覚自体が変わってしまうこともあります。家族にしてみると何を食べさせたらよいのかわからない、ということもあるでしょう。そんなとき、管理栄養士が自宅を訪問して食事の相談に対応してくれるのが訪問栄養指導です。
管理栄養士が本人の好みや習慣などを確認し、家族と一緒に無理なく食べられるようなレシピや調理法を考えてくれます。本人だけではなく、家族にとっても嬉しいサービスです。
医師や看護師、介護士といった専門家によるサポートの他にも、患者の療養生活をサポートしてくれるサービスは色々と存在しています。そこで、ここでは患者の療養生活をサポートするサービスについて一例を紹介します。
配食サービスとは、患者の自宅で調理を行ってくれるのでなく、あらかじめ患者のために調理した料理を自宅へ配達してくれるサービスです。
全国には大手企業のものから個人事業主が行っているものまで様々な配食サービスがありますが、癌患者の療養生活のサポートとして有効な配食サービスでは、きちんと患者やその家族の体調や状態も考えてメニューを調整してもらえることがポイントです。
買物代行サービスは、文字通り患者やその家族に代わって買い物をしてくれるサービスです。一般的には買物代行サービスだけが独立しているのでなく、総合的なサポートの一貫として提供されているケースが多いでしょう。
また、買い物へ出ることが困難な患者や家族のために、地元のコンビニやスーパーがあらかじめ注文しておいた品物を運んで来てくれるといったサービスもあります。
癌患者の身体状況は癌の進行度によって変動し、徐々に歩行が困難になったり、階段の上り下りが厳しくなったりすることもあるでしょう。
福祉用具貸与サービスでは、車椅子や歩行器、介護ベッドといったものから、移動用リフトや床ずれ防止用具、自動排泄処理装置など多種多様な製品がレンタルされています。
どのような福祉用具が必要になるかは、患者の状態や生活環境だけでなく、患者の自宅の間取りや生活スタイルによっても変化するため、まずはリハビリの専門家やケアマネジャーなどに現地を訪問してもらった上で相談するようにしてください。
送迎サービスは自宅から目的の場所までの送迎を行ってくれるサービスです。一般的には自宅と病院の間を送迎してもらったり、自宅と介護施設の間を送迎してもらったりといったことが多いでしょう。
通院しながら療養生活を送っている患者の場合、介護タクシーや福祉タクシー、民間救急車といった送迎サービスを活用して自宅と病院との間を行き来します。なお、癌患者のための送迎サービスを専門に取り扱っている場合、自動車の運転手や乗務員が介護関係の有資格者であり、専門家としてのサポートを行ってくれることもあります。
なお、民間救急車は通常の救急車と異なって、所轄の消防局から認定を受けた上で緊急性のない人の病院搬送を行う車両です。乗務員は応急手当に関する知識を備えており、車内には心電計や血圧計、AEDといった医療設備が備えられています。
地域のボランティア活動として、癌患者の生活支援を行っている人々もいます。
買物代行や送迎代行といったものから、患者の話し相手までボランティア活動の幅は広く、公的に認められているボランティア活動については市町村役場などに問い合わせて確認可能です。