多彩な装置を使って放射線治療を行う病院
世界の重粒子線治療をリードしているのがQST病院(放射線医学総合研究所病院)です。がん治療のみを専門としている病院です。より多くの患者さんががんを克服するために、他の専門機関とも連携して常に臨床研究がされています。
北海道大学を卒業。医学博士、日本医学放射線学会放射線治療専門医の資格を持ち、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会、日本癌治療学会に所属。前立腺癌、眼球悪性黒色腫、涙腺癌などを専門とする。
放射線腫瘍学、および頭頸部腫瘍の治療を専門とする先生です。第53回日本医学放射線学会周期臨床大会 学術展示優秀賞を受賞(※)しています。
通常のがん治療の一つである放射線治療、その中でも重粒子線治療を主に行っている病院です。QST病院は全国6か所ある重粒子線治療が行われている施設の一つで、診療だけではなく、臨床研究も同時に行われています。(2022年8月時点)
患者さんの症状によって「保険診療」「先進医療」「臨床試験」「自由診療」での治療が提供されており、重粒子線治療の分野においては世界でもリードする存在なので、海外からの受診も受け付けています。この病院での臨床試験などの結果から、これまでは研究段階だったものが一般診療として提供できるようになるなど、重粒子線治療の分野においてさらなる普及が進んでいきます。
QST病院では標準治療とされるX線を使用した、放射線治療も行っていますが、それよりも中心に行われているのが「重粒子線治療」です。
X線を使用した放射線治療と重粒子線治療の違いは、放射線治療はがん細胞に放射線を当てたときに周囲の正常な細胞や、がん細胞を貫通したその先にある正常細胞にもあたってダメージを与えます。それが原因で副作用が起こるのです。
またX線の場合は体内の入り口では線量が高いですが、深くなるほど減少していきます。つまりは入り口よりも少ない線量ががん細胞に届くのです。
その一方で重粒子線治療は、放射線治療と同じく放射線を当てますが、その当てる放射線の種類がX線ではなく炭素粒子などになります。
重粒子線は入り口が弱く、がん細胞にあたるときには多くの線量が集中。がん細胞のみに放射線が直接届くので、がん細胞を貫通することも周囲の正常な細胞を傷つけることもなく副作用も少ないです。
QST病院では、患者さんの症状によって「保険診療」「先進医療」「臨床試験」「自由診療」での治療が提供されています。疾患ごとに適用も治療期間も異なってくるので、詳しくみてみましょう。
「保険診療」適用
4週間…骨・南部肉腫、頭頸部がん(鼻・副鼻腔・唾液腺など)
3週間…頭頸部(涙腺癌)
「先進医療」適用
5週間…子宮がん
4週間…肺がん(非小細胞型)(局所進行がん)、大腸がん(術後再発)(手術が困難なもの)、リンパ節転移
3週間…肺がん(非小細胞型)(Ⅰ期のがん)、食道がん(Ⅰ期)、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がん、肺転移、肝転移
「臨床試験」適用
2週間…食道がん(Ⅱ・Ⅲ期、手術前の照射)
1週間…眼腫瘍(悪性黒色腫)、乳がん、腎臓がん
QST病院の治療事例について、がんの種類ごとにご紹介いたします。
肺がんの治療
QST病院では、これまでに多くの非小細胞肺がんの患者さんに対して重粒子線治療を行っています。
初期の非小細胞癌肺がんのほか、局所進行肺がんや転移性肺腫瘍への重粒子線治療が行われることもあります。
ただし、手術が可能である場合は、より確実にがんを除去できる手術治療を行うことが推奨されています。手術が困難な場合や、どうしても手術を受けたくないという場合にも、あらかじめCTや気管支鏡などの検査を行い、重粒子線治療の適応があるかどうかを慎重に判断しなければなりません。
膵臓がんの治療
Ⅰ~Ⅲ期までの患者さんが重粒子線治療を検討する対象となります。転移のあるⅣ期の患者さんは対象外となりますが、転移が傍大動脈リンパ節に限定している場合は治療の適応となることも。
重粒子線は腫瘍にのみ高い線量を集中させることができるため、高い殺細胞効果と副作用リスクの少なさを両立させることが可能です。ただし、腫瘍が腸管に接している場合や重い合併症がみられる場合などは、Ⅰ~Ⅲ期であっても治療が適応できないこともあります。
頭頚部がんの治療
頭頸部のがんに対しては、保険診療での重粒子線治療を受けることができます。なお、重粒子線治療には、手術が困難な場合や、X線治療では対処が難しい場合でも治療が行えるというメリットがあります。
基本的に、遠隔転移がある場合や、頚部リンパ節の広範囲に転移がみられる場合には治療を適応することができません。ただし、遠隔転移がある場合でも、長期の予後が期待できる時には重粒子線治療が適応となることもあります。
骨軟部腫瘍の治療
骨軟部腫瘍は、従来の放射線治療や化学療法よりも重粒子線治療が奏功しやすい疾患です。QST病院では、1996年4月から2018年8月までの間に1212名の患者さんに対して治療が実施されました。
適用の可否は、患者さんの全身状態や病巣の状態によって判断されます。QST病院では、360度さまざまな方向から重粒子線を照射できる機器を導入しており、正常な組織に与える影響を抑えながら治療を行うことが可能です。
食道がんの治療
QST病院における食道がんへの重粒子線治療は、病期に応じて先進医療あるいは臨床試験として行われています。ステージⅠの食道がんに対しては根治を目指す先進医療として、ステージⅡ~Ⅲの場合は手術の前にがんをできるだけ死滅・縮小させることを目的とした術前照射が臨床試験として行われます。
食道周辺の臓器への浸潤や、遠隔転移のある患者さんは重粒子線治療を適用することができません。また、転移・浸潤がない場合でも、患者さんの全身状態が良くない場合には治療を適応できないことがあります。
婦人科がんの治療
QST病院では、子宮頸がん、子宮体がん及び、子宮・外陰・膣原発の悪性黒色腫(メラノーマ)に対する重粒子線治療を先進医療として行っています。卵巣がんの場合は、原則として重粒子線治療は適用されません。
また、QST病院では、婦人科がんに対する一般の放射線治療も受けることが可能です。とくに、体内に治療器具を挿入し、腫瘍に対して体の内側から放射線を浴びせる小線源治療は同院の得意とするところであり、良好な治療成績を上げています。
肝臓がんの治療
肝臓がんに対する重粒子線治療は、先進医療として実施されています。適応の判断は、日本放射線腫瘍学会の定める統一治療方針に沿って行われています。
肝細胞がんに対しては、手術やRFA(ラジオ波焼却療法)が困難で、かつ病巣の数が3つ以下であり、肝障害の程度が中程度以下の場合に重粒子線治療が適応となります。肝内胆管がんや肝転移の場合も肝細胞がんと同様に、手術やRFAの適応が困難な場合に重粒子線治療が治療方法の候補となり得ます。
大腸がんの治療
QST病院での大腸がんに対する重粒子線治療は、手術後に骨盤内またはリンパ節で再発が生じたケースであることを条件とし、先進医療Bとして行われています。なお、この条件に当てはまらない場合も、先進医療Aとして重粒子線治療が適用できることもあります。
再発したがんが膀胱や消化管に広く接している場合や浸潤している場合、重い合併症がみられる場合などには、重粒子線治療を行うことはできません。
眼底腫瘍の治療
2021年現在、QST病院では脈絡膜悪性黒色腫および涙腺がんに対する重粒子線治療を保険診療にて行っています。
重粒子線治療は、手術による治療に比べると体への負担が小さいうえ、期待できる治療効果も比較的良好です。外見上に現れる副作用としては色素沈着やまつげ・眉毛の喪失などが挙げられますが、眼球を摘出する手術に比べると見た目の変化を少なく抑えることが可能です。これにより、重粒子線治療は患者さんのQOLを維持する上でも好ましい治療法であるといえます。
前立腺がんの治療
QST病院では、前立腺がんの患者さんに対しても重粒子線治療を行ってきました。2018年以降は前立腺がんに対する重量視線治療が保険診療として認められたため、費用面での負担も抑えることが可能となっています。
重粒子線治療が適応となる条件は、がんであることが生検によって診断されていることと、他の臓器やリンパ節への転移がないことです。重粒子線治療は腫瘍のみに集中して高い線量を与えることができるため、副作用のリスクを抑えながら高い治療効果を期待することができます。
腎細胞がんの治療
2021年現在、QST病院では腎細胞がんに対する重粒子線治療を先進医療として行っています。治療の適応となる条件は、生研または画像診断によりがんであることが確定していることと、がんが限局性であるか患者さんの全身状態がよいことです。反対に、腫瘍が腸管に接している場合や、重い合併症がみられるなど全身状態がよくない場合には、重粒子線治療を行うことができません。
これまで、治療効果の低さと正常な腎臓の組織に与える影響の大きさから、腎細胞がんに対する放射線治療はほとんど行われてきませんでした。しかし、腫瘍を減少させる力が強く、しかも腫瘍とその周辺のみに限った照射が可能な重粒子線治療の場合は、重い副作用のリスクを抑えつつ非常に優れた治療効果を期待することができます。
転移性腫瘍の治療
QST病院では、一定の条件を満たす転移性腫瘍に対する重粒子線治療を先進医療として行っています。具体的には、病巣が3個以下の転移性肺腫瘍あるいは転移性肝腫瘍、そして病巣が狭い範囲に限られている転移性リンパ節が重粒子線治療の対象となります。いずれの場合においても、原発巣のがんは既に治療されていること、原発巣を含めた他の部位に再発や転移がみられないことが必須条件です。
QST病院(放射線医学総合研究所病院)で重粒子線治療を受ける流れについてまとめました。
QST病院で重粒子線治療を受けるためには、次のような流れでの施術になります。患者さん個人の使用する器具を作成したり、放射線治療の練習をしたりするなどの特徴があります。
初診の場合は、主治医を通して予約をしてください。主治医からの紹介状とCT、MRIなどの画像診断結果や病理組織報告書などの資料を持ってから来院してください。
医師の診察で、患者さんの病気の状態が治療の対象となるかどうかを判断します。がんの状態や持参した資料などの内容、QST病院で受けた追加検査結果などから判定されます。
QST病院で受けられると判断された患者さんに、重粒子線治療について詳しく説明されます。治療結果や副作用の可能性などを説明し、理解したうえで、同意する場合には同意書を署名します。
治療を開始する1週間~2週間前から治療のための準備が始まり、疾患によって準備は異なります。患者さんが関わるのは「固定具の作成」「CTシミュレーション」です。
治療を行うあいだ、患者さんには楽な姿勢を保った状態でいてもらう必要があります。そうすることで、重粒子線が正確に病巣に照射されます。そのためには患者さん1人1人に合わせた固定具の作成が必要です。固定具を作成する前には事前の説明と、場合によっては歯の治療を完了させなければなりません。
固定具の作成の流れとしては、写真撮影、着替え、位置合わせ、からだを下から支えるマット作成、からだを上から抑えるプラスチックのシート作成、固定具の位置確認のための写真作成となります。
治療計画を作成するためにCT撮影をします。このときに、作成した固定具も実際に着用するので、少しでも不具合などがあれば申し出ましょう。
治療リハーサルを行うのは眼球腫瘍の患者さんだけとなります。実際に治療を行う部屋で治療をするときと同じような内容の練習をします。
作成された治療計画をもとに、専用の部屋で治療を受けます。患者さん1人1人治療時間などはことなります。
治療終了日の翌日もしくは数週間後に退院となります。退院後には担当医や地元の医師のもと、経過観察をしていきます。退院後のことについては患者さん1人ひとり違うので、個別の説明を聞きましょう。
重粒子線治療の費用は、患者さんの疾患がどの診療区分になるかで異なります。
「保険診療」の場合、重粒子線治療の技術料・診療費・入院費などの負担額1割~3割、「先進医療」の場合は重粒子線治療の技術料314万円と診療費・入院費の1割~3割が患者さんの自己負担になります。
「臨床試験」の場合は診療費・入院費の1割~3割のみが自己負担、「自由診療」の場合は重粒子線治療の技術料314万円と診療費・入院費の全額が自己負担です。
QST病院(旧:放射線医学総合研究所病院) | |
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診療科目 | 呼吸器腫瘍科、骨軟部腫瘍科、泌尿器腫瘍科、消化器腫瘍科、頭頸部腫瘍科、婦人腫瘍科、放射線診断科、核医学診療科 |
診療時間 | 8:30~17:00 |
休診日 | 土日 |
所在地 | 千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1 |
電話番号 | 043-206-3306(代表) |
ベッド数 | 記載なし |
年間治療患者数 | 不明※参考:重粒子線治療臨床研究の登録患者数11,834例(1994年6月~2019年3月31日) |
対応可能な治療方法 | 放射線治療、重粒子線治療 |
設備 | 重粒子線治療装置、リニアック装置、密封小線源治療装置、X線シミュレーション装置、CT装置、MRI装置、PET/CT装置、PET装置、SPECT装置、血管造影装置、X線撮影装置、X線透視装置、歯科用X線断層撮影装置、歯科用X線撮影装置、ポータブル撮影装置 |
URL | https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/ |