いちから分かる癌転移の治療方法ガイド

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陽子線

肺癌や転移性腫瘍に有効とされる放射線治療の「陽子線」について、くわしく説明しています。陽子線の特徴やX線・ガンマ線・重粒子線との違いにもご注目ください。

放射線治療の1つ「陽子線」とは?

光子線と粒子線に分かれる放射線治療のなかで、粒子線に含まれる「陽子線」。

陽子線治療とは、水素の原子核である陽子を光速の最大60%まで加速させ、がん細胞に照射する放射線治療です。

X線やガンマ線といった従来の放射線治療は体内の深層部で効力が弱まるのに対して、陽子線は深層部で効力がピークを迎えます。これをブラッグピークと呼び、体の奥深くにある腫瘍に対しても強い放射線を当てることができるのが「陽子線治療」なのです。

他の放射線治療との違いは?

陽子線治療の大きな特徴は、正常な働きをしている細胞に対してほとんど影響を与えず、腫瘍に絞って強力な放射線を当てられることです。放射線に弱い気管近くのがんにも対応でき、身体機能の低下により放射線治療のリスクが高い高齢者に対しての治療も可能です。

また、放射線治療には陽子線の他にも、X線・ガンマ線・重粒子線などがあります。X線は1895年に発見されてから120年以上の歴史を持ち、さまざまな治療に使われているので耳にする方も多いでしょう。

ガンマ線もX線と同じくらいの歴史があります。X線・ガンマ線などの高い電磁波を発するものは「光子線」に区分され、陽子や重粒子などの原子核を用いる「粒子線」とは一線を画しているのです。

重粒子線は陽子線と同じ「粒子線」の放射線治療ですが、陽子線よりも10年以上あとに登場しました。放射線治療としての効果はかなり高いものの費用が高額で、症例数も世界各国あわせてわずか2万人ほど。陽子線と比べても新しい放射線治療です。

陽子線治療の特性は?

放射線量

陽子線の放射線量はX線やガンマ線と比べて、腫瘍に対しての集中性の高い照射が可能です。X線だと皮膚の表面近くでピークを迎える放射線量も、陽子線なら身体の奥にある腫瘍部分でピークを迎えます。

照射範囲

病巣を突き抜けるX線と違って、陽子線は病巣で止まります。腫瘍の大きさや形に合わせてコントロールすることで、腫瘍だけをピンポイントに治療できるのです。ただし、10cmを超える腫瘍や照射範囲外にがんが広がっている場合は治療が難しくなります。

照射方法

陽子線の照射角度は360度です。ガントリーと呼ばれる装置を使用して、体の前・うしろ・横などのあらゆる角度から照射できます。X線と比べると大きな副作用が起こる可能が低く、痛みや熱さを感じることはほぼありません。

陽子線が有効な部位

陽子線を使った放射線治療を行なっている医療施設では、頭頸部(一部を除く)・食道・肺・肝臓・胆管・すい臓・前立腺・膀胱などの部位に対するがんを治療した症例があります。

陽子線が有効ながん

  • 悪性脳腫瘍
  • 肺癌
  • 胸腺癌
  • 悪性リンパ腫
  • 食道癌
  • 肝臓癌
  • 腎臓癌
  • 前立腺癌
  • 子宮頸癌
  • 転移性腫瘍

※医療施設によって適応条件を提示している場合もあります。

治療費

保険が適用できるX線と違って自己負担となるため、陽子線での治療は250~310万円ほどかかります。治療できる医療施設が日本国内には17ヵ所しかないため(2019年3月現在 公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団より)、近くに治療センターがない場合は飛行機や新幹線などの交通費も必要です。

陽子線治療で使われる装置について

重さ200トンの巨大装置や照射方向や線量などを計算するシステムなど、陽子線治療に必要な装置がいくつかあります。

ガントリー

360度どこからでも陽子線を照射することができる巨大な装置。重さは200トンにも及びます。その大きさからは想像もできませんが、2ミリの球を狙い撃つことも可能です。

入射器

水素が含まれるイオン源とライナック(直線もしくは線形加速器)をかけ合わせることで、陽子線を発生させて加速する装置を入射器と呼びます。

加速器(シンクロトロン)

リング状になっており、1周すると約23mになる装置です。入射器で加速した陽子線を取り込み、リング内を回転させることで光速の最大60%まで加速できます。加速の程度はがんの深さに関係し、腫瘍がある位置で止まるように設定することが重要です。

治療計画装置

放射線治療を始める前に撮影したCTやMRIなどのデータをもとに、治療計画を立てるための装置です。これを使い、がんの位置や大きさ、形に則した照射位置や線量、照射回数を設定して治療を行ないます。

陽子線治療は大がかりな装置が多く、これらを導入している医療施設はがん専門の治療センターが中心です。残念ながら、日本国内では北海道や千葉県、鹿児島県などの17ヵ所でしか受けられません。(2019年3月現在)