コバルト60・ヨウ素125・イリジウム192・セシウム137などの物質から、自然に放出されているガンマ線。がん治療への効果やX線との違い、ガンマ線を利用する放射線機器などをご紹介しているので、ぜひご一読してください。
1895年にX線が発見された5年後に、フランスの物理学者であるヴィラールによって存在が明らかになったガンマ線。別名「y線」とも呼ばれています。ガンマ線とは原子核に余分なエネルギーが生じると、そのエネルギーを電磁波として核の外へ放出する放射線のことを言います。
ガンマ線を使用した治療は「ガンマナイフ」が有名です。周囲の正常組織にダメージを与えることなく、病気に侵されている箇所を集中的に照射することができます。
電磁波の1種である放射線に分類される、「ガンマ線」と「X線」。周波数はほとんど一緒であり、区別をつけるのは「発生源」です。ガンマ線が原子核の中から放出されるのに対して、X線は原子核の外で発生します。
ガンマ線は非常に透過力の強い光子であり、コンクリート壁や厚い銅板でなければ遮断することができません。この高い透過力を利用して、身体の奥にできたがんの治療に応用。そのほかには、医療廃棄物や食品の滅菌などにも利用されています。
レントゲン医師によって発見されたX線は、身体の深い部分に近づくほど放射線量が弱くなるのが特徴です。がん治療で高い効果をあげている「トモセラピー」やさまざまな方向からX線を照射できる「サイバーナイフ」などの治療機器で使用されています。
病変の大きさによって放射線量は異なります。聴神経腫瘍であれば腫瘍周辺の放射線量は12グレイ、転移性脳腫瘍は20~25グレイ、三叉神経痛は最大80~90グレイが必要です。
透過力に優れているガンマ線は、病巣が深い位置や全摘出が困難な場合に使用されるケースがあります。
照射範囲は直径3センチ以内。それ以上大きくなると適応外になるため、開頭手術を行って摘出手術を行うことがあります。
ガンマナイフは、約200本の細い放射線が常に放出されている状態です。これを虫眼鏡で太陽の光を一点に集めるように、病巣部にのみ集中して照射します。
痛みを伴うことはほとんどありません。まれに治療後にガンマ線を照射した周辺の組織が浮腫や壊死を起こすことがありますが、内服や点滴で対応することが可能です。
症状によって異なりますが、入院期間は1~3日と短め。退院した当日から、治療を受ける前と同様の仕事や運動が行えます。
ガンマ線を用いたガンマナイフは、病院によって異なりますが50~60万程度の費用がかかります。健康保険が適応されるため、一般的な健康保険に加入されている人は3割、75歳以上の人は1割を自己負担。事前に治療を受ける病院へ料金を確認することをおすすめします。
深部にある病巣だけ狙って治療ができる、ガンマナイフ。痛みがほとんどなく、入院期間も1~3日しかないので比較的負担が軽い治療法です。保険も適応されるので、経済的負担も軽減できます。
転移性脳腫瘍、脳動静脈奇形、聴神経腫瘍
脳
1968年にスウェーデンのレクセル教授によって開発された病変を切らずに治療できる放射線治療装置「ガンマナイフ」。
ガンマ線を利用して、脳内にある病気の中心部をナイフで切り取るかのようにコントロールする治療法です。ガンマナイフの中には200個程のコバルト60が敷き詰められており、それぞれからガンマ線が常に放出。
放出されているガンマ線は1点に集中するように設計されているので、脳実質・頭皮・骨・神経・血管などの正常な組織へ影響することはほとんどないようです。照射を受けた脳内の病変は徐々に凝固・壊死します。
ガンマナイフは精度がとても高く、対象への照射の誤差は0.5ミリ程度。ガンマ線のエネルギーは非常に弱いので、術後に骨髄機能抑制や皮膚炎を起こす心配もほとんどありません。
今まで手術が難しかった深部にある腫瘍や血管奇形などの治療ができるため、外科的手術が難しい高齢者の治療にも対応可能です。最近では、てんかん・三叉神経痛・パーキンソン病・眼窩内疾患などでも使用されています。